ばたんきゅ~
教室を出た俺は、一瞬だけどうしようかとも考えたけど、とりあえずトイレに行こうと決めた。
しかしトイレに行っている間にすれ違っても困るので、なるべくゆっくり歩くことにした。だって女子トイレに突撃するわけにはいかないし。
周りのクラスに興味があるフリをしながらゆっくりと歩いた。
一応他のクラスを見ているのだが、そのクラスの中には木村はいなかった。
木村のことだから他のクラスにいる友達のところにいるのではないかとも思ったんだけど、当ては外れたようだ。
そのまま何クラスかを通り過ぎると、あっという間にトイレに到着してしまった。見える距離なんだからすぐに着くのは当たり前なんだけど、なんとも言えない感じだった。
結局見つからなかったなぁ・・・
トイレのドアを開けて中に入ろうとした。
「あれ? アンタもトイレ?」
すると横から声が聞こえて、ハンカチで手を拭いている木村が立っていた。中で拭いてから出てこいよ。はしたない。
ってただのトイレだったか。まぁ良かった良かった。
・・・・・・・・・良かった?
俺、何考えてんの?
ちょ、意味わかんねぇ・・・
自分がわからん・・・
「ちょっと、大丈夫?」
心配されたのか、木村が俺の顔の前で手を振っていた。
漫画とかではよく見るシーンだけど、まさか自分がやられることになるとは思わなかった。
「あ、悪い。ちょっとボーッとしてた」
「具合悪いの?」
「いや、別に」
「邪魔くせぇ」
後ろから来た怖そうな人に凄まれて、俺はフラッと素早く横にズレた。ヤムチャなら目で見えなくて驚いているレベル。
「トイレに来たんじゃないの?」
隣を見ると、木村がバカにしたように笑っていた。
なんかホッとして俺も小さく笑った。
・・・・・・・・・は?
俺、なんだ? い、意味がわからん・・・
木村も驚いたような顔をしていた。俺が驚くならわかるけど、こいつがこういう顔するのは失礼だよね。
「え、ちょっと、ホントに大丈夫? 特に頭」
「俺もちょっと精神科行こうかと検討してた」
「それ大丈夫なの?」
「さぁ・・・・?」
ちゃんと話しているから大丈夫だ。問題ない。
そう言えばあっさり終わるはずなのに、言えなかった。
いつもなら脊髄反射のごとくマンガのネタが出てくるはずなのに、何も思い浮かばなかった。マジで熱でもあるのか?
額に手を当ててみたけど全然・・・
「熱っ!」
「熱あるんじゃん! 保健室行く?」
熱ありました。
どうりでなんかフラフラすると思った。ここに来るまでゆっくりと歩いてきたんだけど、それも早く歩けないからで、まっすぐ歩けなかったんだよね。なんかいろんな意味でホッとした。
そして熱を意識すると、からだがだんだん重くなっていくようで、その場に壁を背中にしてへたりこんでしまった。
「ちょっと、こんなところで座んないでよ!」
「そんなこと言われても、困る・・・」
頭ボーッとする・・・
木村の手が顔に触れた。冷たくて気持ちいいなぁ・・・
そして俺の目の前は真っ暗になった。
第二部・完ッ!
「誰が主人公をつとめるんだァ!」
「うおっ!」
「・・・アレ?」
起き上がると、白いカーテンで区切られたベッドの上で、360度全てが白だった。
うわぁ・・・なんか浄化されそう。これだけ白に囲まれてるとなんかの儀式のように思える。俺を浄化する儀式か。汚物は消毒だァ!! 誰が汚物か。
「やっと起きたか。まだ熱あるんだろ。寝てろよ」
「渡辺?」
白いカーテンがヒラリと開けられて、そこから渡辺が現れた。どうやら儀式ではなかったようだ。
渡辺に言われるまま、からだを倒して枕に頭をあずけた。
「ここは?」
「保健室。お前、熱で倒れたんだぞ」
あそっか。確かトイレに行って木村に会ってそこで倒れたんだっけ。
「木村が形相変えて教室に来るもんだからみんなビビッてたよ。トイレまで行ったらお前倒れてるし。もうビビりまくり」
「お前が連れてきてくれたのか?」
「まぁな」
「そっか。ありがと」
「キモッ!」
人がお礼を言ったら『キモイ』って酷くね?
「あっ。悪い。急に言われたもんだからつい」
「ついキモイって言うの酷いよな」
「だってお前がそんなこと言うのってあんま無いじゃん」
まぁそうだけど・・・こう見えて一応常識はあるんだ。世話になったんならお礼の一つぐらいは言うさ。
普段は大体一人でなんでもしてるから言わないだけで、ちゃんと両親から教育を受けて真面目に育ってるよ。
「そういえば木村は?」
渡辺しか見えないので、聞いてみた。
もしも俺の視界に木村が映ってないだけなのであれば、精神科よりも先に眼科に行くことをオススメされたい。
「さっきお前の荷物取りに行ったとこ」
そう言って囲まれていたカーテンをフルオープンしてくれた。
初めて保健室に来たけど、ホントにマンガってキチンと描いてるんだなって思うような保健室だった。
そして窓の外に目をやると、日が暮れ始めていていた。
「今、何時?」
「4時半」
「マジで?」
軽く2、3時間寝てた。
「めっちゃ寝てたんだぞ。もう起きないんじゃないかと思った」
「あれ、お前部活は?」
「木村戻ってきたら行くよ。それまでは留守番だ」
言われて気づいたが、保健室の先生も居なかった。
「たもっちゃんは飲み物買いに行ってる」
「え、誰?」
「たもっちゃん。保健室の先生な。田本先生って言うんだ。だから『たもっちゃん』」
変なあだ名付けるなよ。俺なら怒るレベル。
その時、ドアを開けて2つのカバンを重そうに持った木村が現れた。
「おっ。ご苦労さん」
「なんで私がこんなことまで・・・」
そこまで言って、目を覚ましている俺に気づいた。
俺はとりあえず手を上げて無事をアピールする。
手は親指に中指と薬指をくっつけて狐の形にするのを忘れない。我ながらなんて気の利いたボケだろうか。
「よ、よう」
「大丈夫?」
心配そうな顔で俺を見てくる木村。手はスルー。
手を下ろして、布団の中に突っ込んだ。
「少し楽になったけど、頭重いわ。ガンダムの気持ちが分かった気がする」
「はぁ・・・それだけ喋れれば大丈夫よね」
「んじゃ、俺、そろそろ行くわ」
「うん」
「ありがとな」
「お礼とかやめれ。気持ち悪い」
そう言うと、渡辺は爽やかスマイルを残して保健室を出ていった。
ドMに褒め言葉は禁句と言うことなんだろうか?
そして保健室には俺と木村だけになった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
疲労から来る知恵熱とかですかね。
次回もお楽しみに!




