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俺の人生ヘルモード  作者: 侘寂山葵
城壁都市グランウッド
13/109

進めや平原目指せや村へ

 


 森を出て、勧めや南、いざ向かえや【城壁都市グランウッド王国】とは言いつつも、グランウッドまでの道は、それなりに遠いようだ。リーン達も途中までは馬で来ていたようで、まずは皆の馬や荷馬車を置いてある村へと向かっていく。


 しばらくは何も無い平原が続くらしいのだが。今の俺には地平線まで広がる平原が、砂漠にあるオアシスにしか見えやしない。

 さすがに人間、あの沼の景色を見続けると、幸か不幸か平凡な景色を見ても、感動しか出てこないらしい。騎士達もどこか楽しげに、誇らしげに、道中を闊歩している。


 何がなんだかよくわからないこの世界。これから先の事を考えると不安や恐怖もあった。だが、恐らく俺はついている方なのだろう。

 何故なら、俺には、頼もしい相棒がいるのだから。


 顔を動かし肩に居るドリーを見ると、クネクネと楽しそうにその身体(腕)を動かしている様子が見えた。きっとこいつの辞書には、退屈という文字はもみ消してあるのではないだろうか。

 そんなドリーが引っ付いているのだから、道中が楽しくないはずがない。


 俺はなんとなく肩に乗っている相棒の名前を呼びたくなってしまい、ポツリとその名前を呟いてみた。 


「ドリー」

『何です相棒』


 元気いっぱいな口調で、返事を返してくれる珍妙な相棒に思わず嬉しくなってしまい、段々とテンションが上がってきてしまう。


「ドリー」

『なんでしょう相棒』

「ドリー」

『相棒ッ』

「ドリいいいいい」

『相棒おおおお』


 青空の下、俺とドリーの叫び声が辺りに響き渡り、その声に驚いたリーンが奇妙な生物でも見るかのような視線で俺に向かって声を掛けてきた。


「……メイ、貴方なにやってるの?」

「いや、その……なんかごめん」

『相棒が、一人で叫んでるようにしか見えませんもんね、これは恥ずかしい』


 結局無駄に一人で、恥をかいただけの様な気がしてならなかった。


 ドリーと遂に会話が出来るようになったのだから、これぐらいのテンションは許して欲しいものだ。だが、ドリーの声は残念ながら〝俺にしか〟聞こえないので、リーンは若干体を引きながらこちらと距離を取っている。

 

 この感じ、なんだか昔、自分の部屋に付いている照明の紐で、ボクシングの真似事をしていた所に親が入って来た時の事を思い出すな。

 

 思わずその時の事を思い出しそうになったが、その場で転げ回りたい衝動に駆られそうになってしまい、反射的に頭を振ってその時の思い出を追い出していった。


 ――こ、これ以上は自傷行為になりかねない。考えるのをやめておこう。


 ふう、と溜め息を一つ零した俺を、不思議そうな表情でリーンが見つめてきて、疑わしそうな声音で俺に質問を投げかけてきた。


「でも本当に聞こえているの? ドリーさんの声」

「ばっちし、でも想像以上にお調子ものだったよ。リーン達に聞こえないのが残念だけど」


 お調子物だと言う事は、以前から雰囲気で分かっていたことだが、予想以上にドリーは楽しい奴のようで、これから先の旅が更に楽しみになってしまうのも致し方ない事だろう。

 だが、俺が嬉しそうに返事を返したのにも関わらず、リーンは少し声を潜めて、顔を下に向けている。


「メイが最初に声が聞こえるなんて言い出した時は……えっと、その、ねえ?」

「言いたい事はわかるが、全然言葉を濁せてないからな、それ」


 自分がリーンの立場でも同じ事を言ったかもしれないが、実際自分が言われると少し腹が立つ。だが、リーンの言葉はまだいい方なのだろう。こういう時に一番イキイキしだす奴がいるのだから。


「メ、メイくん、も、もう沼じゃないんですから〜、脳に詰まってるヘドロは置いていってください〜」

「アーチェお前は少しは濁せやっ」


 絶対になにか言ってくると思った俺はアーチェの言葉に間髪入れず答えを返す。


「ま、また呼び捨てにしましたね、服と違って名前は洗えないのにっ」

「呼んだくらいで汚れねーよッ」


 信じられない暴言を吐きやがる。

 きっとアーチェの頭の中には暴言しか詰まっていないんじゃないだろうか、とそんな事を考えていると肩にいたドリーがハイ、と元気よく手を上げて、何か言いたげな様子だ。


『相棒っ、汚名返上と言う言葉を聞いた事が有ります、だから汚れるんじゃないかと思いました』

「お、お前天才だな」

『世界中で並ぶ者はいないと自負していますっ』

「外の世界に出たのは?」

『初めてですっ!』


 つまり自負だけって事だなドリーよ。

 

