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俺の人生ヘルモード  作者: 侘寂山葵
蟲毒の坩堝
76/109

6-23





 俯く顔は地を見つめ、縛り付けられた身体は動かない。

 体中からヘドロのような黒い感情が漏れ、溜まり、俺の足元を底なし沼のように不確かで、不安定なものにしてしまっていた。

 粘りつくような罪悪感は、拭っても拭っても落ちてくれなくて、触った端からオレの体にベタベタと纏わりついてくる。


『――ッ――ッぁ!』


 何かが聞こえたが、音は薄皮の防音膜でも被されているかの如くこもっていて、なんら意味をなさない音でしかなかった。


 早く、動かないと。

 そんな意思が俺の奥底に燻っているの感じたが、ナニカが邪魔をして燃え上がってはくれない。

 

 リーンを助けたい。

 その気持ちは未だ健在で、確かに俺の中にあった。

 でも、そのリーンが傷ついた元凶が俺なのだとすると、俺はどれだけ間抜けな想いを抱いていたことになるのだろうか。

 

 俺がいなければリーンは倒れなかった。隊の皆も死ななかった。

 ナナフシに貫かれた彼、俺が置去りにした彼女、通路で飲み込まれた二人、蟲に寄生されてしまった二人、風刃で消し飛んだ彼、糸で切り飛んだ彼、押しつぶされてしまった彼女。


 知り合わなければこんなにも苦しい思いをしなくて済んだのに。

 絆を積み上げなければ心が痛まなくて済んだのにッ。


 繋げて来たからこそ辛くて、重ねてきたからこそ重い。


 きっと皆が俺を恨んでいるに違いない――。

 ドロリ、と体の内側から黒く渦巻く大きなナニカが這い出して、俺をどこかに引きずり込もうとしている気がした。

 足を捕まれ手を捕まれて、底へ底へと誘ってくる。

 

 赤黒い光が脳裏に過ぎった。

 どこかで見たことがあるその光は、とても居心地の良さそうな光に見える。

 

 手を……手を伸ばしても良いのだろうか。

 ソレを取ってしまえば、自分が自分でなくなってしまうかのような恐怖を感じたが、手に入れれば、俺の願いが叶う気がした。


 


 ◆◆◆◆◆




 “隊長さん”の悲鳴のような叫び声が“オレ”の耳に届いてきた。

 どうしようも無いほどに、悲しい声音を湛えて。

 

 崩れ去る両足。大地に落ちた膝。

 あれほどオレ達に希望を見せてきた背中は、既に力を失っている。

 あれほど力強い光を放っていた瞳は、既に暗く澱んでしまっていた。


『相棒……ぐすっ……あいぼうぅっ!』


 何も見えていない。何も聞こえていない。

 肩の上にいるドリーの嬢ちゃんが必死になって叫んでいても、反応すら示さない。


 あの野郎……。

 化け物の漏らした声は、オレ達全員の耳に届いていた。

 街が襲われた原因は隊長さんを狙っていたからだ、とハッキリと聞こえていた。


 本当か? 嘘か? そんなことはどうでも良い。

 

 胸中に渦巻いているのは怒りの感情。

 視界内にいる全ての走破者の拳が、砕け散らんばかりに戦慄いているのが見えた。

 当然だった。オレ達にとって当然の感情だった。

 

 ふざけやがって……。

 焦がし尽くすかのような怒りが、身体と頭を燃え上がらせている。

 元凶へと向けられた走破者達の視線は、それだけで相手を殺せそうなほど、殺意の感情が込められていた。


 絶対にゆるさねぇ……。

 そんな思いを頭に延々と響かせながら、オレは一歩踏み出した。

 許さねぇ、許さねぇ。

 頭の中にはそれしかなくて、勝手に身体が動いていた。


 また一歩。

 更に一歩。

 一歩毎に歩幅が広くなり、一歩毎に地を蹴る力が増していく。


 膨れ上がる想い。止められない怒り。

 ――気がつくとオレは、いやオレ達は、


「あの腐れ野郎ッ、隊長さんに余計な真似しくさりやがってッッッッッ!!」


 絶対に許せない獄の主から、隊長さんを助け出す為に、怒号を上げて駆け出していた。


 余計な真似を、あんなにも頑張ってきた隊長さんになんて真似を。

 傷口を抉るようなことをしやがって、絶対に許せねぇ!


 爆発するかのごとく一斉に飛び出した隊は、形振り構わず真っ直ぐに隊長さんの元へと向かう。

 主の腐り腕が隊長さんを捕らえんと伸ばされている。


「汚ねぇ手を伸ばしてんじゃねーよッ!」


 魔法使いの男が放った氷の槍を筆頭に、隊長さんに手を伸ばそうとしていた主の腕を止めるべく、次々と攻撃魔法が放たれた。

 

【邪魔をずるなァァッッ!】


 怒りを顕に右腕で迎撃し始めた主だったが、後を追うように撃たれた矢弾を見て、伸ばしていた腐り腕もそちらへと回す。


「なんなのクロウエの奴ッ、よりにもよってあんな所で落ち込むとかアホじゃないの!? 場所を考えなさいよ場所をッ」

「あら、リッツちゃん。場所を選べる余裕があったら移動しているわよー」

「そんなこと、分かってて言ってるのよっ!」


 白黒スクイルのねーちゃん達が、相変わらずの会話を交わしながらも、継続して主へと向かって牽制。

 全て防がれているので、ダメージなんぞこれぽっちも与えられてはいないが、多少動きを鈍らせる位の効果はある。


 疾走を続ける隊列から、一つの影が速度を上げて抜きん出た。


「まったく……クロ坊が根暗になってしもうたらどうする。儂の楽しみが減ってしまうじゃろうに」

 岩の爺さんが間の抜けた台詞を零し、駆け続ける隊を置去りに、凄まじい速度で駆けていく。


 救う――そんな意思を全員から感じる。

 当然だ。ここまで一緒にやってきたこいつらが、そう思わない筈が無い。


 何も知らなかったらきっと恨んでいた。何も見てきていなかったら憎んでいただろう。

 でもオレ達は少しばかり知りすぎていて、少しばかり獄級という場所を見すぎていた。

 馬鹿なオレだってわかる、隊長さんは所詮“切っ掛けでしかない”


 この糞蟲共は、隊長さんが居なかったらリドルを襲わなかったのか?

 無い、それだけはありえねー。

 一ヵ月後? 一年後? いつかなんてオレには分からないが、確実に来るのは間違いない。


 地下深くにいたあの蟲の数。人間を餌のように、家畜のように捕まえていたあの光景。

 ――こいつ等は、人類にとってそんなに優しい奴等じゃない。


 もし隊長さんがいなかったら。

 もし今この時を逃していたら。

 のうのうと生活して、愛する者が出来た時、子供が生まれたその時、襲い掛かられていたら?

 怖気が走る。想像しただけで震えが来る。


 隊長さんとドリー嬢ちゃんがいない状態で、こんな下層まで辿り着ける訳がない。

 いや、それ以前に呪毒蜂に刺されたから蟲毒を走破するってこと自体が思いつかない。


 きっと間の抜けた隊長さんのことだ“俺の所為で襲われた”なんてくだらねーことを考えて落ち込んでるにちがいねー。


 見たくなかったあんな姿を。ずっと探してたんだ機会を。

 あの背中を支えてやるのはいつだ? 


「――今しかねぇええだろうがッッ!!」


 怒声を上げる、己の体を奮起させる為に。


「手を休めるんじゃねーぞ、お前らッ! 絶対に触れさせんなッ。

 炎属性は使うなよ。隊長さんに余波がいっちまう」


 岩の爺さんの援護も含め、魔力消費は多少かさむが絶え間無く攻撃しろと指示を出す。

 隊長さんの代わりを務めるには、オレ程度じゃ力不足だが、せめて戻ってくるまでの少し間、隊を保たせることくらいはやってみせる。


 指示に従い続けられる攻勢。

 性懲りもなく隊長さんに向かって伸ばされようとしていた主の腕を、怒りを乗せた猛攻が歯止めをかけた。

 鬱陶しそうに数本の腕を振り回し、暴れ始める化け物。


【ガッァ嗚呼嗚呼ッッッツ!!】

「ッチ、くそ、うざってぇ奴だ」


 相変わらずあっさりと吹き散らされてしまう魔法と矢弾を見て、思わず悪態が口をつく。

 とはいえ、向こうもこちらに対して苛立ちを感じているのか、強引に追い払おうと鎌の能力を使う姿勢を見せた。


「お前ら、鎌が来るぞッ、動け動けッ!」


 隊を腕の直線上から逃すように散開させて、飛ばされた風の刃を躱す。轟々と唸りを上げて真横を通り過ぎる攻撃に一瞬肝を冷やしたが、足だけは止めることなく突き進む。


『――ッ!? いけない皆さんっ、ピカピカが来ますっ』


 嬢ちゃんの声を聞いて反射的に対応した。

 何度も何度も繰り返されてきた連携と対策は、すっかり体に染み付いていて、オレ達を隊長さんの元へと運ぶための糧となっているようだ。


『終わりましたっ』


 光が消え去ったことを知らせる嬢ちゃんの声を聞いて、直ぐに目を開けまた疾走。

 大分先を走っていた爺さんに向かって、あの忌々しい五本の糸が振られたが、隙間に潜り込むようにして問題なく抜け――遂に爺さんが隊長さんの元へと辿り着いた。


 爺さんは隊長さんの肩を揺さぶるように動かしているが、どうにも反応がなく、動く様子もない。


 隊の全員を向かわせるか? いや、あの距離に大勢で向かうのは、ちょいとばかし危険すぎるな。


 オレは、隊をその場で待機させ『連れ出す間の時間を稼げ』と指示を残し、数名の走破者だけを引き連れ爺さん達の元へと急ぎ向かった。


「クロ坊ッ! はよう動かんかッ!」

『岩のお爺さん……相棒がぁ……相棒が返事をしてくれません……』


 声を掛け続けている爺さんに、ドリーの嬢ちゃんが助けを求め弱々しく手を伸ばす。

 いつもの明るい嬢ちゃんの声は悲痛な想いに満ち溢れていて、思わず腐れ野郎に対する怒りが更に増した。

 

