4−9
どうにか体力と魔力も回復し、傷も魔法で治して貰ったのだが、未だ肉を喰いちぎられた腕と足は、皮が引きつったような感覚が残り、違和感がとれない。
戦闘には支障はないだろう。だが正直今から奥に向かい、主を討伐するには、まだまだ不安要素が残っている。
蟹に電撃が効かなかった……いやそれどころか、撃った事で余計状況が悪くなったんだよな。今まで蟹以外には使ってなかったけど、もしかして此処のモンスターって電撃が効かない? もしくは蟹だけなのだろうか。
どちらにせよ、効かない、もしくは蟹の様に振動? して攻撃力が上がると考えておいたほうが無難だろう。
それに、ドリーの覚えている水と土も相性が悪い。土などこの辺りにはまるで無いし、ドリーが覚えている水の攻撃魔法は威力も低いので、大した効果がないだろう。
あ、そういえば……まだ二つ魔法紙を買っておいたよな。入れ替えておいたほうが良いかもしれない。
ゴソゴソ、と荷物を漁り、二枚の魔法紙を取り出した。
「なあ、リーン。この二つの魔法なんだけど、ドリーのグランド・ホール、俺のボルト・ライン二つと入れ替えて欲しいんだけど」
「別に構わないわよ。でもメイ、永久魔導書から覚えた魔法でしょ。入れ替えたら買いなおさないと使えなくなっちゃうけどいいの?」
っぐ、正直ボルト・ラインにはここまで使ってきた思い入れがあるし、入れ替えたくはないけど、モンスターに通じない可能性があるのに思い入れだけで残すのも出来ないよな。
仕方ない、クレスタリアに着いたら絶対買いなおそう……。
エント・ボルトはまだ残っているし、我慢だ俺。
「じゃあ、やるわね」
リーンに促され、俺は魔法紙の上に手を置き、魔法を入れ替えた。俺が終わった後は、ドリーの魔法も入れ替え、出発の準備が終わる。
皆の準備も既に出来ており、遂に出発の時間が来てしまった。
憂鬱な気分になってくるが、このまま此処に居ることは出来ないし、行くしかないよな。
「メイ殿、そろそろ行きましょうぞ」
「お、おう。行くか」
ラングはどうもヤル気が漲っている様で、待ち切れない様子で尻尾をバタバタ、と揺らしている。
獄級を走破出来れば憧れの人に近づける、と思っているのだろうな、きっと。
「ドラン、無理はしなくていいから、死なない様にだけ気をつけような」
「メイどん、有難うな。おら、頑張るだ」
ドランにも声を掛け、覚悟を決めて奥へと進んでいく。
◆
やはり相変わらずの水晶通路なのだが、モンスターも出ずに静まり返り、逆に気味が悪い。
なんか、マネキンモドキが大量に沸いたあの通路に似てるな……今なら人数もいるし大丈夫だろうけど、もう、あの光景は見たくはないな。
もしあの時捕まっていたら、俺はどうなっていたんだろうか。水晶の中にでも引き摺りこまれてしまったのかもしれない。
駄目だな、ついつい嫌な方に考えが進んでいく……ここの主はどんな奴なんだろうか、姿だけでも見れれば対策が少しは取れるのに。
先の事を考え始めると、どうしても思考の海に沈んでしまい、他に注意が向かなくなってきてしまう。
先頭はラングに任せてあるから大丈夫だとは思うが、俺の悪い癖だな。気を付けないといけないな。
「メイッ! 下がって」
「え、何だ……ぐあっ」
リーンの言葉と共に俺のフードが後ろに引っ張られ、たたらを踏みながら、後ろに下がる。
――シャリン。透き通る音が聞こえ空気が引き裂かれた。
水晶で出来た、薄羽の様な曲刀が壁から生え出し、左右から二枚交差していた。思わず自分の首筋を撫で、首が付いている事を確認し、安堵してしまう。
