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俺の人生ヘルモード  作者: 侘寂山葵
城壁都市グランウッド
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爺無情、皆友情


「おいメイっ、起きろ、メイっ起きろー」

「っぐ、う、うるせえな、なんだよ一体」

『おはよう御座います。メイちゃんさん、どうやらブラムのおじさんが来たようです』


 ブラムが来たって、何しに来たんだ一体、今日なんかあったっ……あったよおい、ゴンドの爺さんの所に、死刑執行されに行く日じゃないか今日、どうする。ブラムを生贄にして逃げようか、名案じゃん。


「ドリー、ブラムさんを生贄にして逃げるぞっ、急げ」

『あいあい、了解です』

「聞こえとるわあああああ」


 ドアをこじ開け内部に突入してくるブラム、っち、中々動きが早い、さすが一番隊隊長、機を見て敏なりとはこういう事か。


「お早うございます、ブラムさん、今日もいい天気ですね。――嗚呼、ちょっと小鳥が呼んでるんで失礼しますね」

「前に一回やって失敗してるその作戦で、再度成功すると思える、その平和な脳みそだけは評価してやろう」

『相棒……任務失敗です。埋めましょうかこいつ』

「やめておけドリー、俺らが逆に埋められる」

「お前ら一体俺に何するつもりだったんだ……」


 仕方ないので、鈍々と準備を始める。い、行きたくねえ、そんな思いが心の中を埋め尽くすが、どうしようもない。


「ちなみにもう一人来ている奴がいるんだが」

「おやようございます、メイくん、何やらとても楽しそ、ではなく勉強になりそうな、虐さ、ではなく、試合を殺るようなので、笑いに、というのは嘘で勉強の為に着いて来ました」

「お前絶対それわざとだろっ、帰れっ」

『――っぶふ、沈黙がやってきましたよっ』

 

 のそり、とドアの向こうから、相変わらずフードを被ったアーチェが現れ、モーニングポイズンを撒き散らす。こいつ何時か絶対埋めてやる。


「取り敢えず朝食を食べませんかブラムさん」

「やめておけ、終わってからにしとけ、食ったら死ぬぞ」

「口からヘドロっ、――ぶふっ」

「ちょ、そんなにっ、そこまでしないよねっ、俺何もしてないしっ」


 さ、さすがにそこまではしないだろ、他に人もいるしきっと止めてくれるよ。間違いない。


「め、メイくん遺産の名義は私にしておけば幸せになれますよ」

「やかましい、沈黙は沈黙らしく黙っててくださいー」

「え、ええっ、な、なんでその名前を、恥ずかしいのでやめてくださいっ」

「沈黙のアーチェ……かっこいいですね、――ヒィっ、お腹痛い」

「まあ今日沈黙するのはメイくんですけどね」

「…………」



 ◆



 結局アーチェは本当について来るらしく、俺とブラムさんの後ろを口元をニヤニヤさせながらついて来る。


 現在の時間は朝日が登って少したった頃だろうか、時間が今一把握できない。――時計はないのだろうか、それこそ現代並の高性能時計など期待してはいないが、砂時計辺りなら誰か考えついても可笑しくはないだろう、そこ迄いけば時計という概念が生まれてもおかしくはないはずだ、――それとなくブラムに聞いて見ようか。


「ブラムさん、昼まで後どれくらいかわかります?」

「あー後、四時間と五十分だな」

「時計あるのかよっ」

「まあな、時計は結構高いしな、ほれ、見るか」


 ブラムの懐から出てきた物は間違いなく懐中時計、俺に見やすいように差し出された其れは、手のひらに収まる銀の円盤に同じく銀の鎖がジャラリとブラムの腰元に伸びている、周りには刻印が刻まれ、文字盤にはこの世界の数字であろうものが十二個銀で描かれている。水晶らしきものが文字盤の上に嵌り、二本の銀色の針がチクタクと時を刻んでいるじゃないか。余りの感動に思わず食い入るように見つめてしまう。


