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俺の人生ヘルモード  作者: 侘寂山葵
蟲毒の坩堝
72/109

6-19

  

 




 私のことに気づいていないのか、端から眼中にないのかは分からないけれど、前方を歩く蜘蛛達はこちらを振り向くこと無く死骸の通路を奥へと向かってドンドンと進んでいく。


 相手をされていないのは非常に助かる。だが残念ながら、今の私はそれを悠長に喜んでいる暇すらもなかった。

 

 揺れる糸、それに伴い強風に煽られた木の葉の如く振り回されていく身体。

 

 乱暴に通路を引き摺られ、ゴツゴツとした起伏ある地面に跳ね上げられて、もうなんど蔦を離しそうになったのかわからない。

 壁に打ち付けられ、指を滑らせ後に戻されて、なんど自分の不甲斐なさを悔やんだかわからない。

 

 それでも必死になって蔦を掴み、諦める事だけはしなかった。

 

 離さない。この手だけは決して離しはしない。

 

 ただそれだけを考えて、アイビー・ロープを握り締める。

 根足でナイフを固定して、親指と人差し指で蔦を掴む。

 残った指と手の平を順繰り動かしながら――私は、少しずつ、ほんの少しずつ糸繭の元へと近づいていく。

 

 せめて……あの繭にまで辿りつければ楽になる筈です。


 前方に見える誰かが包まれているであろう糸繭を目標に定め、そこまで辿り着こうと必死になって進んでいく。

 だが、突然蜘蛛が進路を右へと変えたせいで、またも蔦が激しく揺れ動き、私はなすすべもなく翻弄されて、硬い壁へと叩きつけられた。

 

『っく!?』


 尖った地面にでも触れてしまったのか、手の甲にはザクリと小さく傷が入り、魂とも言える私の内部に刺すような痛みが走る。

 

 大した痛みでは無いはずなのに、思わず蔦を握っていた力を緩ませてしまい、

 ――ズルリ、そんな嫌な音と共に、私は蔦をすべり落ちるようにして、後方へと戻された。


 ああ、また……また戻されてしまいました。


 振り落とされることだけは意地でも免れたものの、繭までの距離が……また遠退いた。

 先ほどからずっとこの調子だ。

 進んでは戻され、また進み。一向に繭の元へと辿り着くことが出来ていない。


 ……平気ですっ、また前に進めばいいのですから。

 ふふん、痛みだって気にしません。元々私は普通の人とは違って痛覚も触覚も全てが薄いのですし、この位なんて事はありません。

 き、傷だって何も問題ないです。後で相棒から魔水を頂いて少し休んで治せばいいのですっ。


 落ち込みそうになっていた気分を、相棒を助けた後で貰えるであろう褒め言葉を考え強引に持ち直す。


 この程度、なんのそのですっ。


 相棒やリーンちゃん他の皆と比べ、正常な感覚も無く、まともな身体すら無い私だけど、今はそれが逆にありがたい。

 痛みが薄いお陰でこうやって手を離さずにすむのだから。 


 後ろ向きにばかりなりそうになる気持ちを、楽しい事を考え前へ前へと向かわせる。


 大体、昔に比べたら今の私は十分恵まれているではないですかっ。


 本体の中に居る時なんて感情と呼べるものなんて殆どなくて、思い出と言えるものだって沼に揺蕩(たゆた)う自分以外の記憶しか無かったのに……今ではどうだ、相棒に出会い色んな場所に連れていってもらい、私の心の宝箱には溢れんばかりの思い出がつまっているではないか。


 これも、これも全て相棒に出会えたお陰。

 

 助けたい――なんとしてでも私の一番の宝物とも言える彼を、あの場所から助けだしてあげるんだ。


 諦める気持ちなんて微塵も湧かず、不安な気持ちなど、相棒の顔を思い描いて誤魔化した。

 

 やっぱり相棒は凄い。いつだって私に力を与えてくれるのだから。

 

 芽が出るように勇気が生まれ、花開くように希望が咲いた。


 早くあの居心地のいい場所へと戻りたい、落ち着く場所へと帰りたい。

 自分でも良く分からないが相棒の側にいるとお日様の下にいるように暖かくなって、とても気分が和らいでしまう……まるで元から彼の側が私の居場所だったかのように。


 ぼんやりと相棒の事を考えていると、いつの間にか蔦を握る手には更なる力が漲っていて、先ほどまで感じていた少しの痛みは見事に吹き飛んでいた。


 再度糸が揺さぶられる。

 

 ぬふぉお、負けませんっ、下がりませんっ。それくらい絶対に出来る筈なのですっ。

 何故なら、世界一の相棒の、世界一の右腕が、この程度の事なんかで負けていい筈が無いのですからっ!!

 

 糸の揺れが収まり、恐る恐る自分の位置を確認した私は『ほら見たことか』と言わんばかりに前方を進む蜘蛛へと向かって『ふふっ』と自慢げな声を向けた。


 まだまだ余裕のある状況でない。でも、それでも私は上がっていく気分を抑えることは出来なかった。

 だって、今居る場所は先ほどと全く変わらぬ位置――そう、私はもう後ろへと戻される事はなくなっていたのだから。


 それを見て更にやる気を充実させた私は、また蔦を手繰りながら前へ前へと向かっていった。


 延々と進んでいくうちに、ようやく一先ずの目的地でもある糸繭の元まで辿りつく。

 嬉しさから反射的に繭の上へと登ろうとしたのものの、ふとコレに触っても大丈夫なのかと不安が過ぎって手を止めた。


 皆さんが先ほど巻かれていた様子から見ても、この糸にはネバネバが付いていると考えたほうが良い気がします。

 そうなると、迂闊に触って私までくっついてしまっては大変な事になってしまいますね……。


 そう考えると不用意に手を出せない……。

 

 ――おや? 

 

 暫く頭を悩ませながら繭を見ているうちに小さな疑問が芽吹く。


 オカシイですね。もしこの糸がネバネバなのでしたら、繭が地面に引っ付いてしまうのでは?

 

 あれだけ強力な粘着力があるのだから、そうなっても当たり前なのに、どこからどうみてもそんな様子は見受けられない。

 

 むむ、一体どういう事でしょう。


 はやる気持ちを抑え少し冷静になって考えてみると、他にも少々妙な部分がある事に気がついた。


 今も巻き付いているアイビー・ロープの存在だ。

 

 あの時は焦ってアイビー・ロープを伸ばしてしまったが“糸には魔法が効かない”というよりも霧散させてしまう効果があった筈……なのに、今も蔦縄は消えることなくしっかりと巻き付いているではないか。

 またもやオカシイ……もし魔力を霧散させてしまう効果が糸にあるのなら、この縄だって消えて然るべきではないか。

 

 もしかしたら……皆さんを巻いている糸はあの巣に張られていたものとは、そもそも種類が違うのでしょうか? 

 それとも巻かれた後に蟲さんが何かをして効果が変わってしまったのでしょうか?