やばかった、リーンに助けてもらわなかった間違いなく首が飛んでいた。
俺の首を狩りきれなかった水晶刀はスルスル、と壁に沈み込んでいく。
「助かったよリーン……ラング、上だッ!」
リーンに引っ張られ少し上を向いていた為に気づけた違和感。先頭を歩くラングの頭上、天井から先ほど俺を襲った刃が音もなく現れラングに斬りかかっていた。
ラングは、俺の声に反応して身体を捻り、紙一重で水晶刀を避けきる。最悪だ、出てくる時に音がまるでしていない。気がついた時には既に首が飛んでいました、なんて洒落にもならない。
だがどうやら、それだけでは無く、本当に洒落になってない状況に陥っているらしい。
シャリン……シャリン……シャリン。
通路には無数の水晶刀が現れ、奥に向かって、水晶刀のアーチが出来上がった。さあ、進んでみろと言わんばかりに……死刑囚にでもなった気分だ。冗談じゃないぞ、あんなとこを通れるわきゃねーだろ。
『相棒っ、右。リーンちゃん上ですっ』
ドリーのナイフが閃き、右側から首を刈り取ろうとしてくる水晶刀を遮る。近距離で鍔迫り合いをしている為、耳障りな金属音が響き、思わず顔を顰めてしまう。
背後からも、リーンが無事、攻撃を受け止めたであろう音が聞こえてきた。
良かった。後ろを見る余裕なんて今はないからな。
次々と左右、上部からこちらの命を刈り取ろうと水晶刀が出現してくる。どうにか、武器や篭手で弾いてはいるが、いつまでも防ぎきる自信は無い。一撃防ぐごとに背筋が凍り、身体の一部が切り取られていない事に安堵する。
ラングの方も脚甲、手甲、で弾いているようだ、技術的にも俺よりは余裕があるだろう。
ドランはどうなんだ……とてもじゃないが、彼にこれを避けきる技術があるとは思えない。だが視界の中に見えるドランは、怯えて逃げ回っているが、どうやら未だ健在の様子だ。
「ドラン殿、逃げ惑っているだけでは何もできんぞっ。こちらとしてはそなたが死んでも構わんのだからなっ」
「ひいい、んな事言われても、どうしていいだか、わかんねーだよ」
思わず苦笑してしまう。あんな事言ってる癖に、こっちから見れば、ドランを庇いながら進んでるのが丸見えなんだが。
しかしドランの金属箱凄いな。後ろから斬りかかってくる水晶刀が全部弾かれてやがる。どんだけ硬いんだあの箱。
ドランに向かって繰り出される水晶刀は前面はラングに防がれ、背後から襲いかかっているものは、箱に遮られ傷一つ入れられず自らの力が跳ね返り、砕け散っている。
やはり刃が薄いだけあって強度自体はそれほど無いようだな。だが切れ味はやはり凄まじいものがあるのだろう、さき程からギリギリで避けた斬撃で軽く髪の毛が数本空に切り飛ばされたのが見えた。
持久戦はマズイ。だが強行突破しようとすれば、どうしても動きが雑になり、防ぎきれなくなった水晶刀で切り刻まれるのは眼に見えている。
『足元にでないだけましですが、いつまでも持ちそうにないですっ』
確かに足元に出ないのは本当に助かる。地面は水晶の厚さも薄く、そこになんらかの関係があるのかもしれない、まあ出ないと決め付ける事は絶対にしてはいけないのだが。
「メイ殿、急いで突破したほうがいいのではっ」
「駄目だっ、捌き切れなくなる」
「そうね、でもせめてもう少し通路が広ければいいのに、剣が振りにくくて、捌きづらいったらないわ」
ちくしょう、どうにかならないのか。せめて、盾でもあれば楽なのに……でもあの攻撃を防げる盾なんてそうそうあるもんじゃな、い?