「なんだメイ、食い入るように見やがって、時計欲しいのか、くれてやろうか?」

「いやそんな、貴重な物なんでしょうし、そんな簡単には頂けませんが、そこまで言っていただけると、さすがに断るのも逆に、逆に、失礼かと思われるので、くれ」

『欲望がダダ漏れです』

「お前は正直なんだか、なんなのかわからんな、いいぜやるよ。俺はまだいっぱいあるしな」

「いっぱいて、そんなに高くないんですかこれ」


 あっさりと時計を貰えてしまった、ならばそこまで高いものじゃ無いのかもしれないな、敬語を使って損したな。


「金貨二枚くれーだな」

「お高く有りませんっ?」


 ブラムさんの寛大なお心に思わず感動して妙な喋り方をしてしまいました。


「だな、無駄に高いんだよな、俺のは全部貰いもんだよ、騎士隊長とかやってると色々あってな」

「でもそんな高い物やっぱり貰うわけには……」

「じゃ、じゃあメイくんが要らないなら私が」

「ブラムさんっ、有り難く頂きますっ」


 ブラムから貰った懐中時計は、鎖の先に六センチ程度の長さがある四角い箱が繋がっていた。ブラム曰く此処に三日に一回程度の感覚で命結晶を入れるそうだ、ゴブリン程度の結晶で良いらしいので、使い勝手はなかなかだろう。時計自体の強度はそれほど無いので、あまり乱暴に扱っては壊れるから注意しろとの事、取り敢えず箱は腰のベルトに取り付け、時計もベルトに引っ掛ける。リーンの家に着いたら外そう、絶対壊される。


 しかし二十四時間方式ってどうなんだ、惑星の自転速度とか地球と一緒って事? やっぱ違う惑星説はないな、異世界なんだろう。自分のいた地球と同じ物だが別次元で別方向に進化した世界、とか、ダメだわけがわからん。――まぁ余り気にしても仕方ない事では有るのだが。正直、頭痛くなりそうだし、大して詳しくも無いのだから考えたって無駄だろう、なにせ現状は変わらないのだから。



 ブラムの案内に従い街を進めば、城近くに堂々と居を構える、馬鹿でかい屋敷へと到着した。外から見た屋敷は、想像していたよりも装飾過多な見た目ではなく、中々品の良い印象の屋敷だった。

 白い石壁に赤い屋根、嫌味が無い程度に装飾された門構え。屋敷まで続く道は綺麗に整えられ、庭園が広がっている。庭先には動物の彫像がちらほらと見受けられた。

 なんだかリーンに似ているな……いや、これは言っちゃ駄目だな。女の子に向かって君、家に似ているねっ、などとのたまってって喜ばれるわけがない。


「ゴンド老師に呼ばれたブラムとメイ、それに三番隊のアーチェだが、取り次いで貰えるか」


 下らない事で俺が頭を悩ませている間に、ブラムが門番に話しかけ、取り次いでもらえるように話を進めている。


『パステル・ライト』


 話しかけられた門番が、屋敷の庭上空に向かって、魔名を呼び、青い光の玉を放り投げた。屋敷の奥から数人の執事とメイドが現れ、門を開け放ち、中に通される。どうやらあれで来客を伝えているらしい。


「そういえばブラムさん、リーンは今日いないの」

「いないんじゃないか、今朝お前の止まっている宿に向かう途中で、何かに慌てて走っていくあいつを見たから、今日は忙しいんじゃねーか」


 アーチェに目を向けても彼女は黙って首を振っている。どうやら知らない様だ、しかしそうなると、唯一爺さんを止められそうなリーンがいないという事になり、これは本当に覚悟して挑まねばなるまい。


 庭を通され、屋敷の裏に回る。

 ――あれ、屋敷には入らないのか。

 裏手に回って目に入ってきたのは、一面土の地面が敷かれ、明らかに戦闘の末、踏み固められた練兵場、そこの意味を理解した瞬間から、俺にはそこが唯の墓場にしか見えなくなっていた。