「……っほ? 丁度良いところに来おったな。おぬし等、クロ坊を無理やりでも良いから連れていってやってくれ。何時までもここに居ったら危なっかしくてかなわんっ。

 嬢ちゃんの方は皆の援護を頼むぞい」

『はぃ……』

「あっ、自分が連れて行きますんでっ」


 身体の大きな前衛職の一人に隊長さんの身体を任せて、すぐさま安全圏へと向かうために体を反転させて走り出した。


【逃さない……逃さない】


 走り出したオレ達を見て、化け物が左腕を地に落とし前傾姿勢を取る。

 すぐにあの鬱陶しい攻撃が来ることが分かったが、相手の邪魔をするには少し遅く、大量の蠅と屍喰らいを吐き出すことを許してしまった。


「ああ、隊長さんがいねーとどうにも遅れちまうな。ッチ、どうすっか……仕方ねぇ、最初に使った方法で抜けるぞ!」


 必死になって走り残していた隊へと合流。すぐさまエントの円陣を描き、フィールドの準備を進める。迫る黒と白の蟲の群れを見つめ続け、タイミングを測って合図を出した。

 雷塵と炎粉が巻き上がり、炎の津波がモンスターを焼く。

 が、どうにも合図が早かったようで、蠅は落とせたが屍喰らいが大分残っている。


 あーやっちまったな……やっぱオレにゃ隊長の真似はできねぇか。


 思わず迫ってくる蟲の群れに焦り合図が早まってしまった。あれを我慢する精神力と判断力が無い限り隊長なんて出来はしないだろう。

 走破者達の慣れや勢いもあって、下手くそなオレの指示でも多少は動かせるが、やはり隊長さんが居るのと居ないのでは、隊の動きに天と地程の差が出てしまう。


「っほ、仕方ない。儂が行くとするか」

「わりぃ、爺さん」


 しくじったオレのフォローをする為に爺さんが武器を片手に飛び出した。

 全く怯える様子もなく、愚直にこちらへと近づくモンスター達の最中に躍り出て、ありえねぇ程に速い抜刀でモンスターを切り払い、足止めを務める。


 爺さんが足止めをしている間にもオレ達は駆け続け、更に距離を稼いでいく。

 出来ればこのまま更に距離を取りたい所だが……余り爺さんから離れるのは拙い。

 恐らく次に来るのはウネウネ野郎の毒液だ。

 これ以上距離を離そうものなら、魔法の射程限界から爺さんだけ取り残されて、満足に援護が出来なくなってしまう。

 

 頼むから爺さんが戻ってくるまで大人しくしとけよ……。


 だが、主がこちらの願いなんて聞いてくれる筈も無く、

「次が来るみたいよッ!」

 白いスクイルのねーちゃんの警告と共に、ウネウネが毒液を吐こうと此方に向かって腕を膨らませてきた。


 一振り、二振り。

 二度振られた腕の口から毒弾が吐き出され、山なりの軌道で宙を駆って、こちらへと向かってくる。

 それを見た嬢ちゃんが、直ぐに隊の移動位置を割り出し、その場所へと向かって指を向けた。


『左後方の、あの位置で良いと思いますっ。えっとえっと、壁の枚数は…………』

「ああ、四枚……いや隊長さんと同じように六枚にしておこう。爺さんの方はよくわかんねーから多めに張っておけッ」


 嬢ちゃんの示した場所まで移動し、ロック・ウォールを張りながら、風の防護をかけていく。

 向かってくる毒弾は四発。デカイのが一つと小さいのが三発。

 爺さんの方にも数枚壁を張らせたが、風の膜までは時間が足りず間に合わない。


 轟音が響き、毒液が壁へと衝突。

 ぶち当たった衝撃で土壁が数枚壊され、小さい毒弾が一発抜けてオレ達の真横に着弾し、紫色の毒液がビシャビシャと風の膜へと降り注ぐ。

 

 い、今のは相当危なかった。

 移動した場所は絶好の位置だったはずなのだが、どうも枚数の調節に失敗していたらしい。

 

 つーか、爺さんの方は大丈夫か?


 心配になって視線を移動させると、壁を巧く使い、モンスターを足場にして毒弾を避けていく爺さんの姿が映った。

 余程戦闘経験を積まなければ、あの動きは出来ないだろう。やはり年の功は偉大と言うべきか。

 しかし、安心したのは束の間で、毒液の一部が地面に跳ね、爺さんの顔へと吸い込まれるように飛んでいく。

 モンスターに囲まれた状況で、思いもよらぬ方向からの攻撃。さすがにあれは避けられないッ。


「――ガッァ!?」


 援護を入れようとするも到底間に合うわけもなく、顔へと毒液が当たってしまう。

 グラリと爺さんの体は、仰け反るように後方へと傾いでいった。


「と、父さんッ!」

「お父さんっ!」

『お爺さんッ!?』


 スクイルのねーちゃん達と嬢ちゃんが焦って声を掛けたが、応えは返ってこず、爺さんの体が地面に倒れ――無かった。

 後方へと逸らされた背中と力ない両腕、一体何が起こったのか、爺さんの体が急にピタリと停止している。


 まさか避けたのかッ!? そうは見えねーんだが。

 とりあえず大事には至らなかったのか……でも、まだ周囲にはモンスターが残っていやがるし、安心してもいられねーな。


「おいッ、総員すぐに爺……さ……!?」


 掛けようとした声はオレの意思とは無関係に途中で寸断される。

 まるで喉が締め付けられたかのように、どんなに力を込めても続きの台詞が出てこない。

 

 空気が……変貌した。

 歯が打ち合わされて、ガチガチと鳴った。

 まるで極寒の大地に立たされているかのように、寒気が止まらない。


 発生源は、囲い込むように群がっているモンスター達の中心――爺さんの体から。

 石の肌が鈍く軋み、力強く体が起き上がる。


「……ははっ、久方ぶりの……じゃ……くしてしもうたはずが」


 笑う、嗤う。

 危機的状況な筈のに、爺さんは嬉しそうに笑っていた。

 いつもの爺さんの声なのに、何故か他人が喋っているかのような錯覚に陥ってしまう。


「ぁあ、良いじゃろう。たまには暴れんと……若いもんに負けるわけにはいかんしな」


 その言葉と共に、モンスターに囲まれている爺さんの殺意が急激に膨れ上がった。

 チラリと視界に映った爺さんの横顔。

 口端は獣のように釣りあがり、ギラギラと金色に輝く瞳は、恐ろしいほどに獰猛な光を宿している。


 爺さんの体が一度だけフラリと揺れ――

「よくもやってくれおったな、このモンスター風情がッッ! ナマスにしてやるぁッ!」

 怒号と同時に動き出した。


 ――斬。

 周囲に居た屍喰らいの体が、一瞬で六等分に輪切りにされた。

 

 アホかあの爺さんッ、速すぎんだろうが!?


 切り飛ぶ、跳ね飛ぶ、体液が宙へと舞う。

 結果だけはしかとこの目に映っているのに、その過程がまるでわからない。

 爺さん自身はそこまで速く動いている訳ではないのだが、武器に至っては剣閃すらも見えなかった。

 ゴミでも払うかのように屍喰らいが少しの間で死滅して、それを見届けた爺さんが体を返し、地面を蹴ってオレ達の下へと戻ってくる。


 一瞬恐怖を感じて後退ろうかと体が動いてしまったのだが、

「ほれほれ、はよう後ろに引かんか己等はっ」

 ほっほ、と笑う爺さんはオレの知っているあの爺さんだった。


 あ、あれ?

 思わず先ほどの光景は夢か幻かと一瞬自分の目を疑ってしまったが、こちらに向けた爺さんの左目周辺は毒々しい紫色に変色しており、先ほど起こったことは現実だと証明していた。


 毒の所為なのかは分からないが、雰囲気がかなり弱くなっていて、酷く憔悴しているようにも見える。


「と、とりあえず爺さんが無事で何よりだ。お前ら、さっさと下がるぞ」


 一先ず心に残った疑問は後回しにして、厄介な鎧甲殻の腕の攻撃が来る前に急いでさらに距離を離すことに。


「んーむ、こりゃもう見えんようになってしもうたのぅ。後でクロ坊のせいにして苛めてやらんとワリに合わんわい」


 距離を離すことに専念しながらも、爺さんは恍けた台詞を吐きながら、バックパッカーの一人から飲み水の入った水袋を受け取り、毒を受けた左目をジャブジャブと洗い流している。


 爺さんの言葉通り、既に眼球は溶け落ちたかのように無くなっており、明らかに上級回復魔法でも修復不可能なことが見て取れた。

 他の場所が変色で済んでいるのは、ロックラッカー特有の岩肌のお陰か?

