仲間ハズレ
大変長くなっております
土日の連休が終わった月曜日のこと。
それは突然だった。
木村が冷たくなったのだ。
木村と出かけて、いつもと違う木村を見た直後だった。
隣の席に座る木村は完全に最初の頃の木村に逆戻りしていた。
いや、それ以上に冷たかった。
「おい」
ガタッ。
俺が声をかけると立ち上がってどこかに行ってしまった。
なにこれ。避けられてる? やっぱり嫌われたか?
まぁ元々こんな感じの関係だったんだから元に戻っただけ・・・か?
良いけどさ。
なにも無視することないじゃん。
すると周りからヒソヒソという音量の話し声が聞こえてきた。
「マジで?」
「紗枝も趣味悪いよねー」
「何もあんなオタクと付き合うことないのにねー」
はい? 付き合う?
驚いて声がした方を向くと、俺の視線に気づいたのか、視線の先にいた3人は、ばつが悪そうに顔を逸らした。
その3人だけじゃない。その隣の席のやつも、その隣の席のやつもだ。
クラスの連中がみんな隠れて俺を見ていた。
もしかして木村の噂のオタクって俺のこと?
ちょっとどういうことなの?
木村から弟へのメールで、『もうメル友もやめていいよ』と言われた。
でも木村のことだから、どうせ冗談か何かだろうと思っていた。しかしこの態度を見ると冗談ではないようだ。
そしてこの噂話。
多分土曜日に出かけたときに、誰かが見ていたんだろう。
これだからリア充どもは嫌いだ。こんな連中とつるんでいられる木村は意味が分からない。
授業が始まり、木村も席に戻ってくる。その顔は俺なんて全く興味がないような顔をしていた。
仕方なしに俺は自分の頭で考える。こういうのは大得意だ。
まず教室にいるいつものメンバーと一緒に居なかったということは、木村はそのメンバーとは違う場所にいたということ。これは逆に考えると一緒に居れない理由があったということだ。
つまり俺と木村の噂を広めたのはそのメンバーの中の誰かだということが仮定される。
そしてさらに木村が俺から話しかけたときに離れていった。これは弁解をしたくてもできない状況ということだ。
これとさっきの仮定を合わせると・・・木村、あのグループからいじめられてんのか?
いやいや。これは考えすぎだろ。100歩譲っていじめられてたとしよう。いじめられる原因ってなんだ?
俺と遊んだから? これは酷いな。
あっ・・・あのリア充達と遊ばなかったからか。
リア充ってなんやかんやで、付き合い悪い奴は仲間はずれにする傾向が強いもんな。
ノリだけで生きてるような連中だし、そういう理由で外してもおかしくはない。
しかも俺と一緒にいるところを目撃されてんだ。友達よりも俺を選んだって思われてもおかしくはない。
つまり木村はリア充メンバーから外されたってことか。
ふむふむ。まぁ自業自得と言えば自業自得なんだが、これは俺にも責任があるな。
かといっても考えるのは得意なんだけど、行動を起こそうとは思えねぇんだよなぁ。
でもまぁちょっとくらいなら動くべきだよな。
そう考えた俺は、ルーズリーフを取り出してカキカキと文章を書く。
それを木村の机へと差し出す。
文面を見た木村は驚いたような顔をする。
『いじめられてんの?』
すると木村は自分のノートにカキカキする。
『何言ってんの? いじめられてなんか無いし』
返してくれたことに若干の喜びを感じながら返事を書く。
『無理すんなよ』
『無理なんかしてない』
『だからそれが無理だって言ってんだろが』
『今日は女の子の日なの』
うはー。もしかして俺の勘違い?
さっきまでカッコイイこと書いてただけに余計恥ずかしい。
そう思っていたら前に座るドムみたいな体型の女子が急に振り返って、俺と木村の筆談していた用紙を取り上げた。
「みんな見てみてー! 証拠ゲットー!!」
「なにそれー?」
「こら静かにしなさいー」
「読み上げまーす!」
そう言って俺と木村の筆談の内容を読み上げるドム子。マジでやめて欲しい。俺の勘違いの結晶なんて読み上げて何が楽しいんだ! 俺の未評価がマイナスで評価されるだけだろうが!
「えーっと・・・あれれぇ? 紗枝って今生理だったのぉ? 紗枝って月頭じゃなかったっけぇ?」
「そのっ・・・それは・・・」
へ? まさかの生理周期の発表。これは死ねる。
隣に座る木村は俯いて固くなっている。
ということは・・・?
「みなさーん! 紗枝とこのオタッキーはデキてるみたいでぇす!」
オタッキーってやめろ。タッキーに失礼だろ。あと俺にも。
そんなことより、こいつが主犯のようだ。
俺は元々他人に興味がないし、周りからの目線とかもスルースキル1級の腕前でスルー出来るから問題ないんだけど、隣の木村は今にも泣き出しそうだ。
しかしこれは一体どうすればいいんだ?
「そういえば紗枝って、遊園地でも一緒に居なかったっけ? マジで付き合ってるの?」
あの時のえーと・・・アイマスに出てきそうな名前じゃない方の・・・確か加藤・・・あっ、夏希、だっけ? あいつが離れた席から木村に話しかけた。
「・・・・・・」
木村、圧倒的沈黙ッ!!
