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ぼっちデイズ  作者: シュウ
六章
106/128

平行線

「んー・・・おはよ・・・ジュル」

「・・・風邪か?」

「うん・・・ちょっと昨日湯冷めしたみたいで・・・グズッ」


次の日、自分の席で1時間目の授業までボケーっとしていると、ボックスティッシュを持ちながら席に着く木村が見えた。

目が合うなりこちらに歩いてきてあいさつしてきた。

バカは風邪を引かないという言い伝えがあるんだけど、どうやら伝説だったようだ。つまりバカでも風邪を引くということだ。


「鼻風邪だから辛くて辛くて・・・ズビッ」

「あー。もう辛いならしゃべんな。ってゆーか風邪ひいてるなら休めよ」


風邪ひいた時ぐらいじゃないと休めないじゃん。チャンスを無駄にするとかもったいない。

ちなみに俺は風邪をひかない。健康管理には自信があるからな。・・・昔のことは忘れたよ。


「このぐらいなら大丈夫だもん・・・ズビィ!」


我慢できなくなったのか、木村が鼻をかんだ。

女の子なんだからもうちょっと恥じらいを持って鼻かみなさい。


「もうわかったから。しゃべんな。熱はあんのか?」

「喋らせてんのはあんたじゃん・・・ズルッ」

「じゃあ首振って答えろ」


すると木村は頭を下げると、そこで一旦止まり、その後横に振った。

こいつ・・・


「どっちだ?」


聞くと、今度はハッキリと横に振った。


「嘘ついてたら別れる」


驚いた顔をした木村が首を縦に振った。

やっぱり熱あるんじゃねぇか・・・

だって顔真っ赤だもん。あるに決まってるじゃん。


「もう保健室行けよ」


首を振る木村。


「はぁ・・・」


ここは姉さんに・・・と思ったのだが、まだ姿は見えていなかった。

どう考えても俺が連れていくしかないか・・・


「ほれ。一緒について行ってやるから行くぞ。バカ野郎」

「バカじゃないもん・・・ずび」

「頭のいい奴は学校に風邪を移しにこないんだ」

「うー・・・」


言い返せなくて唸るだけの木村。

普段からこのくらい大人しければ楽なのに。

仕方なしに、木村の保護者として保健室まで連れていくことにした。

どうせ酷いのは朝だけだろうし、少し寝て午後になれば少しは楽になるだろう。なんか知らんけど休みたくないみたいだし。

そんなこんなでボックスティッシュを抱えた木村を引き連れて教室を出ようとしたとき、たまたま教室に入ろうとしていた吉川さんとぶつかりそうになった。


「わっ!」

「うおっ」

「ごめんなさい・・・あ、おはよー。って木村さん、赤い顔してどうしたの?」

「こいつ風邪。今から保健室連れていくところ」

「そうなの? 一緒に行ってもいい?」

「え? 別にいいけど・・・」

「カバンだけ置いてくるね」


そう言って自分の席に向かっていく吉川さん。

どうせならこのまま代わってもいいのよ? 

カバンを置いてコートを置いた吉川さんが。小走りで戻ってくる。


「じゃあ行こっか」


木村の手を取って俺よりも先に教室を出ていく吉川さん。

前を行く二人を見送りながら『俺、いらないんじゃね?』と思って背中を見送っていると、横から一陣の風が通り抜けた。寒かった。


「ちょっと! あんたなにしてんの?」


一陣の風の正体は、姉さんだった。

なんともタイミングの悪い・・・

そのままの勢いを保ちながら、吉川さんに食ってかかった。


「紗枝に何したの!?」

「何って・・・今から保健室に・・・」

「紗枝? 大丈夫?」


『答えは聞いてない』と言わんばかりに、吉川さんの返答を無視すると、木村を支えるようにして手を差しのべる姉さん。

嫉妬ってば怖いなぁ。男でよかったかも。

吉川さんは姉さんの勢いに押されるようにして、一歩後ずさった。木村の手を掴んだまま。

それが姉さんの癇に障ったらしく、バシッと手を払いながら言った。


「紗枝に触らないで!」


手を払われた吉川さんは、ショックを受けたのか、その場に立ち尽くしていた。

今のはダメだよ。姉さん。

どうも木村と吉川さんが手をつないでいたのが衝撃的だったみたいで、気が立っているようだ。

姉さんの弱点は考えるよりも先に気持ちで動いてしまうところだと思う。

楽観主義なのかと思っていたのだが、意外と喜怒哀楽の表現が素直で、ハッキリと物を言うタイプだ。しかも自分の興味があるところにしか興味を持たない。きっとB型だな。

見ているだけだと、吉川さんが哀れすぎてなんとも言えない。周りの目も気にせずに大声を出すあたりが姉さんらしいと言えば姉さんらしい。けど今回はやりすぎだろうと思う。

すると、吉川さんが拳を握り、一度歯を食いしばったように見えた。そして姉さんに向かって言った。


「き、木村さんは織田さんだけのものではないです! 私だって木村さんと仲良くなりたいんだから邪魔しないで!」


そう言うと、吉川さんが姉さんを両手で突き飛ばした。

意表をつかれたのか、姉さんはその場で尻餅を着いてしまった。木村はふらついてその場にしゃがみこんだ。やはり熱があるみたいだ。


「私だって・・・私だって仲良くなりたいの! 邪魔しないで!」


少し涙目になりながら姉さんを見下ろしながら吉川さんが言う。

こんな吉川さん、初めて見たかも。いつもはふわーっとしててほわほわーっと笑ってる温厚な吉川さんが怒っている。怒らない人かと思ってた。人は見た目が9割とか言うけど、中身も大事だということを思い知らされた。

ふーっふーっと荒い息をしながら、姉さんを見下ろす吉川さん。

そんな吉川さんを少し驚いた様子で見上げる姉さん。

その時、そんな二人を見ていた木村が口を開いた。


「ずびっ・・・二人ともやめて・・・」


いつもの半分ぐらいの声量だったが、俺にはしっかりと聞こえた。きっと二人にも聞こえているのだろう。

その声に反応した二人が木村の方を向いた。

座り込んだ木村が、しんどそうな声で二人に言った。


「もうやめてよ・・・」


その言葉に二人はハッとしたような顔をして互いの顔を見た。そしてバツが悪そうにほぼ同時に顔を背けた。

その二人を見た木村は、悲しそうな顔で二人を交互に見たあと、俺に向かって『こっちへ来い』と手招きをした。

俺はホイホイと向かっていった。


「なんだ?」

「保健室・・・いく・・・」


もう熱が上がってきたのか、とてもしんどそうな声だった。

俺は、後ろにいた姉さんと吉川さんをチラッとだけ見て、木村に付き添って保健室へと連れていった。

階段を降りるときにもう一度見てみると、二人とも肩を落としていて、しょぼくれているようにも見えた。

俺は、肩を貸している木村が泣き止むまで、ゆっくりと保健室までの廊下を歩いた。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いて頂けると嬉しいです。


んもぅ・・・

こんなのコメディじゃないわ!ただの修羅場よ!


次回もお楽しみに!

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