窓口そのもの
補習も無事に終わったバカな彼女こと、木村と久しぶりに一緒に帰っていた。
その最中でも、話題に上がってくるのはあの二人のことである。
「最近伊織が変なんだよね」
「あーうん」
「吉川さんがいると機嫌が悪いってゆーか・・・もしかして嫌いなのかな?」
「・・・どうだろうか?」
ホントにこの言葉に尽きる。
だって他人の心は読めないのだよ。
姉さんが吉川さんのことを良く思ってないのは確かだけど、それが嫌いなのかと言われると、それはそれでなんか違う気もする。
少なくとも吉川さんは仲良くなりたいと思ってるっぽいし、木村とも仲良しっぷりを発揮している。
・・・まぁ姉さんの機嫌が悪いのはそれが原因なんだけどね。
なんにせよ、これは当人たちの問題なので、俺がとやかく口出しするのはなんか違う気がする。
「吉川さんも良い子だと思うんだけどね」
「うん。あの子は良い子だわ」
「でしょ?」
「・・・はぁ」
そんなこんなで木村とはそのまま別れ、家に帰ってきた。
「サタンクロス!!」
家に入るやいなや、二階から浩一くんの声と思しき声が聞こえた。
また遊びにきてるのか。まぁ浩一くんは害がないから問題ないんだ。
しかし彼が来ているということは、彼女も付いてきているのだろう。
冷蔵庫からカツゲンを取り出してコップに注いで、それを持って自分の部屋に向かった。
階段を登り切るところで、例の彼女が一番上の段にしゃがみこんでいた。
「げっ」
「あっ、お兄さん!」
待ってましたとばかりに目を輝かせる可憐ちゃん。
「待ってました!」
「あ、そうですか。お疲れ様でーす」
「ちょっと相談があるんです!」
「俺、宿題あるんだ」
「実は幸人くんのことなんですけど・・・」
おかしいな。時差があるのか、俺の言葉が可憐ちゃんに全く届かない。
言い訳すらも無視とか酷くね?
「ではこちらへ」
そう言って俺の部屋へと俺を案内してくれる可憐ちゃん。
俺の部屋に案内とか、可憐ちゃんマジ天使。
ドアを閉めて二人きりになる。
依然隣の部屋からは浩一くんの声が聞こえてくる。
かけ声的にあのゲームなのはわかるんだけど、浩一くんってサタンって柄じゃないよね。どっちかって言うとスケトウダラとかだろ。可憐ちゃんはフェーリとか。我が弟はシグだな。俺は・・・まぐろくんでいいよ。うん。
ついでに木村はドラ子、渡辺はシェゾで、姉さんはラフィーナあたり。吉川さんは・・・アルルかな。カーバンクルでも可。
そう考えると姉さんと吉川さんが仲良くないのもわかる気がする。恋敵ってことは、木村の取り合いってことか?
うーん・・・よくわかんね。
「・・・でですね、カレンどうしたらいいと思います?」
「・・・ん?」
いつのまにか可憐ちゃんの話が終わっていたみたいで、答えを待っている可憐ちゃんがこっちを見ていた。
なんにも聞いてなかった・・・ずっとぷよぷよのこと考えてたなんて言えやしないよ。
「・・・聞いてました?」
「き、聞いてませんでした」
「そんなことだろうとは思いました」
あれ? 今、可憐ちゃんの中での俺の評価下がった?
「簡単に言うと、幸人くんのこと好きなんですけど、アピールしてもアピールしても振り向いてくれないんですけど、どうすればいいと思います? ってことです」
説明乙。
ふむふむ。状況は把握した。
だがしかし・・・
「なんで俺に聞くの?」
ホントこれだけは永遠の謎だ。
「お兄さんだからです」
「なるほどー・・・って言うわけないでしょ」
「だって幸人くんのこと一番分かるのはお兄さんじゃないですか」
「そんなことないよ? 俺だってあいつのこと全然わかってないし」
ピーマン嫌いなのも最近知ったぐらいだし。
「そんなことないです。お兄さんと幸人くんは見えない何かで繋がってるんです」
「血は繋がってるよ?」
「そういうことじゃないですっ」
「見えるけど見えないもの?」
「そうなんですけどそれじゃないですっ!」
「はぁ・・・可憐ちゃんが思ってるほど、俺とあいつは仲良くないよ?」
逆に仲良く見えるなら教えて欲しい。
今日だって・・・というよりも、前の一件以来、俺の方がちょっと気まずくて距離をとってしまってるぐらいだ。弟はそんなことないみたいだけど。
「うー・・・でもこんなこと相談できるのはお兄さんぐらいしかいないんですぅ・・・」
口を尖らせてそう言う可憐ちゃん。
そんな顔でそんなこと言われたらお兄さん困っちゃうぞ☆
もうどうしたらいいの? 俺ってば直接関係無いじゃん。どうしようもないじゃん。
でもここに迷える子羊がいるんだ。夜な夜な夢の中でブロックを登っているおっさんとは違って、まだ若い子羊だ。
俺が手助けをしても問題は無いだろう。
よし。
「可憐ちゃ」
「あ、ここにいたの? おかえり。お兄ちゃん」
可憐ちゃんを探していたのか、ドアを開けた弟が顔をのぞかせた。
というか勝手にノックもなしに開けるなよ。油断も隙もプライバシーもあったもんじゃない。
「今は相談中なんだから閉め」
「幸人くん! 私のこと探してくれたの!?」
「だって急に居なくなるんだもん。探すに決まってるでしょ?」
「幸人くん・・・ごめんねっ」
「僕は気にしてないよ」
急に上機嫌になった可憐ちゃんを、俺はただ口をポカンと開けて見てることしかできなかった。
予想外の事が起きた時ってホントに何も言えないのな。まさか身を持って体験する日が来るとは。
「じゃあお兄さん。お話聞いてくれてありがとうございました。また何かあったら聞いてくださいね!」
そう元気に言うと、可憐ちゃんは顔を覗かせていた弟と共に消えていった。
そして部屋に取り残された俺は思った。
もう誰の相談にも乗ってあげないんだからっ!
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いて頂けると嬉しい限りです。
同僚ができ、ブタの可愛さをアピールしました。
「ほら!このブタのぬいぐるみ可愛くないですか!?」
「あー・・・うん」
「えっ?」
「あははは・・・」
・・・・・・・・・
次回もお楽しみに!