 

 自分なりに色々と仮説を立ててみるも、どうにも相棒のようには上手くいかない。

 

 困りました……このまま考え込んでいても状況が良くなるとは思えませんし、いつまでも蔦に捕まり続けていたら、さすがに落ちてしまいそうです……。

 んー、繭に触れている蔦も、引きずられている地面にも、ネバネバがついている様子はありませんし、ここは思い切って触れてみたほうが良いかもしれませんね。


 よし、と覚悟を決めた私は、ズルズルと糸繭へと近づき、そっと指を伸ばして、チョンチョンとつついてネバネバを確かめる。


 ――コツコツ。


 返ってきたのは金属を突付いたかのような硬い音、予想通りというべきか、私の指先がくっつく事はなかった。


 やはり何かしらの理由で粘着性がなくなっているようだ。


 そうと分かればもう遠慮はいらない。

 私は乱雑に巻かれた糸の隙間に指を入れ、落ちないように細心の注意を払いながらも、繭へと上がる。

 引きずられているのでそれなりに揺れる繭ではあったが、蔦に捕まった状態よりは酷くない。


 根足で持っていたナイフを手で握り直し、繭の隙間に根を通して身体を安定させた私は、ぐるりと手首を回して周囲を探る。


 さて、これからどうしましょう、蜘蛛さん達は相変わらずみたいですし……。


 未だこちらに目を向けることすらなく淡々と奥に向かって進んでいるモンスター達。

 その様子は、まるで感情も何も無く、ただ己のやるべき事をこなしているだけのように見える。

 

 どういった意図でこちらを無視しているのか分からないが、今なら一人くらい救出する事も出来るかもしれない。

 私だけで出来る事なんて限られているし、一人でも救出できればきっと打開策だって広がる筈。


 ふふん、なんという名案でしょうっ。

 自分の考えに思わず賛美を送りながらも、まずは足元にある繭の一部をナイフで切ってみる事に。


 中に入っている誰かを傷つけないようにナイフの切っ先をそっと、糸の間に入れ込み力を入れる。

 ――ギギギィ。

 しかし、それなりに力を入れた筈のナイフの切っ先は、糸を切るどころか傷一つ入れられず、嫌な音を鳴らしただけで終わってしまった。


 異常に硬い。

 相棒達を巻いている時点ではまだ多少の柔軟性持っていたはずの糸は、今では尋常では無いほどの硬度を誇っていた。


 もしかしたら、時間経過と共に硬さが増すような糸なのでしょうか? 

 残念ながら私では切れそうにはありませんね……。


 私のナイフの切れ味と、入れた力具合から鑑みても、これを断ち切れるのは岩のお爺さんか、エントで強化された相棒の武器くらいのものだ。

 後は、糸を切っていた蜘蛛の爪をどうにか手に入れるといった案もあるが、さすがにそれは危険すぎる。

 幾ら私を無視しているからといっても自分達が攻撃されてまで大人しくしているとは思えない。


 一体どうすれば……。


 一人考え込んでいると、今まで忘れていたもう一つの悪い事実に気がついた。

 そういえば繭に包まれる前――皆さん針のようなものを打ち込まれて動けなくなっていたではないか。

 

 なんということでしょう……なにかしらの毒なのだとは思いますが、仮に助け出したところで満足に動けないのならどうしようもないではないですか!?


『にゅふぅ……』


 自分の考えていた名案は実は全く役に立たないものだったようだ。

 思わず悔しさから少しだけ声が漏れる……が、なにも気がついたことは悪いことばかりではなかった。

 相棒達が糸に巻かれている場面を思い返していたお陰で、他にも気がつくことあったのだ。


 確か相棒はあの時針を打ち込まれた後も暴れていた筈です。もしかしたら相棒だけは動けるのでは?


 相棒には蜂の毒も効果が無かったようだし、十分あり得る話しだ。

 一瞬だけ『ならば何故相棒は今も大人しく繭に捕まっているのでしょうか』といった疑問もチラついたが、相棒が捕まる直前のこと思い返せば、その答えはすぐに出た。


 きっと、蜘蛛の攻撃で意識を失っているのでしょう。


 さすがに確信とまではいかないが、その可能性はかなり高く、賭けてみる価値は間違いなくある。


 今の私に出来ることは余り多くはありません。今はその可能性に賭け、やれる事をやっておくべきですっ。


 一旦そうと決めてしまえば、私がやらなければならないことは一つ。

 今もどこかの繭に捕まっている相棒を探し出し、回復魔法を掛けて意識を取り戻させてあげるだけ。


 確か相棒は武器を“右手に”握ったまま繭へと閉じ込められていた。

 つまり、私が相棒の意識さえ戻してしまえば、身動きが取れなかろうと、武器にエントを掛けることくらいは出来るということだ。

 幾ら硬い繭であろうと、一旦あの武器の能力さえ発動してしまえば、先端部分だけは間違いなく切り裂ける。

 そこまでいければ後は私が外から武器を受け取って、相棒を解放して差し上げれば良い。


 むふふ、今度こそ名案です。

 

 捕まる前は糸を避けることや、周囲の状況を把握するのに必死で、そこまで手が回らなかったようですが、今度は私もご一緒できるのです。

 相棒と私が二人揃えば蜘蛛さんなんてぺぺぺいっと簡単に撃退出来ることでしょう。

 

 やってみせましょう、相棒を助けるために。

 見事こなしてみせましょう、皆さんを解放するためにっ。


 揺れる繭の上――気合を入れるために私は一人拳を振り上げ、救出の為に動き出す。


 まずは、相棒の位置を確かめる事から始めなければ。


 周囲を引き摺られている繭をキョロキョロと見渡して、隙間からこぼれた衣服や武器で中に居る人が誰なのかを一つ一つを調べていった。


 まず自分のすぐ近くにある繭だ――相棒にしては少し太めの男性らしき腕が糸の隙間から、ちらりと見える。


 相棒ではない? 

 いえ、焦ってはいけません。相棒のことですし、溢れるぱぅわぁが爆発すれば、腕くらい太くなっても全然オカシクはな……い。

 

 ッハ、まさか相棒!?


『むぅ……』


 うなり声を上げながら、じっとその腕を見てみるが、どうにも肌の色が違う。

 残念ながら別の方のようだ。

 

 次の繭を見る――なにやら三角のフサフサした耳が飛び出していた。

 

 んー、これはさすがに違うでしょう。

 いえ待って下さい……相棒ならばちょっと頑張れば、耳くらい幾らでも生やすことが出来る!


 あ……相棒?