「待っていたぞっ、小童共、――とアーチェお嬢ちゃん」


 待っていたって、まだ七時半じゃねーか、何時からいたんだこの爺さん……。

 呆れ混じりに溜息を吐いて、俺はブラムに貰った時計を確認しながらゴンドの爺さんに目を向けた。


 爺さんはフルプレートの騎士鎧を着込み、顔だけさらけ出し、練兵場のど真ん中で腕を組み仁王立ちになり待ち構えている。爺さんの傍らには槍斧が地面に突き刺さっていて既に戦う準備は万全らしい。


 突き刺さっている槍斧は全長2,5メートル程、斧部分は歪んだ三日月の形をしていて、柄尻には赤い固そうな鉱石が嵌っている。本来有るはずのピック部分には、歯車を半分に割った様な物が取り付けられていて。多分あそこで殴打するのだろう。先に伸びる槍先は細い矢尻の形に整っていて、その体相は斧槍よりも槍に近い形であることが容易に見て取れる。


 ブラムが一歩進み出て、爺さんに向かってなにやら挨拶を始めている。


「本日はクソジジイ様に訓練のお呼び出しをされ誠に有難う御座います。心の底から叫びたい衝動を抑え、ここまで来るのに、それはもう、苦労した物です」


 あんたぁ、ダダ漏れだ。――どうやら終わった様で、次行け、とばかりに俺に目配せしてくる。――仕方ないので挨拶をせねばなるまい、此処で好印象を残せば手を抜いてくれるかもしれない。


「本日は高名なゴンドじじい様のお呼び出し、誠に迷惑であります。出来れば今回は手を抜いていただき、二度と呼ばないでいただきたいものです」

『メイちゃんさん、ダダ漏れですっ』


 しまった、ブラムに釣られて本音が零れ出たっ。――くそっ、ブラムに後で仕返しをしなければ気が済まない。


「このっ、糞餓鬼共がっ! 良いじゃろう、今日はとことん〝訓練〟してやらねばなるまいのぅ」

「ブラムさんっ、あんたのせいだ、責任とって一人でやれやっ」

「なっ、メイお前が悪いんだろうが、お前こそ一人でやれや」

「ゴンドお祖父様おはようございますー」

「おーアーチェ嬢ちゃん、いらっしゃい、ゆっくりお菓子でも食べとるといいぞ」

『私はお水を所望しますっ』



 非常に騒がしくなってしまったが、気を撮り直して、武器を構えブラム共に向かい合う。ドリーには時計を預かって貰っている為、アーチェと一緒に安全な場所で寛いでいてもらっている。大体アーチェに時計を預けられるわけがない。


「よしよし糞餓鬼共めが、まとめて掛かって来い」


 槍斧を抜き放ち、穂先を下げ構えを取るゴンド爺、その瞬間、周りの空気が何かに怯える様に暴れだす。


 凄まじい威圧感に耐え切れなくなり、様子見がてらに斧槍を突き放つ、瞬間、爺の右腕がかすみ、武器に衝撃が走る。


 ――突いてる途中の武器を殴られたっ!? 右に身体が泳ぎそうになるが、そんな隙を見せるわけにもいかず、無理矢理に武器を回転させ、柄尻で爺に殴りかかる。だがそれに対してすら一瞬で対応してくる爺。武器の穂先が跳ね上がり柄尻を絡め取られ、隙が出来た瞬間腹に蹴りを叩き込まれてしまう。


「アホかメイ、迂闊に攻撃するな。二人で同時にだっ、殺す気で行けよっ」

「お、お腹痛い帰りたい」


 このじじい、見た目と違って技巧派じゃねーか。ブラムが前面に立ち、爺の攻撃を盾で流して行く、さすがブラムさん頼りになる。その戦い振りを横目で伺い、ジリジリと、爺の背後に回り隙を待つ。


