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ぼっちデイズ  作者: シュウ
六章
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うそつき

保健室でベッドを借りると、木村は熱のせいなのか泣きつかれたのか、すぐに寝てしまい、静かに寝息を立てていた。


「まぁ連絡がついたら迎えに来てもらうから。そう先生に言っておいて」

「はい」


そう保健室の先生に言われたので、俺は木村を置いて保健室を出た。

すでに授業が始まってしまっている学校の廊下は、相変わらず静かだった。

移動教室がある1階の廊下には、時々その教室から聞こえてくる声以外は、ほとんど音がなかった。

このまま授業に戻っても中途半端になるだけだし、変にクラスの奴らからの視線を集めたくないので戻るのをやめようかとも考えたが、伝言もあることだし、勇気を持って教室へ戻ることにした。

教室の前についたところで深呼吸。そして開けたくない気持ちを振り払って深呼吸。そして視線を集めてしまった時のイメージトレーニングをして深呼吸。

計3回の深呼吸をしてからドアを開けた。もう何も怖くない。


ガラガラガラ


案の定、視線を集めたが、イメトレのおかげでだいぶ軽減された気がした。

そして先生に向かって伝言を言って、自分の席へと座った。

カンペキだ。トムさんのサッカーテクニックよりもカンペキだ。あんなの上手くないと出来ねぇよと思っていたあの頃。逆に言うと、上手い人はアレはすでに出来ているという罠。今思い返すと、幼心に『練習すれば出来るかも!』と思いながら見ていたあの頃に戻りたい。俺は黒く染まりすぎた。

席に座ると、何事もなかったかのように授業が再開された。

俺が書き写すのを待っているかのように、先生は板書する手を止めて、教科書を読むようにドム子を指名していた。最前列の宿命だな。適当に当てられるのは目についたやつなんだよ。つまり最前列で異様なデカさを見せびらかしているお前なんだよ。MSがアダとなったな。ヴァカめ。

俺は素早く板書を書き写すと、書き終わった合図として、視線をキョロキョロとして、もう黒板を見ていないことをアピールした。

それに気がついたのか、先生が黒板の文字を消して、新しい事項を書いていった。


「・・・・・・」


先生の声に耳を傾けながら、隣に座る姉さんと、ななめ前に座っている吉川さんの背中を盗み見した。

二人とも真剣に授業を聞いている。

そんな二人を見ながら、俺は泣いていた木村を思い出した。

鼻水と涙で何を言っているかわからなかったけど、言いたいことはなんとなくわかった。

一度、友達に裏切られた木村が、友達が言い合っているのを見て、何を言いたいのかぐらいは考えなくてもわかる。しかもその理由が自分なのだ。そりゃ泣きたくもなるわ。

風邪で動けなかったのも、木村にしてみればショックだったんだろうな。

いろいろと思い出しながら黒板の文字をノートに写していると、いつの間にか手が止まってしまっていて、板書された内容が消される直前になって慌てて書く、ということが2回ぐらいあった。

どうにも考え込むと、調子が狂って仕方ない。

こういうのにはいつになっても慣れない。慣れたくもないけど。

俺は、授業が終わるやいなや、荷物をまとめてカバンを持って、上着を持って、木村のカバンを持って、教室を出た。渡辺が何か言っていたような気がするけど、無視した。渡辺なら無視してもいいだろう。Mだし。

そしてまっすぐに保健室へ向かうと、ノックをしてから中に入った。


「あら、どうしたの?」


保健室の先生が、俺の格好に少し驚いたように目を見張った。


「先生。木村の親から連絡が来て、こいつ連れて帰ります」

「連絡? まだ連絡がついてないんだけれど・・・」

「これが証拠のメールです」


そう言って、俺は用意しておいた偽造メールを先生に見せた。

適当に送信メールをでっち上げて、アドレスのところには適当にそれっぽいアドレスを入力、そして本文。


『いつも紗枝がお世話になってます。申し訳ないのだけれど、紗枝と一緒に家まで付き添ってくれませんか? 授業をサボるのも青春じゃない?笑』


設定はおちゃめなお母さんだ。もちろん木村の親に会ったことはない。俺が適当に考えた。


「もしかして授業サボる気?」

「一応彼氏ですから。責任持って送っていきます」

「あらま!」


『彼氏』という単語に反応したのか、先生はちょっと頬を赤らめて口を押さえた。


「わかったわ。担任の先生には、二人とも具合が悪くて早退したって言っておくわね」

「ありがとうございます」

「愛の力には勝てないわ!」


ぎゅっと拳を握りこんでそう語る先生。

ふん。ちょろいな。

先生の許可を得た俺は、木村が寝ているベッドのカーテンを開けて、中をのぞき込んだ。

ベッドの上には、頭まで布団を被った木村がいた。


「起きてるか?」

「・・・・・・」

「そんなに布団かぶってたら苦しいだろ」


俺は布団を下げた。すると木村が目を開けてこちらを見ていた。

まだ顔は赤かったが、さっきよりは具合は良さそうだった。


「だいじょぶか?」

「なんかいつものあんたらしくない・・・」

「・・・いいだろ。帰り話す」

「うん。わかった」


俺の意図を汲み取ってくれたのか、木村は立ち上がって上着を着た。

そして保健室の先生にお礼を言って、二人で二時間目の授業が鳴り響く廊下を、玄関に向けて並んで歩いていった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いて頂けると嬉しいです。


ぼっちくんが輝いている!


次回もお楽しみに!

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