すれ違い
お隣のオレンジの看板のお店では、特にめぼしいモノが無かったのか、何も買わずに出てきた。
そして今、少し歩いたところにあるロッテで休憩中。
「ねぇねぇ。これ読んだことある?」
「あ? 無い」
「じゃあこれは?」
「それも無い」
「じゃあ何なら読んだことあるのよ」
「何ならって・・・」
この世の中にマンガがどれほどあると思ってるんだ。バカじゃないの?
マックに入ってきてからというもの、ずっとしゃべり続けている。
前もそうだったけど、こいつオタク関連の話になるとものすごい喋るのな。
「とりあえず落ち着け。まずはハンバーガーでも食べろ。それから話せ」
「へ? あぁ・・・うん」
完全に勢いを削がれたのか、明らかにテンションダウンしてハンバーガーを食べ始める木村。
ふう。ここで勢いを殺さないと先がもたない。特に俺の。
俺のほうが先にハンバーガーを食べ終わったので、ポテトをつまみながら木村に話しかける。
「ほんと楽しそうだな」
「わかる?」
「うん。なんか吹っ切れてるもん」
「そんなにかなぁ? 普段はこんなんじゃないんだよ?」
普段はこれ以上ってことか? それともこれよりもおとなしいってことか?
どちらにしろ俺の知ってる木村と目の前に居る木村は別人だと思う。多分電車の中で憑依合体しちゃったんだろうな。
どう考えてもいつもの木村とは違う。
「お前も毎日こんなんだと楽なんだけどなぁ」
「こっちのほうがいいの?」
「こっちのほうって・・・調節できんの?」
「無理」
「ですよねー」
「調節できたらもっと私と遊んでくれるの?」
「いや、それはわかんね」
「なんなのよ」
「俺は一人でいるのが好きなの。だから誰かと遊ぶよりも一人でいたほうが楽なの」
できることなら構わないで欲しい。
結果的に貸したことになったノートだって、別にお礼を言われたくて貸したわけじゃないし、見返りを求めたわけでもない。
こう見えてぼっちライフを満喫していたのに、木村のせいで色々とめちゃくちゃだ。
「じゃあ今日も迷惑だったってこと?」
「迷惑っつーか・・・」
やべっ。なんて言えばいいかわかんね。
「・・・もういい。もう帰るね」
そう言って席を立つ木村。
「ちょ、おい!」
そのまま自分のトレーを持ってゴミを捨てて、スタスタと店を出ていく。
俺は追いかけようと席を立った。
しかし追いかける理由が見つからない。
だって元々は一人でいるほうが楽なんだ。
だから『ぼっち』やってるんだ。
友達を作りたいけど出来ないんじゃなくて、友達になりたいと思う人間がいないから『ぼっち』をやっているんだ。そこらへんのと一緒にしないでいただきたい。
そう思い直して、席に座ってシェーキを一口飲んだ。
木村の話が長かったせいなのか、バニラ味のシェーキは少しぬるくなっていた。
家に帰った俺は、いつものようにパソコンをつけて、ベッドに寝転がりながらのネトゲライフへと戻った。
ネトゲの中には色々な仲間がいる。
同じ勢力の仲間。その中で一緒に勢力戦の作戦を考える仲間。時々チャットで雑談をする仲間。
それも全部上っ面の画面の中だけの限定された空間の仲間だが、それでも心地よいと思えた。
でもそんな仲間と会話をしていても、どうしても今日の木村のことが頭をよぎってしまい、ネトゲに身が入らず、『気分が乗らない』という理由でパソコンを閉じた。
そしてそのままゴロゴロしながら思考を巡らせた。
今日の木村は楽しそうだった。
でも最後は怒って帰ってしまった。・・・怒ってたのか?
なんかがっかりしたようにも見えたけど・・・
「あーっ! どうして女ってのは意味わかんねぇことばっかり言うんだよ!」
これだから三次元の女は嫌いだ。
二次元みたく、怒るなら怒る、泣くなら泣く、笑うなら笑う、ってしてくれればどれだけ楽か。
「お兄ちゃん」
「・・・なんだよ」
もう何年も一緒に過ごしてるんだ。
急に入ってきた程度では驚かん。
「今いい?」
「今はそういう気分じゃないからダメ」
「ダメでもいいんだけど聞いてね」
「・・・・・・」
なんで聞いたんだよ。
もう関わらなければ自然と出ていってくれるだろう。
「今日は私のわがままに付き合ってくれてありがと」
っておいおい。
「今まで迷惑だったよね。ごめんなさい」
弟の顔を見ると、ケータイを見ながらそれを読んでいるようだった。
これは木村からのメールだろう。
なんで弟のケータイに? 直接送ればいいじゃん。
「メールしても返事が無いので、弟ちゃんに送っちゃいました。ややこしくなったらゴメンね」
「ちょっとそれ見せろ」
「あっ! 人のケータイを勝手に取らないでよー」
「ちょっと黙ってろ」
弟からケータイを取り上げて内容を確認した。
「・・・マジか」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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さぁ盛り上がって参りました!
次回もお楽しみに!