思い出す先ほどの光景。これならいけるんじゃないか? やってみる価値はあるよな。
「ラング、ドランを抱えて箱を盾にしながら先頭を頼むッ。俺とリーンで背後は守る」
「――ッ! それならいけそうですな。了解した」
ラングが隙を見てドランを持ち上げ、頭を低くしながら通路を走りだす。その後ろをリーンと俺で追従し背後から迫る水晶刀だけ防いでいく。
連続して前から聞こえる破砕音。ラングは止まる事無く、重戦車の如く全てを砕きながら加速する。
「ひいいいいいいいい、助けてくれエエエエエエ」
いやアレは怖いわ。少しだけドランに同情してしまう。きっと彼は今、金属箱に水晶刀が当たり砕けいく感触を、絶え間なく背に感じている事だろう。
すまんなドランもう少しの我慢だ、先には広い空間が見えるし、あそこまで行けばこいつらも来ないだろうから安全だろうさ。
「メイ、後ろから来るのが増えてきてるわ」
『相棒急いでっ』
背後から迫る水晶刀の数が格段に増え始め、水面に覗くサメの背ビレの様に、水晶壁を泳ぎ迫ってくる。
意外と速い、このままでは追いつかれてしまいそうだ。
『まずいです、相棒の魔法を使いましょうっ』
「了解だ、ドリー」
『フォロー・ウィンド』
ドリーの言葉に従い、新たに入れた魔法を唱える。魔名と共に、背後から追い風が吹き始め、全員の背中を押し加速する。
今まで走ったり、逃げたりばっかだったしな。効果を聞いた瞬間買いだと思い、衝動買いをしてしまったのだが、いい買い物だったかもしれないな。
グングン、と風に乗って通路を走る。もう少し、あと少し…………。
後ろから追ってくる水晶刀を置き去りにして、通路から広間へと全員が無事辿り着く。
シャリン、シャリーン。振り返れば、次々と水晶刀が交差していき通路を完全に塞いでしまう。
まあ、ある程度予想していたのでそこまで驚く事でもないか。それに一先ず命の危険を回避できたのだから十分かな。
◆
たどり着いた広間はかなりの大きさで、天井には鍾乳洞の様に水晶が下がっていた。左に顔を向ければ、キラキラ、と光る地底湖が広がっている。
綺麗なもんだな。少しは癒されるってものだ。とりあえず、差し迫った命の危険も去り、俺はすこしばかり気が抜けてしまう。
――だが、皆の様子がどうも可笑しい。ドランは尻餅をつきながらアワアワ言っているし、ラングも右側に顔を向け緊張感を漂わせている。
リーンも同じ方向に向かって剣を構えていた。
恐る恐るそちらを向いてみれば……。
巨大なマネキンモドキがそこにいた。
おいおいッ、タイタニアスよりもでけーぞこいつ。
十五メートルはあろうかというその体、ヘソから上が地面から生え出し、全身が水晶で出来ていた。
柔らかい曲線を描いたフォルムは女性型とも言える姿かたち。
少し前傾姿勢になっており、背中には巨大な水晶柱を背負うように生やしていた。
目を瞑っているかのように見え、祈るように手を組み合わせピクリとも動かない。
その巨大マネキンモドキの表情は――絶望を感じさせる、悲哀に満ちたものだった。
ジワリ、と嫌な汗が流れてくる。この広間を見渡しても出口らしき場所は入ってきた一箇所のみであり、今まで此処で見たモンスター達とは一線を画する雰囲気を漂わせていた。
もし、こいつが動き出すようなら、確実にこいつが……。
ピキッ……バキッ……。
――ここの主だろう……。
ギィィィィィイイイイイアアアアッ!
