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異世界帰りの男と地雷系立ちんぼ

作者: 無屁吉
掲載日:2026/03/12

「ねえ、オジサン。その筋の人?」


 リマと名乗ったまだらなピンク髪の少女は、勇斗ゆうとがシャツを脱ぐのを見ながら言った。

 ホテルの安部屋に染み付いた煙草の臭いを嗅ぎながら、「なんのことだ?」などと一瞬思い、


「ああ」


 と、得心する。そして、肩越しに自分の背を指さして、笑う。


「背中の()()かい?」

「うん。魔法陣っぽいタトゥーもエグいけど、傷跡もすごいね」


 勇斗の背には大きな丸い魔法陣じみた複雑な紋様と、その上から大小さまざまな傷跡が一面に彫られていた。


「怖がらせた? 別にヤクザとかではないから安心して」

「怖いわけじゃないけど、タトゥーは珍しくないし。まあ、オジサンみたいな人が入れてるのは変わってるかも」


 それよりもと、


「その傷どうしたの? 鞭で叩かれでもした?」

「鋭いね、鞭もあると思うよ」

「鞭も?」


 いつの間にかそばに来ていたリマが、勇斗の背中に指を這わす。それが古傷に触れる度、微かな振動を勇斗の身体に伝えた。


「剣とか、ナイフとか。矢もあるかな」

「……マジで言ってる? オジサン、何してる人?」

()()()()かな」


 勇斗は上半身だけ裸になり、リマへと向き直る。

 黒を基調にフリルがあしらわれたブラウスと、似たようなデザインのプリーツスカート。

 甘ったるい香水の匂いが勇斗の鼻を刺す。


「あ……ん」


 勇斗はリマの顎を上げると、無言で唇を吸った。はじめは戸惑っていたリマも、すぐ勇斗に合わせて舌を絡ませる。

 しばらくそうして、やがてどちらともなく離れた。

 頬を上気させたリマが、手の甲で口元を覆って勇斗を睨む。ちらりと、袖口から手首を横断した幾筋かの傷跡が見えた。


「……上手すぎない? ちょっと下着ヤバいんだけど」

「本当? オジサン、自信ついちゃうな。……まあ、それくらいしか楽しみなかったしね」


 勇斗はそう言って、備え付けの冷蔵庫を開けると、ボタンを押して缶ビールを取り出した。


「続きしないの?」

「なんかちょっと語りたい気分になった。でも、シラフってのもねえ。あ、リマちゃんもジュース飲みたかったら取っていいよ」


 リマは少しだけ恨めしそうにしながら、それでも勇斗の言うとおりに冷蔵庫から缶を取る。

 チューハイだった。


「お、飲んでいい歳なの?」

「それ聞いちゃう? こんなところに連れ込んじゃだめな歳かもしれないのに」

「おっと、藪蛇だった」


 笑いながら、勇斗はプルタブを上げ、ビールを一口流し込む。

 苦みと弾ける炭酸が口のなかに広がった。美味いとは思わなかった。


「俺さ、異世界ってところに行ってたんだよ」

「ふうん」

「お、信じてないね?」

「信じてないっていうか、まだそれだけしか聞かされてないのに、信じるも何もって感じ?」


 勇斗はベッドに腰掛け、リマもその隣に座る。ざらついたシーツが、擦れて悲鳴を上げた。

 勇斗のむき出しになった肌に、リマの手がぴたりと触れた。ひんやりと冷たい肌だった。


「話したいんでしょ? 聞いてあげる。チューハイが空になるまでは、ね」

「ちなみに、空になったら?」

「キスの続き。オジサン、自信ありそうだし。中途半端に火をつけられたままも、たまんないし」

「そりゃ申し訳ない。じゃあ、簡単に話すかな」


 そう言って、勇斗は再びビールをあおり、口を開いた。


 ■

 

 異世界転移とか、召喚ものの漫画や小説って読んだことあるかい?

 ――ああ、そのタイトルは知ってる。へえ、アニメになったんだ。ウェブ版は読んでたよ。今度観てみるかな。


 まあ、さておき。その異世界転移ってやつに、俺は巻き込まれたんだ。


 あれは、そう、高校卒業して間もなかった頃だね。志望校は落ちて、滑り止めには受かった。

 そんな状態だったからか、失意からの失踪みたいな扱いを受けたらしいよ。


 ――ん? 目の前に魔法陣が現れたりとか、トラックにひかれたとか、そういうお約束の展開はなかったよ。

 俺の場合は、普通に寝て、目が覚めたら異世界にいた。石壁の牢屋でね、なぜか素っ裸で酷く寒かったのを今でも覚えてる。


 背中の魔法陣これは、その時に勝手に入ったらしい。あとから詳しい奴に聞いたんだけど、これのおかげで異世界でも言葉が通じたりなんだりするんだと。


 ――よく気づいたね。そうなんだよ。実は日本こっちに戻ってきてからも効果が生きててね、外国人と話すのも超余裕。

 ま、読み書きまではフォローしてくれないみたいでさ、向こうでもそれで少し苦労したよ。


 それから、鎧を着た兵士と貴族っぽい人が牢屋にやって来たんだ。

 そして、牢屋とは比べ物にならないくらい良い部屋に連れて行かれてね。そこで二、三日色々質問攻めにされて、


 その次の日に、俺は闘技場でモンスターと戦わされてた。


 ――あはは! 意味がわかんないよね。俺もそうだった! 結局は()()()()()、俺には利用価値が無いと判断されたのさ。それで見世物奴隷にされたわけ。


 いやあ、すごかったよ。初めて戦ったのはゴブリンさ。こんなところだけテンプレじゃなくたっていいと思わない?

 相手は素手で、俺は一応剣なんだか、剣の形した棒なんだかよくわからないものを持たされてね。

 そこから先は今でもよく思い出せない。

 けど、気がついたらゴブリンは血だらけで倒れてて、俺も傷や痣だらけになりながら、ひん曲がった棒切れを持って、立ってたんだ。

 これが、俺の異世界デビュー戦ってわけ。


 ■


 勇斗はそこまで話して、ビールの缶を傾け、中身が無くなっていることに気がついた。

 リマの手元を見ると、その缶はやけに軽そうに見えて、


「あ」


 取り上げてみると、やはり中身は空だった。


「なんだ、もう無いじゃん。言ってくれたらよかったのに」

「オジサンの話、結構面白くて」

「そう? それなら良かった」


 缶をテーブルに置くと、軽い金属の音が部屋に響いた。

 勇斗がリマの細すぎる腰を抱き寄せ、リマの唇に顔を近づける。

 しかし、リマが「ちょっと待って」と、勇斗を止めた。


「どうしたの?」

「続きする前にさ、これだけ教えて」


 ネタバレになるかもだけどなんて、リマは言いながら、


「異世界から、オジサンはどうやって帰ってきたの?」


 そう、問いかけてきた。


「何、そんなに気になる? もしかして、行ってみたかったりする?」

「お願い、教えて」


 軽く茶化すように勇斗は笑ったが、リマの思ったより真剣な表情を見ながら、ほんの少しだけどう言ったものかと考える。


「これはまさにテンプレだったんだけどね」


 そう、一言置いて、


「――世界を救ったご褒美さ」


 返答を待たず、リマの唇に貪りつく。

 

 ――麦に、ライムの香りが混じった。




 異世界帰りの男と地雷系立ちんぼ 了






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