 

 それにしてもどれだけ痛みにつえーんだ、この爺さん。


 解毒の魔法を数度掛けて、回復魔法も掛けた。それでも疲れているのは一目見て判る……いや、判るのだが、幾ら何でももう少し痛そうな素振りを見せても良いものだ。


 心配そうに声を掛けるスクイル姉妹に『大丈夫じゃ』と返事をしている爺さん。

 それは少し異常とも言える光景だった。


 ◆ 


 どうにか次の攻撃が来るまでに、ある程度の距離を離せた。

 主はオレ達を逃したことに腹でも立てているのか、狂ったように暴れ周り怒りの咆哮を轟かせている。


「おい、隊長さんッ、おーい!」

『……相棒ぅぅ』


 引きずるように連れてきた隊長さんを、一先ず地面に座らせて、どうにか立ち直らせようと声を掛けてみるが、どうにも反応が芳しくない。

 虚ろで濁った瞳。無気力に座り込む姿。

 その余りの弱々しい雰囲気を見て、オレの心臓付近にはナイフでも差し込まれたかのような痛みが広がった。


 オレがもっとしっかりしていれば。

 苦労をかけすぎた。一人に背負い込ませすぎた。

 もっと早く支えてやりゃ、なんとか出来たかもしれないのに。

 後悔の念が渦巻く。

 幾ら強いといっても、オレよりも断然若いこの隊長さんに、一体どれだけの重しを被せてしまっていたのか。

 

 陰鬱な気持ちは止められず、気分はさがっていく一方だった。しかし、この状況では落ち込んでいる暇すらも無い。


「いかん、例の腕が来るぞいッ。とりあえずお前さんはクロ坊の面倒をッ。なんでも良いからはよう起こしてくれ。

 ある程度はこっちで捌くが、いつまでも続かんと思うとってくれッ」

「お、おう判ったよ爺さん。そっちは頼むからなっ」


 爺さんに言われるがまま、隊長さんを引きずって更に後方へと移動を開始するが、安全圏へと辿りつく前に、主の攻撃が開始された。


「っちッ、まだ逃げ出せてねーのにもうきやがった!」


 振動を響かせ、赤黒い腕の森が出現する。

 一斉に打ち下ろされる暴風打は、まるで巨石でも降り注いでくるかのような迫力。


「ちょ、ちょまて、嬢ちゃんワリーが指示を頼むオレは隊長さんをッ」

『あ、はいっ、よろしくお願いします。一先ず右後方、左後方、後ろに下がり、また右』

「た、頼むから手加減してくれッ。隊長さんじゃねーんだ、そんなに早く言われてもよぉッ」


 嬢ちゃんは的確な指示をくれているが、どうにも反応が遅れる。というよりも、言われてすぐに動ける隊長さんのほうがオカシイ。


 死に物狂いで嬢ちゃんの声を聞き、隊長さんの体を引きずりながら、馬鹿みたいに暴れまわる腕を避けていく。

 反応できずに何度も避けそこなりそうになったが、それを見て嬢ちゃんが『ウッド・ハンド』で横合いから文字通り手助けをしてくれ、どうにか生き長ら得ていた。


 泥臭くみっともない姿で避け続け、腕の豪雨が止んだ後も、続けざまに撃ち込まれてくる毒針に追われ移動を続けていく。


「隊長さんっ、頼むからいい加減動いてくれッ」

『おきてっ、早く元気になってくださいっ』


 暇を見つけては声を掛けてはみるが、反応が薄く、動いてくれる様子が無い。




 隊長さんに声を掛けながら延々と主の攻撃を避けていく。

 ドリー嬢ちゃんの助けもあって、先ほどからどうにか保ててはいるが、オレも他の全員も、かなり限界に近づいている。


「まだ起きんのかクロ坊はッ!」

「ちょっと馬鹿クロウエを早く起こしてよッ! キツイ、本当にキツイのよッ」


 切羽詰った催促は、先ほどから回数を増していた。

 だが、それも仕方ない。もう回復薬などの資材が僅かしか残っていないのだから。

 主の攻撃が一周巡る毎に魔力の回復を行い、体力回復も出来るだけ薬に頼っているこの現状では、資材の減りが馬鹿みたいに早い。

 

 出来るだけ魔力を温存する? あり得ない。全力で抵抗して避けなければオレ達は今頃全員で死んでいる。

 どうにか魔力を消費せずに避けられる攻撃なんて、鎌と光と糸ぐらいのものだ。

 毒針と甲殻腕は場所によってはイケルが、毎回それが可能な訳じゃない。


 さっさと主を倒せれば良いのだろうが、無理なんだオレ達だけでは。やろうと思えば隊長さんが居た時みたいに、距離を詰めることだって出来るかもしれないが、その後が続かない。


 近づいた後の猛攻を凌げるのは、爺さんと隊長さんくらいしか居ない。

 それに隊長さんがやたらと狙われていたからこそ、あの距離でオレ達が生き残れていたのだ。

 爺さん一人しか居ない今じゃあの距離で凌ぎきるのは不可能。


 ああ、畜生ッ!


 絶望――その一文字が脳裏に浮かぶ。


「頼むから、頼むからさっさとしてくれよ隊長さんよッ」


 苛立ち紛れについつい声を荒げてしまう。肩から降りて隊長さんの胸元に張り付いていた嬢ちゃんが、驚いたのか少しだけピクリと指を揺らした。


 何かに引きずれるように、どんどんと虚ろになっている隊長さんの瞳を見ていると、焦燥感やら恐怖やら、色んなものが涌きあがって来る。

 なんと言えば良いのだろうか『ここでどうにかしないと手遅れになる』そんな危機感みたいなナニカを感じる。


「はーやーくーしてってっばッ!」

「ひょ、流石に片目じゃ厳しいもんがあるぞいッ」

「やってるって、今やってからもうちょっと待てや手前らッ!」

 

 間隔が短くなってくる催促に怒声を張って返す。

 急かされながらも必死になって隊長さんの体を揺らして声を掛ける。

 

 宥める。大声を上げる。頼み込む。

 ありとあらゆる声音を試して見るも、無視。

 声すら上げやしない。


 どうすれば、どうすれば。

 こんな姿を見たくない。早くあの隊長さんに戻って欲しい。

 嬢ちゃんの悲しい声を聞くのだって勘弁してもらいたい。


 戦闘音が延々と響き渡り、どこまでも此方を焦らせる。たった一人が居ないだけでこの様だ。

 イライラと思考が熱くなっていき、貧乏揺すりのように右足が細かく地面を叩く。

 

 轟音が耳を打った。

 また鎧甲殻の腕に回ってきたらしい。


「おい、一人腕を吹きばされやがったッ! 早く回復してやれッ」

「こっちは足を折った奴がいるッ、誰か背負って後ろに引かせろッ!」

「さ、流石に儂も、かなりキツイんじゃが」

「クロ君はまだかしらー? お姉ちゃんもそろそろ疲れてきちゃったわー」


 もう間隔が短くなっている、とかいう程度ではなく、常に声が飛び交い始めていた。

 気持ちは焦るばかりで、結果は何も出ない――なのに催促だけは常時され続ける。

 右から左から前方から「早く、早く」と急かされる。


「隊長まだですかッ!?」

「死ぬッ、自分もうそろそろ死にますって」

「おい早くしてくれッ!」


 拙い状況で命がかかっているのだから必死なのは判るが、こっちだって出来ることはやっているッ。

 どうにか起さないと、早く起さないと。

 焦燥感に背中を押されながらも、オレは隊長さんの体を揺すって声を掛けていく。


「隊長さん、返事ぐらいしてくれッ。本当に拙いッ、このままじゃ皆死んじまうッ」


 動かない。

 生気を感じられない。生きようとする気持ちが感じられない。

 腕は力なく垂れ下がり、相変わらず瞳は泥が沈殿するように濁っている。

 ただ心が折れたわけではない。妙に不安を煽ってくる。


「頼む、頼むよ隊長さん。オレはアンタも他の奴も皆死んでほしくないんだ」


 縋るように言葉を吐く。

 確かにオレは自分の仲間を助ける為に獄へと入った。

 だが、その助けたい仲間と同じくらい、共に命をかけて一緒に進んできた全員が、オレにとっては大事なものになっている。

 それは隊長さんにとっても同じ筈だ。死んで欲しくねーと思っている筈だ。


 必死で胸倉を掴み揺さぶって、オレはただただ叫びを上げる。


「アンタがオレを動かしたんだろっ」


 酒を飲んで落ち込むだけのオレを動かしたのは隊長さんだ。


「アンタが皆を動かしたんだろっ」


 希望も、羨望も、その全てをオレに見せたのは隊長さんだ。


「アンタがそうやっていたら皆死んじまうだろうがッ、それで良いのか! アンタはそれでいいのかよ!」


 吐き零す言葉は震え、大の大人がみっともなくも泣きそうな面をしている。

 オレはそんなに強くない。オレはそこまで凄くはない。

 でも、それでも……そんなオレに何かできると思わせたのはアンタだろ?