 ドリーは話しが出来ることが楽しくて仕方ない様子。俺もそんなドリーを見て、微笑ましく感じてしまう。そんな俺達をブラムは黙って見ていたのだが、いい加減我慢出来なくなったのか、呆れたような口調で俺達に向かって声を掛けてきた。


「お前ら、本当に喧しいな、少しはサイフォスを見習って緊張感持てんのか」


 くい、と顎をサイフォスさんの方に向けるブラム。サイフォスさんはその様子を只々微笑みながら見ていた。

 溜め息を一つ吐いたブラムは、俺の肩に乗っているドリーに視線を向け、信じられないが、とでも言いたげな声音で、話を続けてくる。


「まさかドリーの嬢ちゃんが、【大樹グランウッド】の娘だとはな、ドリー様とでも呼んだほうがいいのかね」

「――えっと、ドリーが気持ち悪いからやめて欲しいそうですよ。でもあれってそんな大層な木なんですか? 国の名前と同じ見たいですけど」


 俺にはあのアホだった時の印象が強すぎて、あまり凄いとは感じられなかったのだが、どうにもブラムの反応を見ていると、凄い木らしい。


「同じも何も〝千五百年〟程続くこの国の名前はあれから付いてんだぞ、元々は違う名前だったらしいんだがな」

「なんかついた由来とかあるんですか?」


 俺はブラムの話を興味がわき、詳しい経緯を聞き始める。

 やはりこう云う逸話みたいな物は、心なしかワクワクしてくるものだ。


「あるぞ、この国は昔から北にある国【シャドウィン】と延々争い続けていてな。伝承によると、その戦争の最中、劣勢になり王に危機が迫ったんだ。急いで軍は森に撤退したんだが。追い迫る敵軍、絶命の危機に、突如大樹からグランウッドを名乗る女性が現れる。その後、森全体が動き出し、敵軍を薙ぎ払い、王を救ったらしいな。その事に深く感謝した王が、国の名前をグランウッドに変え、今に至るって話らしい」


 そういうとブラムは「本当かどうかは知らんがな」と言ってヒラヒラと手を振った。


 まさかあのグランがそんなに凄い事をしているとは思いもしなかった。もう少し頭を低くして話したほうがよかったのだろうか。今から謝っても遅いだろうな。


「そうだったんですか、でもグランウッドって戦争してるのか……」


 さすがに戦争なんぞに関わり合いたくはない。正直あの沼で、幾人もの人を見殺しにしているのだから、今更人殺しにとやかく言うつもりはないが、必要がないのに、自分から手を掛けるつもりもない。


 やはり俺としては、適当な雑魚モンスターをしばき倒しながら金を稼いでドリーと平和に旅をする、というのが一先ずの目標なのだから。

 ブラムは俺の言葉で少しだけ顔を顰め「安心しろ」と呟いてから、詳しい説明を始めてくれる。


「戦争は、していた、だな。百年程前から冷戦状態になっている。まあ冷戦でも戦争と大して変わりゃしねーが、今すぐ戦端が開けるってわけじゃねーよ」

「そっか、でもなんで冷戦になったんです?」

「わからねーな、俺も何度かシャドウィンの連中と会ったことがあるが、あいつら、何考えているかわかりゃしねー」

「――なんか薄気味悪いですね」

「まあな、うちのお偉いさん方の考えだと、獄級が各地に現れて、少し立ってから位だからな、獄級が出てきて、戦争やってるほど余裕が無くなったって予想だ。元々向こうが、延々と突っかかって来ている状態だったらしいからな、こっちとしては断る理由もねーし受け入れたんだと。まあお互い、裏じゃゴチャゴチャやってるらしいがな」


 続くブラムの話によれば、南のグランウッドと北のシャドウィンは丁度、肉沼を挟んだ位置にあるらしく、そのため戦争しようにも肉沼のせいで大回りしなくてはならないし、大回りするにも、西は長大な運河があり東の山脈付近は【鉄鋼都市メイスリール】領内で迂闊には入れないとの事、更には肉巨人達やモンスターなどなど問題が山積みなのだから堪らないだろう。


