熱・下
学校からここまで歩いただけでも結構しんどいな。
保健室で結構寝たはずなのに、眠気が襲ってきた。『たくさん寝て早く直せ』というからだからの合図なんだろうか。
「大丈夫?」
「あーちょっと眠いかも」
「寝てけば? 近くなったら起こすよ」
「じゃあちょっと寝るかな・・・」
俺はまぶたを閉じると、すぐに眠りに入った。
なんか寝てばっか、と思った。
「もう着くよ」
「へっ!?」
木村にからだを揺らされて目を覚ますと、見慣れた駅の風景だった。
ってか、俺の頭が木村の肩に乗ってたような気がした。
もしかして木村に寄りかかって寝ちゃってたって事か。うわー恥ずかしー。
「ほら、立って」
「お、おう」
寝惚け眼で木村の言うとおりに立ち上がって、ホームに着いた電車から降りる。
俺、めっちゃ汗かいてるし。ベタベタして気持ち悪い・・・
「どう? 寝てスッキリした?」
「いや、汗かいて気持ち悪くなった」
「帰ったらシャワーでも入んなさい」
お前は俺の母さんか。
言われなくても入るっての。
「さっき弟くんからメール来てたよ」
「なんだって?」
「スポーツドリンクとか買っておくってさ」
さすが気の利く弟だ。今度一緒にゲームをしてあげよう。
「ここまで来ればもう大丈夫だからさ。一人で帰る。ありがとな」
「何言ってんの? 馬鹿なの? 死ぬの?」
「いや、だってあんまり迷惑かけられないし」
「ふん。ここまで来たら家まで行くに決まってるでしょ」
「でも帰ってシャワーとか浴びたいし」
「別に覗きなんてしないわよ。覗いてほしいなら別だけど」
「断固拒否します」
超変態なんですけど。
俺の答え何か聞いていなかったようで、木村がスタスタと歩いていってしまった。俺を送っていってくれるんじゃなかったのかよ。
木村について行く形で一緒に帰る。
少し歩くと、前を向いたままの木村が言った。
「全く。なんで熱なんか出してるのよ。ビックリするじゃん」
「俺もビックリしたんだって。なんかふらつくなーって思ってたら、熱あったんだもん」
「どうせ吉川さんと話してて気付かなかったんでしょ」
確かに吉川さんと話してる時は全然気がつかなかった。
トイレの前まで行って、木村に会ってから気づいた。なんともバカな話だ。
「確かに話してる時はなんでもなかったんだけどなぁ」
「どれだけ夢中になって話してたのよ」
「夢中ってゆーか、吉川さんの話聞いてたら気付かなかったってゆーか、朝からちょっとはふらつくなーとは思ってたんだよ?」
俺、なんで言い訳みたいになってんの?
きっと木村の口調が怒ってるように聞こえたからだ。
「目の前で倒れたから何事かと思ったじゃん」
「・・・ごめん」
「バカ・・・」
それっきり黙々と歩いていく木村。
熱のせいでいつもより歩くのが不自由なため、木村の歩くスピードが早く感じた。多分いつも通りのペースなんだろうけど。
そして歩いて歩いて、やっと我が家に到着。
窓から弟が見ていたのか、玄関を開けて出迎えてくれた。
「・・・おかえり」
なんだその間は。
お兄ちゃんが熱を出して帰ってきてのがそんなに珍しいのか。
「ただいま」
挨拶もそこそこに家の中へと入る木村。
いや、ここお前の家じゃないから。
「おい、木村」
「せっかく送ってくれたんだからいいでしょ。紗枝ちゃんは僕の友達だよ」
「まぁお前がそう言うなら・・・」
しぶしぶではあるが、木村を招いてしまった。
木村はリビングへと向かい、ソファーに座った。
とりあえずシャワーに入って着替えて横になりたい。
弟にカバンをあずけて、そのまま洗面所へと直行した。
制服を脱いで、裸になり、シャワーを浴びる。
さっきまでベタベタになっていたからだを洗い流して、早く出る。あまり長く入りすぎるとまた熱が出てしまうかもしれないからな。
からだを拭いて、弟が用意してくれたらしい寝巻きを着て、部屋へと向かおうと階段に足を置いたところで弟と会った。
「なんか飲む?」
「あーポカリが良い」
「わかった。あとで持ってくね」
「悪いな」
そう言うと、リビングへと弟は消えていった。
俺は部屋に入ると、すぐに布団にくるまって横になった。
あー楽ちん。快適だ。
しばらく横になっていたのだが、なかなか弟がポカリを持ってきてくれなかった。
どうしたんだ? 俺がアクエリアスよりもポカリ派なのは、家族全員が知っていることだ。
まさかスポーツドリンク買っておいたとか言って、アクエリアス買っちゃったとか? それともゲータレード? まさか・・・エネルゲン? あれってまだ売ってるのか?
さすがに遅いと思った俺は、階段を降りて弟の様子を見に行くことにした。
するとリビングから木村と弟の声が聞こえてきた。
「私どうすればいいのかな?」
「それは僕が決めることじゃないと思うよ。紗枝ちゃんが決めないと」
「弟くんは優しいね」
「僕なんかで良いの?」
「ふふ。ありがと」
なんか聞いちゃいけないような会話じゃね?
ここで『おい、飲み物まだかよ』なんて言っていける奴はかなりの大物だ。
とはいえ、弟と木村が何の会話をしているのか気になる。
気になるけど聞いちゃいけない気がするけど聞きたいけどダメだ。
もう熱が上がってきたのか、また思考回路がショートしかかかっている。
立ってるのが辛い・・・
ふらふらと後ろに下がってしまい、階段につまづいて、ドンっという大きな音と共に、階段の一番下に尻餅をついてしまった。慌てて立とうとしたのだが、からだがいうことを聞かず、その場でもがくだけだった。
その音に反応したのか、弟と木村がリビングから出てきた。
「何してるの?」
「ちょっと飲み物を取りに・・・」
「今持っていこうとしてたのに」
「そっかそっか。んじゃあ部屋戻ってるわ」
なんとか這い蹲るように階段を登って、這うように部屋へと戻った。
もう眠ってしまいたい気分だった。
なんか熱のせいなのかわからないが、こう、スッキリしない感じだった。
少しして弟がポカリを持ってきてくれた。
俺はそれを一気に飲み干すと、布団に潜って寝たふりをした。
どうしても眠りにつけなかった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
シリアスなシーンが続いてますが、まだ続きます。
ご了承ください。
次回もお楽しみに!




