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俺の人生ヘルモード  作者: 侘寂山葵
水晶都市クレスタリア
35/109

幕間『ゴミの様に舞い馬車馬の如く走る』

ここからの街パートはこの話の様に、一話だけ幕間が入る予定です。




【グランウッド城内】【一日目】


 訳がわからない……何故、何故『僕』が下っ端なんかに落とされないと行けないんだッッツ!!

 ふざけやがって、被害者は僕だぞっ。あの黒い腕付きの不審者を捕まえればいいじゃないか。

 リーンさんとの婚約まで解消されてしまうし……あの屋敷やメルライナの地位が、僕の物になるはずだったのに……それがよりにもよって一番隊の下っ端だとッ、冗談じゃないっ。

 

 更に言えば、四番隊は一時解散、改めて訓練を行い再編成、隊長は肉沼遠征の生き残りから選ぶとの話だった。

 

 余りの理不尽な採決に僕は肩を怒らせ、ズカズカ、と城外に向かって歩みを進める。つい先程、王妃からの呼び出しに父上と一緒に謁見の間に行ってみれば、この有様だ。

 話にならない、理不尽だ。僕はギラン、『ギラン・イグランド』だぞ? もっと敬うべき立場じゃないのか? 不審者なんてさっさと殺してしまえば良かったんだ。

 なにが『獄級走破者』だ、何がグランウッドの娘かもしれないだ。

 グランウッドに一番貢献しているのはイグランド家じゃないかッ。


「糞ッ、糞ッツ!」


 王妃に何故かメルライナ家に行けと言われ、向かう。

 途中で余りの怒りに剣を引き抜き、そこらの木々に八つ当たりをしてしまった。

 

 なんで今からゴンドの所に行かなくちゃならないんだ。まったくもって面倒臭い。どうせ大した話じゃないんだろうし書面でも送ってくれればいいだろうに。

 忙しいんだ僕は、明日から一番隊の訓練に強制的に参加せねばならなくなってしまったし、余計な手間を増やさないで貰いたい。  

 ――大体僕に訓練など必要無いじゃないか。

 あの不審者に負けたのだって偶然なんだ、あいつが運が良かっただけだろうが。


 苛々しながら進んでいるといつの間にかメルライナの屋敷に着いていた。

 

「僕だ入れろっ」


 番兵に声を掛け、さっさと中に入れてもらい案内されるまま歩く。先を進む番兵は何故か裏庭方面に進んでいった。

 何だ? 屋敷に案内するんじゃないのか。この暑い日にわざわざ外で話をする事ないじゃないか。これだから老人の考える事は訳が分からない。


 いざ中庭に着いてみれば、何故か仁王立ちでゴンドがこちらを見ている。

 そのいかつい顔を更に険しく変え、僕に向かって叫ぶように声を掛けてきた。


「よおーく来たなこの馬鹿餓鬼がッ! 今、この時から儂がお前の性根を叩き上げ、鍛え直す事になった。一番隊の訓練が無い日は儂の『訓練』の日だから覚悟しておけぃ」


 何を言っているんだこの耄碌爺は……意味が分からない。何故僕がそんな事をしないといけないんだ。

 頭が真っ白になり、段々怒りがこみ上げてくる。だが仮にもあの爺はグランウッドの武闘派トップ。ギリギリ、と歯を噛みあわせ、沸き上がる怒りを抑え、返答する。


「僕には、そんなもの必要無いと思いますが。それにそんな事、おじい様が聞いたらなんと言うか」

「ぶはーっはっはは。馬鹿餓鬼よぉ、儂の訓練が終わったら、午後からゼムの『魔法講義』と実践形式の『訓練』じゃからな。

全て王妃様のご命令だ、言っている意味がわかるかのぉ?」

「……は?」


 余りの事実に思わず思考が全て止まる。

 今の言葉からすると、お祖父様まで納得していると、しかも自ら僕に訓練を行う程乗り気だと? あり得ない、あり得ないだろそんな事ッ。


「じゃあそろそろ、始めるとしよう。武器を構えておくんじゃぞ、訓練用の武器じゃが当り所が悪ければ死んでしまうからの」


 ゴンドが見慣れぬ槍斧を構え、こちらを見た。

 瞬間、僕の身体がすくみ、全身に鳥肌がたつ。慌てて武器を眼の前に構え、己を守る。

 大丈夫だ、所詮老人。威圧感が幾らすごかろうが、昔は幾ら強かろうが所詮は老人だ僕はまけ……。


 ――ドゴンッ。

 