 ――俺の耳に魔名唱える声が届く。


『アース・ピック』


 ブラムの唱えた魔法により、爺が立っている周囲の地面が盛りあがり、土針と化し襲いかかる。


「うをっ、ブラムさんマジで殺す気かよ、仕方ねえ『エント・ボルト』」


 爺に対して一斉に針が襲いかかる。幾ら何でも隙が出来るだろう、受け止められぬように、簡単には逸らされぬ為に斧槍に魔法を掛け、背後から襲いかかる。


「くたばれクソジジイっ」「くたばりやがれ糞爺」


 思わず本音が重なり合う俺とブラム。


「甘いわっ、糞餓鬼共めがっ」


 爺は叫び声と共に体を半回転回し、そのまま武器を振り回す。烈風が巻き起こり一瞬で粉々に砕け散る土針、襲いかかっていたブラムを盾ごと吹き飛ばす。回転させた身体を俺に向きなおし、『エント・ボルト』の掛かった武器を手甲の嵌った手で掴まれた。


「じょ、冗談ですよねっ」

「冗談かどうかはすぐわかるわい」


 武器ごと持ち上げられ、手離す暇なく、ブラムが倒れている付近まで放り投げられる。


「さてそろそろ一回戦終了にしようかの」

『エント・フレイム』『エント・フレイム』『エント・フレイム』


 爺が魔名を唱えるたびに、武器に絡みつく炎が豪炎と化していく。


「れ、レアでお願いしますね」

「却下じゃ、儂はウェルダンが好きでのう『豪炎割り』」


 爺が武器を力任せに大地に叩きつけると、そこから地面が割れていき、炎と衝撃波がこちらに向かって襲いかかってくるのが見える。


「――ねーよ」


 俺とブラムは炎と衝撃波に飲み込まれて行き、俺が確認出来たのはそこまでである……。


 結局、意識を取り戻した後もボコボコにされ、意識を失うたびにアーチェに回復魔法を掛けられ、叩き起こされ、またボコボコにされた。いつの間にか昼になっており、そのままメルライナ邸の庭園で食事を食べる事になってしまった。クソジジイは城に用事があるのか「また来いよ糞餓鬼共」との有り難い言葉を残し、城へと出て行く。誰が来るかクソジジイっ。


「何あの超絶じじい、かすりもしなかったんですけど」

「だから言っただろうが、殺す気で行けって」

「いやいや、電撃纏った武器掴まれるとか聞いてないんですけど」

「あのクソジジイの鎧は魔法効かねーんだよ」


 何それズルくね、ブラムに聞くところによれば、あの鎧の表面に魔法を無効化してしまうコーティングがされているとの事、かなり脆いので武器で攻撃すれば簡単に剥がれるらしいのだが、まず掠りもしないのだから、どうしようも無いじゃねーか。


『やはり相棒には私がずっと一緒でないといけませんねっ』


 さすがドリーの優しさは世界一だな。そんなドリーに癒されつつ、みんなでご飯を頂いていると、屋敷から一人の赤いローブを纏った青年がフラフラと近づいてきた。


「やあやあみなさん、今日はよく着てくれたね。君がメイ君かな? 僕の名前は『ゲイル・メルライナ』妹から沢山話は聞いているよ。そっちのお嬢さんはドリーさんだねよろしく」


 どうやらリーンのお兄さんのようだ、見た目からするとリーンの二歳程上かな? 百八十センチ程の身長で、赤い髪を後ろに垂れ流し、聡明そうな顔にはメガネを掛けている。どこか理知的な雰囲気を漂わせている青年だった。


