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Prologue

 「笑い方がわからない。もう、笑えないよ」


 宇辻宙うつじそらは、彼女からのメールを見て、飲んでいたお茶を盛大に吹き出した。宇宙船の中にお茶の気泡がたくさん浮いている。


 「え?どういうこと?」


 僕は彼女に聞き返すメッセージを送った。返事を待っていると、会議が開始される事を告げるチャイムがなった。なにか緊急の会議が行われるようだ。宇辻はスマホをポケットにしまい、急いで会議室へと向かった。




 会議室につくと、星熊隊長が険しい顔をしていた。どうやら重大な内容らしい。メンバー全員がそう察したとき、星熊は思いもよらぬ言葉を発した。


 「今日を持って、火星探査を終了することになった」


「ええ?」

「本当ですか?隊長!」

「努力の結晶がぁ……」 


 色んな方向から嘆きの矢が星熊に突き刺さった。今までの研究の成果が台無しになるという状況を信じられないようだ。


 だが、星熊は表情一つ変えなかった。



 少しの沈黙のあと、モニターにショーン長官が映った。通話が繋がっているようだ。


 「突然だが、今、地球は深刻な状態だ。パンデミックが起こっている」


 ショーン長官の説明で、会議室にいたメンバーは息を飲む。


 「スマイルクラッシュというウイルスが蔓延している。スマイルクラッシュにかかった者は副作用として、一生笑えなくなるのだ。私も、笑えなくなってしまった」


 「……!」


 表情が暗いショーン長官を見て、僕は目を丸くした。


 (さっきのメールはそういうことだったのか。)何も知らずに彼女を笑ってしまった自分を後悔した。そして同時に彼女を助けたいと思った。

 

 「スマイルクラッシュは治っても、笑えないという副作用はずっと残り続ける。」


 そうか、助からないのか……一生笑えないのか……そう、絶望を感じた瞬間、ラッキー長官が希望の光を見出した。


 「だが、一つだけ可能性が残っている。それが、マルーンフラワーの存在だ。」


 「マルーンフラワー……ですか?」


 星熊が慣れない単語を繰り返した。


 「そうだ。マルーンフラワーだ。昔はそれを薬にして飲むと治ると言われていた。だが、その瞬間を見極め、乾燥の進行を止めて薬に変えるのは難しく、現代の科学では不可能と言われている。」


 「じゃあ、駄目じゃ、ない、ですか?」


 食原夏樹が言葉を詰まらせて遠慮気味に聞くと、ショーン長官は首を振って否定した。


「いや、不可能と決めつけてはいけない。希望の光が見えるうちは研究をしてほしい」


 ショーン長官がそう願うと、メンバー全員は、火星探査を中止して地球にマルーンフラワーを届ける事に賛成の意味を込めて、力強く返事をした。


 「そうと決まれば、早速プランについて話そうか。まず、花を調達しなくては何も始まらない。そうするには、まず宇宙で元となる花を探す人が必要だ」


ラッキー長官がそう聞くと、月村晴人は質問した。


「もちろん、その花を探す人にはロケットで行ってもらうんですよね?」


「いや、ロケットは目的の場所に行くのには適しているが、花を探すのには適していないだろう。だから、宇宙服で花を探してもらって、見つけたらそこへロケットが向かう。遠くへ行くため、命綱も《《なし》》だ」


 「ええ?長官!それは何が何でも危険すぎますよっ!!」


 灯田愛瑠は、手を広げて主張した。すると、長い間考え込んでいた宇辻が言った。


 「いや、僕が行きます」


 「え!?」

 「すげーな!宇辻」

 「尊敬するぜ!」



 「本当に行って、くれるのか?」


 驚きの声を背に、ラッキー長官は疑い深く聞いた。命綱なしで行くなんて、最初からダメ元だったようだ。


 「はい……」


 宇辻は拳を固めた。宇辻は(僕がこのまま逃げて、それで彼女が一生笑えなくて、それでいいのか)と深く考えていたのだ。彼女と地球の人々のためだ。






 「宇辻、準備はいいか?」


 「はい!」


 星熊隊長の問いに対して、宇辻宙は気合を入れ、力強く返事をした。


 宇辻は小さな窓から広大な宇宙を見つめる。あの頃に夜空を見て感動させられた星が今、目の前に並んでいる。


 宇辻にとって遠い存在だった星が今にも、触れそうだ。


 「宇辻さーん!無事に帰ってきてください!」


 月村の震える声で、宇辻の意識は宇宙船内に戻される。


 「彼女が心配してたぞ!頑張れよ!」


 「……!」


 食原がからかうと、宇辻は顔を赤くした。宇宙船内に笑い声が響く。


 「発射準備OK!」と月村が言うと、一気に緊張が走った。宇辻は(何がOKだよ!)というツッコミを心の中にとどめておいた。


 一段階目の扉が開き、合図で宇宙服のヘルメットを装着すると、立っていた台が前進する。それからは、あっという間だった。


 「3・2・1……テイクオフ!」

 官制室の合図で宇辻は乗っていた台の力で、宇宙へ勢いよく飛びだした。


 「!!」

宇辻は間近に見える星に感動して言葉も何も出ない。暗闇に反して光り輝く星。光と影のコントラストが宇辻の胸を打った。



 しかし、飛んでいるうちに視界が薄れていく。意識も朦朧としているようだ。


 「こちら星熊。宇辻、応答せよ。応答せよ……」

 宇辻は宇宙の環境の変化に耐えきれず、暗い闇へ沈んでいった―――

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