 少しの間、この繭に相棒が入っているのでは、といった疑いを掛けてみたのだが、よくよく考えているうちにそれはありえないと気がついた。


 現在相棒は意識を失っているはずです……いくらなんでも、気絶している間に耳を生やすなど馬鹿げた芸当が出来るとは思えません。

 

 やはりこれも違う方でしょう。


 その後も一頻り繭を見渡してみたのだが、どうにも相棒らしき姿は見当たらない。

 どうやら、最後尾の蜘蛛が牽引している繭の中にはいないようだ。

 前方を歩く蜘蛛に近づいてみようかとも思ったが、飛び移るのに失敗して振り落とされでもしたら目も当てられない。

 

 蜘蛛達がどこへ向かっているのかは分からないが、ここは一先ず様子を見て、止まってくれるまで待つべきだろう。

 焦る気持ちは勿論あったが、少なくとも最後尾の繭には相棒が居ないことが分かったわけだし、まるで進展していないわけではない。

 そう自分を諌め、今すぐ前へと向かいたい気持ちを抑えていった。


 私が一人繭にへばり付いている間にも、蜘蛛達は下に、下にと向かってひた進む。

 縦穴を糸を使って降り、天井を八本の腕を使って逆さに這う。

 その度に繭から振り落とされないようにしがみ付き、私はひたすらに好機を待って耐え忍ぶ。


 暫く進んでいくうちに、通路の景色が変化を見せ始めた。

 死骸の壁が目に見えて減り始め、ドクドクと動き続ける血管が増えていく。

 淡く光る緑の液体が増えたせいか、辺りは先ほどよりもさらに明るく照らされて、まるで通路全てが発光しているようだった。


 一体これは何なのでしょう……。


 魔力のような、命力のような、不思議な力を感じるが、とてもあやふやで分かりにくい。

 色々なものが入り混じりすぎて元の形を忘れてしまったような、そんな不安定な力が篭った緑色の液体。

 しばし、そのよくわからない緑の液体を眺め周囲を見渡している――と、急に前を進んでいた蜘蛛達が足を止め、必然的に私が乗っていた繭も停止した。


 蜘蛛の足下から前方を伺うと、なにやら、広い部屋の前で立ち止まっている様子。

 

 目的地に着いたのでしょうか?


 いつ何が起こってもいいようにナイフを握り、周囲を警戒する。

 だが、特になにか起こるわけでもなく、繭をモゾモゾと動かしていた蜘蛛達が再度動きだし、ゆっくりと広間の中に入っていった。


 何も起こらなかったことに少しの安堵を感じていた私だったが、

『な、なんですかここはっ!?』

 蜘蛛達に続いて入った広間の有様を見て思わず驚きの声を上げてしまった。


 人、人、人。

 亜人や人種、様々な人と呼ばれる者たちが、広間の壁一面に埋もれている。

 いや、その表現は少し正しくない。

 捕まっている。きっとこれがこの現状を正しく表す言葉だろう。

 何故なら、壁に埋もれているように見えた人達の背後には、一匹づつモンスターが張り付いていて、抱きしめるようにして人々を抱え込んでいたのだから。


 豆みたいに少し弧を描いた丸い胴体――そこから生やした六本の足は、背後から抱え込むようにして人間を捕らえ、人間を模した頭部に生やした鋭い針を捕らえた人達の首筋に深々と突きこんでいる。

 時折ゴクリと脈動するように体を震わせなにかを吸い取っているその様は、まるで大きな(ノミ)のようだった。


 一体何をなされているのでしょうか。


 よくよくそのモンスター達を伺っていくと、壁に半ばから埋もれているノミの胴体後方から、緑色の血管が伸びているのが見て取れた。 

 ……いや、ノミだけではない。

 抱え込まれている人間達の身体からも、ロープ程度の太さがある赤い血管が数本伸びている。


 もしかしたら、あのモンスター達が吸い取ったものが、この血管の中を通っている液体なのでしょうか。

 でしたらあの赤い方の液体は一体……。


「あ゛あ゛あ゛ぁぁ」


 考えを巡らそうとしていた私の思考を打ち切るように、横合いから苦痛に喘ぐような、くぐもった声が聞こえてきた。

 声の方向に視線を向かわせてみると、そこにいたのはモンスターに抱えられている一人の男性。


 ――ッツ!? まさか……この方達は、まだ生きておられるのですか?

 なんて、なんて酷い事を……。


 てっきり亡くなっているとばかり思っていたが、どうやらそれは違っていたらしい。

 うめき声を上げている人達は、一様にして苦悶の表情を浮かべ、時折ノミに何かを吸われるたびに体をビクリと跳ね上げ、身を震わせていた。


 何故こんな延々と苦しめるような真似を。

 どうして、こんな事をする必要があるのでしょうか。


 怒り――いや、悲憤が私の心を埋め尽くす。

 今までの旅路でも、モンスターに襲われて死んでいった方々をこの目にしてきたし、獄級に入るのだって、初めてではない。

 なのに、それなのに、何故か今までに無いほど私の心は揺れ動き、自分ではどうしようもないほどの悲しみが湧き上がってきていた。

 

 思わず視線を逸らしてしまった私の視界に映ったのは、ヒラヒラと飛び交う蝶子さんの姿。

 その飛び方はいつものとは異なりどこか力の無いもので、まるで悲しみに暮れているように見える。


 少しの間呆然としてしまい、動きを止めてしまっていた私だったが、その蝶子さんの姿を見て『いつまでも時間を無駄にするわけには』と腕を振って思考を改めた。


 急がなければなりません。恐らく……いえ、間違いなく、この蜘蛛達は、皆さんをここへ連れてくるために止めを刺さずにおいたのでしょう。


 私が考えを巡らせている間にも、蜘蛛は繭に繋がっていた糸を爪で断ち切り、壁際へと移動させていく。


 大事な相棒があんな姿になってしまうかもしれない。

 そう考えると、いてもたってもいられなくなり、私はひょいと繭から飛び降り、蜘蛛の視界に入らぬように、付近に転がっていた繭を順番に探っていった。


 もうあまり時間がありません。


 壁側へと繭を並べ“何かを待っているかのように”動きを止めていた蜘蛛達だったが、

「……うっ」

 端の繭から聞こえてきた誰かの呻き声を切欠にガサガサと動き始めた。


 爪をナイフのように器用に使い、繭を中央から開いていった蜘蛛は、呻き声を上げながら“体を捩って”逃げようとする男性を二本の腕で捕まえると、ゆっくりと掲げるようにしてノミの元へ歩き出す。


 急がなければならない事はわかっていたが、思考の隅に、小さな小さな疑問が湧いた。

 

 何故あの人は今動けたのでしょう? 

 

 思わず思考がその疑問に引っ張られていきそうになるが『今そんなことを考えている余裕などない』と、体を振って強引に外へと追い出した。


 考えるのは後です、今は早く相棒を探さないと。 

 必死になって繭を調べていくが、相棒の姿は中々見つからない。


 急がないと、早くしないと。


 そんな私の焦りを更に加速させるかの如く、事態が悪化する。

 三匹いた蜘蛛の内一体が、一つの繭だけこの場所には置かず、何故かそれを持ったまま広間の外へと向かって移動し始めたのだ。


 何故あの一つだけ……もしかしたらあれが相棒?


 ここからでは少し遠くて、繭の様子は確認出来ないが、確かあの蜘蛛が持っている繭はまだ調べていなかった気がする。

 可能性はある……追いかけるべきか。

 

 でも、もしそうじゃなかったら?

