大惨事
「じゃあここは?」
「知らね」
「お兄ちゃん」
「・・・8」
「ありがとー」
「よくできました」
えー・・・
流れとしては、木村が聞く→俺が適当に答える→弟が俺を呼ぶ→真面目に答えるって感じ。
これっておかしいよね?
宿題って個人の能力の向上と、長期休業によって下がってしまう脳みその維持と、先生の気分で出されるものでしょ?
なのに人に手伝ってもらうっておかしいよね?
しかも秘密兵器と言わんばかりに、木村の隣には弟がいるんだけど。
なんなの? お前らできてんの?
「お兄ちゃん」
「な、なんだよ」
そのままじーっと見つめる弟。
『そんな目で俺を見るな・・・俺を見るなぁ!!!!』と発狂してしまいそうなほどまっすぐな視線。
純粋さが一周回って逆に怖いです。
「お兄ちゃん。なんか楽しそう」
どうしよう。弟の目がおかしい。早く眼科に連れて行かないと。
どうやら弟は木村の毒牙にやられてしまったようだ。憎むべきは木村か。
「よし。眼科に行こう」
「誰が?」
「僕?」
「もちろんだ。俺は全然楽しくないのに楽しいとか言いやがる」
「思ったこと言っただけなのに」
「そうよ。弟くんの目は悪くないわ」
木村の援護射撃。マジでこのコンビやっかいだ。
なんでこんなに仲良しなの? もしかして弟もリア充だったのか?
なら話は早い。スタンド使いは引かれ合うように、リア充もまた引かれ合うのだ。
その証拠に、リア充の友達はリア充しかいないし、オタクの友達はオタクしかいないのだ。まぁぼっちは例外だけどな。引かれ合う相手が存在しないからぼっちなんだし。
「お前ら最近仲いいよな」
「私と弟くんは仲良しだもんねー」
「うん。僕、紗枝ちゃんと仲良しー」
『ねー』と互いの顔を見ながら言う二人。
俺は聞き逃さなかったが、さりげなく弟が木村のことを名前で呼んだ。
「お前らはそういう関係だったのか」
「どういう関係?」
「お互いを名前で呼ぶ関係だよ。そうかそうか。いつまでも弟だと思っていたけど、ついには兄を抜く存在にまで成長していたとはな。感動した! あとは二人でゆっくりしていってね」
そう告げると、俺は部屋のドアに手をかけた。
すると二人の手が俺の両足をそれぞれ掴んだ。
「逃がさないわよ」
「せっかく友達が遊びに来てるのに、お兄ちゃんが居ないとダメでしょ」
バレたか。
さりげなく脱出する作戦は失敗した。
二人の手によって、半ば強制的に元の位置へと戻される。
こうなると俺も真面目に付き合ってやるほうが賢明なのかもしれない。
そう考えて俺は木村の宿題に付き合ってやった。
夕方になって、木村が帰るというので、意気揚々と玄関まで見送っていると、弟様が後ろからミスディレクションで近づき、俺に送って行けということを指示した。
弟の命令には逆らえないからだになってしまった俺は、そのまま木村を駅へと送っていった。
「なんか送ってもらっちゃってごめんね」
「ホントにな」
「もう・・・素直じゃないんだから」
「なんか言ったか?」
「何も言ってないですー」
この野郎。ちゃんと聞こえてんだからな。
俺は素直だ。嫌なことは嫌と言えるし、カラスは白だと言われても断固として黒だと言い張る自分の意思もある。
「なんかこうやって夕暮れの道を二人で歩いてると恋人っぽくない?」
「ぽくない」
「むー・・・こうやって私が迫ってるのに、本当に見向きもしてくれないよね」
「・・・・・・」
マジかよ・・・
なんとなくそうなんじゃないかなって思ってたんだけどもしも俺の勘違いだったら恥ずかしいなぁとかも思っちゃっててでもいざこうやって言われるとなんてゆーかそのこいつ何考えてるんだとかって考えちゃうわけでいつから好きだったのかなぁとも思ったりしてでももしかしてこれがリア充特有の告白して欲しいサインとかだったらめんどくさいなぁとかも考えちゃうわけなんですけど木村がそんなことまで考えてるわけないよなぁとかって思いながらもこいつがいつから俺のことそういう風に思ってたのかとかもうんぬん。
「ねぇ。聞いてる?」
「えっ!?」
やべっ! ちょっと顔近いって! 下からのぞき込んでくるとか反則! 今のはレッドカードでしょ!? 審判どこ見てんの!? むしろ俺をこのまま退場にしちゃってもいいんだよ? むしろ退場にしてください! お願いします!
「・・・フフフ。私、一応あんたのこと好きだよ」
「すす、好きとか簡単にい、言うもんじゃなくね?」
「結構本気なんだけどなぁ」
こ、こいつ、畳み掛けにきてやがる!
俺の精神状態が不安定なのをいいことに、ガッツリ傷口に塩をすり込んでやがる!
・・・いや、こういう場面で使う言葉じゃないな。
と、とにかくこのままではヤバイ!
「お、俺、用事思い出した! 早くしないと星澤先生のコーナー終わっちゃう!」
「私録画してるから今度ダビングしてあげるよ」
「なんでだよ!!」
こいつの趣味範囲がわからん!
「う、う、ううー・・・」
「返事は?」
「う、うぉおおおおおおおおおおっ!!!!!!」
「あ、ちょっと!!」
俺は木村を置いて走って逃げた。
夕日を背中に受けて走り去る俺はさぞかし絵になっただろう。
もちろん悪い意味で。
俺は家に帰ると自分の部屋に入って、ネット世界にダイブした。
一生このまま現実世界に戻れないといいなぁと願いながら、ただひたすらにネトゲに没頭したのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
紗枝ちゃんが・・・
次回もお楽しみに!