 もうオレに出来ることなんて殆ど残っていない。馬鹿みたいに延々と声だって掛け続けた。

 無い頭で必死になって考える。


 挫けそうになった奴を起すにはどうすれば? 

 堕ちちまいそうになっている奴を引き戻すにはどうすれば?


 考えて考えて、結局思いついたのは……馬鹿で野蛮で粗暴な手段だけ。

 まあ、オレにはお似合いかもしれないが。

 英雄になんてなれない。強者にだってなれない。

 そんなオレに、出来ることなんて、もうこれしか残っちゃいなかった。


『瓶おじさん?』


 拳を握る。全てを込めて。

 振りかぶられたのはオレの弱々しい拳。隊長さんにしてみればノロマな拳。

 でも、こんなに弱くなっちまってる隊長さんには、ちょっとばかし痛くて、速いものなのかもしれない。


 悪く思うなよ隊長さんよ……オレは大人で、アンタは子供だ。叱ってやることも支えの一つだよな?


「……いい加減、起きろっつってんだろッ、この糞餓鬼ィィイイイ!!」


 ――ゴリィッッ。

 拳に伝わる硬い感触。

 怒りに任せて全力で叩きつけたオレの右手は、抉るように隊長さんの頬に直撃。

 力の無くなった隊長さんの身体を、まるで木の葉の如く容赦無く吹き飛ばした。


『にょわあああ、相棒っっ!?』


 隊長さんの胸に張り付いていた嬢ちゃんが、惨劇の現場に巻き込まれ、相方の悲惨な状態を確認して叫び声を上げた。

 地面にゴロゴロ転がって、ピクリとも動かない隊長さん。


 だ、大丈夫か?

 まさかここまで豪快に飛ぶとは思っていなかったオレは、罪悪感で一杯になりつつも隊長さんのもとへと駆け寄ると、横倒しになっている顔を恐る恐る覗き込んだ。


 相変わらずぼぅとした顔で、一瞬駄目か? と思った――瞬間。


 痛みのせいで若干ビクビクと痙攣しているオレの英雄が、

「……い、いてぇ」

 ようやく、目覚めの声を口から漏らした。



 ◆◆◆◆◆



 暗いドロドロとした渦の中で、なんとなく妙な光に手を伸ばそうとしていた筈の俺。

 なのに、いつの間にかその場所は消えていて、気がついたら、口の中が土臭くて、鼻腔に血の臭いが充満していた。

 何だかよく分からないが、頬がやたらと痛くて、呆然としたままそれを口から漏らした。


 未だ頭がぼぅ、としていて、思考がグチャグチャと絡まった糸のように混線している。

 とりあえず自分が横倒しになっていることはわかったが、何でそんなことになっているのかがわからない。

 視界が揺らいでいる。なんだかやたらと騒がしい。


『――あ、い――ぼうっ』

「大丈――か、隊――さんっ」


 ぼやけた視界の中にはオッちゃんの顔とドリーの姿。

 それを見て、俺は先ほどまでのことを思い出し、ビクリと体を震わせ怯えてしまった。

 何を言っているのかは詳しく聞こえないが、きっと俺を罵倒する言葉だろう。

 言われたってしょうがないとはわかっていたが、オッチャン達の口からそれを聞くのは恐ろしくて堪らない。


 思わず目を逸らそうと思ったが、身体を動かす気力が湧かず、それすらも出来なかった。

 視界が徐々に鮮明になっていく。

 聴覚が様々な声を拾い始めた。

 目前にいたオッちゃんが俺に向かって何かを言って、しきりに後方を指しているが、オッちゃんの身体のせいで先が見えない。


 不意に――オッちゃんがその身体を横へとずらした。

 まるで、外へと通じるドアが開け放たれたかのように、俺の視界が現実を見せる。


 血だらけになっている者がいた。必死に叫んでいる者がいた。

 力強く立ち向かっているものがいて、仲間を守っている者がいた。

 隊の皆が主と戦っている。ボロボロになって、必死になって戦っている。


 ちくしょう……。


 心臓が破裂しそうに痛んだ。

 皆が危ない。助けたい。でも俺があそこにいってもきっとチームワークを乱してしまう。

 俺の指示なんてきっと誰も聞いてくれない。きっと邪魔になるだけだ。


 先ほどまでナニカに閉じ込められていた、悔しさや悲しさ、色んな感情が溢れてくる。

 地面に額を押し付けて、あの光景を見ないように顔を埋める。

 が、俺の頭がグイッ、と誰かに持ち上げられた。

 あれを見ろッ、と言わんばかりに視界が無理やり向けられた。

 あれを聞けッ、そう言わんばかりに目の前にいたオッちゃんがなにかを必死に叫んでいる。


「――ぁ――っ」

「たい――ま――」

「もう少し――だ」


 少しずつ音が声になって声が咆声となって俺の耳に、そして濁りきった脳に雪崩れ込んできた。


「守れ、隊長さんを絶対に守れッ!」

「あと少しの我慢だッ、隊長が戻ってくるまで持ち堪えろッ!」

「早くしなさいよ、あの馬鹿クロウエッ」

「クロ坊っ、もう儂駄目じゃ、はよう助けてくれ」

「お姉ちゃんもきついわねークロ君まだかしらー」


 ――何で?

 皆が皆俺の名前を呼んで、守れと叫んで必死になって戦っている。

 何がどうなって?

 恨まれているはずの俺の名前をいつもと変わらぬように呼ぶ彼ら。


「隊長さんよっ、早く起きて指示を出してくれよ……待ってんだオレらはアンタを、早くあんな蟲野郎ぶっ倒して、街に帰ろうや」

『相棒? 起きました? 本当に? わーーー』


 何故か右手をブラブラと揺らしているオッちゃんと、声を上げながら、俺の頬を軽く手の甲でペチペチと叩くドリー。


「な……なんで?」


 俺はそんな言葉を吐かずには居られなかった。

 なんであんた達はいつもと一緒なんだ。なんでそんな信頼を寄せた表情をしているんだッ。

 全てを込めたオレの吐露は、


「そりゃ、アンタがオレ等の隊長で、オレ等があんたの部下だからだ」

 オッちゃんの一言で、振り払われた。


「でも、俺の、俺のせいで皆がッ!」


 先ほどよりも、俺の声は大きくなっていた。


「自分だって分かってんだろ? 隊長さんが居なくても襲われたさ」


 分かっているそんなこと、ここをほうっておいたら安全の保証なんてないこと位。

 俺が切欠になったことで、そして俺がここを走破すれば、これから死んだ人達よりも更に多くの人が助かることくらい分かっている。

 でも……でも俺は……


「沢山の人じゃなくてッ、知り合った皆に死んで欲しくなかったんだッ!!」


 全ての想いをぶちまけるかのように叫んだ。

 知らない。未来で助かるかもしれない人達のことなんて知らない。

 わがままで、どうしようもなく理不尽な天秤は、いつだって俺にとって死んで欲しくない少数に傾いている。

 俺の叫びを聞いたオッちゃんは、少し嬉しそうに顔を綻ばせて笑った。


「そりゃオレも一緒だぜ隊長さんよ。だがちょいと考えを違う方向に向けてみな。

 こう考えればいい。アンタは、アンタの死なせたくない奴等の未来を守る為に頑張るんだ。

 どうだ? これでも動けねーかい?」

 

 オッちゃんの言葉に先ほどよりも身体に力が入っていくのを感じる。でも、それでもまだ動けない。

 そんな俺を、仕方無さそうな目つきで見つめたオッちゃんは、舌打ちを一つ漏らして俺に背を向けた。


「……ゲ……トだ」

「……え?」


 呟くように漏らしたオッちゃんの言葉を俺は、聞き取ることが出来ずに聞き返す。


「【ゲント・オーラルド】それがオレの名前だッ!

 っは、こんな発破の掛け方はちとズリーとは思うが、どうする? 知っちまったぞ名前を。

 隊長さんは見捨てることができんのかいオレを? 無理だアンタには無理だ。

 さあ、立ち上がれよオレの隊長。オレ達の隊長ッ!

 背負った荷物を捨てるには、まだまだはえーだろうがッ!」


 ニヤリと笑ったその顔はとても意地の悪そうな顔をしている。


 ……嗚呼、オッちゃんずるいよそりゃ。


 呆然とした表情になってしまった俺を見て、ドリーが『ふふふっ』と楽しそうに笑い声を上げた。


『さあ、相棒困ったことになってしまいましたね? 相棒が積み上げてきたモノは、決して崩れてはくれないみたいですよ?

 立ちましょう。見せてください。

 私の信じた貴方の強さを、私が信じた相棒を。

 武器を握って、走りだして……貴方には私も皆さんもついていますっ』


 高らかに上げたドリーの指は主の方へと向いている。

 アレほど動かなかった身体は気がつくと動き出していて、ナニカに抑えられていたかのように燻っていた俺の心は、気がつくと轟々と音を立てて燃え上がっている。

 立ち上がる自分の足で、握り締める自らの手で。


「もう一度、もう一度オレに命を預けて貰うけどいいか? オッちゃん」

「ああ? まだ返してもらった覚えがねーんだがな?」


 互いに苦笑を交し合い、肩に飛び乗ったドリーと共に、俺は大地を蹴り上げ走り出す。

 埋まった、ヒビが。修復された、心が。

 オッちゃんの言葉だからこそ俺を動かした。

 隊の皆の姿だったからこそ俺は立ち上がれた。

 被害者とも言える彼らだから、一番苦労した彼らだからこそ、俺の心は動き出していた。


 なんて調子のいい奴なんだ俺は。

 死んだ者がいるのは変わらないし、その人達が生き返るわけでもない。

 なのに、俺の背中は信じられないほどに軽くなっていた。

 蟲毒に入る以前より軽く。あれだけ感じていた心の不安定さは、すっかり消えてしまっていた。


 眼前に迫る隊の皆の戦う姿。暴れる主に押される姿。

 蠅とウジを繰り出そうとしている主を牽制しようとしているが、動きが遅くこのままでは間に合わない。

 出さないと指示を――力強く、声高に、動かすんだ俺達が生き残る為に。


「前衛ッ、遅れてんぞッ、もっと後ろの援護をしてやれッ!

