『バイバイ…』
『酔った勢いってやつ』そう、そんな理由だった。彼氏が友達とヤったらしい…。
今ぼんやりと
煙草片手に、
その事について考えていたけど、
どうも現実味に欠けている気がする。
だって、亮平(彼)は
あたしを『愛してる』と言った。
だって、彩(友)は
あたしに『親友』だと言った。
あたしと亮平が知り合ったのは、2年のクラス替えの時だった。
人数が多く、同じクラスの人を覚えるだけで精一杯というような学校なので、新しいクラスは知らない人ばかりだった。
あたしは彩と1年の時に同じクラスで仲良くなって、2年でも同じクラスだった。
彼氏と別れたばかりだった彩は『新しいクラスで男を作る』と、意気揚々で男選びをしていた。
そんな彩の目に止まったのが尚哉で、一緒にいたのが亮平だった。
それから4人で遊ぶようになって、気が付いたら彩と尚哉は付き合っていた。
それから少しして、あたしは亮平に告られた。
特別、恋愛感情はなかったけど、嫌いじゃなかったし…付き合うことにした。
あたし達は、そんな簡単な付き合いだった。
―…煙草の灰が落ちた。少しの間、夢を見ていたような気持ち…。
気が付くとあたしは、尚哉に電話をかけていた。そして、すぐに出た尚哉に言った。
『今から会わない?』
尚哉は、一瞬驚いたようだったが、
『いいよ。』
と静かに言った。
近くのファミレスでご飯を食べた。
お互いに『浮気』の話はしなかったけど、
尚哉も知ってる事は、何となく分かっていた。
尚哉もきっと、分かっていたんだと思う。あたし達は、何気ない会話をしていた。
そんな空気を壊したかった。
『カラオケ行こうよ!』いきなりな提案に、
尚哉は笑った。
大量の酒を買い込んで、カラオケBOXへ。
飲むだけ飲んで
2時間が経つ頃には、
完全に呑まれていた。
枯れた声をまた枯らすように、あたしは歌い続けた。
尚哉も歌っていた。
聞き慣れない歌…インディーズってやつ?
…哀しい哀しい
ラブソング。
気が付くと、あたしの目からは、涙が溢れていた。
次から次へと、頬を伝う。
あたしは…、好きだった。
亮平の事が、好きだった。
『イマドキ』の軽い遊びなんかじゃなかった。
尚哉は歌うのをやめ、あたしを抱きしめた。
少し驚きもしたが、あたしは抵抗することなく、尚哉の胸に顔を埋めた。枯れ切った声を振り絞りあたしは泣いた。
『大好きだった…』
そう何度も呟いて…。
尚哉の体が、微かに震えていた。
泣いているのだろう…
あたしは思った。
尚哉の胸から顔を離し、尚哉の顔を見上げると、目を真っ赤にしていた尚哉は、少し恥ずかしそうに笑った。
あたしは、尚哉を抱きしめ返した。自分でも、よく分からない感情がこみ上げていた。
そっと、口唇を寄せた。恋焦がれる感情でも、愛を求める行為でもなく
ただ口唇を重ねた。
二人の体が離れた時
何だか笑ってしまった。恥ずかしさやら、何やらで、何だか笑ってしまった。
『興奮しない!!』
あたしは言った。
『こっちの台詞だよ!!』
尚哉も笑った。
泣くだけ泣いて、
スッキリしたあたしは
亮平に電話をかけた。
『別れて』
亮平は、
『もう浮気なんてしないから…』
と言っていた。
あたしを求める亮平の弱々しい声に、あたしの心は少し揺れた。
『きっと、またするよ。だから別れる。』
言ってやった。
亮平との恋は、もう終わった。
あたしは、
本当に大好きだった。
でも、それは『だった』なのだから…。
尚哉は外に出て、彩と電話で話をしたみたい。
『彩…、泣いてた』
戻ってきた尚哉は、そう呟いた。
『……』
何て言えばいいのか分からず、下を向いた。
『でも、すぐに新しい男を見つけるんだろうな』そう続けて尚哉は、あたしを見て、少しだけ哀しげに微笑んだ。
哀しい哀しい
ラブソングのメロディがいつまでも流れている気がした。
BOXを出ると、外は随分暗くなっていた。
『寒いね〜』
と話しながら、
あたしは煙草に火をつけた。
そういえば、煙草は亮平の影響だったな…と
煙を吐いたら
嫌に目に染みて、
涙がにじんだ。
『もう泣くのは、やめにするんだ〜。』
独り言。
自分にいい聞かせるように、わざと口に出すと
煙草の火を消して、まだ買ったばかりの煙草の箱をねじり、ゴミ箱に棄てた。
『バイバイ…』
それは、
煙草に、亮平に、
二人の想い出に
恋焦がれた自分に…。
『バイバイ…』
私自信、浮気を一度した人は、必ず繰り返すのだと思っています。
そして必ず誰かを傷付けることを知って頂きたいと思い、今回の話を書きました…。