「どうも『メイ・クロウエ』です、リーンにはいつもお世話になってます」

『リーンさんのお兄さんですか、よろしくしてあげましょうっ』


 ドリーがいつもの如く、ぐっと腕を突き出し、挨拶している。


「応、ゲイルの坊主じゃねーか久しぶりだな」

「おじゃましてますねーゲイルさん」

「ブラムさんもアーチェもお久しぶりです。聞きましたよ、遂にやったみたいですね、僕も参加したかったんですが……」

「仕方ねーだろ、四番だけ残して行く訳にもいかねーだろが、お前のとこの五番隊に残ってもらうしかなかったからな」

「え、ゲイルさんって五番隊なんですか?」


 少々予想外だった、所作を見てもそこまで戦いが得意そうには見えなかった。


「はい、五番隊隊長をさせてもらってますよ。意外でしたか? でも五番隊は『魔道工兵隊』なので基本は研究ばかりなんですよ」

「おおっ、どんなもの作ってるんですか、名前からして魔法関係の道具ですかね」

「おっと、メイ君、興味あるのかな、興味あるんだねっ、良いだろう説明しましょうっ、僕達、魔道工兵隊は魔法を如何に道具や武器生活に運用できるかを日夜研究しているんだよっ、そう【魔道具】という宝物をっ、ほら見てご覧例えばこれっ、この筒の後ろをちょっと回してごらん、さあ、早く、急いで」


 いきなり人が変わったかのように、目を爛々と輝かせながら語り出すゲイルさん。渡された万華鏡に似た筒の底を回すと、筒の上部から小さい火が灯る。


「何これっ、すげええ」

「そうだろう、そうだろう、メイ君は中々分かっているじゃないか、やはり人間の本能に巣食うのは探究心だろうね。君もそう思うだろう? 思うよね、さて次に取り出したるはこの四角い水晶、この水晶上部に付いている別の水晶を押しこむと、あら不思議、光が灯るんだよっ、凄いだろ、分かっている皆まで言わなくてもわかっているよ、さあ、メイ君も押してご覧」


 カチカチカチ


「なにこれっ、やばいこれ」

『相棒わたしもっわたしもっ』


 カチカチカチカチカチカチカチカチ


『むひょぉ、すげえ、相棒これすげええ、これすごいですよぉ』

「くそっ、メイの野郎やりやがった」

「め、メイくんは普段、余計な事しか、しませんからねー」


 ◆


 ……いや、充実した時間だった。俺とドリーとゲイルさんは一仕切楽しんだ後、大分気分も落ち着いてきた為話に戻る。


「や、やっと終わりやがった。いい加減にしろよテメーら」

「まあまあブラムさん、あんな物見せられたしょうがないじゃないですか、所でこれってどっかに売ってます? 買いたいんですけど」

「いやまだ商品化はしてなくてね、よかったらあげるよ、お近づきの印だね」

「いいんですか、やった滅茶苦茶嬉しい」

『メイちゃんさん後でまたカチカチしたいです』


 なんて懐が広いひとなのだろう、爺とは大違いじゃないか。


「でもさっきの四番隊だけ残すのは、うんぬんって話はどーいう事なんですか」

「……あぁ、あれはなメイ、四番隊の隊長がギランって奴でよ」

「っげ、あいつかよ」

「なんだ知ってんのか、まあ宰相の爺の孫なんだがな、そこそこの実力しかねーくせに権力まかせに四番隊におさまりやがってよ」

「え、宰相の爺さんがそんなの許すとは思えなかったんですけど」

「いやあの爺さんじゃなくてな、その爺さんの下に息子、つまりおやじの方がいてよ、そいつがまた腐ってんだよ、で、そいつがギランを隊長にしちまって事後報告で爺に……すでに隊長に成っちまってる上に、四番全員、身内で固めやがってな、どうしようもねーんだよ」


 この話だけでギランを見てオヤジまで想像が付いてしまうのが、またなんとも言えなくなるな。俺にとっては間違いなく、気に入らない類の人間だろう。


「で、四番隊だけ王妃派じゃなく爺に承諾無しで宰相派とか派閥作ってやがるんだよ、今の所、特に悪さしちゃいねーんだが何分、態度が悪くてな」

「そこで、一、二、三、が居なくなってしまう間は僕の所で抑えていたって所だね」

「了解、理解しました」

「あのクズは早く肉片になるべきですー」


 どうやらかなり嫌われているみたいだなあいつ、気持ちは分からなくもない、昨日の初対面態度を誰にでも振りまいているんだろう。


「本当よく、リーンの婚約者なんてなれましたね」

「その話も知ってんのか、ありゃな、勝手に宰相派名乗ってるあいつらを、穏便に王妃派に取り込もうって事だな、宰相の爺的にはだがな。ゴンドのジジイは宰相の爺さんが説得したんだろう」