 後衛ッ、牽制するなら質より量だ。魔法の選択が甘いっ!

 リッツは、もっと数を撃て、ケチって死んだら鼻で笑ってやるぞ」


 反射的、とも言っていいほどに俺の出した指示を聞いて隊が動く。

 主の繰り出そうとしていた攻撃を、針を迎撃した時と同じように、数に任せた魔法が遮り、魔力消費で疲れてしまった後衛を前衛が援護し持ち直させる。

 魔法を叩き落すことに夢中になっている主は、リッツ達の遠距離射撃の的となった。


「おお隊長っ、寝坊しすぎですよ?」

「馬鹿なの? おッそいのよクロウエッ!」

「クロ坊、儂もう休むから後は任せたぞぃ」

「クロ君おねーさんもお休みしていいかしらー?」

「隊長自分もう駄目」


 主の攻撃を防いだのを確認した瞬間。口々に好き勝手なことを言ってくる皆。

 相変わらずの調子に、思わずオレが面喰らってしまったほど。

 『休んでいいぞ』『今まですまなかった』そんな言葉が喉からせり上がりそうになったが、堪えて唾でも飲み込むかのように、体内に下す。


 まだ駄目だ。もう少し頑張ってもらわないと。

 既にオッちゃんから、資材の状況は聞いている。休んでいる余裕なんてない。

 今から使う資材の分は絶対に必要なものなのだから。


「お前ら、休んでいいのは主を倒した後だッ!

 もうちょっとだけ気合入れて頑張ってくれ、時間を稼げ、俺に情報をくれ。

 絶対に、絶対に俺が突破口を見つけ出す!」


 俺の言葉に「エー」といった不満の声を漏らす皆。

 だが、その身体は既に主へと向いていて、武器は主へと掲げられている。

 口には出さず礼を言いながら、俺は最後の決め手となるナニカを探すために、皆を動かし攻撃を再開させた。




「右から魔法、左から矢弾。目くらましも混ぜてみてくれ。

 それが駄目なら位置を移動。次の指示する場所に攻撃をッ!」


 様々な角度から攻撃を試す。

 どこかに死角はないか、反応が遅い場所がないか。

 少ない資材を遠慮なく使い、攻撃を繰り返す。

 俺はそれには加わらず、少し離れた場所でジッと主を見つめながら様子を伺っていた。

 見る、視る。

 異常な反応速度を貫ける秘策を編み出す為に、俺は動きたくなる身体を抑えて、見つめ続ける。


「――ッガァ!!」


 一人の走破者が吹きとばされても俺は動かない。

 一人の走破者の足が潰れても俺は動かないッ。

 ただひたすらに観察し続け、攻撃箇所を指示していくだけ。

 

 今すぐにでも走り出したい。今すぐにでも俺も参加したい。

 そんな激情を強引に抑え付け続け、何度か攻勢を繰り返した頃。

 

 不思議なことが起こった。

 

 リッツ達の放った矢弾を、主がいつもと同じように振り払ったその時だ。

 数本の矢が、当たり所がおかしかったのか、魔法の風に煽られたせいなのか、跳ね飛んだ勢いを、ゼロと言ってもいいほどに落とした。

 少しだけ上に跳んだ矢がゆっくりと落ちるゆっくりと。

 主の右目と左目付近に。

 

 ――コツ。

 力ない音。何のダメージにすらもならない直撃。

 当たった“右目”に落ちた矢弾だけが。


 ――ッツ!?

 ガチリ、と思考の撃鉄が跳ね上がる。

 疑問の束が溢れ返り、打開の道が姿を現す。

 オカシイ、絶対にオカシイ。

 普通に考えれば特に気にすることもないのかもしれないが、主のとった行動によって俺の脳内には、いまや違和感しか残っていない。


 当たったのは右目付近だけ。左へと落ちた矢弾は主が腕で振り払ってしまった。

 何故右だけ? 何故左は振り払った?

 そんな俺の疑問は、長く続くことはなく、主の顔の周りで飛んでいる蝶子さんの姿を見たことで解消された。

 そう主にすら姿が“見えていない”蝶子さんの姿によって。


 撃鉄が下りた。

 浮き上がる昔の記憶と、懐かしい思い出。

 それが高速で回る情報の波へと入り込んで、貫きの策を生み出した。

 だが、準備が必要だ。俺だけでは不可能だ。

 まだ早い、既にミミズの攻撃が始まろうとしている。


「全員、後方に下がれッ! いい加減飽き飽きしていたコイツをぶっ飛ばすぞ!」


 待ってましたと言わんばかりに表情を変えた隊の皆は、疲れを見せない動きで後方へと引いていく。

 そんな俺達にとって、そこに出された追撃の蟲なんてものの数ではなかった。


 後方へと下がり、ムカデの攻撃を避けきった俺達は、どうしても動けそうにない怪我人を骸の山影に休ませ、この死闘を終わらせる為に、隊列を整えていた。

 すでに指示は伝えきった。後はタイミングと隊列だけ。


「先頭は俺、そのすぐ後ろに炎のエントの使い手、さらに後方に岩爺さん。

 両翼に土の使い手と風の使い手、最後尾には全遠距離部隊と補助魔法の使い手だ。

 魔力は回復したな? 身体強化はケチらず掛けたな? 体力は万全だろうな?」


 ――応ッ!

 当然だ、とばかりに了承の声音が上がる。


『皆さんの頑張りしだいで、私の秘蔵の果物を提供させてもらいますよっ』


 ――応ッッッツ!


 おい、俺の時より声がでかいんですがね?


 現金な皆に苦笑を漏らし、毒針の攻撃が終わったのを見計らった俺は、

「お前らッ! 決戦だ。死力を尽くせ、全力を燃やせ!

 俺達の全てをあの野郎に叩き込むぞッ!」

 隊を率いて全てを終わらせに駆け出した。


 

 身体が軽い、心が熱い。

 殆ど全ての魔力回復薬を使い、様々な身体強化を存分に掛けられた俺達隊の勢いは、今までで一番の速度を出していた。

 川の水のように流れていく景色。凄まじい速度で近づく主の巨躯。


【ル゛ゥオオオオオ雄雄雄雄ッツ!!】


 主もこちらの覚悟を分かったのか、咆声を上げて迎撃の構えを取る。

 前傾姿勢のその構えは蟲達を生み出すあの姿勢。

 

「お前ら質より量だ――発射!」


 それを邪魔するように威力を伴わない炎の雨が降り注ぐ。こんなもので、痛撃を与えられるわけがない……が。

 

「目くらましには十分だよなッ。次だ右に土壁四枚。左にありったけ」


 ――ドッドッドッ。

 土壁の生える音が連続で響き渡り、俺達にとっての右に乱雑に四枚。

 そして左に、馬鹿みたいな数の連なる土壁がまるで城壁のように緩やかな弧を描いて主まで出来上がっていく。


 火炎の膜で眩ませた主の目、その隙を突いて俺達は適度に散開しながら土壁へと身を隠した。


「よし、ドリー頼むぞ」

『ほいっ《エント・ウォーター》』


 魔名と共に、俺の右手甲に水のエントが掛かる。

 それを確認した俺は、連れてきていた炎のエントの使い手に、鉄粉が入った袋を投げ渡した。


「遠慮なしにやってくれ! 『リング・デコイ』」

「後で恨まないでくださいよ隊長ッ『エント・フレイム』――」


 水の膜で包まれた俺の右腕に風の球が生まれる、炎エントの使い手が鉄粉を鷲掴み、風の球に手を突っ込むと、轟々とありったけのエントを掛けていった。

 

 攻撃力皆無の風球の内部に、煌々とした炎が渦巻き始め、俺に牙を向くように温度が跳ね上がっていく。

 手を包んでいる水のエントが徐々に熱さを増していき、いずれは耐え切れないほどになってしまうことだろう。

 いや、所詮水の沸点など大した温度では無い。直接炎の熱を浴びないだけマシだ。


 水がぬるま湯に、やがて熱湯へと変わる。グラグラと煮えたぎるエントの水が俺の腕に痛みを与えてくる。


 まだか、まだか、まだかッ!