 そう考えると、私は動くことが出来なくなっていた。


 湧き水の如く、次々と胸中に溢れる不安。

 私がここから離れてあの蜘蛛を追って、その繭が相棒じゃなかったら。

 間に合わなくなるかもしれない。私がその選択を取ったことによって、皆を助けられなくなってしまうかもしれない。

 

 もし私が間違っていればきっと相棒を失ってしまう。

 怖い、怖い、怖い。

 締め付けられるような痛みが、まるで泣いているかのように私の魂を軋ませた。


『相棒、どこにいるのですか? 返事をしてください相棒っ!』


 意識を失っているのは分かっていて、返事をすることが出来ないのもわかっていた。

 それでも私は叫ぶ事を止められない。

 たった一言でいい、ほんの少しの声だけでいい。

 あの繭に相棒がいる証拠さえ分かれば、今すぐにでも駆けつけてあげられるのに。


『お願いです。何か、何か返事をしてくださいッ!!』


 私の声が広間の中に響き渡るが、何の返事も無いままに周囲は静まりかえり、ズルズルと繭を引きずる音だけが広間内に残る。

 その音は絶望へと向かってひた進む足音のようで、私の心を暗く沈鬱な場所へと(いざな)っていった。


『ああ、どうすれば……』


 連れて行かれる繭と残された繭。

 その間で板ばさみになり、何も決めることが出来なくなってしまう……。

〈……ギャ……ギャー〉

 だが、不意に覚えのある鳴き声が聞こえ、俯きそうになっていた手を上げた。


 こ、この声は……!?


 声が聞こえてきたのは、広間外へと持ち出されていく繭から。


〈ギャーーー!〉


 今度はハッキリと聞こえた。

 もう間違いない、あれは樹々ちゃんの声だっ。

 あそこから樹々ちゃんの声がしたということは、相棒が包まれている繭があれだという証拠。

 

 良かった……良かったっ!

 

 地面を蹴って飛び上がり、下方にウッド・ハンド唱えて樹手を生やす。

 そのまま自分自身を受け止めて、一直線に一匹の蜘蛛へと向かってこの身を投げた。

 全力で投げた私の体はグングンと空を切り裂いて、周囲の景色を後方へと押し流す。


 追走するようにして空を飛ぶ蝶子さんと一緒に繭へと向かって落下していった私は、計算どおりベシャリと目的地へと張り付いた。


『相棒っ、今回復魔法を掛けてあげますからね! 《フィジカル・ヒール》』


 繭の隙間に指を入れて、魔法を唱えて声をかける。


 起きて、起きてください相棒っ。早く起きないと、皆さんが大変なことになってしまいます。


 願い、祈り、希望と焦り。

 万感なる思いを込めて、私は相棒へと向かって叫びをあげた。


 

 ◆◆◆◆◆



 深く、まるで夜の海のように真っ暗な意識の底。

 夢のように(おぼろ)げな意識の中――不意に誰かの声が聞こえた気がした。


 ……あ……ぼう。

 

 ――気のせいか。

 思わずそう思ってしまうほどに俺の頭は深く……重く淀んでいた。


 おき……あい……ぼう。


 ――また聞こえた。

 俺の良く知るその声音。

 忘れるはずも無い彼女の声は、海底へと沈んでいた俺の意識を浮き上がらせるように水面へと引き上げていく。


『起きてください相棒っ!!』


 まるで泣いているかのような必死の叫びを聞いて、霞がかっていた思考が吹き散らされるように払われる。

 淀み、沈んでいた俺の思考が急速に回り始め、バチッと電源が入るかのようにして覚醒していった――。


 ドリーッ!!


 叫びをあげるドリーの声に答えるため、反射的に大声をあげようとしたのだが、喉から出てきたのは聞きなれた自分の声ではなく、盛大に吐き出された咳。


「ゴホッ、ガハッ。くそ、何だってんだ……」


 体内から咳と一緒に鉄臭いナニカがこぼれ出て、俺の頬を濡らす。

 鼻腔に漂ってきた匂いを嗅いで、俺はやっと自分が吐血したのだと理解した。

 

 ……動けない。


 目を見開いている筈なのに、視界は相変わらず暗く、身体に力を込めているはずなのに、腕すら満足に動かすことが出来やしない。

 どうにか意識を失う前の記憶を掘り出し、自分の現状を把握する。


 確か……蜘蛛にやられたんだよな。なんでまだ生きてんだ。


 思い出したのは意識を失う直前の絶体絶命の状況。

 あの状況で意識を失い、何故未だ自分がこうやって生きているのか不思議でならなかった。

 

 なにか理由があって生かしているのか。じゃあ俺以外の皆もまだ生きているのだろうか。

 

 未だ重く動きが遅い思考を必死に回し、次々と湧いてくる疑問を解こうと躍起になっていると、

『相棒、起きてください相棒っ』

 先ほど目覚める前に聞いたのと同じ、切羽詰ったドリーの声が俺の耳を打った。


「大丈夫……なのかは分からないけど、俺はここだっ。起きているぞ、ドリー」


 喉に血でも張り付いているのか、若干枯れたような声を上げ、俺はドリーに向かって返事をする。

 今がどんな状況か、他の皆は無事なのか、一体に何が起こっているのか、聞きたいことは山ほどあるが、先ほどのドリーの声音はとても焦っているようで『悠長にそんな質問している暇は無い』という事を十分に俺に伝えてきていた。


『良かった。起きてくださったんですね。もう一度私が回復魔法を掛けるので、相棒は手に握っている武器にエントを掛けて下さい。

 あまり時間はないので、すぐにお願いしますっ』


 エント? 何でエントなん……ああ、そういう事か。


 自分が動けない理由、今がどんな状況なのか、何故エントを掛けねばならないのか――その全てをドリーの言葉によって朧げに理解した。

 

 恐らく俺が動けないのは今も繭の中に捕まっているからで、エントを掛けねばならない理由は、切り開くのに振動武器が必要だといったところか。

 

 エントを掛けるのは良いけど大丈夫なのか? 武器を……俺はどちらの手で武器を握っている。


 不安に駆られてグイ、と両手を何度か握りこむ。

 意識を失う前は指先が痺れていたはずなのだが、今はまるでそんな様子も無く、左手には荷物袋の紐らしき感触が、そして右手には手に馴染んだ武器の柄の感触がしっかりと伝わってきていた。


 良かった……そう思うと同時に一つ不安要素が浮き上がる。

 刃は一体どの方向に向いているのだろう。

 

 俺の記憶が正しければ――柄の中間より少し上、その辺りを握りこみ武器を下に向けていた筈。

 つまり刃のある位置は俺の足首付近だということだ。

 こんな想像したくも無いが、もしも俺の脚に当たるような角度で刃が差し向けられていたとしたら、足首など簡単に切り飛んでしまうだろう。

 

 どうにか確かめようと腕と足を動かしてみるが、ほとんど動かせないこの状態では満足に確認することすら出来なかった。


 体を強引に動かしていると、肩の後ろから〈ふぎゃっ〉と間抜けな樹々の声が聞こえてきた。

 押しつぶさないように少しだけ肩を浮かす。


 焦る気持ちをそのままに、更に身体を動かそうと試みていると、

『では行きますよ相棒っ《フィジカル・ヒール》』

 余程切羽詰った状況なのか、ドリーがお構いなしに回復魔法を唱えていった。


 確かめている暇は無いか……頼むぞ、出来れば上か下に向いていてくれよッ。


『エント・ボルトッ』


 不安を欺くかのように瞼をおろし、俺はドリーの魔法に続いてエントを連続で掛けていく。

 ごっそりとなくなっていく魔力と共に、右手に持った武器がその能力を発揮していった。


 ――ヂュィィィィイイイイイイイ!!


