親友とM
渡辺は、俺の隣のブランコに座ると何も言わずにこぎはじめた。
俺は大人しくブランコに座って、黙って足元を見ていた。
こいつ・・・
居心地が悪くなってきた俺は、たまらずブランコから立ち上がった。
「何イライラしてんだ」
「・・・お前には関係ないだろ」
「関係ないことないだろ。俺たち友達だろ?」
「そう思ってるのはお前だけだ」
「・・・・・・」
俺がそう言うと、渡辺は黙った。
ブランコの揺れを両足をついて止めると、俺の前に立ちふさがるようにして立った。
「いくら俺だって、そんなあからさまに避けられてたら気づくっての。今、木村とケンカでもしてんのか?」
まぁ・・・一日中しゃべりもしなければ、さすがの渡辺でも気づくか。
でもこれは俺の問題だ。渡辺にはやっぱり関係ないと思う。
「だからなんだよ」
「先に謝っとくわ。ごめんな」
なんで謝られたのかわかんなかった。
しかしその直後にわかった。
目の前の渡辺が右手をおおきく振りかぶった。
俺はただその右手を見ていた。
その勢いをつけた右手は、俺の顔めがけて飛んできた。そして顔の左半分に強烈な痛みが走って、ブランコにからだをぶつけながら後ろに倒れた。
俺は何が起きたのかわからなかったが、顔の痛みによって現実に引き戻された。
「いてぇな・・・何すんだよ・・・」
「先に謝っただろ」
「そういう問題かよおっ!?」
反論した俺の胸ぐらを掴んで、渡辺は顔を近づけた。
渡辺の真剣な顔が近くにくる。
「お前ふざけんなよ?」
「別にふざけてなんか・・・」
「ふざけてんだろ。俺はこんなやつに木村を渡したのか?」
「あっ・・・」
こいつも木村が好きだったんだ。
「俺はお前が木村の笑顔を守りたいとか言うから俺は諦めたんだ。それをこんなにあっさりと破るのか? 俺はお前がこんなに腐ったやつだとは思わなかったよ」
「所詮俺はこんなんだよ。お前が勝手に過大評価してるだけだろ」
「お前・・・俺の親友はこんなやつだったのか?」
「それはお前が勝手に思ってるだけだろ」
「・・・俺がどうでもいいと思ってる奴にここまでするわけないだろ」
そういえば、前に木村もおんなじようなこと言ってた気がする。
「俺はお前が悩んでたら助けてやりたいと思ってるんだ。だから俺をもっと頼ってくれよ・・・」
渡辺は、ゆっくりと手を離すと、クルリと背中を向けた。
その背中はどこか寂しそうだった。
渡辺は、俺のことを俺以上に心配してくれてたのかもしれない。
今考えると渡辺には結構助けられたような気がする。
でも思う。
俺は渡辺に何もしてないような気がする。
されてるばかりで何も返してない気がする。
そんなのでも親友って言ってくれる渡辺は、やっぱりMなのか?
そう考えると、小さく笑いがこみ上げてきて、声がもれてしまった。
「フフッ」
「なんだよ・・・なんかおかしいこと言ったか?」
「お前、真正のMだよな」
「頭殴られておかしくなったのか?」
「俺に尽くしてばっかりでいいのか?」
「別に尽くしてはいないだろ」
「そうか? 俺のことばっかり心配してるけど、俺からは何もしてないぞ?」
「まぁそれはそれだろ」
「親友ってそんなもんなのか?」
「別に何かしたから何かするってのが親友じゃないだろ」
「そうかもな、ぷっ・・・アハハハハハ!!」
キョトンとしながら俺を見てくる渡辺を見て、俺は爆笑してしまった。
もうこいつにはかなわないと思った。
俺のことめっちゃ考えてくれるわ、(誰かを好きになったら)一途だし、何気にイケメンだし、地味に優しいし、もうこれで告白でもされたら渡辺とそーゆー関係になってもおかしくは無いだろう。キャー渡辺さん抱いてー、って感じ。
「なんで笑うんだよ」
「ハハハ、だってお前、絶対ヤバイって」
「いいだろ。俺はそう考えてるんだからよ」
「絶対幸せになれねぇな」
「ふん」
渡辺は鼻を鳴らして、また背中を向けてしまった。
・・・・・・ハッ!
俺は今何を考えていたんだ・・・恐ろしくて口にも出せない。
背中を向けた渡辺の背中に向かって抱きつきたいって思ったなんて口になんて出せないよ。言えるはずもない。これだと違うルートまっしぐらだ。
「んで。どうしたんだよ」
「何が?」
「何がって・・・木村とケンカしたんだろ?」
「あー・・・」
「とりあえず話せよ」
「・・・うん」
そして俺は渡辺に、今の状況を話した。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
投稿が遅れてしまってすみません。
いつもの時間に投稿出来る予定だったんですが、この回の終わり方で迷っていたら遅くなってしまいました。
別にマイクラのしすぎでストックが溜めれてなかったわけじゃないんだからね!
次回もお楽しみに!




