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ぼっちデイズ  作者: シュウ
六章
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とんとんと

食事も終わり、7時を回ったところでそろそろお開きにしようかという意見が上がった。

現に弟軍団の浩一くんと可憐ちゃんはカレーを食べ終わった直後に帰っている。

ちなみに父さんのカレーは無くなった。

吉川さんが『時間も時間なので・・・』と言って立ち上がったのだ。

ここだけ見ればなんともないんだけど、今までの流れを知っていると、姉さんから逃げようとしているように見えなくもない。そこは見方の問題だろう。

そしてそんな考えが姉さんにも伝わったのか、吉川さんに対して急に牙を向き始めた。


「帰るの?」

「えっ、う、うん・・・そろそろ帰らないと親も心配するし・・・」

「ふーん」


何か含みをもたせたような言い方をする姉さん。

母さんが洗い物をしながら小さく笑った。なんて不謹慎なやつだ。


「伊織」


その時、木村が姉さんのほうにからだを向けた。

そして姉さんの顔めがけて右手を思いっきりぶつけた。

バチンという音と共に、姉さんの顔が横を向いた。

俺が渡辺に殴られたのはグーだったが、木村は平手。要するにビンタだ。


「いい加減にしなよ。伊織がそこまでの人間だったなんて思わなかった」

「紗枝・・・」


姉さんが叩かれた頬を押さえながら呟いた。

こうやって第三者目線で殴られるシーンを見ると、まるでドラマの世界に迷い込んだかのような気分になる。悲しいけど、これって現実なのよね。


「もう帰って。これ以上は私も怒るよ」


もう怒ってんじゃん、というツッコミを誰ができようか。

そんな真顔でそんなこと言われたら恐ろしくて、もう声かけられないわ。


「はふぅ・・・」


隣の渡辺が小さく息をもらした。無視安定。


「・・・帰る」

「あっ! 織田さん!」


姉さんは頬を抑えたまま立ち上がって玄関の方へと向かっていった。

それを慌てて追ったのは吉川さん。


「ほら。好きな子なんでしょ? 追っかけな」

「いってきますっ!」


母さんの追跡命令に、渡辺が勢い良く飛び出していった。

残された俺は、真顔のまま一点を見つめている木村の元へと歩み寄った。


「木村」

「ははは。私伊織のこと叩いちゃった」

「よくやったよ。あのままだと姉さんはひどくなる一方だっただろうし」


ここらで一発喝を入れておかないとつけあがる一方だし、木村も大変だ。


「叩きたくなかったのにぃ・・・えーん」


我慢の意図が途切れたのか、木村は俺に抱きつくようにして泣いた。

また俺の目の前で泣かせてしまった。

でもこれは必要な涙なのだろう。とかカッコイイことを言ってみる。

実際のところ、木村が成長していくためには泣いて強くなるのも必要なのだ。ほら、よく言うじゃん。『涙の数だけ強くなれるよ』って。

やだ。俺カッコイイ。

俺はそんなことを考えながら、木村の頭をPONPONPONと撫でた。


「あれ、何。あんたら付き合ってるの?」


ここで母さんの驚いた声が聞こえた。

やべっ。すっかり忘れてた。


「えーと・・・まぁ一応」

「一応って何よ!」

「そげふっ!」


木村が頭を少し離してのヘッドバッドを繰り出してきた。

俺のまな板な胸には、かなり痛かった。

そんな俺たちを見ながら、母さんは楽しそうに笑った。


「アハハハ。あんたが彼女ねぇ。意外も意外だわ。友達とかバカらしいとか言ってたあんたがこんなに友達連れてくるとはーって思ってたら、まさか彼女かぁ・・・」


感慨深く腕を組む母上。いと恥ずかし。


「その子のおかげってわけね」

「何がだよ」

「ん? あんたが成長できたのはってこと」

「成長?」

「あんたバカなの? まぁわからなくてもいつかわかるわよ。とにかくその子大切にしなさいよ」

「んなこと言わなくてもわかってるよ。もううるさいからどっか行け」

「はいはい。言われなくてもどっか行きますよ」


肩をすくめながらリビングを出ていく母さん。

そしてホントに2人きりになった。

そして泣き止んだのか、木村が顔を上げた。

マスカラが流れ落ちてますよ。黒い涙だ。


「ごめんな。うちの母さんあんなんだからさ」

「私こそゴメン」

「何が?」

「だってお母さんに泣き顔見せたり怒ったところ見せたりしかしてないもん。絶対変な奴だと思われたし」

「そんなん気にすんなよ。うちの母さんはそんなこと気にしない人種だからさ。第一印象で嫌いになるような心の狭いやつじゃないって」

「うわぁ・・・改めて思うと恥ずかしー・・・」

「何を今さら」


顔を隠して恥ずかしがる木村。

その時にマスカラが落ちてきているのに気がついたのか、手についた黒いのを見ていた。


「うっそ! 化粧落ちてる!」

「そんなんさっきから落ちてるわ」

「もっと早く言ってよ!」

「言ったところでどうするんだよ」

「ちょっと洗面台貸して! 化粧してくる!」

「はぁ? もうスッピンでいいじゃん」


そう言うと立ち上がった木村に蹴られた。痛い。


「バカじゃないの! スッピンなんて見せらんないわよ!」

「いてぇな・・・わかったよ。ついてこい」


俺は立ち上がって洗面台に案内しようとリビングを出た。

そして洗面台でガチャガチャと化粧道具をいじっている木村を後ろから見ていた。


「何見てんのよ!」

「いてっ!」


また蹴られた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いていただけると嬉しいです。


補足

ぼっちくんは、なんだかんだで渡辺のことを結構信頼してます。


この補足がないと、今回ラストののんきな二人の意味がわからないかもしれないと思ったのです。

そして次回、まさかの渡辺回です。


では次回もお楽しみに!

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