 金属板に電鋸(でんのこ)でも押し当てたかのようなけたたましい音が響き渡り、足元に微かに光が差し込んでくる。


 未だ恐れていた痛みは感じない。


 どうやら助かったみたいだ……上か下、どちらの方向に向いているかまでは分からないけど、少なくとも俺の足首が切り飛ぶのだけは免れたらしい。


『相棒、武器を握っている手を離してくださいっ』

「わかった。良いぞドリー、放したぞッ」

『了解です。ではそのまま絶対に動かないでくださいねっ!《ウッド・ハンド》』


 ドリーが新たな魔名を叫んだ瞬間。

 ズルリ、と俺の手の中を滑るようにして武器が引き抜かれ――続いて耳元で先ほどと同じ嫌な音が鳴る。


 ヂュイイイイイイイイイイ!!


 脳をかき回されているような不快な音。

 この音を聞いていると、意識のあるまま改造手術でも行われているような、そんな嫌な気分になってくる。

 

 少しでもドリーの手元が狂えば一瞬で切り裂かれてしまうこの状況。

 反射的にここから逃げ出そうと身体を動かしたくなったが、俺はドリーを、頼りになる相棒を信じ、動き出そうとする体を抑えつけじっと耐えていった。


 俺の瞼に光が差す。

 体が動く、腕が動く、足が動く。


 取り払われた閉塞感と、ずいぶんと懐かしく感じる淡い光。

 先ほどまでとは違い、俺の前方は外に向かって長方形に切り開かれていた。


『相棒っ、すぐにそこから出て右へと避けてくださいッ』


 ズキズキと肺の辺りが傷む体を無理やりに動かしていく。

 ドリーの指示に従って飛び出すようにして繭から出た俺は、そのまま右へと体を投げ出した。


 ズドッッ!!


 先ほどまで俺が居た位置に、地面を揺らしながらビッシリと黒い毛が覆った豪腕が突き刺さる。

 腕を辿って視線を動かすと、俺をギョロリと睨む蜘蛛の八つの眼球と視線が交差した。


 逃げた先がこれかよッ、少し位ゆっくりさせてくれても良いだろうがッ。


 再度振り上げられた豪腕。

 すぐさま両足を振り上げ後方へと向かって回り、両手で地面を突き上げる。

 視界が回り、景色も回る。

 跳ねるように立ち上がった俺は、そのまま地面を両足で蹴りつけ、後方へと下がって敵との距離を取る。

 

 ――ドゴッッ!!

 う゛あ゛あ゛あ゛あ゛嗚呼嗚呼嗚呼ッ!


 間一髪の所で攻撃から免れた俺に向かって、蜘蛛が雄叫びを上げながら二本の腕を威嚇するように広げ、こちらに向かって構えを取る。

 

 蜘蛛の威嚇でビリビリと空気が震える中――肩の上に慣れ親しんだ重みが加わった。


『ぬふぉぉぉぉ。相棒っ、相棒ぅ! わーー』


 細かな傷の入った腕と、手の甲。

 俺が悠長に気を失っている間にもきっとドリーは一人頑張ってくれたのだろう。

 

 後でいっぱい褒めてやろう。


 ドリーのそんな姿に少々の感動を覚え、思わず目頭が熱くなりそうになったのだが……右肩の上から俺の頬へと人差し指を突き刺して、グリグリグリーと動かし続けるドリーのせいで、

「ひょく、ばふぁんばったなっ。おい、やめふぉ、喋れふぁい」

 俺の口からは変な声しか出てこなかった。


『ッは、そうでした。急がなくてはならないのでした。簡単にですが状況を説明しますっ。

 皆さんが危ない。

 早く奥の蜘蛛を止めないと。

 でも、私達二人が揃えばひょひょいのひょいですっ』


 何がひょいで、どこがひょひょいなのかは分からないが……ビシッ、ビシッ、ビシッ、と後方、蜘蛛、前方へ、と順繰りに指し示し行われた簡易説明を聞いて、俺はどうにか状況を把握した。


「よく分からないけど、なんとなく分かった。まずは後ろにいる蜘蛛を止めれば良いんだなッ!」

『はいっ』


 どうやらそれで良いらしい。

 流石に詳しいことまでは分からなかったが『後方に居る蜘蛛を早く止めないと、隊の皆が危ない』という事で概ね合っているようだ。


『相棒、武器をっ』

「悪いッ」


 声と共に樹手から投げ渡された愛用の槍斧を受け取り、邪魔になりそうな手荷物を投げ置いて――俺は迫りくる蜘蛛に背を向け、逃げるように駆け出した。

 

 逃げる俺と、追いかけてくる蜘蛛。

 背後から聞こえてくる足音は本能的な恐怖を呼び覚まし、思わず後ろを振り返りたくなる衝動に駆られる。

 俺一人なら迷わず後ろを確認しながら走っていただろうが、今はそんな真似をしなくても何も問題ない。


『右へ飛んでくださいッ』


 大地を蹴り上げ右へと躱す。

 ――シュッ、避けた直後に、見覚えのある白い糸が地面へと突き刺さる。

 ほんの少しでも遅れていれば、糸に巻かれる前と同じような状況になっていただろう。


 でも、蜘蛛の巣が張られてないだけ大分マシだな。


 今も背後から追われ、前方には二匹の蜘蛛。

 四面楚歌ともいえる状況ではあるが、俺は捕まる前ほどの緊張を感じてはいなかった。


 別に舐めているわけでも油断しているわけでもない。

 単純にこいつらから感じる脅威が著しく減少しているのだ。


 あの時は状況が悪すぎた。

 糸に囲まれ満足に動けず、手の届かぬ位置から一方的に攻撃され、更にドリーすらいない。

 あの状況に比べれば、今がどれだけ楽になっていることか。

 こいつらがそれなりに強いとは言えど、この条件下なら簡単に遅れを取る気はない。


 前方にいた二匹のうち一匹がこちらに気がつき、糸を吐き出してくるが、それを捻るようにして体を逸らして掻い潜り、背後から打ち出されてきているであろう攻撃をドリーの指示に従い避けていく。

 

 骸の床を抉るようにして蹴りつけ、俺は最奥にいる蜘蛛に向かって全速力で駆ける。

 

 そんな俺の進路を阻むようにして、前方にいた一匹の蜘蛛が、こちらに向かって体を揺らし突進を開始した。

 巨体を揺さぶり、死骸を蹴散らしながら進むその様は、まるで戦車。

 一目見ただけでも、まともに力比べをして勝てるはずが無いとわかる。


 左右に避けるか? いや、ただ避けるだけじゃ駄目だ。あの蜘蛛はきっと後で邪魔になる。

 せめて手傷を。贅沢を言えばここで仕留めておきたい。


 考えている間にも距離は詰り蜘蛛は迫るが、熱くなりそうな頭を抑えつけ、冷静に蜘蛛の死角を見出していく。


 やはり左右は駄目だ。ならば上か? いや、確か背面にも顔がついていたし、死角とは言いがたい。

 ならば、下、そこしかないッ!