 今までゴンドが立っていた場所の地面が弾け、何故か次の瞬間僕の眼前にゴンドが見えた。

 え? 何が起こったんだ。だが理解不能なこの状況は長くは続かない。

 構えた剣に突如凄まじい重みが加わり、次の瞬間空と地面が交互に、グルグル、回っている。

 

 ――嗚呼、何か見たことある光景だなこれは、何時だったか? そうか、あの不審者と戦った時だ……。

 

 その時の事を理解し、思い出した僕はそのまま意識が無くなっていった。


 ◆◆◆◆◆


 地獄の様な訓練だった。意識を失ってもお構いなしにたたき起こされ、また意識を失う。もう一日が終わったんじゃないのか?

 そう思い空を見上げても太陽は殆ど動いていない。

 一時間が一日に、二時間が一週間、どんどん伸びていく気がする。何回空を飛んだか分からない、自分がゴミか、チリにでもなったかの様に、軽々と宙に飛ぶ。


 もう何回意識を失ったか分からなくなった頃には、ゴンド老の楽しそうな笑い声が耳にこびり付いて離れなくなっていた。


 死にそうに……いやいや、何回か死んだんじゃないか僕? 

 そんな事を思い始めた頃、どうにか訓練が終わりを迎える。身体からビキビキ音が鳴っている気がした。

 ――痛い、動きたくない。

 

 大体、こ、こんなの、訓練なんかじゃない。他にこんな訓練やってる奴がいるなら会ってみたいもんだッ。思わず同情して、涙を流してやってもいいだろう。

 

 取り敢えずゴンド老にはもう逆らわない、と心に決めた。


 フラフラ、としながら、地べたに座り込み、休憩を取る。

 

「ふむ、今日はこんなものじゃな。残念ながら儂の時間は終わってしもうた。ほれ、見てみぃ」


 ……? ゴンド老が指差した方角を見ると、ローブ着こみ、手に杖を持ったお祖父様がこちらに近づいてくるのが見えた。

 てくてく、とこちらまで歩いてきたお祖父様はトン、と杖を地面に降ろし、地面に何やら書き始める。

 ――魔法の応用? ――仕組みに、使い方? ゴチャゴチャ、と地面に文字を書き、終わる。


「うむ、ギラン。儂がまともに『授業』してやるのは初めてかの。取り敢えず、この腕輪を……ふむ、これでよいか」


 ――ガチャリ。


 何故か僕の腕に蒼い不思議な腕輪がはめられた。


「え、お祖父様、この腕輪はなんなのですか? それよりも僕はまだ休憩を……」

「ん? その為に講義から始めるんじゃ。講義なんて休憩と一緒じゃろ? 良かったのぅ」

「ちょ、待ってくだ」


 そういうとお祖父様はニコリ、と微笑み。さっさと講義を始める。


 ◆◆◆◆◆


 ――うつら、うつら。


「魔法とは――であって――この場合は――じゃから、魔道のほうが――である」


 身体が疲れきっているこの時にお祖父様は一定の抑揚で延々と講義を続ける。

 僕は睡魔を我慢出来ず、微睡みへと沈んでいく。


「うむ、寝てはいかんの寝ては、ほれ『エント・ボルト』」


 ――バチバチッ。


 ――ッツ!? 痛いッ。何だいったい、なにが起こったんだ。

 眠気が急激に覚め、眼前にはお祖父様が杖の紫電を纏わせて、僕をつついてくる。


「ぎゃあああ、痛い、死んでしまいますお祖父様。やめて下さいっ」

「安心するといいぞい、ギラン。お前のつけている腕輪は城の宝物庫から借り受けたんじゃが『減雷の腕輪』と言って電撃の威力を落とす魔法が込められておる。

お前の身体から強制的に魔力を吸い上げ発動してくれるんじゃ、便利じゃの。しかもその腕輪……なんとジムの作った作品じゃ、凄いじゃろうが」


 ジムに殺意が沸いた瞬間だった。

 じょ、冗談じゃないッ。駄目だ、知らなかった、お祖父様もゴンド老と同族だったのか……。


 眠っては起こされ、眠っては起こされる。つい先ほど体験した貴重な経験を、直ぐ様違う形で体感する。

 