獲物を見つけた喜びか、縄張りに入られた憤怒なのか、どちらとも取れない雄叫びを上げながら、水晶平原の主が目を覚ます。
祈るように組んでいた手を離し、瞑っていた目を開ける。
仄暗い深海を思わせる暗い、暗い蒼の瞳を、忙しなく動かし続け、一定の場所に固定しない。口元を微笑ませ表情だけなら、子を愛する母のようでもあった。
……イカれた目しやがってッ。表情があれでも、あの瞳で全てが台無しになってるじゃねーか。
ギョロギョロ、と動き続けるあの目を見ていると、どうにも気持ちが不安定になってくる。
「メイ、多分主よ、絶対油断しちゃだめだからね」
「大丈夫だ、わかってる。見ればわかる、あれが主だ」
『相棒は負けません、絶対ですっ』
「ドリー殿の気概は素晴らしいものですな。ドラン殿も見習えば良かろう」
「そんな事言っても……あんなすんげえモンスター、おら初めて会うだよ」
各々が自分の武器を構え、震える身体を奮起させる。
主は、まるでこちらを抱きしめようとするかの様に両手を広げ、こちらを迎え討つ構えを取っている。
「それにしても、あのモンスターの雰囲気は、――ッ!? ではっ、まずは様子見、自分が行ってみようぞッ」
ラングがその言葉と同時に主に向かって駆け出していった。
なんだ突然、あいつ妙に焦ってやがった気がする。このままじゃまずいだろ、フォローしないと。
「リーン、ラングのフォローに行ってくる。後ろは宜しく、ドランはなるべく近寄らず、逃げに専念してくれ」
「了解よ」
「わかった、頑張るだよ」
返事を聞きながらも既に俺は、ラングに向かって駈け出している。
先を走るラングに向かって、主が広げていた手の平を手刀の形に変え、抱擁するかのように交差させながら振り下ろす。
ギャリギャリ、と水晶で出来た地面が泥でも掬くったかの如く簡単に抉れ、ラングはそれを間一髪上空に飛び免れた。
だがあれではマズイ、空中じゃ追撃を避けきれなくなる。
俺の嫌な予感は当たり、主は宙に飛んだラングに向かって口を開き、歯をむき出しにしながら食らいついていく。
大丈夫、間にあう筈だ、いける筈だ。
『相棒なら間に合いますっ。自信を持ってください』
「応ッ」
地面を壊さんばかりに蹴り飛ばし、ラングに向かって弾丸の様に飛ぶ。ラングの尻尾をドリーが掴み、真上に向かって『ウィンド・リコイル』を放つ。身体が重力と反動に引っ張られ地面に向かって急速に落下する。
ガチィッ。聞こえてくる上下の歯が打ち鳴らされた音。どうにか迫り来る主の歯を、寸での所で免れられたようではあるが、間一髪にも程がある。
何考えてるんだラングの奴、迂闊すぎるだろ。
問題なく着地して相手と距離を離す。余裕のつもりか追撃はやってこない。だがラングには少し落ち着いて貰わないとマズイ。
「何してんだラング、甘い相手じゃない事ぐらい見れば、わかるだろ」
「しかし、あのモンスターが、昔見た影の奴と同種の雰囲気を発しておる。奴を倒せれば、影も倒せるかもしれん。仇を討てる……あの人に届くやもしれん」
同じ雰囲気だって? まさか昔ラングがあったやつも獄級の主かそれ並の奴だったのか。だがどちらにせよ、今は落ち着いてもらわないと困る。
でも今のラングに幾ら言っても耳を貸さないかもしれない。どうするか……。
俺が困っているとドリーが見かねてラングに話し掛けてくれた。
『かんがるさん。カッコイイ【漢】とは、動じずに、どっしりと構えているものなんですよっ』
「いやカルガンだ、そもそも名前じゃない……のだが。うーむ、しかしドリー殿の言うことも一理ある。――少し焦っていたようだ、すまぬ、メイ殿」
ドリー、すげーんだけど。あっさりとラングを説き伏せやがった。うーむ、適当に漢とか言っておけばいいのかもしれんな。
「メイ、主が動くわ。気をつけて」
主を見ると両手を高くあげ、ピアノの鍵盤を弾くかの如く、地面に向かって振り下ろす。二十本の指をが全て地面に突き立てられ、主がこちらに向かってニタリ、と笑う。
地面に微かな振動を感じ、その場から逃げようとするが一寸遅く、俺達の周りをぐるりと囲むように二十本の指が地面から飛び出してくる。
出てきた指先が一本一本小さなマネキンモドキに変化していく。
――ギィィィイイイッ。
現れた二十体のマネキンモドキが一斉に金切り声を上げ、余りの声量に身体が硬直して全員動けなくなる。
耳を抑え必死に耐えていると、ここまで聞こえてくる程の力で主が、歯をギシリッ、と鳴らしながら、力任せに噛み合わせている。
何だ、何してんだあいつ、嫌な予感がする早く逃げないと。くそっ、動けない。マズイ、絶対にやばい。
バチリ、主の口元に一瞬紫電が走り、空気を鳴らした。しだいにバチバチ、と青白い光が目に入り、主の口がゆっくりと開いていく。
ガァッ!