「ドリー潜るぞッ、ついでだ、腹を掻っ捌いちまえッ」

『お任せください相棒っ』


 そういうやいなや、俺は槍斧を投げ渡す。

 空中で武器を受け取り、クルリと軽く武器を回したドリーは、身を這うようにして駆けていく俺の背中に、槍の穂先を斜めに構え固定する。


 集中だ、集中しろ。

 ただそれだけを考えて、相手の攻撃を予測する。

 思考は加速し、視界が広がり――やがて、俺を叩き潰そうとする豪腕の隙間に道標でも出来ているかのようにラインが見えた。

 

 この広い空間で、避けるスペースもある今、このくらい出来て当然、避けられないはずが無い。

 

 今までの経験、潜り抜けた死線。

 その全てを一片たりとも無駄にはしない。

 

 出来るだけ速く、限りなく最適に。

 避ける、避ける、駆け抜ける。


 振りかざされる四本の豪腕が避けた俺の髪を揺らし、空振りした拳の巻き起こした風が頬を撫でた。

 一瞬の交差。

 黒い腕に支えられた蜘蛛の胴体下を、速度を落とさず掻い潜る。

 斜めに掲げられたままの武器が唸りを上げ、加速を乗せた水晶刃が無防備な蜘蛛の腹を……切り裂いた。


 ――ギャ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼アアア!!


 ズン、と重い何かが倒れる音も、裂かれ苦痛にのたまう悲鳴も、乱れ散ったであろう蜘蛛の血液すらも、全部まとめて置き去りに、俺は最奥の蜘蛛へと向かって更に体を加速させていく。


 久しぶりに広くまともな場所で戦闘をしたせいなのか、いつもより体が軽くなっているように感じた。


『おお、さすが相棒ですっ。

 ふむ、やはり広い場所はいいですねっ。この調子でぺぺい、とあの奥の蜘蛛さんもやっつけてしまいましょう』

「ああ、そうだなドリー」


 ドリーの言葉に思わず納得し頷いた。

 俺の得意分野、とでも言うべきなのか。

 駆ける、避ける、逃げる、は散々今までやってきただけあって、俺にとっては慣れたもの。

 死骸のせいで、足場が安定しているとは言い難いが、行動を制限されるほどでもなく、全速力で走り回れるこの広間は、俺にとってもドリーにとっても全力を出すことができる場所だといえる。


 体に力を込めすぎていたのか、ズキリと痛む脇腹、ひびでも入っているのか、ギシギシと軋みを上げる肋骨。

 だが、脳内で溢れているアドレナリンのせいか、段々と痛みが遠く、どこかに消えていった。

 

 早く皆を助けないと。


 俺の視界の先――蜘蛛の太い二本腕で捕まれている男性を、壁についているノミのようなモンスターが足を動かし受け取ろうとしているのが見えた。


 このまま全速力で向かってもギリギリで間に合わない。

 

 ドリーから魔力を分けて貰ってボルト・ラインで牽制するか……いや、もし魔法が効かないモンスターだったら牽制にすらならない。

 仮に魔法が効くのだとしても、その前に蜘蛛に邪魔されてしまえば確実に無駄になるし、やはりボルト・ラインでは駄目だ。

 

 そうなると、俺の頭に残っているのは少し危なっかしい案だけ。

 

 躊躇っている暇すら惜しい……やるしかない。


「ドリー、あのノミ型モンスターの頭部に向かって槍斧を投擲、できるな?」

『当然ですっ。相棒と一緒ならば不可能などありませんっ』


 まだ二匹のモンスターが残っているこの状況で、武器を手放すのはどう考えても愚考。

 だが、確実に仕留められると断言できるのはこの方法だ。


 ――武器は後で取り戻せばいいッ。


 左足を前方に、体を半身にしてトン、トン、と槍投げの要領でステップを踏む。

 駆けている勢いを足から腰へ肩からドリーの腕へと向かわせて、全ての力と勢いを乗せた槍斧をドリーが腕をしならせ投擲。


 風を切り、空気を割って飛ぶ槍はまさに巨大な一本の矢。

 正確無比なドリーの投擲は、走破者を取り込もうとしていたノミの頭部へ吸い込まれるようにして突き刺さる。

 

 ――ズドッ!!

 

 勢いをつけすぎたせいか、凄まじい音を立てて槍が半ばまで壁へと埋まり、ノミの頭部はザクロの如く弾け、背面の壁へと緑色の染みを描く。

 頭を吹き飛ばされたノミは六本の足をピクッ、ピクッと何度か動かして……やがて動きを止めた。


「た、隊長ッ!! ――があッ!?」

 

 安心するのも束の間で、その走破者を掴んでいた蜘蛛が、ノミが弾けとんだのを見て、怒りを顕わに掴んでいた男性を乱暴に投げ飛ばす。

 壁へと叩きつけられた男性はゴロリ、と地面に横たわり、苦しそうに咳を吐き出し続けている。


 大分痛そうではあるが、あの様子を見れば命に別状はなさそうだ。

 今の一連の光景を見て脳裏に過ぎった疑問は幾つかあったが、それはこいつらを倒した後でゆっくりと考えることにする。


 怒り狂いこちらに迫る前門の蜘蛛と、今も俺を背後から追いかけてきているであろう後門の蜘蛛は、 こちらから三メートルほど離れた場所で足を止めると『絶対に逃がさない』と言わんばかりに、ゆっくりと俺を挟みうつ。