「ってことは、もしかしたら肉沼排除しちゃって、実はまずいことになったり?」

「安心しろ、そりゃねーよ。シャドウィン超えた先にはもう一個獄級があるらしいからな」


 どんだけ四面楚歌だよシャドウィン。思わず、肉沼で良かったとか考えてしまうから不思議な話だ。


『人間も色々大変なのですね。気楽な相棒とは大違いです』

「俺も人間だっ」

「なんだっ!? いきなり騒ぎだしやがって……あー嬢ちゃんと話してんのか」

「あっ、すいません、つい」

『傍から見たら変人ですね』

「お前のせいじゃねーか」


 相変わらずドリーはマイペースにこの世界を楽しんでいるようだ。そんなドリーは不意に何か思いついたか様に、指をパチリと鳴らし、俺にある、提案を持ちかけてきた。


『所で相棒、そろそろ私としても相棒を名前で呼ぶべきだと思うのですが、どうでしょう』

「そういえばそうだな、好きに呼ぶといいんじゃねーか」

『わかりました、メイちゃん』

「それはやめろ」

『わかりました、メイちゃんさん』

「さんを付ければいいと思ったら大間違いだからなっ」


 結局、何回他のにしてくれ、と言っても聞かず反論するのに疲れてしまい放っておく事にした。ドリー曰く『やはり私こそが相棒の真の右腕なのですから、周りとは違う呼び方にしなければいけないのですよ』と張り切っているようだ。


 他の候補も聞いてみたのだが、一番マシなのが先程の名前なのだから救われない。


「メイ、楽しそうで何よりだが、ゴブリンが来たみたいだぞ、行って来い」

「また来たのか、よしっ、じゃあ行ってきますね」


 平原の先から五頭のゴブリンがこちらに迫ってきているのが見える。グランウッドに着くまで、出来る限りのモンスターは俺が倒せとブラムから言われていた為、背に掛けた斧槍ハルバードの感触を確かめながらゴブリンたちに駆け寄る。


 斧槍を見ていると、ほんの少しだけ心がザワつく。俺も含めて十八人いたはずの騎士団は、肉沼を攻略する頃には一番隊一人、二番隊で二人、三番隊に一人、後は俺とリーン達を合わせて、九人になってしまっていた。ブラム曰くこんな数で獄級落とせれば、上出来どころか伝説級だとか笑っていた。


 リーン達ほど親しくはしていなかったが、やはり少しだけ悲しかった。


 俺の槍が消し炭になってしまい、騎士達の中に槍兵はおらず、ハルバード使いが居た為、その武器を貰い受けた。その騎士はサイフォスと一緒に居た時に服を燃やしに行ったあの騎士だそうだ。