いや、そこは否定してくれよ。
だんだん他の興味無かったやつらも興味持ち出しちゃったからさ。
ここは『そんなわけないじゃん! 何言っちゃってんの? 私とこいつが付き合うわけないじゃん! マジウケるんですけどぉ!』みたいなリア充トーンで言っちゃいなよ。YOU言っちゃいなよ。
しかし俺のそんな願いも虚しく、木村はただ俯いているだけだった。
これはおれが動くしかないのか・・・ヤッテヤルデス!!
「いやいや。冗談でしょ? それって俺が一人で書いてたやつだし? そもそも俺がこんなリア充女と付き合うわけ無いじゃん? みんなどうかしてるぜ!」
言ってやった。とてもリア充っぽく言ってやった。
中には何人か笑ってる奴もいる。ウケたしこれでとりあえずは収まるだろう。そう思っていた時期が僕にもありました。
「はぁ? あんたの意見なんか聞いてないし。紗枝に聞いてんだし」
「・・・ですよねー」
マジこえー。木村が般若だとしたら、ドム子は雷神だよ。目線だけで漏らしそう。
「ねぇ。彼氏はこう言ってるけど紗枝はどうなの?」
授業中にも関わらず尋問を始めるドム子。
先生ー。止めないと授業遅れちゃいますよー。
そう思ってドム子の向こう側にいるはずの先生を見た。すると先生は他の生徒に事情を聞いているようだった。お前も興味津々かい!!
日本の教育機関終わったな。
「いい加減に答えてよ」
ドスの効いたドム子の声にビクッと身体を強ばらせる木村。これ以上は見るに耐えん。
「もういいだろ。木村だって泣きそうじゃん」
「んだよ。オタクは引っ込んでろよ」
「オタク馬鹿にすんなよ? 世の中の経済の半分はオタクが回してんだからな。貯金もせずにお金使ってんだからな。お前らリア充が貯金だなんだってしてるせいで日本は不景気なんだ。ちょっとは考えて生きてみろってんだ」
我ながら何を言っているのかわからない。
もちろんドム子には効果は無かった。この脳みそまで機械でできてんのか? それとも空洞になっててコックピットにでもなってんのか? あ、バルカンの弾入れてんのか。
「オタクなんてゴミみたいなもんでしょ。それにリア充ってなに? 意味わかんないんですけどー!」
チッ。リア充にリア充って言葉は通じないか。
と唇を噛んだところで、隣から机をバンッと大きく叩いた音が聞こえた。
「黙って聞いてれば好き勝手言いやがって・・・」
「なんだよ。文句あんのかよ?」
木村が立ち上がってドム子に刃向かった。
木村の剣幕に押されたのかドム子の声は少し押され気味だった。
「千絵美。あんたなんかのほうがよっぽどゴミだわ」
「紗枝。誰に向かって言ってんのよ」
「あんたよ。このドム子!!」
この『ドム子』って絶対にオタクしかわかんないよね。
木村も使ってるってことは共通語なのだろうか?
「なんなのさ! 彼氏出来たぐらいでいい気にならないでよね!」
「出来てねぇし! こんな奴彼氏にするぐらいだったら作らない方がマシだよっ!」
俺に大ダメージ!!
「じゃあこの筆談はなんなのさ!」
「あんたには関係ないでしょ?」
「か、関係ないって・・・あたしたち友達でしょ!?」
「こんなことされて友達もクソもあるか!!」
「っ・・・」
「ねぇ、千絵美。自分がそういうことするってことは、千絵美もされる覚悟があるってことよね?」
「えっ・・・」
「私、千絵美と友達やめるわ。だからなんでも秘密バラしてあげる」
「えっ、ちょ、冗談でしょ?」
「私、冗談なんて言ったことあるっけ?」
完全に木村のペースだった。普段下の存在だと思っていた木村からボロクソに言われようとしているドム子は、もう戦意を喪失していた。
楽しそうな悪い笑みを浮かべる木村は完全に我を失って悪人の目をしていた。
ここは止めないとダメだよな。
「そこまでにしておきなさい」
俺が止めようとしたとき、先生が間に入ってきた。
「そこまでケンカすることないでしょ。友達なんだからもっと仲良くしなきゃ」
でたよ。先生の『友達なんだから仲良くする』発言。
友達だってケンカはする。仲良くするためには色々あるのだ。
でもこの状況を見て、ここから仲良くというのは不可能だと思う。
だって木村なんか先生のこと殴りそうだし、ドム子はもう泣きそうだし。
俺は木村の机をコンコンと叩いた。
それに気づいた木村がこちらを見たので、俺は座るようにとジェスチャーで指示した。
木村はそこで自分が立ち上がっていたのに気がつき、おずおずと座った。
先生も仲直りまではいかなかったが、場を鎮静化することは出来たので、満足そうに黒板の方へと向かっていった。
そして何事も無かったかのように授業が再開された。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいぴょん。
紗枝ちゃんは怒ると怖いです。
次回もお楽しみに!