 武器は……。

 チラリ、と目線をやるが、もう少し距離を縮めないと取れそうには無い。

 威圧感溢れる蜘蛛と無手での対峙。


 躍動するように早くなっていく鼓動と、焼きつくように熱くなった呼吸。

 一瞬の静寂が辺りを染め上げ――すぐさまそれを打ち砕くかのようにして乱打の雨が降り注ぐ。


『右へ、左、下がって、伏せてッ』


 次々と拳を打ち付けられる衝撃で地面が揺れ、轟音が絶え間なく俺の耳へと木霊(こだま)する。

 ドリーの指示に従い体を動かし身を捻り、拳と拳の隙間に無理やりに体を入れ込み直撃を避ける。

 俺の視界一杯に広がる黒い拳は、逃げる先へと次々に打ち下ろされていき、地面を抉り、烈風を巻き起こす。


 だが、当たらない。それでも俺には当たらない。

 自分の動きだけに集中し、体を動かすのは、随分と久しぶりな気がした。


 隊の皆の行動を気にせずに、思考を一つに出来るこの状況。

 更には肩の上には頼りになる相棒が。

 散々苦労させられた蟲毒での戦闘経験が、一つに重なるように俺の中で組合わされていくのを感じる。


 ヒリ付くような殺意の固まりを避けているうちに、段々と俺の頭が熱を持つ。

 ――ガコッ、まるでギアを上げたような音が頭の中に響き、俺の体は今まで辿り着く事が出来なかった領域へと駆け上がっていった。


 加速する体、回り続ける思考。

 四肢は踊って流れ動き、躍動する体は全ての制限が取り払われてしまったようだった。


 ――轟。

 鼻先を掠める右なぎ払いも、飛び避けた足元に突き込まれる殴打も、今はまるで当たる気がしなかった。

 ラングとは違い、俺は戦闘狂では無いはずなのだが、高揚していく気持ちをどうしても抑え切れそうにない。

 

 ドリーがいれば、ドリーがいるだけで俺はこんなにも速く鋭く動けるようになる。


 俺が見えない場所をドリーが見て、ドリーが見えない場所を俺が埋める。

 意識を失う直前――こいつらに捕まっていく皆をただ見ているだけしか出来なかった。

 でも今は違う。

 

 捕まらない。掠りもしない。

 

 ただ避けることだけに集中した今の俺とドリーにとって、テリトリーを離れてしまった蜘蛛の攻撃は、些かノロマに過ぎたようだ。


 手元に武器は未だなく、ただ避けているだけではあるのだが、もう既にこいつらは俺の中で脅威ではなくなっていた。

 乱打の嵐を避けながら、自分の今いる位置を確認し、少しずつ、ほんの少しずつ武器の元へと移動する。


 後、二メートル。

 後、一メートル。


「ドリー!! 範囲に入ったッ、武器を頼む」

『ふふふ、わかっておりますっ《ウッド・ハンド》』

 

 ズ……ズズ、ズシャッ!

 壁に刺さった武器の柄を、ドリーの動きに合わせて樹手が引き抜き、こちらに向かって投げ飛ばす。

 

『相棒っ、ダガーナイフにエントをお願いします』

 言葉と共に、扇状に差し出された四本のダガーナイフ。


「魔力は貰うからなドリー」

『後で魔水を頂けるのならっ』

「了解だ『エント・ボルト』」


 バチッ、右手を添えるように差し当てて、紫電をナイフに纏わせる。


 飛んでくる武器を受け取るためにはどうにかこいつらに隙を作らせねばならない。

 視界を巡らし策を探す――。

 見えるのは丸い巨体を支えている八本の巨腕。

 脳裏に走った一つの案を俺はドリーに詳しく説明することなく口に出した。

 きっと、ドリーなら分かってくれる。


「前の蜘蛛の右腕に“繋げろ”それが終わったら後方の蜘蛛の目にナイフだ。

 腕を取るぞドリーッ!」

『む……そういうことですかっ、了解ですっ《アイビー・ロープ》』


 阿吽の呼吸と言うべきか、短い説明で俺が何をしたいのか悟ってくれたドリーが動く。

 手から伸ばした蔦縄を、蜘蛛の腕へと絡ませて、その状態のままで背後にナイフを飛ばす。

 

 バチッィ!

 

 短く電撃が走る音がして、背後から蜘蛛の悲鳴が鳴り響く。

 それを合図に俺は百八十度向きを変え、先ほどナイフが刺さったであろう蜘蛛へと駆け出した。

 

 まず視界に入ったのは、見事眼球へと直撃している四本のナイフ。

 次に見えたのはドロドロの体液を目から零しながら苦痛に喘ぎ暴れまわる蜘蛛。


 流石ドリー、狙い通りだ。


 乱暴に振るわれる蜘蛛の腕を慎重に避けながら、俺は一本に狙いを定め、円を描くようにグルリ回って走り抜ける。


 絡まる蔦縄が蜘蛛と蜘蛛を結ぶ。

 ブチィッ!!

 アイビー・ロープが蜘蛛の重量に耐え切れず、一瞬ではちきれる――が、予想通り互いに引っ張り合った力までは消すことが出来ず、二匹の蜘蛛は腕を取られて身を崩す。 


 絶え間なく襲ってきていた攻撃がピタリと止んで、俺達にとって絶好の機会が訪れた。


『相棒、時間ぴったりですっ』


 ビシ、と向けられた指の先には、落ちてくる槍斧。

 回転する柄を見極め武器を取り、その勢いを乗せるように身を捻りながら、地面へと降りてきている蜘蛛の(こうべ)を切り裂いた――。

 グシャッ、少し粘り気の混じった体液が飛び散り蜘蛛の頭が縦に割れる。

 

 もう一匹ッ!!


 再度振り上げた武器を今度はドリーが受け取り、残った一匹の蜘蛛へと向かってもう一度槍を投げる。

 首を回し、状況を確認しようとした俺の耳に、

 ――――ッッッツ!!

 声にならない絶叫が通り抜けた。


 ドリーの投げた槍によって地面に縫いとめられた一匹の蜘蛛は、暫くの間暴れるように動いていたが、一度ビクリと体を震わせると、地面にドッと倒れ息絶える。


 ……疲れた。


 倒れ伏し、時折反射からか腕をピクピクと動かすモンスターを見ながら、俺の口から安堵交じりの溜息が漏れ出した。

 

 次第に冷却されていく心と体。

 切り抜けられた事に対する嬉しさよりも、どこか悲しい虚しさが心の底に漂っていた。


 嗚呼……そうか。

 こんなにも熱くなってしまったのは、きっと怒りも混じっていたのかもしれない。


 戦闘が終わり冷静になって初めて気がついたそんな気持ち。


 死なせたく……なかったのにな。


 宙へと彷徨わせた右手が空を握る。

 意識を失う前に取り零してしまった命を取り戻そうとするかのように。


 心がズキリと痛んだ。 

 それを切っ掛けに、今まで忘れていた痛みが体中をズキズキと刺し、集中しすぎて疲れ果てた頭が鉛のように重くなった。

 

 少し休憩したいけど、まだ休めそうには無い。


 周囲の状況を見て少しうな垂れる。

 少し先に見えるのは、今も繭に包まれたままの皆の姿。

 蜘蛛を縫い付けていた武器を強引に引き抜き、俺は皆を助け出すためにもう一働きせねばと足を踏み出した。


 ◆


「隊長さん、すまねえ。ほんと面目ねぇな……」


 繭に包まれていた最後の一人でもあるオッちゃんは、外に出たと同時にそんな言葉を俺に向ける。

 どうやら刺された傷はまだ完治していないようで『イテェ』と舌打ち混じりに腹を押さえていた。

 心配ではあるが、傷は治せる。死ななかっただけでも本当に良かった。


「あー、お礼はドリーに言ってくださいね。俺も助けられた口ですから」


 頬をポリポリと掻きながら俺はドリーに向かって顎をしゃくる。


「そうか……そうだな。さすがドリーの嬢ちゃんだ、ありがとうよ」

『いえいえ、気になさらずにっ。お礼の言葉はもう相棒からいっぱい頂いたので私としては満足ですっ』


 ドリーはそう言うと、グイと肩の上で自慢げに腕を逸らし『にゅははは』と妙な高笑いを上げた。

 先ほどこれでもかと言うぐらいに褒め称えて、礼を言っておいたのだが、ドリーとしては十分満足してくれたらしい。

 