 講義が終わってからも、方向性が変わっただけで同じ事。

 相手がこんな魔法を使ってきた場合が――、等と言いながら気軽に『サンダーストーム』で練兵場を穴だらけに変えてしまう。

 腕輪のお陰で直撃しても死にはしないが容易く意識は失えるし、もちろんその後も起こされる。


 いつ終わったかも覚えていない。気がつくと自分の部屋でベッドに横たわっていた。

 本当に、本当に。僕の身体は限界になっている。

 流石にあれは偶然だなんて言う気力も沸かない、次元が違う。勝てる気がしない。

 仕方ないよ、お祖父様達は仮にもグランウッドの二大トップなんだ負けたって仕方ない筈だ。

 僕が弱いんじゃない……あの人達がおかしいんだ。きっと中に魔物か何かが入っているんだ。そうに決まっている。

 

 ……もう、お祖父様達には逆らうまい。

 たった一日で、一回の訓練で、僕の心に不変のルールが刻まれた。そして、今までお祖父様に歯向かってきた過去の記憶が脳裏に浮かび、瞬間背筋が寒くなる。

 ――今までなんて危ない橋を渡っていたんだろう僕は……駄目だ、今日はもう寝よう。

 痛む身体を我慢して必死に眠った。


 ◆二日目◆


「――起きてください――起きて下さいぼっちゃま」


 ん? 何だ、まだ朝早いじゃないか。起こさないでくれ……ヤメてくれたまえ。


「起きなければ、ゼム様に伝えろと伝言がありますが……」

「良い朝のようだね。ヤン」

「お早うございます。ぼっちゃま、早くお着替えになってください。今から一番隊の訓練が始まるので、城の前に集合との事です」


 何をいってるんだ? まだ日が登ったばかりじゃないか。もう少し寝かせてくれてもいいだろうに。


「駄々をこねられたら、今日はゴンド様とゼム様の訓練になりますが……」

「着替えをもてえぃ」

「ここに……」


 ぎぎぎ、身体が痛い。筋肉痛とかの話じゃない。筋肉がもう死んでいる気さえしてくる。

 行きたくない、憂鬱だ……何故僕がブラムなどの下につかねばならないんだ。くそ。

 朝食さえも余り食べれずに、急いで着替え、騎士鎧を身につけ城へと向かう。


 ◆◆◆◆◆


 城の前で、一番隊の騎士達が整列している。僕は端の方に並び黙って立つ。

 前ではブラムが偉そうに腕を組みこちらを見回しているのが見えた。

 苛々する。僕は四番の隊長だったのに、何故同じ隊長のブラムの言う事など聞かねばならないのだ。

 だが、下手に抵抗してお祖父様達の訓練は受けたくはない。

 我慢、するしかないだろう……。


「よし、お前らッ。訓練を始める前にだが、今日は新人としてギランが入った。元が隊長だろうが一番隊の新人に変わりはねーんだ。ガンガンしごいてやれよ。ギラン一先ず挨拶しておけ」


 ブラムに言われ、嫌々ながら挨拶を始める。くそ、調子に乗りやがって、見ていろよ、ブラムを蹴落として僕が隊長になってやる。


「元『四番隊隊長』の『ギラン・イグランド』だ。僕に君らと同じ訓練など必要ないだろうが、まあ、頭を下げるなら、宜しくしてやっても構わんぞ」


 ふふふ、バカ共め、お祖父様達の訓練に比べたら隊の訓練なんて天国に違いない。見ていろよ、僕の力を見せつけてやる。隊長になったあかつきには、お前らを存分にこき使ったやるぞ。安心したまえ。


「おう、元気なことで結構だが。さっさと訓練を始めるぞ。いつも通り街をフル装備で十周だ。魔法は使うんじゃねーぞ。一周回って最後尾の奴は、もう一周づつ追加だ」


 なんだそれは? 最後尾の奴は永遠に走らないといけなくなるじゃないか。

 まあ、僕には関係ない話だがな。金を掛けて級の高い結晶を吸収している僕の身体能力を舐めてもらったら困る。

 

