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ぼっちデイズ  作者: シュウ
二章
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不服

お兄ちゃんが熱を出したというメールが紗枝ちゃんから来た。

僕は驚いたけど、紗枝ちゃんが家まで送ってくれるというので、スーパーでスポーツドリンクとかを買って、万全の準備で出迎えた。

窓からお兄ちゃんが帰ってくる方向を見ていると、紗枝ちゃんとお兄ちゃんが歩いてくるのが見えた。

玄関を開けて出迎えると、前を歩く紗枝ちゃんが泣いていた。

それにお兄ちゃんは気づいていないようだった。


「・・・おかえり」


そうお兄ちゃんに言ったんだけど、紗枝ちゃんが気になってしまって変な間が空いてしまった。


「ただいま」


紗枝ちゃんがこっちに歩いてきたので、僕は紗枝ちゃんを家の中へと迎え入れた。


「おい、木村」


お兄ちゃんが紗枝ちゃんを止めようとした。

でも紗枝ちゃんは僕の友達でもあるんだ。だからいくらお兄ちゃんが相手でも、僕は友達の味方になるんだ。


「せっかく送ってくれたんだからいいでしょ。紗枝ちゃんは僕の友達だよ」

「まぁ、お前が言うなら・・・」


渋々お兄ちゃんもOKしてくれたことだし、紗枝ちゃんをリビングへと通した。

お兄ちゃんは、汗を流すためにシャワーに入るということだったので、洗面所へと向かっていった。

僕は着替えを用意して洗面所の洗濯機の上に置いておいた。

そしてリビングへ向かうと、紗枝ちゃんがソファーの背もたれで顔を隠すようにして寝転がっていた。


「紗枝ちゃん。大丈夫?」

「・・・うん。大丈夫」


ゴロンとこっちを見た紗枝ちゃんは、泣き止んでいたけど、悲しそうな顔をしてた。

お兄ちゃんはなんで紗枝ちゃんを泣かすのが得意なんだろ。ちょっとむかつく。


「どうかしたの?」

「うーん、ちょっとね」

「お兄ちゃんに何か言われたの?」

「なんか言われたって訳じゃないんだけどさ」

「じゃあ」


言おうとしたところで、風呂場のドアが開く音がした。

お兄ちゃんが出てきたみたいだ。

僕は紗枝ちゃんをチラッと見てから、リビングを出て、着替えて出てきたお兄ちゃんに、飲み物が欲しいかどうか聞いた。

予想通りポカリが飲みたいって言われたから、キッチンに置いておいたペットボトルからコップにポカリを入れて、ペットボトルとコップを持って歩きだした。


「ねぇ弟くん。私さ、重いのかな?」

「重い?」


体重のことかな? それなら紗枝ちゃんは痩せてる方だと思うから問題ないと思う。


「あ、弟くんが思ってる方とは違うかな。えっとね・・・しつこいのかなってこと」


僕は言われていることがやっとわかって、自分が考えていたことが全然違っていたので、少し申し訳なく思った。

そしてお盆をテーブルに置くと、立ったまま紗枝ちゃん言葉に耳を傾けた。


「私さ、やっぱりあいつのことが好きなんだよね。で、最近、同じクラスの人と仲良くしてて、それを見てるとなんかムカムカしちゃって・・・だからちょっとめんどくさい女とかって思われてるのかなぁって思ってさ」

「お兄ちゃんは紗枝ちゃんにそんなこと言わないと思うよ?」

「どうしてそう思うの? あいつならちょっとはそう考えてると思うな」

「じゃあ紗枝ちゃんはお兄ちゃんがそう考えると思うの?」

「まぁ・・・考えてて欲しくは無いけど」

「ホントにお兄ちゃんのこと好きなんだね」


紗枝ちゃんを見てると、お兄ちゃんが羨ましく思った。

僕も付き合うなら紗枝ちゃんみたいな人と付き合いたいと思った。


「でも私がまた告白してもダメだと思うんだよね。私、どうすればいいのかな?」

「それは僕が決めることじゃないと思うよ。紗枝ちゃんが決めないと」


それを聞いた紗枝ちゃんは、フフッと笑った。


「弟くんは優しいね」


僕は思ったことを言ってみた。


「相談相手が僕なんかでいいの?」

「ふふ。ありがと」


紗枝ちゃんは笑うと可愛い。

だからもっと笑ってて欲しいと思う。お兄ちゃんのバカ。

すると階段のほうから大きな『ドスンッ』という音が聞こえてきた。

紗枝ちゃんと目を合わせると、二人で様子を見にリビングを出た。

階段のところにはお兄ちゃんが尻餅をついたのか、お尻を痛そうにさすりながら座っていた。


「何してるの?」

「ちょっと飲み物を取りに・・・」


紗枝ちゃんの話に夢中になっていて、忘れていた。


「今持っていこうとしたのに」

「そっかそっか。んじゃあ部屋戻ってるわ」


そう言うとお兄ちゃんは這うようにして階段を登っていった。

やっぱり今尻餅をついてたのも、まだ熱があるせいなのかな?

