第1話:君との意外な共通点
「ねえ、君、星好きなの?」
学校一の美少女と言われている石原星華の声がした。僕も、少し可愛いなと思っている。そんな石原さんが誰かと話しているようだ。
星に興味がある僕にとって、とても気になる会話だが、そんな輝かしい会話を邪魔してはいけない。そう思い、荷物を持って教室の扉を目指した。
「ねえ……無視しないでよ。宇辻くん!」
僕はビクッと肩を上げる。石原さんが僕の名前を呼んだ。確かに、この僕の名前を呼んだのだ。これはビックニュースだ。こんな僕に声をかけるなんて……
「そんな驚くことじゃないでしょ」
目を丸くして振り返ると、石原さんが笑顔を見せた。目があった瞬間、僕の心臓がドクンと跳ね上がった気がした。
それを感づかれないように目をそらした。そのまま、あたりを見回すとみんな帰ってしまって、2人きりだった。
「星、好きなの?」
石原さんは首を傾げて聞いた。
「うん、星好き、だよ」
僕は言葉を詰まらせながら答えた。久しぶりの会話で、しかも、美少女との会話。とても緊張している。
「でも、なんで星が好きって分かったの?」
僕は平静を装い、緊張を隠しながら聞いた。
「だって、それ望遠鏡でしょ?毎日。夜に星高山で天体観測してるの知ってるよ」
石原さんは、僕が恥ずかしくてみんなに隠していたことを知っていたようだ。からかうようなどこかいじわるな笑みを浮かべて、こっちを見ている。
この黒い長細い袋を見て望遠鏡だと分かる人は少ない。
「なんかいつもあの黒いの持ってるけどさ、あいつ怪しいよね〜」としか思われてない気がしていた。
この望遠鏡の会社「ポラリス」のロゴで分かったのだろうか。だとしたら、すごく気が合うと思った。
「私も星大好き!なんか神秘的だよね。誰も知らない秘密をたくさん持ってそう!」
石原さんは、大きく手を広げて言った。
僕は、学校一の美少女との意外な共通点を見つけてしまった。星が好きな仲間がいたようで、とても嬉しかった……しかし、共通点を見つけても、彼女とお近づきになれるような勇気も気力もないと気づいた。明るい希望が一瞬にして無惨に砕け散った。
僕はこれ以上いても気まずくなるだけだと思い、バスの時間が近いことを伝えた。そして、教室を出ようと扉に手を伸ばす。扉に手が触れた時、石原さんが僕を呼び止めた。
「あ!ちょっと待って。今度一緒に流星群見に行こうよ!」
石原さんが思いもよらぬ言葉を言った。僕は驚いて、開いた口が塞がらなかった。
「あ、そうだ!LINE交換しよ!」
彼女に追撃され、言われるがまま、スッとカバンからスマホを取り出し、石原さんのスマホに映ったQRコードをパシャリと読み取った。
トントン拍子で話が進んで、石原さんのLINEをゲットした。しかも、一緒に星を見るという、いわゆるデート的な話まで決まろうとしている。こんな夢みたいなことあるだろうか。少し考えたが、石原さんの笑顔に嘘偽りなど全くなかった。
「また、連絡してね!」
「うん。じゃあ、また」
と頭を下げて教室を出る。僕は扉を閉め、スマホ片手にガッツポーズをした。
いつもは歩くバス停への道をハイテンションで走っていく。教科書が入った重たい荷物も軽く感じた。
僕はバスの中で頬をつねり、LINEの友だちの欄を見て現実かどうかを確認した。せいかと書かれた名前が一番上に出てきている。やっぱり現実だ。
バスの中で、どうメッセージを送れば自然かと考えたが、結局、夜になっても思いつかずに「よろしく!」と書いたウサギのスタンプを送ることにした。
その日の夜、あいさつのスタンプを送ると、「OK!」と返事をする可愛い犬のスタンプが返ってきた。
そして、星を見に行く日を決めることに。1週間後の流星群の日に日本一、星が綺麗に見える場所である星高山で見ることにした。いつも僕が星を見ている麓ではなく、山頂付近にすることにした。
山頂で見る方が光が少なく綺麗に見えるそうだ。そんな山頂で見るきれいな星空をイメージする。とてもきれいだ。しかも横には石原さんがいる……。
しかし、だんだんと石原さんを好きになっていくことを認められない自分もいた。クラスのみんなにからかわれるだろう。もし、学校中に知れ渡ったら?いじめられるかも知れない。そう考えると胸がざわついた。
もし告白して、付き合うとなったら、もっとからかわれるだろう。「お前なんかが何で、石原さんと付き合ってるんだ!」なんて言われてしまうかもしれない。
でも、この好きという気持ちを伝えたい。
こんな矛盾が頭をギュッと締め付けた。
この矛盾した想いは、絡まったイヤホンのように複雑になっていく。
考えて、考えて、考えて、その日の夜は眠れなかった。
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