主の口から電撃が迸り、二十本の指に向かって吸い込まれていく。
避雷針の様に電撃を受けたマネキンモドキ達が、震えだし、再度金切り声を上げた。先ほどと違い振動している為かその声のせいで頭が痛くなってくる。
揺れる視界の中、空気を吸い込み雄叫びを上げる主の姿が目に入る。
ガアアッ。大気が震え、広間全てがビリビリ、と揺れる程の声量。二十体のマネキンモドキの声と重なり、音が反響し、拡大していく。
天井からは水晶が次々と落下してきて、唐突に音が途切れ、俺の耳からドロリ、と温かいものが流れてきた。
――何も聞こえない……糞ッ。鼓膜をヤラれた。
耳を押さえている皆の手を見ても同じように血が付着しているのがわかる。駄目だ皆やられたようだ、すぐに体勢を立て直さないとマズイな。
命があるだけマシだ、鼓膜ぐらい魔法で治せるはずだ。
「――――ッツ」
リーンがこちらに向かって何か叫んでいるようだがまったく聞こえない。身振り手振りも加え、こちらに何かを伝えようとしている様だ。
なんだ、上を見ろとでも言いたいのか。なんだ足元に影が……。
不意に足元に影が落ち、見上げてみると先ほどまでマネキンモドキだった主の指が全て見覚えのある水晶刀に変わっていた。
振り下ろされる二十本の振動する水晶刀。避けれるか? 駄目だ時間が無い、避ける場所を考える暇が……。
『相棒ッ、右へ一歩半身になって、かんがるさん、後ろに二歩さがって、リーンちゃん前に三歩の位置です。トカゲさんはそのまま動かないで下さいっ』
なにも聞こえないはずの頭の中に、ドリーの声が聞こえてくる。考える暇もなく、すぐさま全員が指示通りに動くと、俺の鼻先を水晶刀が通りすぎていき、二十本の水晶刀が、眼前の地面を易々と切り裂いていく光景が見えた。
『今のうちに、ここから離れて下さいっ』
ふらつく身体に鞭を打ち、指の隙間をくぐり抜け、全員包囲の中から抜けだして行く。
『フィジカル・ヒール』
ドリーの回復魔法が発動して、破れた鼓膜が治っていき、無くした筈の音が戻ってくる。
まだ、耳に違和感があるが、どうにか持ち直せたようだ。
「助かったよドリー。また一つ借りが増えちまったな」
『そう思うなら相棒、後で魔水を頂きたいですっ』
「ドリーちゃんには、私が後でいっぱい買ってあげるわよ」
「自分も奢ろう」
「おらも」
『あ、相棒。私、魔水長者になってしまいましたっ』
助かった、どうやらドリーのお陰で、鼓膜だけでなく、士気までもが回復していったようだ。まったく……凄いなドリーは、本当、自慢の相棒だよ。
だが流石、獄級の主だよな、本当に強いぞこいつ。実際表立って戦ってみれば、ブラムさん達が如何に強かったかが判ってくるな。
少し強くなったからって伸びた鼻がすぐに折られちまうんだが……もう少し位自信を持たせて貰いたいもんだよ。
指を戻し、両手を広げ、こちらに目だけをギョロギョロ動かしながら、微笑みかけてくる主に向かって再度武器を構え、対峙する。
「そう簡単に死んで堪るか、絶対にお前を倒してやるッ」
自分自身を奮起させるために虚勢を張り、恐怖を吹き飛ばす。
――絶対に生き残ってやるからな。