 後は、休憩を取った時にでも魔水を飲ませてやるか。


 今回の功労者は間違いなくドリー。

 彼女がいなかったら今頃俺もあの壁の一員と化していた事だろう。


 ノミとそれに抱えられた人の壁――見ているだけで怖気を覚え、自分があそこに居たかもしれないと思うと、背筋に氷でも投げ込まれたかのように寒気が走る。


 ほんと、嫌な光景だ。


 何時までも見ていたいようなものでは無いが、色々と疑問が尽きないし、まだ隊の皆も動けそうにない。

 少し時間が空いてしまった俺は、座り込んでいたオッちゃんに一声掛けて、広間の中を少し探ってみようと決める。


 余り隊から離れすぎないように気をつけながら、俺はキョロキョロと周囲を伺った。

 緑の血管と赤の血管。

 捕まった人間と何かを吸い出しているノミ。

 少し周囲を見ただけでも脳裏に浮ぶのは疑問符ばかりなのに、先ほどからずっと不思議に思っている事まで残っている。


 なんで皆は動けるようになったんだ? 


 間違いなく捕まる前に何かを打ち込まれ、体の動きを止められていたはずなのに、いざ繭から助け出してみると、皆万全ではないが動けるようになっていた。


 何故? モンスター達の考えなど俺に分かるはずもないのだが、脳裏に湧いた疑問は中々消えてくれはしなかった。

 

 俺の知らない間に蜘蛛が解毒でもしたのか? それとも効果時間が決まっている毒だったのだろうか。

 でもなんでわざわざそんな事をする必要があるんだろうか。

 呪毒蜂みたいに治せない毒を打つか、効果時間があるのなら重ねて針を打ち込めばいいだけなのに……。


 確かドリーの話でも、ここに来た当初蜘蛛達は『何かを待っているみたいに動かなかった』と聞いた。

 それから考えると、この蜘蛛達はわざと効果の薄い毒を使い、それが切れるまで待っていた、とも考えられる。

 

 どうにも相手の目的が掴めない。


 ぼんやりと考え事を進めながら、俺はもう一度周囲の景色を眺めていく。

 赤い血管は捕まっている人達に、そしてノミが吸いだした何かを緑の血管が伝う。

 捕らえられた人達の首筋にはノミの針が深く差し込まれているのにも関わらず、未だ捕まっている人達は生きていた。


 わけがわからない。

 一体どうやったらあんなことが出来る。あんな針で首筋を刺されたら、間違いなく死ぬ。

 例え生きていたとしても、あの状態で放っておけばやはり死んでしまう。


 駄目だ、何にもわからん。

 

 だが、色々と考えた末の結果がそれでは、やはりスッキリはしない。

 少しでも何か利益を得ようと思い立ち、一人予測を立ててみることに。


 ……あの赤い血管から巡ってきた液体は、気泡の様子から見ても、捕まった人達に向かっている。

 つまり、あの赤い液体を一旦人へと入れることによって、ノミの吸いだしている緑の液体へと変化するのか?

 他にも、あの赤い液体は捕まっている人達を延命させる効果なんてものがあるのかもしれない。

 

 そう考えると……それを行うのには毒を打ち込んだままだと不都合が生じ、蜘蛛はそれを嫌がって毒の効果時間が切れるのを待っていた……とか。


 はあ……駄目だ、馬鹿馬鹿しい。情報が少なすぎて、ただの妄想になっている。

 相手の目的も何も見えないし、やっぱり今幾ら考えても無駄だろうな。


 頭を軽く振って意識を切り替える。

 とりあえず、休憩を挟んで先に進むのは良いが『ここ』をどうしたものか。


 壊すか、放っておくか、その二択で俺は頭を悩ませる。


 壊してしまえばきっとこの人達は死んでしまう……。

 いやいや、元々助けることすら不可能だ。

 回復魔法を掛けながらあの針を抜いたとしても、間違いなく開放された瞬間に絶命する。

 見ただけでそれがわかるほどに脊髄付近へと差し込まれているあの針は太く、長い。


 延々と苦しむくらいなら、ここで殺してあげたほうが良いのかもしれない。

 それに、もしこの場所が何かしらの区域へと繋がっているのなら、今壊しておけば俺達に有利に働くかも……。

 

 そんな考えが少しだけ浮んできたが『駄目だ』とすぐに否定した。

 理由はリスクの高さ。 

 一つくらいのリスクなら、もう少し悩んだかもしれないが、少し数が多すぎる。


 ここが蟲達にとって重要な場所なのだとしたら、ここで破壊しようと騒ぎを起こせば『音を聞きつけて大量のモンスターが現れる』なんて事にもなりかねないし、この広い部屋を壊すのには間違いなく馬鹿みたいに魔力と体力、そして時間を必要とする。


 魔力に関しては、まだ回復する薬などがあるので、多少は無理する事もできるが……。

 経験からの直感とも言うべきか『止めておいたほうが良い』という思いが俺の頭に湧き上がっていた。


 淀んだ空気、地獄のようなこの光景。

 悪意の塊とも言える威圧感が空気を重く……重く沈ませている。

 二度獄級に入ったからこそわかることがあった。

 間違いない――最奥はすぐそこだ。


 少しだけ手が震えた――恐怖からなのか、やっと最奥へと辿り着ける歓喜なのかは、俺自身わからない。

 様々な思いが頭を巡り、そのせいで頭が重く沈んでいった……。


「隊長さん、全員動けるようになったみたいだぞ。

 早くこの場所から移動しようや」


 背後から掛けられたオッちゃんの声で、沈んでいた思考がパッと浮きあがる。


 そうだな早くここから移動したほうが良い。

 きっと、あと少しだ、頑張ろう。


 拳をそっと握り締め、心を落ち着かせていると、

『メイちゃんさん。考え事は終わりましたか?』

 今まで黙っていたドリーが話しかけてきた。

 

 どうやら、俺の考え事の邪魔をしないように気を使っていてくれたらしい。


「んーぼちぼち……かな?」

『おお、素晴らしいですっ。私も色々考えてみたのですが、ほとんど何も分かりませんでしたっ!

 ただ、一つだけ感じることがありました……もう少し……ですね?』


 やはりドリーも俺と同じ事を感じていたのか、少しだけ真剣な声音でそう言った。

 俺はドリーに向かってコクリ、と頷いてみせ、ヒラヒラと先を飛ぶ蝶子さんを追いかけて隊の元へと戻っていった――。






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