 僕は道順を聞き、走る準備を整える。

 そして、ガッチャガッチャ、と音を鳴らしながら、一番隊全員が走りだす。――凄まじい速さで。

 ……は? 何考えてるんだあいつら、あんな速度で走り続けられる筈がないだろう。やはり馬鹿しかいないのか一番隊は。


 僕は僕のペースで行くんだアイツらがへばってから追い越せばいいだけさ。


【一周目】

 誰一人速度を落とす人間はいない。というかむしろ誰も見えない。最後尾になってしまった。

 街中で祭りをやっているらしくガヤガヤ、と騒がしい。

 一周追加らしい。


【二週目】

 流石にだれもいないと言うことはなくなった。チラホラと騎士達を見かける。――何故か僕の後ろからやってきているが。

 また追加か……。


【三週目】

 そろそろきつくなってきた。鎧が重く、中々走りづらい。自分の順位が分からないが、まだ一人も追い越した覚えがない。

 考えたくない。


【四週目〜七週目】

 息が上がる。なんだか目の前がぼんやり白く見えてくる。

 おかしいこんなはずがない。あんなにも結晶を吸収したのに、僕がそこらの騎士に負けるはずないんだ。

 ……。


【八周目〜???】

 既に全員が到着しているらしく、コース途中の練兵場で二人一組で剣を打ち合い訓練しているのが見えた。

今何周目だろうか? 僕しか走っていないから、最後尾確定なのだが、何時終わりだと言ってくれるんだろうか?

サボってしまいたい、もう止めてしまいたい。でも走る前にブラムが言った一言でそんな事をするわけにはいかなくなった。

曰く「二番隊が監視の訓練で張ってるから、サボれば、すぐゼムの爺さんに伝わっちまうからな。気をつけろよ」


【???】

 もうなにが何だかわからない。頭の中では一つの思考のみしか無い。

 ――倒れてしまいたい。


 ◆◆◆◆◆

 

 バシャリ、意識が覚醒していく。顔に水を掛けられたようで、ずぶ濡れになっていた。

 倒れたまま僕の身体はまったく動かなくなっている。景色は空しか見えず、自分が何処で倒れているのか分からない。

 上からブラムが見下ろしているが、怒りすら感じない。

 苛々する、怒りがこみ上げる、という感情は思いの外体力を消費する行為だと僕は気がついた。

 ならば、無駄に体力を減らす行為を出来るはずがない。


「今日はここまででいいぞ、自分で帰れねーなら連絡を入れておいてやるから、そこで倒れてろ」


 失礼な奴だ。だがいったいなんでこうなったんだ。僕の身体能力でこんな事になるはずがないのに。


「何で、僕が、こんな事になるん……結晶だっていっぱい吸収したはずな……ズルしてるんじゃないだろうな君たちは」

「馬鹿かお前、結晶吸収しようが元の鍛え方が違えばこの結果は当たり前だろうがっ。

筋力もつく、足だって早くなる、だが元の身体が基準なんだ、結晶だけ吸収してもどうにもなんねーよ。

後な、確かに結晶で人は簡単に強くなれる……だがな結晶で強くなった程度じゃ国は守れねーんだよ」


 そういうとブラムはポンと何かを僕に投げて何処かにいってしまった。


 何だよそれ、僕は知らないぞ、そんな事。お父様のつけてくれた家庭教師だって、そんな事教えてくれなかったぞ……誰も教えてくれなかったんだ。


 ◆◆◆◆◆


 その後、使用人のヤンが僕を迎えに来てくれた。

 家に帰り、軽く風呂にはいってベッドに沈み込む。

 ヤンが言うには祭りの為に順番で休みを取っているようで、明日は一番隊の休日だそうだ。

 お祖父様達も明日は祭りに行ってきていいぞ、と休みをくれた「祭りを楽しまれたらどうですかぼっちゃま」と言われたが、馬鹿か、なんで貴重な休みを祭りなんかで消費しなければいけないんだ。あり得ないッ。


 ベッドで寝ているとカツン、と頭に何かが当たる。

 僕が適当に放り投げておいたブラムに貰った謎の缶。開けて中を見てみると中に謎のゲル状のナニカと、フタの裏に手紙が貼ってあった。

 気になって読んでみる事にする『ギラン、この缶に入ってんのは筋肉痛に効く薬だ。絶対に回復魔法だけは使うなよ。何時までたっても糞爺の訓練が楽にならねーからな。まあ、経験者は語るってやつだ。使い方は身体に塗るだけだから寝る前にやっておけよ』


 はんっ、馬鹿かッ。これで僕に恩を売ったつもりなのかブラムの野郎。余計なお世話だ。

 そう思いながらも、一言だけ気になる文があった……『経験者は語るって奴だ』

 

 …………。


 ま、まあ、薬に罪はないんだし使ってやってもいいだろう。

 身体に塗った薬は痛みを少しだけ和らげてくれた。

 酷く臭う薬で、鼻孔に入ってくるツン、とした刺激臭で、一筋涙がこぼれ落ちる。

 


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