 歯を食いしばり熱さに耐え、掛け続けられていく炎を見続ける。

 額からは零れる汗。

 暑さのせいか? いや、ただの脂汗だろう。


「隊長ッ、掛け終わりました!」


 エントをかけていた走破者の声をきくやいなや、野球のボールでも投げるかのように、真っ赤に燃える小さな太陽のような魔法球を放り投げる。

 向かうは連なる土壁の城壁。

 速度を落とす必要が無いのをいい事に、主から隠すように土壁の裏を回して予定していた位置へと向かわせていく。


 向かい合った俺から視て、主の真左。

 その場所まで魔法球が辿りついたことを確認して、

「よし、岩爺さん行くぞッ。もう少し頑張ってくれよ?」

 次の段階に進むために声を掛けた。


「ふむ……やはりクロ坊はそっちのほうがいいのぅ」

「……ん? 何か言った」

「何でも無いぞい。では行くとしようかッ」


 隻眼を細め楽しそうに笑った岩爺さんは、隠れていた土壁から躍り出るように飛び出した。

 後に続いて土壁から出て走り出した俺は、先に走る岩爺さんに追いつき、並ぶようにして主の下へと駆けて行く。


【いだ、おまえ゛おまえ゛ぇぇぇッッ!】


 俺を見つけた主が狂ったように喚き始め、鎌腕を伸ばして切りかかってくる。


「ドリー、お前を信頼してるからなっ」

『ぉぉ、ぉぉ……にょほおおおおおお! 任せてください相棒っ』


 きっと顔があったら満面の笑みを浮かべていたであろうドリーは、俺の肩から決して見逃さないとばかりに主を見つめた。


『右ですよっ、後ろにトットで左にグルンですっ』

「あいよッ」


 現在意識を違う場所へと集中させている俺は、ドリーの指示に従うことで、主の攻撃を無意識に近い状態で避けていく。

 

 すぐ近くで聞こえる轟音や、遠くで聞こえる仲間の声が俺の心を焦らせるが、それを懸命に閉じ込めて、俺は意識の集中をこなす。


 焦るなよ俺ゆっくりだ、亀のようにゆっくりと、だ。

 俺が今ノロノロと動かしているのは、先ほど放った火炎入りの魔法球。

 予定位置まで運ばれていたそれは、凄まじい鈍足で主にとっての右手方向から近づいていく。


 そろそろ、他の皆を動かす頃合か。

 俺は右手を軽く上に挙げて、決めておいた合図をドリーに知らせる。


『皆さんっ、炎を右顔に、矢弾を左顔へと向けて発射ですっ、余り無駄遣いは駄目ですよー』

「よし手前等、確か魔法の人数は一人二人でいいそうだ。ほかの奴は絶対に魔力消費すんじゃねーぞ」

「アンタ達、お父さんは怪我人なんだからねッ、しっかり狙いつけて撃ちなさいよッ」


 オッちゃんとリッツの合図が聞こえ、それと同時に主へと向かって攻撃が開始されたであろう音が聞こえてきている。

 俺の現在位置は予定通りなら正面付近で、岩爺さんは左目の方向。

 炎の魔法と矢弾の数は圧倒的に矢弾が多くて、主はどうしたってそちらに意識をさかねばなら無いだろう。


 もう少し……後少し。


『相棒、びゅうびゅう刃が来ます。左に駆け足で八歩お願いします』


 タッタッ、とドリーの指示通り移動したその直後、大地が避ける音と、風が唸る音が俺の身体を叩いた。

 ドリーの指示を信頼している俺にとって、それは絶対に当たらないもので、怖がる必要性がないものだった。


 蛍の攻撃にできれば合わせたい。

 ……大丈夫、間に合いそうだ。


 俺の視界にある火炎球は既に主の足元にまで接近している。

 それをできるだけ主背中から回すように上部へと浮かす。


『ピカピカが来ますッ』

「後はよろしくな?」

『にゅふん、丸太舟に乗った気分でいてくださいッ』


 それはそれは楽しそうですね。


 ドリーの言葉に苦笑を漏らしながら、蛍腕の瞬く閃光を瞼を閉じて回避する。


『ゆっくり上に行って、ひょいと右で、そのままズズイ、ズイっ、ちょいちょい左です』


 閃光の中での火炎球の移動。

 瞼を下ろした状態で、意識だけで魔法球を操作し、目標の場所までもっていく。

 大丈夫だとは思うのだが念には念をというやつだ。


 光が収まる前に、俺は岩爺さんのいる左手方向へと向かう。


『相棒、よろしいですよッ』


 目を開き――まず確認したのは火炎球の所在。

 俺の移動させた魔法は、狙い通りの場所に漂っていた。人で言うなら右耳の真横といったところか、熱が伝わらない程度に離した位置。

 その場所に燃え盛る火炎球は今か今かとその時を待っているようだ。


 緊張の一瞬。閃光の間に、主の顔を左手の方向へと向けるべく移動していた俺は、跳ねるように左へと足を動かした。


【まで……おまえッ!】


 移動する俺とそれに釣られて顔を動かす主。

 もう意識の集中を必要としなくなった俺は、主に向かって右手の人差し指を指し、口端を吊り上げ言ってやる。


「なぁお前さ……その右目“速度が速いものしか見えない”んだろ?」


 既に主の顔は――漂っていた魔法球へと向けられていた。

 ニヤニヤ笑いを湛えながら、俺は魔名を叫ぶように魔法球へと命令を――下した。


《盛大に鳴りやがれッ!》


 大気が灰となる。

 炎熱の爆弾。例えるならきっとそんな言葉がいいだろう。

 内部に圧縮されて(とど)められていた炎は、俺の叫びと同時に爆発し、主の右目を火炎で包み込む。


【グギャグガ嗚呼グガ嗚呼嗚呼アアアッッ!】


 言葉に鳴らない悲鳴を上げながら、主は必死になって炎を消そうと右目を掻き毟る。

 だが、取れない。

 あれは、鉄粉に纏わり付いた炎なのだ。

 取ろうともがけば腕に付き、その腕で目を触ればまた目に移る。


 既に主の右複眼は、使い物にならないほどに黒く焦げ付いていた。


 狙い通り、正しく狙い通りの展開だ。

 蝶子さんの姿が切欠で、思い出したんだ。

 トンボを捕まえる時や、蠅を叩く時にゆっくりと、そーっと近づいていた事を。


 高速で飛び回る蟲達の複眼は、とてつもない視力? 反射神経? を持っている。

 だが、逆にあの蟲達は、速度が余りにも遅いものは見えない――いや見えにくいんだ。


 恐らくあいつは、遅いものを見るときは左目を使っているのだろう。


 土壁での目隠し、左目方向での囮、右目方向での炎の煙幕、そして閃光に合わせての移動。

 俺にとっての乾坤一擲の合わせ技。


 ざまーみやがれッ!


 今までやられてばかりいた鬱憤を晴らすかのごとく悪態をついて、俺は更にこの先へと繋げるために、動き出す。


「いいぞドリー」

『はいっ「右目方向から矢弾の掃射を始めろッ!」』


 死角――主にとって現在右目の方向は完全に見えなくなっている。

 放っておけばいずれは再生してしまうだろうが、燃え盛る鉄粉はウジの体液を少しかけた程度では消えてくれない。


 今の内に決めてしまわないとッ!


 矢弾が主の身体へと突き刺さっていく、甲殻の部分にはアッサリと弾かれているようだが、関節の隙間、複眼、腹部、など貫ける場所は山ほどある。

 

【やめろッ、触る゛なッ、触るなあああッツ】


 異常なほどに暴れだした主は、どうみても冷静な様子ではなく、肝心の俺からすら目を離している始末。

 

「岩爺さんやるぞッ! 片目だから無理ってんなら俺一人でやるけど?」

「ッハ、まだクロ坊には負けんわいッ!」


 ダッ、と二人揃って大地を蹴る。怒り狂って周りが見えていない主の元へ。

 風を切り裂くように身を低く、速く。

 主の通常の瞳で捕らえられないように、そんな想いを込めて大地を疾走する。


「ッぐ」


 岩爺さんの身体がほんの少しだけ速度を落とした。どうにも調子が悪いようだ。

 だが、先ほどの『まだ負けない』という言葉を感じさせるように、落とされた速度がまた上がる。

 大丈夫か? そんな言葉は今かけるべきではない。やってみせろ、それがきっと相応しい。


 そろそろエントを……。


 走りながらも俺は、右手に握っていた槍斧にエントを連続でかけていく。

 一度(ひとたび)紫電が舞うごとに、強くなっていく振動。

 水晶刃の内部が唱えるごとに、蒼い光を灯していく。

 もっと明るく、更に強く。

 絶対に切り裂けるように、なにがあっても刃が通るように、エントを掛け続ける。


 明るさが増す。さらに輝く。

 このままかけ続けたらどうなるのだろうか? ふと、そんな疑問が湧いてきたが、これ以上無駄遣いすればドリーの魔力まで枯渇してしまう。

 ――もういいだろう。

 魔法を止め、右手を開けておく為に武器を左手に持ち変える。


 大丈夫これだけ唱えたんだきっとやれる。


 既に主は目前。

 周囲の状況すら見えていないのか隙だらけ。俺は頼んでおいた指示を、待ち構えているだろう土魔法使いに伝える為に、軽くドリーの腕を指で叩いた。


『了解ですっ「ロック・ウォール準備、俺と岩爺さんの前方に、時間差で三枚足場を作れッ!」』


 俺達が向かう先――主の眼前の地面が、ドリーの指示と共に隆起する。

 岩爺さんと俺は目線を一度合わせ、先頭を切ってそのまま土壁の上面に足を掛け、更にもう一度飛ぶ。


 ゴゴォッ!