 少し憂鬱な気分になってしまいそうになったが、そんな事を考えている暇はないと思い直し、向かってくるゴブリン達に斧槍を振り回し始める。


「しかし結構使いやすいもんだな斧槍って」

『なかなか調子良さそうですね』


 左に居たゴブリンの胴体を斧部分で吹き飛ばし、右から襲い掛かってきたゴブリンの首をドリーが跳ね飛ばす。


 残りの三匹が目の前から一匹、右手から一匹、真後ろから一匹来ている音が耳に入ってくる。


「ドリー」

『あいさ』


 合図と共に目の前のゴブリンに向けて『ボルト・ライン』を放つ。ドリーは真後ろに向かって、手に持ったダガーナイフを投げつけたようだ。


 すぐさまドリーに斧槍を投げ渡す、ドリーは見事にその手に収め、凄まじい風切音と共に最後のゴブリンを粉砕した。


「やっぱゴブリン位なら余裕みたいだな」

『メイちゃんさん、今、私たち輝いていますよっ』


 命の危険を避けたがる俺が、旅に出るのも有りだと考えたのは、やはりこの普通の魔物達の弱さを知った為でもある。


 俺の体は獄級での命結晶の吸収と、主の特性であった強靭な肉体を手に入れていた為、今はブラムやリーン並の身体能力を手にしている。


 正直、獄級とか危ない場所には近づかなきゃいいんだ。


 俺はドリー二人盛り上がりながら、結晶とドリーのナイフを回収し、ブラム達の元へと意気揚々と戻る。


「ふははははっ、たわいもないわっ!」

『わははははっ、跪くがいいわっ!』


 自信満々にふんぞり返って見た俺と、俺の真似をして腕を後ろに反り返らせるドリー。だが、調子に乗った俺達にブラムの怒鳴るような声が聞こえてきた。


「あほかっ、ゴブリン程度楽勝で当たり前だ、お前は身体能力は上がってるが技術は虫以下なんだから、もっと戦闘をこなせ」

「そうよ、メイ、虫以下とは言わないけれど、虫並なんだから、慎重にいかないと怪我するわ」

「……虫並って」


 ブラムに続いてリーンにまでもボロクソに言われ、若干へこみそうになる。そしてそんな場面もアイツが逃すはずもなく。


「虫けらさん、おかえりなさい」

「アーチェはお前、人の悪口を聞くと駆けつけてくるよな」


 まあブラムの言うことも最もだろう、幾ら俺の身体能力が上がったとはいえ、ブラムやリーンと戦ったらボコボコにされるのが目に浮かぶ。アーチェやサイフォスなら、近寄ってしまえばどうにか出来るかもしれないが、近づく前に、俺はお陀仏で間違いない。


 先程までの自信満々は既にどこかに消え去っており、少しぐらい褒めてくれても良いんじゃないか、とブツブツと文句を言ってみる。すると、微妙に気使いのブラムが見かねた様にフォローを入れてくれた。


「だがやはり、強くなってきているのも確かだ、どうだこの際、王宮騎士になんねーかメイ、もちろん嬢ちゃんも一緒に」

「お断りしますー」

『一昨日きやがれぃ』


 ドリーはブラムに手を振り、シッシ、と追い払っている。多分自分の中の何かにヒットしたのだろう『一昨日きやがれぃ』と連呼していた。

 ブラムなりに考えて俺に提案してくれたことなのだろう、とは判るのだが、やはりどうにも気が乗らない。


「これだけ世話になってあれなんですが、ドリーと一緒に旅して、色々と見て回りたいんですよね」


 俺がそう言うと、ブラム達は少し寂しそうな顔をしてくれた。


「……そうか、まあ、残念だがしかたねーな」

「……そう。メイはいなくなっちゃうのね」


 ブラムとリーンのその様子で、なんとなく俺まで寂しくなってしまい、慌てて明るく装いフォローを入れる。


「まあまあ、いつでも会えるしさ、せっかく広い世界があるんだし、ドリーに見せてあげたいんだよ」

『ふふふ、それは間違っていますっ。私がメイちゃんさんに、見せてあげるのですっ』


 どこからその自身がでるのか、ドリーは元気いっぱいそう言った。

 

 正直、自分が元居た世界が、気になりはするのだが、沼での経験から言えば、両親は生きてはいないだろう。友人も亡くなり、別に恋人もいなかったので、死ぬほど帰りたいと思う気持ちもなかった。

 更に言えば、リーンは俺に良くしてくれているし、ブラムはなんだかんだで優しい。アーチェだってローブを被っている時は、毒を吐きながらだが、話しかけてきてくれるし、サイフォスとはのんびりと他愛もない話しを楽しんでいる。

 なにより、ドリーに恩返しをしたい。沼が開放された瞬間の、素晴らしい景色。沼に落ちてから初めての食事。生まれ落ちてからこの間まで、あんな思いを味わったことがなかった。


 あんな思いをドリーに感じて欲しい、それが自分なりの恩返しになる気がして。


 ◆◆◆◆◆

 

 歩いて二日ほどで周りに木々が現れ、街道が整ってきている様子が見える。その間も散発的に魔物が襲って来たが、やはりなんの問題もなく処理する。


「斧槍は調子良いみてーだな」

「結構使いやすいですね、ただ、もうちょっと槍の色が強い方が使いやすい気がしますね。斧槍じゃなくて、槍斧みたいな感じで」

 

 やはり最初に槍を使っていた事もあり、もう少し穂先が大きいほうが俺には扱いやすい気がする。


「あら、メイは家のお祖父様と同じ事を言うのね」

「リーンの爺さんって槍斧使いなの?」

「……メイ、国に着いたら気つけろよ」

「なんですかいきなり」

「こいつの所の爺様はな、先々代の一番隊隊長だったんだよ。グランウッド最強のな」

「へー最強だったんだ。すげぇな、リーン所の爺さん」

 

 さすがリーンの爺さんだ、若い頃はそれはもう強かったのだろう。ダメだ俺がスルメの如くのされるイメージしか湧いてこない。


「違うぞメイ、現在に到るまで〝最強〟なんだよ。何度あのクソジジイにボコボコにされたかわからん、さらに言うならリーンを溺愛している」

「っげ、もしかして俺にも何かしら被害がくる?」

「ただの隊長の俺にすら被害が出るからな。友人とか言ってみろ訓練と称して何やってくるかわからん」

 

 それは危なかったかもしれない。だがリーンにだって恩があるのだ、それを返す前に友人解消などあってはなるまい。


 そう俺は爺さんなんかには負けはしないのだからッ!