「家のお祖父様には丁度いい話でもありましたしね、リーンを家に縛るために。――もし僕に剣の才能があればっ、リーンが家宝の剣を使い、騎士になんてならなくて良かったのに……」


 ゲイルさんはゲイルさんでちゃんと心配してるんだな。

 少し気落ちしたような彼の顔を見て、ふとそんな事を思ってしまった。


 だがきっと、家宝の剣なんて物が無くても、リーンは騎士に成っていたんだと思う。


「でも、今回の一件で大手柄立てたんだから、大丈夫なんでしょ?」

「そうなったら俺としてもいいんだがな、さすがにギランとの結婚なんて目も当てられねーよ」


 やはり皆リーンの心配をしているんだな……俺もリーンの為に出来る事があるのなら。――絶対に何かしてやろうと、心に決める。



 どうにも皆静まり返ってしまっている。やはり暗い話ばかりでは良くない、此処は話を変えるついでに聞きたいことは聞いておく事にする。


「話変わりますけどブラムさん、こっから一番行きやすい国ってどこですかね」

「あぁん、そうかメイは旅に出たいんだったな、俺なら南の【水晶都市クレスタリア】だな、検問はあるが別に指名手配でもされてなきゃ楽に通れるしな。北のシャドウィンは却下、東のメイスリールも山脈を背負ってるからそっから先が難しいな。西の運河はクレスタリアからしか渡れねーからやっぱり南だな。近くに獄級の【水晶平原】があって、あそこからも抜けれるな、水晶平原は奥まで行かなきゃそんなに危険はないからな」


 そうか、ちゃんと覚えておこう、えっと、北やばい、東行けぬ、西渡れぬ、南いけてる、と、しかし運河渡る場所がそこだけって不便すぎやしないか?

 とりあえず行ってみればわかるか。


 よしっ、まずは南から行ってみる事にしよう。


「でもよメイ後三日で祭りがあるぞ、王妃が発表するらしいからな獄級走破の知らせを、――後王妃がお前連れて来いってやかましいんだが何とかならんか」


 まだ諦めてないのかあの王妃、多分なし崩し的に引き込む腹積もりなんだろうが。


「訪ねてみたけど留守でしたで、通してくださいねブラムさん」

「だから無茶言うなっての、王妃様はまだお前を騎士にするのを諦めてないようだぞ」

「ちょっと死んだ爺さんとの約束で、騎士だけにはなるなって……」

「だからすぐバレる嘘つくなっ」

「これだからメイくんは脳みそが沼なんですよ」

「お前にだけは言われたくない」


 ◆


 ――結局その後も皆で話し込んでいたせいで、夕飯までご馳走になってしまった。ゲイルさんにも【魔道具】貰ったし、ブラムにも時計を貰ってしまった。今日は〝爺〟以外は、とてもいい日だった事に満足しながら、宿に帰る道をドリーと共に歩いて行く。


 夜の街には【魔灯】の明かりが灯り、夜の恐怖を和らげている。綺麗だな、現代のビル明かりとは違う、柔らかく温かい光り、――蛍みたいだ、子供の頃、ばあちゃんの家に遊びに行った時に見た蛍、この光を見ていると少しだけ、少しだけ、家族が恋しくなってくる。顔をピシャリと一叩き、気合を入れ直す。家族を忘れはしないけど、家族を愛したままで、俺は自分の道を歩いて行こう……。







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[気になる点] なんでギランが存在してるのか不思議ですね。物語として
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