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ウルトラマリンハート  作者: 蛸山 葵
壹幕:玉森 眞人
6/11

EPISODE:06 他人の匂いのするベッド。

ゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォーーーー…


「なぜあれがこの国に…?」


山の向こうからも、薄い夕焼けを割るように、低くて太い銀の影がけたたましい轟音と共にゆっくりと飛んでいた。

その奥にも、またその奥からも、まるでアリの行列のように銀の群れが空の朱を銀で覆う。


「女!真香!隠れろ!!また何かされるぞっ!!」


「怖いです!王子!!」


「大丈夫だ!私のそばを離れるな!」


私は建物の脇に隠れ、身を潜める。

真香も急いで私の隣に座り、頭を抱える。


「この数…、千では済まんぞ…。」


「……何やってんの?あんたら…。」


女が呆れ顔でこっちを見る。


「何をやってる!早く隠れろ!貴様も転生とやらに巻き込まれるぞ!!」


私は指で上を見ろと示し、女は空を見る。


しかし、


「空が、どうかしたん?」


「見てわからんのか!空で今にも…、え?」


空を見上げると、さっきの光景が嘘だったように夕刻の空が広がっていた。

さっきまで耳をつんざいていた轟音も、綺麗さっぱり消え失せていた。


「なに!?あの群れはどこ行った!?」


「びっくりするやんか!はよ帰んで!!」


「何だったの…さっきの…?」


真香が私の裾を掴み、怯える。


「私達は…、何を見ていたのだ…?」




肌寒い風が頬を撫でた。

女の家に着いたのは、夕日が沈み、空に星の気配がする頃だった。

連れられたのは、無数の大きな建物がずらりと並ぶ一角。


「これが私の家か。まあまあ大きいではないか。」


「いつまでそのテンションで行くつもりなん?」


建物の側面には、1、2、3とそれぞれ番号が描かれている。

窓の数を見る限り、一棟あたり10階はあるだろう。

どうやらこの女はなかなか裕福な暮らしをしているそうだ。


やがて彼女に連れられ、2と示された建物の敷地へ入った時、奇妙な光景が目に入る。


「…どういう事だ…これは!?」


敷地の一角に、チャリが無数に停められていた。

見回しただけでも100台はあるだろう。

まさか、これら全てがこの女の召使いのチャリとでも言うのか!?


無礼な振る舞いや言動は粗野だが、立派な住まいと大量の同居人…。

この女、只者ではないのでは…?


