異世界帰りの男と地雷系立ちんぼ
「ねえ、オジサン。その筋の人?」
リマと名乗ったまだらなピンク髪の少女は、勇斗がシャツを脱ぐのを見ながら言った。
ホテルの安部屋に染み付いた煙草の臭いを嗅ぎながら、「なんのことだ?」などと一瞬思い、
「ああ」
と、得心する。そして、肩越しに自分の背を指さして、笑う。
「背中のコレかい?」
「うん。魔法陣っぽいタトゥーもエグいけど、傷跡もすごいね」
勇斗の背には大きな丸い魔法陣じみた複雑な紋様と、その上から大小さまざまな傷跡が一面に彫られていた。
「怖がらせた? 別にヤクザとかではないから安心して」
「怖いわけじゃないけど、タトゥーは珍しくないし。まあ、オジサンみたいな人が入れてるのは変わってるかも」
それよりもと、
「その傷どうしたの? 鞭で叩かれでもした?」
「鋭いね、鞭もあると思うよ」
「鞭も?」
いつの間にかそばに来ていたリマが、勇斗の背中に指を這わす。それが古傷に触れる度、微かな振動を勇斗の身体に伝えた。
「剣とか、ナイフとか。矢もあるかな」
「……マジで言ってる? オジサン、何してる人?」
「してた人かな」
勇斗は上半身だけ裸になり、リマへと向き直る。
黒を基調にフリルがあしらわれたブラウスと、似たようなデザインのプリーツスカート。
甘ったるい香水の匂いが勇斗の鼻を刺す。
「あ……ん」
勇斗はリマの顎を上げると、無言で唇を吸った。はじめは戸惑っていたリマも、すぐ勇斗に合わせて舌を絡ませる。
しばらくそうして、やがてどちらともなく離れた。
頬を上気させたリマが、手の甲で口元を覆って勇斗を睨む。ちらりと、袖口から手首を横断した幾筋かの傷跡が見えた。
「……上手すぎない? ちょっと下着ヤバいんだけど」
「本当? オジサン、自信ついちゃうな。……まあ、それくらいしか楽しみなかったしね」
勇斗はそう言って、備え付けの冷蔵庫を開けると、ボタンを押して缶ビールを取り出した。
「続きしないの?」
「なんかちょっと語りたい気分になった。でも、シラフってのもねえ。あ、リマちゃんもジュース飲みたかったら取っていいよ」
リマは少しだけ恨めしそうにしながら、それでも勇斗の言うとおりに冷蔵庫から缶を取る。
チューハイだった。
「お、飲んでいい歳なの?」
「それ聞いちゃう? こんなところに連れ込んじゃだめな歳かもしれないのに」
「おっと、藪蛇だった」
笑いながら、勇斗はプルタブを上げ、ビールを一口流し込む。
苦みと弾ける炭酸が口のなかに広がった。美味いとは思わなかった。
「俺さ、異世界ってところに行ってたんだよ」
「ふうん」
「お、信じてないね?」
「信じてないっていうか、まだそれだけしか聞かされてないのに、信じるも何もって感じ?」
勇斗はベッドに腰掛け、リマもその隣に座る。ざらついたシーツが、擦れて悲鳴を上げた。
勇斗のむき出しになった肌に、リマの手がぴたりと触れた。ひんやりと冷たい肌だった。
「話したいんでしょ? 聞いてあげる。チューハイが空になるまでは、ね」
「ちなみに、空になったら?」
「キスの続き。オジサン、自信ありそうだし。中途半端に火をつけられたままも、たまんないし」
「そりゃ申し訳ない。じゃあ、簡単に話すかな」
そう言って、勇斗は再びビールをあおり、口を開いた。
■
異世界転移とか、召喚ものの漫画や小説って読んだことあるかい?
――ああ、そのタイトルは知ってる。へえ、アニメになったんだ。ウェブ版は読んでたよ。今度観てみるかな。
まあ、さておき。その異世界転移ってやつに、俺は巻き込まれたんだ。
あれは、そう、高校卒業して間もなかった頃だね。志望校は落ちて、滑り止めには受かった。
そんな状態だったからか、失意からの失踪みたいな扱いを受けたらしいよ。
――ん? 目の前に魔法陣が現れたりとか、トラックにひかれたとか、そういうお約束の展開はなかったよ。
俺の場合は、普通に寝て、目が覚めたら異世界にいた。石壁の牢屋でね、なぜか素っ裸で酷く寒かったのを今でも覚えてる。
背中の魔法陣は、その時に勝手に入ったらしい。あとから詳しい奴に聞いたんだけど、これのおかげで異世界でも言葉が通じたりなんだりするんだと。
――よく気づいたね。そうなんだよ。実は日本に戻ってきてからも効果が生きててね、外国人と話すのも超余裕。
ま、読み書きまではフォローしてくれないみたいでさ、向こうでもそれで少し苦労したよ。
それから、鎧を着た兵士と貴族っぽい人が牢屋にやって来たんだ。
そして、牢屋とは比べ物にならないくらい良い部屋に連れて行かれてね。そこで二、三日色々質問攻めにされて、
その次の日に、俺は闘技場でモンスターと戦わされてた。
――あはは! 意味がわかんないよね。俺もそうだった! 結局は面接の結果、俺には利用価値が無いと判断されたのさ。それで見世物奴隷にされたわけ。
いやあ、すごかったよ。初めて戦ったのはゴブリンさ。こんなところだけテンプレじゃなくたっていいと思わない?
相手は素手で、俺は一応剣なんだか、剣の形した棒なんだかよくわからないものを持たされてね。
そこから先は今でもよく思い出せない。
けど、気がついたらゴブリンは血だらけで倒れてて、俺も傷や痣だらけになりながら、ひん曲がった棒切れを持って、立ってたんだ。
これが、俺の異世界デビュー戦ってわけ。
■
勇斗はそこまで話して、ビールの缶を傾け、中身が無くなっていることに気がついた。
リマの手元を見ると、その缶はやけに軽そうに見えて、
「あ」
取り上げてみると、やはり中身は空だった。
「なんだ、もう無いじゃん。言ってくれたらよかったのに」
「オジサンの話、結構面白くて」
「そう? それなら良かった」
缶をテーブルに置くと、軽い金属の音が部屋に響いた。
勇斗がリマの細すぎる腰を抱き寄せ、リマの唇に顔を近づける。
しかし、リマが「ちょっと待って」と、勇斗を止めた。
「どうしたの?」
「続きする前にさ、これだけ教えて」
ネタバレになるかもだけどなんて、リマは言いながら、
「異世界から、オジサンはどうやって帰ってきたの?」
そう、問いかけてきた。
「何、そんなに気になる? もしかして、行ってみたかったりする?」
「お願い、教えて」
軽く茶化すように勇斗は笑ったが、リマの思ったより真剣な表情を見ながら、ほんの少しだけどう言ったものかと考える。
「これはまさにテンプレだったんだけどね」
そう、一言置いて、
「――世界を救ったご褒美さ」
返答を待たず、リマの唇に貪りつく。
――麦に、ライムの香りが混じった。
異世界帰りの男と地雷系立ちんぼ 了
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