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ぼっちデイズ  作者: シュウ
二章
39/128

パラドックス

やっとの思いで帰宅。

一日中、隣の席の人からの攻撃と口撃とノートアタックを受けながらの、背後からのレーザービームに耐えながらの学校生活は、いつもと違っていて新鮮だった。悪い意味で。

上手いこと木村を振り切り、精神攻撃を凌ぎきっていた俺のからだは、すでに限界を迎えようとしていた。

たった一日でこの疲労なのだ。こんなのが毎日続いたら、俺の精神は砕け散ってしまう。マインドクラッシュだ。

とにかくネトゲだ。ネットの世界にダイブして、そこで休息を取るんだ。ネットの世界なら疲れることはない。いろいろとチャージしなければ。

そう思い、自分の部屋へと駆け込んでパソコンを起動させる。


「お兄ちゃん」


・・・どういうことだ?

帰ってきたときはまだ家に誰も居なかったはずだ。

ならばいつ帰ってきたんだ?


「なんだよ」


俺はあたかも気づいていたかのように、冷静に問いかけた。


「紗枝ちゃんは?」

「木村? 今日は友達と一緒に遊ぶんだってよ」

「お兄ちゃんは友達じゃなかったの?」

「そりゃお前・・・友達だろ」


なんかむず痒いわ。言わせんな。


「お兄ちゃんは一緒に遊ばないの?」

「は?」

「紗枝ちゃんの友達と一緒に遊ばないのってこと?」


・・・こいつぬかしおる!

俺がリア充と遊ぶだと? 馬鹿言ってんじゃないわよ!

どうやったらリア充と遊べるっていうんだよ。

どう考えても釣り合わねぇだろ。いや、釣り合うとか釣り合わないとかじゃなくて、一緒に遊ぶ理由がわかんねぇよ。

話は合わないわ、遊びの種類も合わないわで、一緒にいる理由が見つからねぇよ。

しかもテンションが違いすぎる。遊んでるのに疲れるとか最悪だろ。

遊び終わったあとに『えっ!? もうそんな時間!? 遊びたりねー!』っていうのが理想だろ?

リア充となんか遊んだりしたら『えっ? まだこんな時間? ここって精神と時の部屋だっけ?』ってなることは目に見えてる。


「俺は別にいいんだよ。ネトゲで忙しいんだ」

「ふーん」

「そういうお前は遊びに行かないのかよ」

「昨日遊んだもん。今日は浩一(こういち)くんは塾なんだって」


へー。こいつ友達いるんだ。

俺と一緒で友達いないのかと思ってた。

『兄より優れた弟などいない』って言うけど、現実は『兄より弟のほうが優れている』だよな。

いや、でもやれば出来る兄姉もいるわけだから、そんなことないのか?

まぁ少なくとも俺はやる気もないし向上心も無いから当てはまらないな。うん。


「で、なんか用なのか? 俺はこれからネトゲしないといけないんだけど」

「ううん。ちょっと紗枝ちゃんに会ってないから、またケンカしたのかと思っちゃっただけ」

「そうか」


そして俺の目をじっと見つめる弟。

俺はここで目を逸らすと負けだと思い、じっと見返した。

弟はたじろくこともなく、いたって普通の眼差しで俺を見つめたあと、くるりと反転して部屋を出ていった。


「ふぅ・・・」


息を吐いて、緊張を解いた。

弟に緊張する俺ってどうなんだ?

そう思いながらネットの世界にダイブした。


次の日、俺は朝登校してきた木村に、弟が会いたがっていることを伝えた。


「あ、昨日メールで聞いた」

「メールですか・・・」


俺がわざわざ言うまでも無かったってことですかい。


「でも断っちゃった」

「は? なんでよ」

「だって・・・その・・・ねぇ」


申し訳なさそうに笑う木村。

そういうことですか。

こいつなりに自重してたってわけか。

変なところで自重するやつだな。自重するならもっと気を使ってください。学校では一切話さないとか、一緒に帰ったりしないとか。いろいろあるでしょうに、俺の家に行くのだけ自重するってどういうことなのさ。


「別に気にすることねぇじゃん。弟が会いたいって言ってるんだから会いに来ればいいだろ」

「でも迷惑じゃない?」

「はぁ・・・弟の友達として遊びにくればいいだろってこと。俺は別に関係ないし」


こうは言ったけど、関係ありまくりだよな。


「じゃあ・・・行っちゃおうかな?」

「来い来い。弟も喜ぶわ」

「おい」


背後で声がした。

やべー・・・めんどくさいのに絡まれた・・・


「わ、渡辺くんじゃないっスか。どうしたの?」

「それはこっちのセリフだ。ちょっと来いよ」


また返事も聞かずに先に行ってしまう渡辺。

立ち上がってついていこうとしたとき、不意に手を掴まれた。


「ちょっとどこ行くのよ。今は私と話してるんでしょ」

「いや、その」


早くKY検定受けてこいって言っただろ!


