一騎討ち
次の日学校へ行くと、俺の席に噂の彼がおったそうな。
その彼が口を開いて俺に向かって言葉を発しました。
「おい。ちょっといいか」
俺の返事を待たずにどこかに行ってしまったので、一瞬だけ『俺じゃなかった?』とも思ったけど、すぐに『ついてこい』ってことかと察しました。口があるんだから最後まで説明してください。
もうすぐで授業も始まるなーとか考えながら渡辺の後ろをついていくと、お決まりというかおなじみの人気のない場所に到着しました。
前に来たときは、木村に脅されたんだっけ? なんか懐かしいなぁ。
木村も今となっちゃ俺に忠実なしもべだからな。俺パネェ。
「お前と木村ってどんな関係なんだよ」
ストレートだ。わかりやすくていい。主人公対決っていうのはどうしてあんなに直球勝負にこだわるのだろうか。アメフトマンガのあの嘘つき主将みたいに『いざ尋常に直球勝負!!』とか言って思いっきり内角高めのシュートとか投げてやればいいのに。これは個人戦じゃなくてチーム戦なんだということを忘れてるよな。
そう考えると遊戯王のチーム・ニューワールド戦のフォアザチームには驚いたわ。
個人でやりすぎると怒られる。でもチームのためになるように戦うと不自然。
自然な不自然。
勝負の世界はやっぱり難しいな。うん。
あ、渡辺のこと忘れてた。
えーとなんだっけ?
たしか木村との関係だっけ?
なんて答えればいいんだ?
オタクのことを隠して俺と木村の関係を説明するのってムズイな。とりあえず適当に答えておくか。
「お前に言える関係ではないな」
「っ! 他人には言えない関係ってことかよ・・・」
「まぁそんな感じ」
ぐぬぬと渡辺が唸る。
こいつ本当に悔しそうだな。
「い、いつからだよ」
「いつからだろ? 多分、夏休み明けかな」
「夏休みになんかあったのかよ」
「まぁいろいろと」
主につきまとわれました。ストーカーで訴えたら勝てるレベルだった。
「お前はともかく、木村はどう思ってるんだよ」
「むしろ木村のほうから俺に近づいてきたからなー」
「あの木村からだと?」
「『あの木村』ってどういうことだ?」
「木村はもともと大人しい感じだったんだけど、教室であんなことあったじゃん。それからなんか結構テンション高くなったというか・・・可愛くなったというか・・・」
ポっと頬をわずかに染める渡辺。
男がこうやって頬を染めてもなんとも思わないどころか、むしろ気持ち悪かった。
「お前、木村のこと好きなんだろ」
「そうだよ。俺は好きなんだ!」
「マジかよ。ちょっと引くわ」
「そういうお前は木村のこと好きじゃないのかよ」
「俺と木村はそういう関係じゃねぇし」
「じゃあなんでいつも一緒に帰ってるんだよ」
「いつも一緒に帰ってる・・・だと?」
こいつの目は節穴か?
俺が毎日木村と一緒に帰っていると錯覚しているのか?
もしかして鏡花水月の開放の瞬間を見ちゃったんじゃね?
「現に昨日も一緒に帰ってたじゃん」
「昨日はお前と一緒に帰ったんだろ」
「その前の日だって、二人でいそいそと帰ってたじゃん」
「アレは弟が倒れたって言うから、急いで迎えに行ったんだよ」
「なんでそれに木村が付いてくるんだよ」
「弟の友達なんだよ。木村は。だから別に一緒に来ててもおかしくないだろ?」
「・・・本当に木村と付き合ってないのか?」
「誰があんなリア充女」
「俺の前で木村の悪口は許さん」
こいつ・・・本気だ。
マジで木村のこと好きなの?
「本当に木村好きなのか?」
「好きだ」
「じゃあ告白しちゃえばいいじゃん」
「そ、それはもうちょっと仲良くなってからのほうが良くないか?」
「潔く振られたらいいじゃん」
「振られること前提かよ!」
なんというツッコミ能力!
この状況で俺が怒られるのを覚悟して言ったボケにツッコミを入れてくるとは・・・
でも俺たちそんなに仲良くないから、つっこまれても対応に困る。
「まぁ振られてもいいことあるって。お前モテモテじゃん。マジで死ねばいいのに」
「モテてねぇって。現に彼女いないし」
でたー。モテる男のモテてないアピール。
どうせ裏では『俺、自分が好きになった人じゃないと付き合えないんだ』とか言って振ってるんだろ?
告白されるだけいいじゃんね。
俺なんか告白されたことないんだからな!
木村に告白されたのは、本人の強い要望によりなかったことになりました。
俺が『うわぁ・・・』って顔をしていたのを渡辺が見つけてしまった。
「ホントにモテてないからな? 告白されてたこともないし、告白したこともないし、彼女いない歴だって年齢と一緒だ」
それは意外だった。
渡辺はなおも続ける。
「みんなモテる男は辛いねぇとか言うんだけどよ、俺なんてモテてないからこうやって男友達とばっかり遊んでるんだろうが! 気づけよ!」
「お、おう。なんか悪かったな」
こいつ意外と残念なのか?
「ところで木村のどこが好きなんだ?」
「・・・誰にも言うなよ?」
俺は首を縦に振った。
言う相手が誰も居ないからな。
「俺・・・実はMなんだ」
・・・えっ?
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
はい。
というわけで、ドM患者の渡辺くんでした。
次回もお楽しみに!




