第4話:君との幸せな毎日
始業式の日は遅刻をせずに学校に着くことが出来た。目覚ましをかけていたし、優しい石原さんが電話で起こしてくれた。
「おはよう!宙くん」
「おはよ〜」
僕は周りを見渡す。石原さんはそっと僕の手を握った。こんな可愛い子と付き合っていたら、周りの視線が僕らに集まる。それが、とても恥ずかしかった。
周りの視線を避けるように下を向いて歩いた。不思議なことに、下を向いていても、視線が集まっていることは分かる。そして、僕が一番危惧していたことが起こった。
「あ、あんた、星華と付き合ってんの?」
石原さんの友達は僕を向いてそう言った。僕は石原さんから慌てて手を離す。
「いや、付き合ってないです」
僕は周りに知れ渡るのが嫌で、嘘をついてしまった。
「あっ、そう。じゃあ星華またね!」
「またね〜!」
石原さんは笑顔で去っていく友達を見送った。
「今、付き合ってないって言ったよね?何で?」
石原さんは、さっきの笑顔とは一変して、少しムッとした表情で言った。
「周りに……周りに付き合ってる事が知れ渡るのが嫌で」
僕は正直に不安を打ち明けた。
「そんなに周りを気にしてたらしんどいよ。今しかできない事しようよ!」
それを言われるのを待っていたかのように即答した石原さんは、か弱い拳を固めた。
「そうだね」
と、僕は返事をした。これは気持ちの問題だと気づいた。今を大切に。幸せだと思って生きれば、周りに何を言われようが幸せに生きれると思った。
僕らは再び手を繋いで教室に向かった。周りからの視線も気にしない。気にしない。
廊下で、次のデートプランを決める話になった。石原さんの提案で水族館に行くことに。
放課後、案内されて宇宙研究部の部室に行くと、そこは僕にとって最高の場所だった。まず入ると、部屋は暗くなっていた。プラネタリウムの投影機が置かれていて、壁や天井に星が映っていた。そして、憧れの何百万円もする天体望遠鏡や、宇宙に関する資料が置かれていた。
僅かな明かりの中でそんな憧れの物を眺めていたら、突然パッと明かりが付き、目の前にピエロの仮面を被った人が出てきた。
「「!!」」
突然出てきたピエロとその距離の近さに新入部員は驚く。声を出す間もなく、ピエロはジャグリングショーを始めた。2・3年生が歓声を上げる。それにつられ、新入部員も歓声を上げた。
僕は何が起きているのか全く理解が追いつかなかった。ここは、宇宙研究部だよな?と頭の中で反復していた。何も知らない人は、演劇部か何かだと思ってしまうだろう。
そのまま、3分ほどでショーが終わった。そしてピエロが仮面を取って、こう言った。
「皆さん、ようこそ実力が全ての宇宙研究部へ」
どこも、実力を問われる部活には見えなかった。だが、それが大誤算だった。
初日から宇宙に関する問題を集めた入部テストが行われた。これが、入部人数を絞るためのテストらしい。人気の部活の人数が少ない理由はこれなんだと理解した。
入部テストには合格したが、不合格だった人の気持ちを考えると悲しくなってくる。これで、宇宙に関わる人生を左右される人もいるだろうと思うと……いや、同情はしていられない。僕もこれから落とされる可能性があるわけだ。油断はしていられないなと思った。
帰りの電車で、石原さんに抜き打ち入部テストのLINEをすると「大変だったね」というメッセージと、Fightと書いている可愛い犬のスタンプが返ってきた。すごくパワーを貰った気がする。
夜は石原さんのおかげでモチベーションが上がったまま、押し入れに眠っていたテキストを出して、宇宙研究に関する勉強をした。入部テストで答えられなかった内容を重点的に勉強した。
学校も勉強も、宇宙研究まで……今まで生きてきた15年間で一番幸せで最高の日々を送っている。それもこれも石原さんに再会したから始まった。つまり、全て石原さんのおかげだ。