お兄ちゃんの熱の具合を考えながら、ポカリを持って階段を上がって、お兄ちゃんの部屋へと向かった。

お兄ちゃんにポカリを渡すと、一気飲みをして、またすぐに布団に潜ってしまった。

やっぱりまだ熱が下がらないみたい。

僕はコップとペットボトルを机の上に置いたままにして、お兄ちゃんの部屋を出た。

そしてリビングに戻ると、紗枝ちゃんに様子を聞かれた。


「どうだった?」

「まだ熱が下がらないみたい」

「そっか・・・」

「だから今日はもう帰ったほうがいいかもしれないよ?」

「えっ、でもまだ何にも聞いてないし」

「でもお兄ちゃんもこんな状態だもん。悪化したら困るもん」

「弟くんは、ホントにあいつのこと好きだね」

「お兄ちゃんだもん」

「じゃあ静かにするから見てきてもいい?」


紗枝ちゃんの真面目な顔に圧されてしまって、思わず頷いてしまった。

そして紗枝ちゃんはお兄ちゃんの部屋へと向かっていった。

僕はとりあえず自分の部屋に戻って、様子をうかがうことにした。

しばらくすると、お兄ちゃんの部屋から紗枝ちゃんの大きな声が聞こえてきた。

またお兄ちゃんの熱が上がっちゃう。

そう思って、お兄ちゃんの部屋へと向かった。

ドアを開けて、紗枝ちゃんを止めた。


「お兄ちゃんだって困ってるでしょ。あんまりお兄ちゃんに言ったらダメだよ」

「弟くん・・・」

「お兄ちゃんは今熱があるんだから、そっとしておいてあげないと学校にも行けなくなっちゃうでしょ?」


お兄ちゃんが学校に行けないと、紗枝ちゃんだって困るはずなのに。

紗枝ちゃんは分かってくれたようで、うつむきながらも頷いてくれた。


「紗枝ちゃんの言いたいこともわかるけど、お兄ちゃんは病気を治さなきゃ」

「幸人」


『だから今日は帰って』って言おうとしたときに、お兄ちゃんに名前を呼ばれた。

お兄ちゃんが僕の名前を呼んだ。いつもは『おい』とか『お前』とか『あいつ』って言ってるのに、名前を呼ばれた。


「もういいから」

「お兄ちゃん・・・?」


お兄ちゃんの声は、いつもと違って、怒ってるようにも聞こえた。


「いいから。あとは俺から言うから」

「でも・・・」


お兄ちゃんの熱が上がっちゃったら困るのに。

そう言おうと思ったけど、お兄ちゃんにまた名前を呼ばれて、ドキッとしてしまった。

なんかちょっとだけ悔しかった。

いつもは頼りないお兄ちゃんなのに、いざと言うときは『お兄ちゃん』になる。

そういうのはズルイと思う。


「・・・わかった」


僕はお兄ちゃんを見てから部屋を出た。

まだ真っ赤な顔をしているお兄ちゃんが心配だったけど、あんなお兄ちゃんに言われたら断れない。

いつものお兄ちゃんじゃないみたいだった。すごい不思議な感じだった。

僕は自分の部屋に戻ると、気分を入れ替えようと、学校で出た宿題をすることにした。

そしてだいたい30分ぐらい経ってから、お兄ちゃんの部屋の扉が開いた音がした。

僕は宿題をする手を止めて、様子を見に行った。

するとちょうど紗枝ちゃんが出てきたところだった。


「お兄ちゃんは?」

「寝ちゃった」

「じゃあ帰るの?」

「うん。寝てたほうが熱も下がるだろうし。風邪だったら移っても嫌だし」


さっきまでと違って、爽やかに笑う紗枝ちゃんはなんか嬉しそうだった。

なにかいいことでもあったのかなぁ?


「あの、さっきはごめんなさい」

「何が?」

「帰ってって言っちゃったし」

「あー・・・あの時は私がうるさくしたから悪いんだよね。だから弟くんは悪くないよ」

「でも・・・」

「いいの。弟くんはあいつのために言ったんだから。あいつもあーやって言ってたけど、弟くんの言いたかったことはわかってると思うよ」


紗枝ちゃんに言われて、ちょっと泣きそうになったけど、男の子は泣いたらダメだってお兄ちゃんに言われたことがあるので、泣かないようにした。

そして紗枝ちゃんを玄関まで見送って、さよならをすると、そのすぐ後にお母さんが帰ってきたのが見えた。


「あら、幸人。誰か来てたの?」

「・・・・・・」


僕は紗枝ちゃんのことを言おうとしたら、急に泣きそうになってしまって、お母さんに抱きついて泣いた。

お母さんがビックリしてたけど、背中をトントンと叩きながら泣き止むのを待ってくれた。

僕は、まだお兄ちゃんみたいにはなれそうにないと思った。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いていただけると嬉しいです。


これで第2部は完結となります。


次回もお楽しみに!

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