秘めた言葉
車の中では、木村兄がずっと心配してたのか、木村に何度も声をかけていたが、木村の『しんどいから黙って』の言葉を最後に、無言で運転をしていた。
その間は、俺と木村は一言も話さなかった。
家に着くと、木村に手を貸しながら、木村兄が家へと連れていく。俺も後ろに続いて家の中に入った。
二回目ということもあって、さして緊張はしなかったが、人の家の匂いにちょっと緊張した。
「母さんたちには連絡したのか?」
「先生がしてくれたみたい」
「そうか。とりあえずたまご酒でも作ってやるから部屋行ってろ」
「ん。ありがと」
そう言って階段を上がっていく木村。木村兄もリビングの方へと歩いていった。そして振り返って一言。
「君もついて行ってあげてくれないか?」
「・・・わかりました」
「頼んだよ」
逆に兄のほうについて行ってもすることがないから、この兄の判断は正しいと言える。
俺は追いかけるように階段を上がった。
木村に追いついて、後ろに続いて部屋に入る。
相変わらずすごい部屋だなーとか思っていると、木村が服を脱ぎだした。
「ちょ、ちょっと待てって!」
「何よ」
「いや、何よじゃなくて、脱ぐなら脱ぐって言えよ! 部屋でてくからさ!」
ここは『きゃー!のび太さんのエッチー!』って言う所でしょ!?
何俺に言わせてんの!?
「私は別に構わないのに」
「そ、そういうのはもっと大人になってから言いなさい!」
「・・・別にいいのに」
「俺は良くないの!」
そう言って、俺は部屋を出て扉を閉めた。
そして部屋の中から『いいよ』と声が聞こえて部屋の中に入ると、布団の中に潜って顔だけ出している木村がいた。ハンガーにかけられている制服を見るところ、ちゃんと着替えたらしい。・・・まさか布団めくったら全裸ということはあるまい。・・・あるまい。
「まだ熱っぽいのか?」
「今はだいじょぶ。鼻水も朝よりはマシかな」
「そっか。それはよかった」
そう言って無言になる。
俺は気まずくて、キョロキョロと部屋の中を見回した。
前は木村兄のせいでゆっくり見てなかったので、まじまじと見ると、とてつもない部屋だということに気づく。
リリカルなマジカルになってるんだけど、別のところは放課後のティータイムになってるし、また別のところはビリビリでレールガンなことになってたりする。
それでもやっぱり隠れオタな部分があるせいか、おしゃれをするための雑誌なんかも置いてあったりする。その横には予想通りなアニメ誌も置いてあった。違和感しかない。
「あんまりキョロキョロしないでよ」
「スゲー部屋だな」
「お兄ちゃんも集めてくれたの。私が買ったのはちょっとだけで、ほとんどお兄ちゃんのばっかり」
「どこに出しても恥ずかしくないオタクの部屋ってのはこーゆーのだよな」
「どこにも出さないわよ」
「ハハッ」
小さく笑って、再度訪れる沈黙。
木村と居て、沈黙がこんなに気まずかったのは初めてかもしれない。
俺は耐え切れずに口を開いた。
「さっきの話だけどさ。あんまり気にしすぎるなよ」
「・・・・・・」
「友達って言ったって高校だけの付き合いになるかもしんねぇしさ、それにお前なら友達100人なんて簡単に作れるって」
もう思いつくままに言葉をつなげたのだが、我ながら何が言いたいのかよくわからなかった。
こんなことが言いたかったんじゃないと思った。
「・・・友達って簡単に出来るもんじゃないでしょ」
「まぁ・・・そうだけど・・・」
簡単に作れるなら、俺だって友達と富士山でも登ってみんなでおにぎり食べてるわ。
「伊織は大事な友達なの。だから大切にしたいの」
「んなことわかってるって。でもさ・・・最近の姉さんは変だって」
「姉さん?」
ついうっかり!!
「あー・・・織田な。嫉妬にも程があるだろってぐらい嫉妬してんだろ」
「んー・・・でも親友だもん」
「親友だったら何してもいいってわけでもないだろ」
親友が万引きしてたらそれを正してやるのが親友だろ。
「そうかもしれないけど・・・」
「お前の言いたいこともわかるさ。でもそれとこれとは違うだろ」
立て続けに言う俺に、もう聞きたくないとばかりにモソモソと背を向ける木村。
でもここは言うのが礼儀だ。
木村の背中に向かって話しかける。
「俺から見てると、吉川さんがかわいそうだ」
「・・・吉川さんの味方するの?」
「味方とかじゃねぇし。俺はいつでも中立だ」
「中立ならそんなこと言わないでよ」
「はぁ・・・」
このわがまま娘め・・・
「じゃあ言わせてもらうけどよ。お前だってなんとかしたいと思ったんだろ? だったら厳しい言葉の一つぐらい言ってやれよ。そんなに織田との関係が大事なら吉川さんにはそう言えよ。吉川さんと上手くやっていきたいなら織田にそう言えよ。お前が何も気づかないでヘラヘラしてっからこんなことになってんだろ。俺だって首突っ込むつもりはなかったけどよ、お前が苦しそうだから手伝ってやろうとしたんだろ。それをなんだ。こっちの味方だあっちの敵だって。こんなんじゃ何も解決しねぇだろうが」
「はい、そこまで」
俺が木村に向かって畳み掛けていたところに、いつの間にか部屋に入ってきていた木村兄がたまご酒をいれたであろうマグカップを持って後ろに立っていた。
「君の言いたいこともわかるけど、言い過ぎだ。僕は全然なんの話かわからないけど、ちょっと言い過ぎだと思うよ」
「・・・すんません」
「僕じゃなくて紗枝に言ってくれ」
「悪かったな」
「・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
木村は背中を向けたまま肩を震わせて泣いていた。
泣きながら、何度も何度も謝っていた。
そんな木村の背中を見ながら、俺はどうしたらいいのかわからなくなってしまった。
自分の行動には責任を持って行動をしていたと思っていたのだが、甘かったようだ。
木村を泣かせてしまった。
その事実が俺のからだの中に黒い何かを作り上げてしまった気がした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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さらに深みへ・・・
次回もお楽しみに!