私は言われた位置にチャリを停め、恐る恐る女に訊いてみる。


「まさか、ここら一帯は、この国の王宮か何かであって、王族なのか?」


「せやったらええな。」


涼しい顔で私の質問に答えると、女はあっさりと建物の中に足を踏み入れた。


「おい、小娘!」


「なんですか?ていうか小娘じゃないです!私はノフィーナって名前があります!あ、でも今は……真香?」


「どちらでもよい。それより、どうやらここはこの国の王宮の一角である可能性がある。」


「え!?あたし達、この国の事全く知らないのにいきなり王宮入っちゃえるんですか!?」


「恐らくな、やはり私は王の血を引いているだけあって、どんな世界の王族とも惹かれ合う運命にあるのだな…。」


「あなた、本当にテレウァン王子なんですかー…?」


真香は私を、疑わしげにジトっとした目で見上げてくる。


「時期にわかってくるさ。この私が、王とはどう関わるのか、民代表として貴様に教えてやる。」


私達は女の背をついていき、王宮へと入っていくが、そこは私の知る王宮とはまるでかけ離れていた。


外観こそ質素で色も形も控えめな作りだが、誰の手も借りずに開くドア、前触れなく上昇する部屋など、建物内には理解できない技術が溢れている。

召使い達が、私達の見えない場所から、ドアを糸か何かで引っ張ったり、井戸水を汲む滑車の応用で部屋ごと持ち上げているなども疑ったが、人の気配はない。

あれほど巨大な部屋が、あっさりと、しかも速やかに持ち上がるとは……、摩訶不思議だ。


廊下へ出ると、壁に沿って無数の扉が等間隔に並んでいた。


「なかなかの部屋の数だな?どれが私の部屋だ?」


「真香ぁ。お兄ちゃん記憶喪失になっちゃったで。どないしよ?」


「あたし知らなーい。」


「私は記憶喪失などではない。今、貴様に説明したところで何も理解できないだろうし、正直私もまだ全貌は見えておらぬのだ。」


「なあ。モノマネはええけど、ママのこと貴様って呼ぶのだけはほんまやめてくれへん?ごっつイラってくるねん。」


「じゃあなんと呼べば良い?」


「んー。じゃあ母上とか?」


「私の母上は一人しかおらん。しかも、もう故人だ。」


「勝手に殺すな!」


ガチャリと開いた扉の先には、猫の額ほどの狭っ苦しい部屋。

足元には、小さな可愛らしい靴や、大きい靴まで色んな靴が転がっていた。


「先客か?」


「手洗いなさいよー。」


私の言葉は戯言扱いされ、耳に届いていないようだ。

正直王子であるこの私のこんな愛想の悪い奴は初めてだが、こんな成りをしているし、彼女の息子なのだから仕方がない。

私は大人しく手を洗うことにした。


「手、洗ったぞ。ここは誰の部屋だ?」


「誰の部屋か…。リビングはみんなの部屋ちゃう?」


「なにぃ!?父母と子二人が、この空間で生活しているだと!?」


「ああもううっさい!!部屋でメタレンジャーでも見とれ!!」


私と真香はさらに狭い部屋へ押し込まれた。

そこは机の上にベッドが乗っかったような家具が二人分ある狭い子供部屋。

随分と物が散らかり、余計に窮屈に感じる。

どうやら、私達兄妹の部屋のようだ。


「あの…、王宮って言ってたのは…?」


「……。私の見当違いだったようだ…。」


「でもあたし、結構この部屋好きですよ!!」


真香ははしごを登り、ベッドにごろりと寝転ぶ。


「はあー。このベッド、気持ちいい!!」


「ほんとか?どれ…。」


私もはしごを登り、ベッドに寝転ぼうとした時だった。


「うお!?」


先に、ベッドに何かが寝ていた。


「なんだこいつは!」


「ワン!!」


犬だ。小さなトイプードルが寝ている。


「ここのペットか…?」


トイプードルが嬉しそうに尻尾を振りながら、すり寄ってくる。


「私は動物が苦手なんだ!!」


「え!?ホントだ!犬だぁ!!」


真香はトイプードルを持ち上げ、真香のベッドまで持っていった。


「いいか?その犬を見張っておけ!私に近づけるな!」


「えー?こんなかわいいのに??」


「こんなかわいいのに、だ!」


「はーーい。」


はあ…。私のベッドでゆっくりと寝たい…。

こんな息の詰まる世界…、体が持たん…。

なぜこんな貧相な家庭に転生してしまったんだ…。

父上…、母上…、あなた達もこの世界に転生しておられるのだろうか…。

転生しておられたとしたら、この世界でお会いできるだろうか…。


私は顔をうつ伏せにして、ふと漂う他人の匂いに鼻をひくつかせた。


「待てよ…?」


そうだ。

父上と母上は、本当にこの世界にいるかもしれないじゃないか!

メノリエだってそうだ。

私や真香が死んで、ここに転生したというなら、父上やメノリエも死んでしまった後、ここに転生しているはずだ!

それも、記憶を携えてだ。

何故この可能性を考えてなかったんだ…。

私が死んでしまった理由はわからないが、父上なら何か知っているかもしれない。

地響きが起こり、旋律が響き、小娘が現れた後の、転生という言葉。

あれは偶然ではない。

何かが、あの日、私の世界を壊したのだ。


「真香!今すぐ出るぞ!!」


「え!?ちょっとどこへ!?」


「この世界に私の側近と父上、つまりアルマリス国の王が私達と同じように転生してきている可能性が高い。いや、確実に転生してきているはずだ!」


「ほんとですか!?どこの誰に!?」


「わからん。だが片っ端から探せばどこ…」


「どこに…、行くつもり?」


行く手を阻む、鬼の形相の女が玄関前で腕を組み、仁王立ちしていた。


「そこをどけ!私の父上を探しに行くのだ!」


「あんたの父上ならまだ仕事や!遊びたいんやろうけど、今日は飲み会ある言うてたから無理やで。晩ごはんまで大人しくしとき。」


クソ!こんな面構えと台詞だけ強気な女なぞ、私の律式ですぐにひれ伏せさせてやりたいが…、此奴には何の悪意もない…。

出直すしかないか…。


「晩ごはんは何だ?」


「エビフライカレー。」


「えびふらいかれぇ?」


「わかったんならとっとと部屋戻る!」


「くっ…!いつかその減らず口を縛ってやる!」


「思春期こっわぁ。」


渋々私達は部屋に引き返した。

そして膝の上にトイプードルを座らせている真香に語りかける。


「真香。」


「はい?」


「今現状、私が頼りにできるのは、アルマリス国民である貴様だけだ。」


「…はい。」


「しかし、私を王子とは信じがたい、そうだな?」


「…まあ、はい。」


「私もこんな青二才な子供の成りだ。ある程度その気持ちは理解した。そこでだ。」


私は部屋のカーテンを開け、下の広場を見下ろした。


「何をみてるんですか?」


「私も反省している。父上に幼少期、真実を語るには、まず自らの在り方を示せと教えられたことを不甲斐にも忘れていた。」


私は広場である人物達を探した。


「お、まだいたぞ。」


この家に入る前、広場で目に留まった子ども達の集団がまだ同じ場所でたむろしていた。


「あの子達がどうかしたんですか?」


「何をしておると思う?」


「…あ!スカートめくった!!」


「ああ、女は男4人に囲まれ、逃げられない中、スカートを順番にめくられ、困っておる様子だな。」


「ハレンチです!!」


「そうだ。実に不愉快で下劣で愚行だ。囲んで、笑いながら弄ぶとは。そうは思わないか?」


「最低です!寄って集って弱いものいじめ、カッコ悪いです!!」


「そうだよなあ!真香、あの子を助けたいか?」


「もちろんです!!」


「あの男どもに、どうなってほしい?」


「地獄に堕ちればいいと思います!」


「真香。そのひしひしと迫るような熱き善意、気に入ったぞ!私が王子たるものの紛れもない証拠を、今貴様の目の前で見せてやろう!!」

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