 空へと飛び出した岩爺さんの足元に更にもう一枚土壁が――更に飛ぶ。

 ドミノのように縦に作られていく最後の壁が、少し遅れて現れた。

 土壁が生え出す勢いを両足で受け止めて、岩爺さんは暴れている主の顔へと向かって弾丸のように突っ込んだ。

 岩爺さんが左目に、俺は遅れて頭部へと。


 この時初めて主がこちらの存在に気がつき、慌てて腕を使って叩き落そうとしてきたが、

「父さんに手をださないでよねッ」

 リッツがそんな怒りの叫びを上げながら魔弾を連射。


 一瞬だけ気を逸らしてしまう主。その一瞬が致命的で、駄目押しとなった。

 矢のように突っ込んだ岩爺さんが、片目を奪われた恨みと言わんばかりに、主の残った左目を赤銅色の刃で貫いた。

 プツッ、そんな葡萄にマチ針でも突き込んだかのような音と共に、主の左目から、ドロドロに濁った血液が噴出した。


【嗚呼嗚呼嗚呼アアアッツ!!】


 殺意の篭った絶叫が空気を(つんざ)いた。

 痛みがあるのか無いのかは分からないが、流石に両目を奪われたら叫ばずにはいられまい。


 でも、これじゃまだ終わらねーけどなッ!


『ウィンド・リコイル』


 岩爺さんとは違い土壁の勢いを利用できなかった俺は、足りない距離を風の反動で埋める。

 加速する体。迫る主の頭部。


「ホレッ、クロ坊ッ! 一本じゃ心もとないじゃろ、受け取れッ!」


 左目を貫いていた岩爺さんが、主の顔を蹴りつけ刀を引き抜いた。

 落ちていく体をそのままに、俺に向かって赤銅の刀を投げつける。

 絶妙なタイミング、狙い通りの場所に投げる岩爺さんの腕。

 回転しながら風切り迫る刀を、ドリーがパシッ、と受け止めた。


「やるぞドリー」

『おうです、相棒っ』


 両腕で持った槍斧の刃を左へ、ドリーの持った岩爺さんの刀を右へ。


 主の頭部を蹴りつけて、更に加速を付けた俺達は、

「ぶった切れろッッッ!」

『ひゃっほーいっ』

 叫びを上げて主の巨躯の背面坂を疾走していく。

 脊髄を挟むように繋がっている血管を、切り裂きながら――


【――ッ――ッッッツ!?】


 舞い散る血液。千切れ飛ぶ血管の束。

 主の身体が大きく躍動して、意味を持たない咆哮を漏らす。

 紫色と緑色の血管、計十二本――その全てが俺とドリーの手によって主から切り離された。

 

「まだこれからが本番だッ!!」


 迫る地面に破砕音と共に着地。

 即座に左方向へと飛び出して、俺は主の身体から距離を取っていく。


「やれッ! 全部使い切るつもりで撃ち切れッ!」


 待ち構えていたこの時を。

 魔力を溜めて溜めて、上位魔法を撃ちこめるこの時を。

 一発、たった一発撃っただけで倒れかねないこの一撃。


 俺の叫びに呼応するように三名の上級魔法の使い手が唱えた魔名が響き渡った。


 一人の炎の使い手が叫び、

焔の津波(フレイム・ウェーブ)

 あらゆるモノを呑み込み燃やす、獄炎の波が主へと押し寄せる。


 風の魔法使いが唱え、

巨人の暴風タイタニアス・ストーム

 魔力が枯渇するのを厭わず放たれた、余波だけで地面を砕きかねない風の嵐が全てを巻き込む。


 シルさんが杖を高らかに上げ、

月蝕の崩落ルナー・エクリプスフォール

 暗い、黒に染まった巨大な影の円球が、影槍を表面に生やして、隕石の如く落下していく。


 黒と赤が交わって、風がそれを掻き混ぜる。 

 その全てが一塊(ひとかたまり)となって、両目を塞がれ対応出来ない主を飲み込んだ。

 

 爆音――とも轟音とも言えない、音にすらなっていない振動の波が、鼓膜を破かんばかりに鳴っている。

 ギンギンと痛む耳を押さえながら、必死で距離を取った。

 

 地面を捲り挙げるかのように魔法の余波が周囲に撒き散らされている。

 直撃した。間違いなく直撃した。

 此処まで状況を揃えなければ放てなかった一撃は、見事に成功した。

 血管も切った。上位魔法も当てた。


 これなら……。


 見つめる。噴煙と炎の壁を。轟々と燃え盛り渦を巻く赤を。

 そしてその炎の周りをクルクルと飛び回る蒼い蝶の姿を。


 倒したか……いや、まだか、まだだよな。


 周囲の景色は未だ獄のまま、それ即ち主の体内にあるクリスタルの残存を意味している。

 だから、驚くことはなかった。

 立ち上がる俺の先で、炎の壁が縦に割れるのを見ても。


【――ッ――ガアッ!】


 黒焦げの姿。ボロボロの巨躯。背中に生えていた腕すら既に数本折れ消えている。

 残っていた再生力をそこに集中したのか、いつの間にか戻っている左目。

 両手で炎を押しのけるようにして現れた主は、血管(くさり)から放たれ俺に向かって一直線に向かってきた。


 やる……やれる。これで最後だ。


 トンッ、トンッ、と身体を二度ほど跳ねさせ、自分の身体の状態を確かめた。

 軽い、まだまだ避けられる。


『私達の二人の力を見せてあげましょう』

「自信満々だなドリー?」

『当然ですっ、相棒が居てくれれば私は無敵ですっ』


 蒼黒い槍斧を左手に、赤銅の刀を肩の上に。

 足裏が地面を噛んだ。四肢が力を漲らせた。

 爆発するように飛び出した俺達は、主に止めを刺すために駆け出した。


【グル゛ォォ!】


 戦車の如く地面を砕き突撃してきた主が、そのままの勢いで俺に左拳を打ち下ろす。

 身体を左に流して避ける。大地が割れて破片が散るが、既にそこには俺は居ない。

 右振り回しが来るが、それも飛び交い難なく躱す。


 遅い。捕まらない。

 主の力が落ちている。動きが遅くなっている。

 血管の消失、上級魔法でのダメージ、そこに加えて右目を無くした、というとてつもなく大きな痛手。

 様々な要因が重なって、主の力は既に極端に落ちてしまっていた。


【ォォォ、ごんな……どごろでッ!】


 まるで泣いているかのような雄叫びを上げて、残っていた鎌腕を俺の背後から刈り込むように薙ぎ払ってくる。


『相棒、前にグルッと回って飛んでくださいっ』


 ドリーの言葉に従い、前方に向かって宙返りしながら鎌を飛び避ける。

 回る視界の中で、ドリーが回転を乗せながら刀を振るうのが見えた。

 一瞬ほんの一瞬だけ身体に力が掛かったが、俺はそのままグルリと回って地面に着地。

 それと同時に。

 ドスンッ、という音と共に主の鎌腕が半ばから切り飛ばされて地に落ちた。


 すげー切れ味だな……いや、それだけじゃないな。


 こちらの回転と、勢い良く向かってきた鎌腕の加速。

 ボロボロになって弱っていた腕に更に武器の切れ味とドリーの腕が合わさった結果だろう。


【嗚呼……嗚呼……ああああああ!】


 まるで子供が泣き叫ぶかのように己の腕を見ながら叫ぶ主は、ドロドロと濁ったその瞳に、憎しみと怒りを湛えて、最後……恐らく最後であろう 力を振り絞って全力で攻撃を開始した。


【ぐが……ぐがああ……嗚呼嗚呼アアア!】


 ……なんだ?


 自分自身を抱きしめるように両腕を交差させた主の身体に急激な変化が現れた。

 右半身が人の形に戻っていったのだ。ギュルギュルと円柱状の腕が逆戻りするかのように人の腕の形に戻り、表層に生えていた黒い毛も消えていく。

 生々しい肉の色へと身体を変えて、蟲から人へと変わっていくかのように形を変えた。


 なんとなくコイツがやりたいことを理解してしまった。

 全ての力を攻撃に、残った腕へと押し込んでいる。

 その証拠に、残っていた蜂、ムカデ、カマキリの腕が、力を取り戻したかのように、腕を振り上げている。


 ボロボロになった主の最後の猛攻。

 俺はコイツが大嫌いだけど、すこしだけその姿は可哀想だった。

 さっさと止めを刺してやるべきだ。苦しまずに殺してやろう。

 同情するような相手ではないはずなのに、俺はそんなことを考えてしまう。


 狙いは一つ――主の心臓の位置にあるであろうクリスタル。

 あれを砕けば幾ら主でも、もう終わりだろう。

 隊の皆はもう限界だ頼れない。

 それにこいつは、なんとなく俺が止めを刺すべきだと感じていた。


「来いよ、お前に止めを刺してやる」

【お前をごろして……捕まえ……ガアアア】


 ムカデ、カマキリ、蜂、右腕、左腕。

 その全ての腕が、ただ俺一人を殺すためだけに放たれた。

 避けきれるかわからない。もしかしたら無理かもしれない。

 

 ココに来て何度も恐怖を覚えた筈の状況。

 でも、なぜだか判らないが、今は余りそんな気持ちは沸いてこない。

 拳の雨に、俺は一歩踏み出した。


 ムカデの豪腕が、俺に向かって真っ直ぐに叩き込まれてくるのを、左へと身を翻して避け、そのまま主の胸元へと目指して駆けた。

 

