軸
俺の話を一通り聞き終えた渡辺は、小さくため息をついた。
「はぁ・・・女ってそんなにめんどくさい生き物だったのか?」
「女はめんどくさいぞ。男が思ってる5倍はめんどくさい」
「俺も女友達は何人かいるけど、そんな感じじゃないぞ」
「そんなの面の皮が厚いんだよ。裏ではお前のこと巡って殴り合いとかしてるかもしんねぇぞ」
女なんてそんなもんだ。男が考えてる以上に何考えてるかわかんねぇし。女の嫉妬が怖いのもそのせいだ。
さらに渡辺は鈍いからわかんねぇんだろ。
女の言い合いとか見ちゃったら泣いて逃げ出すレベル。
「まぁとりあえずそれはいいや。それでお前は木村との仲を戻したいわけ?」
「できれば戻したいな」
「できればってなんだよ。戻せなくてもいいってことかよ」
「そういうわけじゃないけど・・・」
俺だって戻せるなら戻したいさ。
でもそれで木村がまた傷つくことになるなら、もうこのままのほうがいいのかもしれないと考えてしまう。
「もうちょっとハッキリしろ。戻したいのか? それとも戻したくないのか。俺はお前の意見を聞いてるんだ」
「俺は・・・」
木村とのことをいろいろと思い出す。
初めて木村のオタ趣味を見つけたこと。木村が家に侵入したこと。弟と木村が仲良くなったこと。遊園地で吐いたこと。木村がドム子に裏切られたこと。初めて告白されたこと。木村が可憐ちゃんと枕を粉砕したこと。熱を出した俺を心配してくれたこと。木村が吉川さんに嫉妬していたこと。学校祭を連れ回されたこと。そして付き合い始めたこと。
付き合ってからもいろいろあった。
伊織ちゃんとケンカしたり、木村兄に会ったり、一緒に弟のことを考えたりなんかもした。
木村に会ってからは、俺の日常はとんでもなく忙しくなった。
でもそれが嫌だったかと言われれば、それは違う。
なんやかんやで振り回されることが楽しくなってきて、それが今では当たり前になっていた。
俺には木村が必要だ。
木村がなんと言おうとも、なんと思われようとも、俺には木村が必要だ。
「俺は木村との仲を戻したい」
「よし。それだけはしっかりと守れよ。軸がしっかりしてるのとしてないのとではかなり変わってくるからな。スポーツマンの基礎になるのが『覚悟』だからな」
「ジョナサンも覚悟を決めてたもんな」
「いや、誰だよ」
「まぁ良いではないか。知らないお前が悪い」
さて。冗談もかましたところで行動開始と行くか。
「って何すればいいんだ?」
「は? それはお前、自分で考えろよ」
奮起させるだけさせておいて、ほったらかしかい。
こうなりゃ奥の手を使うしかないな。
「痛いなぁ・・・ほっぺが痛いなぁ・・・」
俺は自分の頬をさすりながら渡辺に訴えかけた。
「はぁ!? お前、さっきまで痛くないですーみたいな顔してただろ!」
「痛みが出てきたのかもしれないなぁ・・・アドレナリンの力ってすごいなぁ・・・」
「お前・・・サイアクだな」
「ふん。何とでも言うがいい。ここまで来たら乗りかかった船だ。旅は道連れって言うだろ?」
「わかったよ。手伝ってやるよ」
やったね。ちょろいぜ。
「じゃあどうするか。まずは木村と仲直りか?」
「やっぱそれだよな・・・でもあいつには守護神がいるからなぁ・・・」
「守護神?」
「あいつの兄ちゃんが半端なく木村のこと好きなんだよ」
「木村って兄ちゃんいんのか?」
「重度のシスコンのな」
マジで木村兄は強敵だ。ラスボスだよ。
ラスボスもバカみたいな仏が出てくるRPGドラマのラスボスみたいのなら、なんとか倒せそうな気もするんだけど、常にオメガ級だもん。
「「うーん・・・」」
俺と渡辺が顎に手を当てて唸っていた。
どうすればいいのかわからんのですよ。
と、その時、雪を踏みしめる音が聞こえた。
まさかこの状況をあの腐女子ペアに見られてしまったか、とも思って、ハッとその方向を見た。
「ひっ!」
「なんだ。吉川さんか」
そこにいたのは、遊具の影から顔を覗かせていた吉川さんだった。
びっくりさせないで欲しい。
俺よりも急に見られた吉川さんのほうが驚いていた。
「ってかなんでこんなところにいんの?」
「その、ちょっとお話がありまして・・・」
「話?」
俺は渡辺と顔を見合わせた。
「その・・・もしかして私のせいで、今木村さんとケンカしてる?」
「・・・まぁそうなるかな」
「やっぱり・・・」
胸の前で手をモジモジとさせながら、吉川さんは言った。
やっぱり自覚はあったんだ。でもあの状況下で明るく間を取り持つことが出来る奴なんて、ただのKY野郎だ。そうだろ、渡辺?
「それで、その・・・」
「ん?」
「私にも協力させて欲しいの!」
・・・思わぬ協力者出現。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけるととても嬉しいです。
今週のNARUTOが衝撃すぎてコンビニで思わず『あぁ・・・』って声が出ました。
できれば彼にはハッピーになってもらいたかった。
コミックス派の人のためにネタバレは厳禁!
そして協力者がまた一人。
次回もお楽しみに!




