ギャップ
学祭のシーズンらしい。
俺の通う高校は、周りの高校よりも開催時期が遅いので、9月の半ば頃に開催される。
前にサボって帰った日に色々とクラスの出し物を決めたらしく、俺はいつ話し合いをするのかと思ってたのだが、もう決定しているらしかった。
そして俺のクラスは・・・
「・・・お化け屋敷?」
「そうそう。だからお前もなんかオバケ役しないとダメなんだって」
「いやいや。俺、そーゆーのやると頭痛がするんだよね」
「何言ってんだ。つべこべ言わずさっさと決めれ」
俺の前の席に後ろ向きで座りながら楽しそうにこちらを見て話している渡辺。
こいつ、あの日以来『木村と仲良くなるためにはまずは俺から』ということで、木村ではなく俺の攻略を優先してきやがった。厄介だ。
こういう話し合いの場では、いつも寝たフリをして、周りが勝手に決まっていくのを待っている側なのに、クールというキャラ設定をどこかに置いてきてしまった渡辺に絡まれて、オバケ役をすることに決まってしまった。頼みの隣の席の木村は、お友達のなんとかちゃんとなんとかちゃんのところへ行ってて不在だった。木村はクラス内設営組なので、一緒の話し合いに参加してなくても不思議ではない。
それを聞いた渡辺はどこか寂しそうだったが、すぐに爽やかスマイルで俺に絡んできた。一生落ち込んでてくれれば良かったのに。
ちなみに渡辺なのだが、クールなキャラを脱ぎ捨てたのにも関わらず、なぜか人気が落ちない。
これも見た目と運動が出来るという情報が功を成しているのだろうか。
全くもって女心というものは意味がわからない。そしてわかろうとも思わない。
木村の話だと、なんでも『クールだったと思ってたら、意外ととっつきやすかったってギャップがよかったんじゃない?』とのこと。ギャップ萌えか。なら仕方ないな。
でも俺に懐く必要ないよね。
お前が俺の席に来ることによって、他の奴らまでお前についてきて、俺の方に寄ってくるんですけど。いい迷惑だ。
よって俺の席の周りには、渡辺を取り囲むように、クラスのオバケ担当が集結している。
みんな楽しそうなのに、俺だけ超浮いてる気がする。
「で、お前は何やるんだよ」
「俺はやりたくないって」
「そんなこと言わないでやろうよー」
「絶対楽しいって!」
何故か周りの観衆にまで説得される始末。
もう嫌だ。逃げ出したい。
でも前に逃げ出したときに気づいたんだけど、サボると罪悪感がハンパない。
確かに悪いことしてるんだけど、現実逃避に走ることがこんなに罪悪感を感じるとは思わなかった。
かつてとあるパイロットが言っていた。
彼も逃げ出したい時があったそうだ。その時に、彼は自分に暗示をかけるようにこの言葉を言っていた。
『逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ』と。
俺もこの言葉を心の中で唱えた。
不思議と更に逃げ出したい気持ちが大きくなっていった。アレ?
「・・・わかった。やる」
「なんのオバケやる?」
「なんでもいい」
「よし。俺に任せろ! お前にピッタリの役を決めてやる!」
「渡辺やる気マンマンじゃーん!」
「さすがオバケ役リーダー!」
「皆まで言うな。よしっ! じゃあ早速決めるとするか!」
そう言って渡辺は、座っていた椅子に正しく座り直し、机の方を向いてなにやら書く作業に入った。
それに伴って、他の観衆達も机の方に移動していく。
「はぁ・・・」
俺は小さくため息をついた。
酸素が薄かった。よくしゃべる奴らが近くに居過ぎると、周りの酸素が減って二酸化炭素が多くなっていく。そして座っている俺は辛くなってくる。ドライアイスもビックリの二酸化炭素の放出量だろう。
俺はとりあえず机に突っ伏した。
眠れなくてもいいから、誰とも会話をしたくないと思った。
普段ならこんなに絡まれることもないのに、木村と渡辺のせいで、俺の生活リズムはグチャグチャだ。
授業中は木村にちょっかい出されるから授業内容が聞けないときがあるし、休み時間は、木村目当てでやってくる渡辺がウザイ。
勉強は大好きって訳じゃないけど、嫌いってわけでもない。テストなんか数字で自分の学力がわかるからそれなりに好きだ。でもネットの時間を削られるのが嫌だから勉強だって授業中だけで済ませてるだけだ。だからこうやって授業の邪魔をされると、俺のネトゲライフに影響が出てしまう。
そんなことを考えていると、俺はだんだんと眠くなってきてしまい、寝たフリをしたまま寝てしまった。
なんだろ・・・疲れてたのか?・・・ぐー
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけるとウルトラハッピーです。
何故かなつかれやすいほっちくんでした。
無理強いは、ほっちの苦手なジャンルです。
次回もお楽しみに!