 蜂の腕が五本の指をこちらへと向け、毒針を射出してきたが、その針の数は見る影も無く減っていた。


『相棒、いけますね?』

「ああ、そうだな」


 左から俺が武器を振るい、肩の上でドリーが刀を煌かせる。

 落とす。俺が先へと進むのに、必要な分だけを選んで落としていく。

 切って逸らし、時には首だけ動かし躱し、針の弾丸の隙間を縫って更に迫る。

 

【羽……が……】


 主との距離が更に縮まり、俺を迎え撃つ右の巨大な拳が、地面を抉り取るように放たれた。

 ガリガリと地面に跡を付けながら迫る打撃。

 蜂の針を避けたばかりだった俺は、少しだけ身体を崩していた。

 避ける。避ける。走れ、止めをさせ。

 滾った思考が、集中力を高め、巡りすぎた気迫が、少しずつ口から漏れ出していった。


「――ッッッツ!」


 寸での所で、左斜め前へと進みながら避け、言葉にならない音を漏らしながら加速していく。

 短くなった鎌腕が、それすらも厭わず俺を叩き潰そうと上から振り下ろされた。


 かなり速い。すでに力を無くしている筈なのだが、さすが獄級の主という所か。

 ギリギリの所で鎌腕を避ける。凄まじい風圧が俺の全身を叩いた。


『ぁ……』


 不意に、ドリーの小さな声が聞こえた。

 少しだけ視線を動かす。見えたのは、ドリーが腕に巻いていた蒼い蝶の形をした花が、風圧に巻き上げられてヒラヒラと散ってしまった瞬間。

 ドリーは隙を見せるほどの動揺ではない。反射的に声が出てしまったと、いうところだろうか。


 コイツを倒したら、また取ってきてやろう。

 そんなことを考えながら俺は更に速度を上げた。


【グガアア嗚呼ッ!】


 主の右腕が、咆哮と同時に崩れ去る。

 膨らむ左腕。圧力と迫力をます左半身。

 右腕の力を左腕に――形振り構わず、そんな言葉が相応しいだろう主の左拳は、今までに無いほどの加速をつけて俺に打ち出された。


 速い、避けきれない。

 一瞬でそれと分かるほどの速度で振るわれた最後の剛拳。

 左右に避けても間に合わない。魔法なんて撃つ暇がない。


 諦めて堪るものかッ、最後まで諦めてやるものか。

 せめて前に出て、上に飛んで足だけの犠牲で済まそう。右腕は駄目だドリーがいる。左腕じゃ駄目だ。半身を吹き飛ばされれば生きてはいられない。

 でも足なら問題ない。身体が残れば生存できる。腕が残れば武器が持てる。

 ドリーのウッド・ハンドで移動してでも止めを刺してやる。


「――ッ――ッッ――ッッッツツ!!」


 死に限りなく近づいたせいか、俺の視界内の光景が、まるでスローモーションのように遅く見え始める。

 

 迫る剛拳。覚悟を決めた突進。

 俺は前へと向かって飛び出そうと力を込めた。

 が、あれだけ恐ろしい速度を出していた主の拳が、何故かグンと速度を落とした。

 

 ……あいつどこ見てやがる。

 先ほどまで俺を見ていたはずの主の視線は既に他の場所へと向かっていた。

 中空――ヒラリヒラリと落ちてくる蝶の花へと真っ直ぐに。花の近くには蝶子さんも居て、まるで主が蝶子さんを見ているようだった。


 理由なんて分からない。でも目の前で見せられたこの多大なる隙を、見逃していいはずが無い。

 速度を落とした主の拳を、身体を回転させるように避け、大地を蹴る。

 阿吽の呼吸というべきか、何も言わずとも、ドリーは俺のして欲しい行動をとってくれた。


『ウッド・ハンド』


 俺の前方に生えた樹手が、海老反るように、俺へと向かって倒れこみ、人差し指と中指をくっ付けて踏み切り板のようにこちらへと差し出した。

 掛けられた足。跳ね上がるよう動かされた樹手の指。

 タイミングすら無言で合わされ、俺は主の胸部目掛けて、ただ真っ直ぐに飛翔した。


 ――やっちまえ、隊長。

 そんなみんなの声が聞こえた気がした。


「ぁ――ッ――ッァ――――ッツ!」


 自分でも何と叫んでいるかわからない雄叫びを上げて、俺は主の胸部に止めの一刃を突き込んだ。

 抵抗も無く差し込まれる刃が、柄の奥まで抉りこむように侵入して、

 主の胸の内にしまい込まれているクリスタルを――貫いた。


【ぁぁ……ぁああ……アアアア嗚呼ッ!?】


 口、瞳、ボロボロになった体。その全てから光の束が溢れ出す。

 世界が白に染まって、光が獄の壁を照らす。

 崩れ去っていくかのように、骸の山が塵となって消えていく。

 瞬く光が徐々に、徐々に消え、全てが消えた後残っていたのは、

 何かを捕まえたかのように左手を握り締めて倒れている主と、広く、地上に向けて口を開けている大穴の底だけだった。


 し……死んだのか……ッツ!?


 ズズ、と弱々しい音を立てて主の顔が動いた。澱んで濁りきってしまっている瞳を真っ直ぐに俺に向け、炭と化して真っ黒になってしまっている 口をボソボソと動かし、呪言の如き呟きを俺に押し付ける。


【お前……お前は……ずっと狙われ続ける……逃げでも無駄だ……たどえお前が捕まらなくとも関係ない……いずれ同胞がせがいを……変……しまう……滅びればいい、人なんで……っぐ、羽が羽だけあれば……嗚呼、羽に……えた】


 弱々しく衰弱している主は、自らの左手を少しだけ開いて、瞳から憎しみの灯火を消し去り、そのまま事切れた。

 手の中に、ドリーがつけていたあの蒼い花弁が握られたままで。


 俺は、呆然としながら遥か遠くにある小さな地上の光を見つめる。


 ああ……聞かなければ良かった。今俺はそんな気持ちで一杯になっていた。

 狙われ続ける、逃げても無駄。俺が捕まらなくてもいずれ同胞が世界を変える。人よ滅びろ。

 後は羽だとか訳の分からないことだけだが、分かることだけ聞いたとしても、正直碌な話じゃない。


 簡単に言えば俺は狙われ続けて、例え逃げたとしても、そのうち世界は獄級関係で碌なことにならない。

 ため息しか出ない。どうしてこう、悩み事が増えていくのだろうか。


 主の話を真に受ける、なんてどうかとも思うが、それを信じないで貴重かもしれない情報を無為にするのはそれこそ拙い。

 シャイドの言うことだったら俺は絶対に信じてなかったのだが、この主はシャイドほど嘘つきな感じがしないのでどうにも本当臭い。

いや、戦って感じたことなので、なにも証拠はないのだが。

 

 ハァ……止まらないため息を、また吐き零す。

 

『あ、相棒、蝶子さんがッ』


 考え事をしながらぼーっとしてしまっていた俺の耳に、ドリーの悲鳴にも似た声が届いた。

 ドリーが一生懸命示した方向を見てみると、そこには先ほどまで無かったはずの、見覚えある光球が主の頭部付近でフワフワ浮いていた。

 

「はあ? ちょ、蝶子さんなにしてんの、待て、ちょっと待てッ!」


 俺の制止の声を聞いてくれることも無く、蝶子さんは、真っ直ぐに、まるで吸い込まれるようにして、球の上部へと向かって飛んでいき――そのまま陽炎のように身体を崩して消えてしまった。

 残っていた燐粉のような魔力光が、小さな竜巻でも出来たかのように渦を巻き、球の中へと吸い込まれていく。


 もう訳が分からないことばっかりだ。

 なんだったんだ蝶子さんは、まさかこのまま消えたままなのか?


 疑問よりも、俺の胸の内には寂しさのほうが強かった。


「おーい隊長さんっ。どうなったんだ!? そいつ死んでるのか?」


 声に振り返ってみれば、オッちゃんを筆頭に走り寄ってくる隊の皆。

 全員が全員俺に向かって「どうなったの?」といった表情を浮かべている。

 ただ、俺の感じている疑問とはまったく種類が異なるものだ。

 隊の皆が求めている答えは「獄級を走破出来たのか?」といったことなのだろう。


 とりあえず……悩みもあるし、疑問も尽きないし、まだまだ考えないといけないこともあるけれど、今は一先ずそれは横に置いておこう。

 俺が今やらなければいけないことは、隊の皆を安心させてやることなのだから。

 

 じっとこちらを見てくる皆に、俺は黙って武器を空へと向けて、大きく息を吸い込んで、

「お前ら……安心しろッ、蟲毒の坩堝は無事に走破完了だッッ!」

 自信満々にそう言い切ってやった。


「ほ、本当にか?」

「やっとここまで……」

「これで仲間が……」

「嗚呼……」


 不安気だった皆の表情が変わり、俺に続くように各々が武器を振り上げ空へと掲げた。

 

 上がるボルテージ。込み上げる歓喜の感情。

 今までの不安や恐怖。

 苦労や鬱憤。

 その全てを吐き出すかのように、皆の雄叫びのような歓喜の声が上がる。



 深い深い地の底で、響いた声は、遥か高く遠い地上の光りを目指して貫くように通り抜けていった。






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