年季VS新参
家の前に立っていたのは木村だった。
そういえば今日遊びに来いよとか言ってたような気がする。
とりあえず声かけとくか。
「よう」
「よう、じゃないわよ。何サボって帰ってるのよ」
なにやら怒っている様子。
俺悪いことしたっけ?
その時、服の袖をクイクイと引っ張られた。
引っ張った主を見てみると、俺に隠れながらちびブチャラティが木村のほうを見ていた。
「あの人誰ですか?」
「あー・・・一応友達」
「友達ですか・・・」
なにやら考え込むと、ちびブチャラティは木村のほうへ歩いていった。
怒ってるみたいだからやめとけって。今行ったら確実に喰われるぞ。
俺は心の中で注意したのだが、俺と波長が合わないらしく、念波は届かなかった。
ちびブチャラティは、木村の前まで来ると、木村のことを下から見上げた。
えっ、なにこれ。
「あなた誰ですか?」
「は? あんたこそ誰よ」
「私は秋山可憐です!」
「私は木村紗枝よ」
「幸人くんのお兄さんとはどんな関係なんですか?」
さっき友達だって言ったじゃん。
「友達よ」
「ホントですか? お兄さんはただのクラスメートだって言ってましたよ?」
「はぁ?」
そして俺を睨む木村。俺は自然と癖で目を逸らす。
どうして俺が睨まれないといけないんだよ。
そんなちびっ子のことなんか信じるなと言いたい。自分が信じる自分を信じろよ。
「ちょっとどういうことよ!」
俺に向かって木村が叫び出した。
近所迷惑ですよー。
俺は聞こえないふりをして、木村の横を通り過ぎて玄関に向かって歩いた。
まぁ通れるはずも無く、木村に腕を掴まれる。
「無視しないでよ」
「なんなんだよ。来るなり怒っててさ。そんなちびっ子の言うことなんて信じるなよ」
「あんたは私のことどう思ってるのよ」
「どうって・・・友達?」
「最後のハテナはどういう意味よ!」
「いてっ」
蹴られた。理不尽だ。
「暴力はよくありません! 謝ってください!」
「ちびっ子は黙ってなさい!」
「黙りません! 友達だからって何をしてもいいってわけじゃないです!」
そうだそうだ! もっと言ってやれ!
「いいのよ。こいつMだから」
「えっ・・・」
「ちげぇし! 全然ちげぇし! Mなのは俺じゃねぇし!」
『渡辺だし!』と言いたかったが、なんとか抑えた。渡辺の存在意義が危うくなるからな。俺ってやさしー。渡辺、今度ジュース一本な。
「もういいからお前らどっちも帰れ! もう勝手に来んな! 俺ん家の敷地に入るな!」
強引に振りほどいて、俺は玄関に滑り込んだ。
もういや。
木村だけじゃなくて、変なちびっ子まで来たし意味わかんね。
俺はキャベツを冷蔵庫に入れて自分の部屋へと向かった。
パソコンは禁止されているから、マンガでも読もう。そうだ。ジョジョでも一巻から読もう。
っと。まずは制服から着替えないと。
俺は外に極力出ない生活をしているので、部屋着のジャージが普段着になっている。
ワイシャツを脱いで、ズボンに手をかけた時だった。
「たのもーーー!!」
「うわぁああ!!!」
急に開けられたドアと大きな声に驚いた俺は、下げかけていたズボンを履き直した。
「あんた、なんで上半身裸なの? もしかしてお邪魔だった?」
「ホントに邪魔だったよ! 着替えてんだから入ってくんな!」
「レディの前で着替えようなんていい度胸ね。やってごらんなさいよ」
「何言ってんだよ! わけわかんねぇから早くドア閉めろよ!」
「はいはい」
そう言って部屋の中に入ってからドアを閉める木村。
「これでいいんでしょ?」
「全然よくねぇよ! いいから早く出ろ!!」
木村を部屋から追い出すと、俺はクーガーの兄貴よりも早く着替えを済ませた。この間、実に0,5秒。
人生でこんなに自分の部屋で大声出してから着替えたのは初めてだ。今後はもう無いことを願いたい。
「終わった?」
ドアから顔を出して中の様子を伺う木村。
「覗いた段階でアウトだろ」
「あ、終わってんじゃん。早く呼んでよね」
「呼びたくなかったのに」
「細かいことは気にしなーい」
ハハハと笑う木村。
どうやら学校帰りまっすぐ来たらしく、制服でカバンも持ったまんまだった。
「どうやって入ってきたんだよ」
「弟くんと遊びに来たのよ? 弟くんに入れてもらったに決まってるじゃん」
「そういえばそうだった・・・」
あいつにもKY検定を受けさせるべきだな。そして1段とか取得してもらわないと困る。
「じゃああいつのところ行けよ」
「弟くんは友達と遊ぶんだって。だから邪魔したら悪いでしょ」
「大丈夫だって。お前なら同じくらいの年齢だからイケルって」
「弟くんと同じクラスの子だって言ってたわよ?」
「実年齢じゃなくて精神年齢な。でっ!」
また蹴られた。今回は理不尽じゃなかったけど、着替えを覗かれた俺が蹴らなかったんだから、これはスルーするべきでしょ。不公平だ。この暴力女め。
「いってぇ・・・んで、何しにきたんだよ」
「そうよ。なんであんた途中で帰ってるのよ」
あーそのことか。俺もすっかり忘れてた。聞かなきゃよかった。
階段から転がり落ちたらタイムリープできないかな。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
可憐ちゃんはぼっちくんが大好き。
次回もお楽しみに!




