弟
今日も一仕事終えて帰ってきた一人暮らしのサラリーマンのごとく、カバンから鍵を取り出して玄関の鍵を開けた。
一人暮らしじゃなくて、ただ両親が共働きなだけです。はい。
まっすぐにキッチンへ向かい冷蔵庫から麦茶を取り出してコップに入れて一気飲み。
「プハー! やっぱり帰ってきてからの一杯はこれに限るわ!」
などと冷蔵庫の前で大げさにCMっぽく立ち回りをしてみた。
ハッ! 何者かの視線を感じる!
「・・・・・・」
俺の弟が壁に半身を隠しながら仲間にして欲しそうにこちらを見ていた。
いや、仲間にして欲しくなさそうだ。むしろ『なにこいつ・・・』みたいな目で見ている。
これは恥ずかしい。
「・・・な、なんだ。帰ってたのか」
「お兄ちゃん・・・恥ずかしくないの?」
うわぁ・・・弟にここまで言われると傷つくわぁ・・・
「い、いいだろ別に」
弟に言われて居心地が悪くなったのもあって、ミスディレクションを使って逃亡を図る。
しかし弟は視線をそらすことなく俺をまっすぐに見据えて、キッチンから出ていく俺を見続けた。
ミスディレクション失敗! 失敗なんてもんじゃない! 大失敗だ!!
なにあの子。イーグルアイでも持ってるの?
そんなイーグルアイを持っている弟は今年中学2年生になった14才。
何を考えているのかよくわからず、どこか達観した視線を俺に向けてくることが多い。
言うことは言うタイプらしく、思ったことを脊髄反射で投げつけてくる。その威力はもはやエクスカリバー級だ。アサシンの俺は勝てる気がしない。
そんな弟から逃れて自分の部屋に入る。そしてとりあえずはノートパソコンを起動。
もういつもの習慣でパソコンは帰ってきてから起動するものというのがからだに染み付いてしまっている。
カバンを机の上に置き、ノートパソコンをベッドの上に移動させて自分も寝転がる。
マウスパットを敷いてマウスを操作する。
いつもやっているネトゲを開いて、待ち時間に動画を鑑賞。これが俺の放課後スタイルだ。
それに放課後だけに関わらず、休みの日も夜もこのスタイルを貫いている。もう立派な帰宅部員と呼べるだろう。
友達がいればこんなこっとばかりではないのかもしれないが、俺にとっての友達はこのパソコンなのだ。
あんパンの彼の友達が愛と勇気であるように、サッカー少年の友達がボールであるように、俺の友達はこのパソコンなのだ。
よく親から『いい年してあんパンとかサッカー少年とか言って・・・恥ずかしくないの?』と言われることもあるが・・・ってこんなセリフさっきも聞いたな。誰から言われたんだっけ? 俺ってば都合の悪いことは覚えられない脳みそなんだってばよ!
「あー・・・この子エロいなぁ・・・」
どうしてネトゲのキャラってこんなにエロく見えるんだろう?
現実にこんな子がいきなり部屋の中に入ってきたら、驚きすぎて漏らすわ。
よく『俺はビビらんよ?』みたいな感じで話してるやつとかいるけど、どう考えても中二病だよな。
俺はちゃんとビビるし漏らす。そうなる絶対の自信がある。
俺のやっているネトゲは一つの行動を終えると少し待ち時間がある。
要はこの行動をして疲れたから休ませろというネトゲキャラからの切なる訴えなのである。
俺は優しいから『うだうだ言ってねぇで働け! どうせテメェらはデータだろうが!』などということは言わない。だってこの子可愛いんだもん。
そんな待ち時間の間に動画を見る。
「最近、マイクラばっか・・・」
俺の好きなゲーム実況者の人もなかなか動画上げないし、一時自分で投稿してみようかとも考えたのだが、機材がそろわない。
さりげなく親に聞いてみたところ、
「いやーDVDレコーダー欲しいなぁ」
「はぁ? パソコン売って買いなさい」
ダメでした。
うちの親は基本的に俺には厳しくて、弟には優しい。
その理由を一度聞いたことがあった。
「なんか弟に優しくねぇ?」
「だってあんたが構ってあげないから」
俺は放ったらかしでいいってわけね。
上等だコノヤロー! 不良にでもなってやる!
とはいえども、不良の仲間入りをするためには、まず不良と仲良くならないといけないわけである。
入口に門番が立っている世界なんて誰が入っていけようか。しかもその門番はきっとゲートガーディアンだよ。雷・風・水の完璧な攻撃でこっちの攻撃は防がれてやられちゃうんだ。だれか六芒星の呪縛使ってー。
それに不良って何したらいいのかよくわかんねぇし。
ゲーセンで仲良くたむろってればいいの? それとも公共施設とかで大声でマナー違反すればいいの?
これじゃあただのリア充と一緒じゃねぇか。
不良になるにはリア充になればいいってわけか。うん。不可能だな。
「あーあ。リア充爆発しろー」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけるとウルトラハッピーです。
次回、新キャラ?登場します。
次回もお楽しみに!