愛は消し炭になって
「君とは結婚できない! 何故ならミラを愛してしまった!」
「…………」
ソルナはそう婚約者に妹の名を出され、今まさに婚約破棄をされそうになっていた。
「お姉さまごめんなさい……だけど、私たちこれ以上自分に嘘をつけないわ!」
「…………」
ごめんなさい……それは本来は謝罪に使われるもので、『だから罪を軽くしてね?』とう用法で使われるものではない……。
しかし、妹が幾度となくそう間違って使っていたので、ソルナはそのことにすっかり慣らされていた。
「ダーリン……いいえ、元ダーリン。それは本心なの?」
ソルナは婚約していた男に縋るように尋ねる。
「ああ、偽りなく本心だ!」
男は真っ直ぐな目で真剣にそう答えた。
「だけどそう言って……妹が火の中にいたら逃げ出すのでしょう? 正直に言って」
ソルナはなおも情けなくも言い募る。
「いいや……飛び込む。例えこの命尽きようとも」
けれど男に迷いなんか一つも無い。
「そんなわけ無いわ。お願い、……せめて最後に嘘はいわないで!」
ソルナが震えた声を出す。それは彼女の最後の懇願だった。
「嘘など言うもんか! ……この心臓にかけて誓おう」
だけど彼はもう決めてしまった。
「そう……そこまでの覚悟が貴方にはあるのね」
ソルナはそう目を伏せて、手をひしっと握る。
「なら見せて?」
そう言って、ソルナはミラを火柱で出来た“火人間”にしてしまった。
『キャーッ』
ぼうぼうと燃え盛る全身。
近付くと普通に熱く、足もとはすでに地面が真っ黒く焦げている。
『な、何これー!?』
ミラが自分の火で出来た手を眺めさらに絶叫する。
「ほら、愛しいあの子をぎゅうっと抱きしめて?」
「…………」
あれれ? さっきの彼の威勢はどうしたどうした?
「あ、ちゃんと抱き合って子供も出来るわよ。どうか安心して」
「…………」
ただそうなった場合、彼の大事な所は一大事だ。
「貴方は勇気ある人だもの……ファイト!」
そんでソルナのダメ押しが続く。
「え……と……。ほ、本物のミラを……何処に隠したこの魔女め! ……ミラを早く返せ!」
『な、何を言っているの!? 私がミラよ』
「……ですってよ。まぬけ面」
ソルナは普通に元ダーリンを罵倒する。
まあ、罵倒されるのは自業自得だろう。
「というか私は魔女だって何度も二人には伝えていたはずよ……。私は魔法が使えるからどうか用心のために嘘はつかないでって?」
しかし、二人はそれを信じず、いつもソルナをからかい笑っていた。
ソルナは真一度も嘘なんかついていなかったのに。
「なら、魔法を使えば?」
「条件が揃わないと使えないの……」
「ならその条件は?」
「魔法使いの決まりで言ってはならないの」
「はは、嘘つき〜!」
そんなに二人は息がぴったりで仲がいいのに、何故か彼はソルナに求婚をした。
でも、ソルナは実は知っている……。
それは後々……つまりは今日。ソルナをどん底に突き落として二人で一緒に笑うための前準備だったということを……。
(そして……魔法の条件は、魔法使いと交わした約束を……三回肯定すること)
そうして本日、見事に条件は揃ったのだ。
「だから……嘘はつくなと言ったのに」
ロマンチックに浸りたかっただろうに、察しが悪くて相すみません……しかし魔法発動は誰にも覆せない。
『お願い戻してよ!』
「彼が条件を満たせば勝手に姿は戻るわ。そう……愛するなら彼が消し炭となって……」
だから決して嘘はついてはいけないよ。
そう、とくに魔法使いには……。




