なーろっぱ世界の短編 婚約破棄とか聖女とかドアマットとか転生とか
欲しがり妹に友人は奪われませんでした……妹は命を、わたしは友人を失いました
妹が入学して来た。
なんでも欲しがる妹だった。
そしてわたしのものをなんでも奪う妹で。
わたしの実家である男爵家では、妹は女王様だった。
だからなんでも譲って来た。
それが、叱責されず、殴られず、平手打ちもくらわず、食事も抜かれない唯一の方法だったからだ。
だから、いつかこんな日が来るのを予想しておくべきだった。
廊下を友人とふたりで歩いている時だった。
「お姉さま! お姉さまのお友達格好いい! わたしに譲って!」
「え……」
隣で友人が顔をしかめていた。
でも、ここで譲らないと、家でわたしがひどい目に……。
「いい……」
凄い目で友人がわたしを見た。
こ、殺される!?
彼女の実家の侯爵家は近衛隊長を代々輩出している家だ。
だから彼女の一族は帯剣を許されている。
「ねぇねぇ、どうしちゃったのお姉さま? いつも快く譲ってくれるじゃない」
「え、あ」
妹は怖い。
正確には両親が怖い。
だけど、友人が怖い。
あの剣が怖い。
友人が低い声で呟いた。
「……なるほど。よくわかった。貴様はわたしの友人ではない」
それはわたしに向けた声だった。
こちらを見るまなざしには、失望と軽蔑が色濃かった。
ぞっとした。
わたしは、悟った。
彼女を喪ったのだ。
妹と両親怖さに、反射的に友人を売ろうとしたのだから。
しかもためらったのは、友情だからではなく、剣が怖かったから。
彼女が腰の剣に手をかけた。
「だが、1年間、友人だったのも確かだ。餞別だ」
剣が抜かれ、銀の光が迸った。
妹が右肩から左腰へ一刀両断された。
悲鳴をあげるまもなく、斜めに身体がずれて倒れた。
呆然とするわたしを置いて、友人……いや元友人は立ち去った。
妹は元友人に無礼を働いたわけではない。
あくまでわたしにねだっただけで、彼女の名前を許可なく呼んだわけでもない。
だから正当な理由はなく、元友人は妹を斬殺した。
だけど、わたしは唯一の目撃者として証言した。
妹が元友人の名前を許可なく呼び、剣をねだり、学生なのに剣を持ってるなんてズルいと言ったと。
数々の無礼を働いて、無礼打ちにされただけだと。
わたしの証言はあっさり認められた。
すでに妹は王太子殿下や婚約者のいる高位貴族の令息たちに、片っ端から接触しようとしていたからだ。
それに元友人の一族には、曲ったことはしない、という信望があった。
妹が殺され、両親は復讐しようとしたが。
あっさりとばれて、元友人のご実家によって社会的に抹殺されてしまった。
わたしは実家の唯一の後継者となった。
誰もわたしをいじめるものはいなくなった。
もともと家の差配はわたしがしていたので、困ることもなかった。
だけど友情は戻らなかった。
当然だ。
あの瞬間確かに、わたしは彼女を妹へ譲ろうとした。
彼女を友人ではなく譲れるモノ扱いしたのだから。
今でも、遠くから彼女を見かけると、泣きたくなる。
たくさんの作品の中から、本作をお読みいただきありがとうございました。
最後までお付き合いいただけたこと、とても嬉しく思います。
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別の物語も書いておりますので、もしよろしければ、そちらも覗いてみてください。




