Chapter:01 Outro:ひび割れた世界。
同日、午後十一時十七分。
東京都千代田区永田町、首相官邸にて。
「本日、全国各地において、一定数の国民の方々に、極めて重大かつ突発的な意識の混線とも呼ぶべき事象が同時多発的に確認されました。現時点で確認された限りで、少なくとも十万人規模の精神、認知的異常が報告されており、これは我が国の歴史においても例を見ない重大事態であり、政府としては、これを広域精神的異常事案として、国家危機管理体制をただちに発動し、各省庁、地方自治体、自衛隊、医療機関と連携して調査を開始いたしました。政府は事態の全容把握と原因究明を急いでおります。」
一件目の意識障害報告から十三時間三分後、内閣総理大臣による緊急記者会見が開かれていた。
「国民の皆さま、どうか落ち着いてください。繰り返しますが、これは我々にとって未経験の現象であり、現在、国内外の専門家を交えて、その原因と影響を慎重に分析しております。SNSや一部報道では、すり替わりや精神的乗っ取りといった表現も見られますが、現段階では、原因は不明であり、断定的な情報に惑わされることなく、冷静な行動をお願いいたします。」
「政府は、全ての国民の安全と生活を守るため、必要な対策を一刻も早く講じてまいります。これまでこの国が、災害や困難を乗り越えてきたように、今回もまた、皆さん一人ひとりの冷静な判断と行動が、鍵となります。今後の対応につきましては、随時、関係閣僚から説明いたします。」
大勢のカメラに長々と会見した後、記者からの質問も受けずに足早に去ってしまった。
質問攻めには、官房長官が代わりに相手を受け持った。
「被害状況は?」
「一斉の意識混線による現時点での被害は、車の運転ミスによる多重衝突事故多発による死亡総数四十六名、医療現場での誤診、手術中の執刀医による意識混線により、術中死亡四名、船の操作等による海難事故で五名、危険作業中の工事現場では三名の死亡が確認されていて、経済、交通、生活インフラの断絶的混乱が見られています。」
「今後、意識障害を報告された人達は、どう対処していく予定ですか?」
「回復の見込みは?」
「生活に危険が伴う可能性は?」
「逼迫する病院、企業への対応は?」
「疑心暗鬼が国家規模で発生しています。前代未聞の異常事態ですよ!」
「信頼で成立している社会が根底から瓦解するぞ!」
官房長官の鼻先にまで迫る質問攻めは、本日中には止みそうにない。
その頃、総理執務室にて。
「ちゃんと読んである通りに話したぞ!もういいだろ!」
先ほど緊急記者会見を終えたばかりの現内閣総理大臣、蘭丸六郎は、執務室の端で、警察官二名と副総理率いる大臣達に、精神科医、研究者、神父などの様々な有識者達に揃い踏みで囲まれていた。
「緊急記者会見の件、大変助かりました。お見事です。でもまだ聞きたいことは山の如くあるんです、ヒラミナさん。協力していただかないと、我々も、あなた方アルマリス国民も助けることができません。」
「なんで、こんな事に…。」
「質問、続けます。あなたの国のトップでおられる方のお名前は?」