「おい・・・おいっ! なんでお前ら手を繋いでるんだ!」


ついてこない俺を確認するために振り返った渡辺が、木村と手を繋いでいる瞬間を見てしまった。

どいつもこいつもタイミングが悪いな。

声を荒らげる渡辺のせいで、クラス内の生徒が全員こっちを見た。

こら! 木村も手を離しなさい!

慌てて手を振り払おうとしたのだが、木村の握力が強すぎる。男の俺の立場無し。


「なによ。渡辺よりも私と先に話してたんだから、私の許可をとっていきなさいよ」


渡辺に対して強気で発言する木村。

そんなことより手を離してください。


「きょ、許可って、別にそいつは木村の物じゃないだろ?」


声を荒らげていた渡辺は、木村が相手に代わったことによって、勢いを削がれてしまったらしく、あたふたしながら反論。


「だいたい、なんでそいつと手を繋いでるんだよ。やっぱりお前ら付き合ってたのかよ!」

「「付き合ってねぇよ!!」」


俺と木村の同時口撃。

その口撃を受けた渡辺は、一瞬だけ口元に笑みを浮かべたが、すぐにいつもの顔に戻った。

こんなとこでM特性発動すんな。この真性野郎め。


「とにかく! ちょっとこいつに用があるんだ! 借りてくぞ!」

「だからダメだって! 今は私と喋ってるんだから!」

「ちょっ・・・いてっ・・・」


掴んでいる手を引っ張られて木村に引き寄せられた。

その拍子に、木村が抱きかかえるように俺に抱きついた。まるで子どもがおもちゃを取られないようにするかのように。

もちろん木村はそういう意図で抱きついたのだろうが、周りから見れば、俺を取り合っている最中に、木村が『私たちはこういう関係なのよ!』とアピールしているようにも見えなくはない。


「お、お、お前・・・やっぱりそういう関係だったのかよ!」

「いや、これは違っ」

「だったらなんなのよ! 渡辺には関係ないでしょ!」


木村さん。もう黙ってください・・・

周囲の視線が俺たち三人に集まっているなかでのこの発言。

俺はこの場に居れない。

木村と渡辺は真剣そのものだし、周りは面白がって見てるだけだし。その中心にいる俺は、この場から逃げ出したい。何かきっかけと隙があれば逃げ出したい。

できればこの世から居なくなりたい。


「き、木村・・・そいつから離れてくれ・・・俺はもう限界だ・・・」


怒気が含まれた声でワナワナと言う渡辺。

怒ってるじゃん! 早く離して! 俺の身が危ない!

じたばたを繰り出すも、木村の拘束が解けず逃がしてくれない。HPが残りすぎているのか威力が小さいようだ。


「イヤ! あんたなんかに絶対渡さないんだから!」

「一体そいつとどういう関係なんだよっ!」

「どういう関係でもいいでしょ! あんたには関係ないのよ!」

「関係あるさ! だって俺は木村のこ」

「あぁぁぁぁあああああああああっ!!!!!」


俺はできるだけ大きな声で叫んだ。

これ以上は渡辺の存在に関わることだし、俺の世間の風当たりにも支障をきたしかねないと判断し、大声を上げた。

その声に驚いた木村の拘束が一瞬緩んだ隙に、木村の手から逃げ出して、俺は教室からも逃亡した。

そして走って廊下を駆ける。

今で穏便にアサシンのように過ごしてきた俺が廊下を走るなどという、小学校低学年のような行動をするとは考えられなかった。

しかし今はいろいろと緊急事態だった。もうあそこはあーするしかなかった。

ひたすらに走って、一階まで階段を降りて、玄関横の自動販売機の横の壁との隙間に身を潜めた。

あー狭い。でも今はこの狭さが落ち着く・・・このまま壁と同化したいっス。

誰か同化出来る人紹介してくれませんか?

そして俺は考えるのをやめた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いていただけると嬉しいです。


またまた長くなってしまいました。サーセン。

日刊ジャンル別ランキング一位になりました。

ありがとうございます!


次回もお楽しみに!

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