「リーン今まで有難う……どうやらお互い道を違えてしまったようだ」

「ちょ、ちょっと、酷いじゃないメイったら」

『さすが相棒ヘタレ具合まで世界一ですよっ』


 ドリー惜しいっ! それは褒めてない。


 ◆◆◆◆◆


 馬鹿な事を話していればやはり時間が立つのが早く、森と森の間を走る街道を進んだ先に、村が見える。


「おいメイ、村が見えてきたぞ」


 久しぶりに人間の作った建造物を目にした気がした。


 ――今までは人間で作った建造物ばっかりだったからな。


 久しぶりに感じる建造物。俺は鰻登りに上がるテンションをどうにか抑えながら、村へと乗り込んだ。


 なかなか大きい村のようで、家などが入り口から奥に向かって並び建っている。見た目は地球の中世前後であろうか。だがそれにしては、いやに清潔感がある。やはり魔法があると人々の生活の基準が違うのだろう。

 

 村の入り口から入ると顎から長いヒゲを生やして、杖を付く爺さんとその後ろに村人ズラリと並んで俺たちを迎えていた。

 

 ――すげぇっ、あれは絶対村長だ。間違いない、あそこまで村長した村長は今まで見たことがない。


 まさしく村長、といった風体のお爺さんはゆっくりと前に歩み出て、自己紹介を始めた。


「私が村長……の祖父です」


 ……その言葉に、思わず黙りこんでしまったのも仕方ないだろう。暫く心の中で「えー」と不満の声を上げていると、その後ろから一人の男性が現れた。


「そして私が孫であり、ここの村長のケインです」

 

 ま、まあこういうパターンもあるのだろう、最初から村長出てこいと思わなくもないが。


「それで騎士の皆様方、肉沼の方はっ、一体どうなったのでしょうか!?」


 村長がブラムに必死に肉沼の現状を聞いている。合間合間に「なんと!」「そんなっ!」など色々聞こえてくる。興味がないので話はブラムにうっちゃり、ぼーっと青い空を見上げて待つ。


 あーあの雲ドリーみてーだなー。

 

 空に流れる雲の形がドリーに似ており、思わず目で追っていると、不意にブラムから声を掛けられた。


「メイっ、ちょっとこっちに来い」


 なんだろうか、俺には用は無いはずなんだが。まあとりあえず行ってみようか。


 ノロノロとした足取りで、ブラムに呼ばれた場所に行ってみると。


 何故か村人に周囲を囲まれ、完全に包囲されてしまった。


 ――いやいやいや、なんでこんなに囲まれているんだ俺は。


「おーこちらがあの……」

「有難う御座います。有難う御座います」

「この御恩はわすれません……」


 周りの村人から、何故か感謝の言葉を言われ、ドリーに至っては拝まれて始めている。

 現状を全く理解できなくなった俺は焦ってブラムに詰め寄った。


「ちょっと、ちょっと待って、何これ何なのっ、おっさん何話しやがったっ」

「そんなもん、お前のやったことを正直に教えてやっただけだが」

「それで何でこんな事になるんだってっ、ちょっと止めて――。変なとこ触んなっ」


 俺はこの中で一番弱かったし、案内はドリーがしたのだ。俺自身は大した事はしていないはずだ。それなのになんでこんな事になっているかさっぱりわからない。


「良い事を教えてやろうメイ、お前のした事を〝正直に〟〝分かりやすく〟話すとだ。たった一人でグランウッドの子供を沼から連れ出し、最奥までの案内を自ら買って出て、途中の罠を知恵で乗り切り、俺にリーンにアーチェの命を自らの危険を省みず救出した、  ――絶望的だった主との戦いで、止めの為に相手の動きを気絶するまで止めて。あの妙なクリスタルを見つけだし森を開放し、グランウッドから子供を任された。どうだあってるだろ?」


「誇張されすぎだろおおおおおお」

『おおー、相棒すごいですねっ』


 結局その日は村人にもみくちゃにされ、感謝され、拝まれ、村総出の大宴会に巻き込まれて、漸く解放された所を必死に抜け出し、無け無しの体力を使ってベッドまで戻り泥の様に寝るのだった。



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