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(2)

「ごめん! 今行く!」


 廊下から顔を出して下をのぞくと、そこには中学からの友人である、西脇魂太(にしわき ごんた)の姿を発見。

 急いでエレベーターで一階まで降り、自転車にまたがる西脇のところまで行くと、高校生特有の短い挨拶を済ませた。


「はよっ」

「うっす」

「つーか、相変わらず弁当しっかりしてんな」

「今日はばあちゃんの煮物も入ってるからね」


 なんて話すと、西脇の目がキラリと光る。


「マジ?俺も昼食わせろ」

「いいけど、全部は駄目だからね?」


 僕のばあちゃんの煮物は、孫目線抜きにしてもめちゃくちゃ美味しい。

 特に和物が好物の西脇にとっては、ご馳走だとでも言わんばかりに毎度食い付いてくる。


「つーか、見た目はめっちゃお肉とかがっついてそうなのになぁ……」

「あっ?」

「何を食べたら西脇みたいに大きくなれるかなって」

「知らん。俺が知りたい」


 見た目に反してめちゃめちゃ食べる自分と、見た目だけなら確実にコワモテの部類に入るのであろう西脇。

 タイプは違うのかもしれないけれど、気の合う親しい友人の一人だ。


「今日は一時間目から体育だから、はやめに行かねーとな」


 そう言うと西脇は、ひょいと大事に抱えていた重箱を自転車に積んで、歩きやすいようにしてくれる。


「はやく行こうぜ」


 そう告げたと同時に、自転車を漕ぎ出した西脇。


「そっかー、体育かぁ」


 一方の僕はと言うと、呑気に考え事をしていたから、見事にはじめの一歩が出遅れる。


「遅れると教室に入れなくなるぞー」


 自転車をすいすい漕ぎ出した西脇が、未だゆっくり歩いている僕にも聞こえるような声量で声をかけてくれた。


「……んっ?」


 そうだった! 僕達の教室は体育前後は、女子たちの更衣室になっている。

 だから一時間目から体育の日は、カバンを教室に置く為、少し早めに登校しなくてはいけない。

 慌てて僕も走り出したが、もちろん西脇はボクの事等お構いなし。


「お前の弁当は責任もって持ってってやるからー!」


 なんて声が遠くで聞こえた中、僕は必死に走っていく。

 急いで追いつかなきゃ、また絶対変な事が起きる!

 こう見えて僕は運がない。

 ……いや、人によってはめちゃくちゃ運があるとも言われる。

 そういう星の下の人生と言われてしまえば、そうなのかもしれない。


「頼むから僕を置いてかないでくれーっ!」


 楽しそうに笑いながらどんどん離れていく西脇の声を必死に追いかけ、体育前だというのに全力疾走する羽目となった運命。

 これ以上伝説を増やされてたまるかと、佐津川勝佐史上、人生最速レベルで走っていく。

 ……普通に足は遅いけど。

 だけど僕は頑張った。

 そして頑張ったが故に、とんでもない事が起こってしまった。


「っつっ! わああああ!」


 勢いよく校門を走り抜け、下駄箱のある昇降口まで突入したまでは良かったが、人間という生き物は、急に止まる事ができない。


「ぬわっ! ……セーフ」


 どうにか体をひねらせて、自分のクラスの下駄箱前で止まる事ができた僕は、ほっと一安心して靴を履き替えようとする。


「あぶっ! ごめっ!」

「どわっ!」


 しかし直後、まさかの別の誰かが、同じようにクラスの下駄箱前に突っ込んできた為、見事僕はその人に体当たりをかまされてしまった。


「あたたたた……。ごめんね~、佐津川君がいると思ってなくて」


 なんてぶつかってきた女の子、もといクラスメイトはそんな事を言いながら笑っている。


「あっ、いや、うん……」


 しかし僕は、心臓の音が止まらない。

 ……だってむにゅって!

 何とは言わないけれどしっかり感触が身体を通して伝わってまいりましたが!?

 これはあれだ! 何も考えてはいけないやつ!

 バクバク鳴り止まない心臓は、全力疾走してきたからだ!

 決して今の一瞬で跳ね上がった訳ではない!


 一人あたふたしている横で「あれっ? そういえば佐津川君、今日は持ってないんだね」と、平然そうに話し掛けてくるクラスメイト。


「……あっ、そうだ! 西脇に預けたままだ!」


 あいつは自転車置き場に乗ってきた自転車を置いてから来るだろうから、この現場は見られていないはず。


「そうなんだ~! 仲いいね~」


 そう話しかけてくるクラスメイトは、そのまま気にしない様子で教室へと歩いて行ってしまった。

 ……せめてもう少し意識してくれても良くない?

 なんて思わず本音が出そうになるが、そこは我慢我慢。

 別に僕は、女の子に飢えているようなやつではないのだから。


「……ふはっ。何感触を嚙みしめてるんだよ」

「なっ、西脇っ! いつのまに!?」

「あー、お前があの子にぶつかられたところから?」

「しっかり全部見てんじゃねーか!」


 言っていなかったが、僕はどうやら人様によるとラッキースケベ体質らしい。

 ……いや、自分自身でも自覚はしている。

 かれこれこの十数年余りの人生の中で、思い当たる節がないと言えば嘘になる。


「今日もまた一つ、ラッキースケベ伝説が更新されたか」

「やめろっ、それを言うな!」

「西脇に佐津川おはよー、はやく教室行こうぜ」

「というか、なになに? また伝説一個増やした感じ?」


 西脇に向かってギャンギャン吠えたつもりだったが軽くかわされ、挙げ句続々と登校してきた友人にまでおちょくられる。

 だけどこれはいつもと変わらない日常。

 友人たちと他愛のない会話をしつつ、僕は今日も何の変哲もない日々を繰り広げる。


「だからっ、伝説じゃないっての!」


 こうやって笑いながらこのやり取りを過ごせるのは、西脇を始め、友人たちやクラスメイトとの間に信頼関係があるから。


「でも、本当にハプニングが起こってもそこから何も発展しないのが、勝佐のすごいところだよな」


 ……うっ。

 前言撤回。

 そう、僕がラッキースケベ体質なのにこうやって平穏で過ごせるのは、見事なまでに僕が凡人だからである。


「逆にここまでちょくちょくハプニングが起こっているのに、誰からも意識されないのは才能なのかもしれない」


 なんてため息を付いたら、友人たちが慰めてくれるまでが、いつものやりとり。


「そうだ。ほらよ弁当」

「あっ! ありがとう」

「お前のそういう素直なところ、いつか認めてくれるやつが現れるといいな」

「……本当に」


 現在高校二年生。

 平均より少しばかり背は低め。

 これと言って突起したものも無いし、ラッキースケベ体質なのに、その後の発展は一切起こらない。

 唯一の特技と言っていいのかは不明だけど、強いて言うなら人より沢山食べられるだけのこの僕が、甘い関係を築いてくれる素敵な女の子とこの先出会えるのだろうか。

 これは、そんな僕が何かを掴まされる、ほんの一部の始まりの物語。




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