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お久しぶりの方も、初めましての人もこんにちは! 井吹雫ことハチ仔です。
久しぶりになろうに小説を投稿するぞい!
今回は初めて執筆するジャンルでもある為、温かい目で読んで頂けるとありがたいです!
どうぞよろしくお願い致します。
「ごちそうさまでした」
「あらっ、足りたかしら?」
「うん、美味しかったよ」
「ならよかった」
優しく微笑む母さんの声に反応しつつ、僕は食べ終えた食器をキッチンへ運び、そのまま洗面台へと向かった。
「よしっ」
佐津川勝佐。
これが僕の名前。
上から読んでも下から読んでも『さつかわかつさ』。
授業中だけは眼鏡をかけるけれど普段は裸眼で過ごしたい、そんなどこにでもいる高校二年生だ。
「ちょっとー? 早く支度しないと学校に遅れるわよー?」
「はーい」
近所にある地元の高校に進学し、徒歩で通学。
出来る限り直前まで家に居たいのには、理由もある。
「もう少し背が伸びてくれたらなぁ」
毎朝家を出る直前まで、鏡の中の自分に願っているのが僕のルーティーン。
ちょっぴりひょろりんではあるけれど、そこそこ楽しんで生活している、僕の学生物語。
「本当に、どうして父さんの血を引いているのに、大きくならないかなぁ」
筋トレ大好き、この世の信じられるものは妻と母と息子と筋肉!
……なんて平気で言ってしまう程の、元気ハツラツ・ムキムキマッチョの父が「上から読んでも下から読んでもさつかわかつさ! なんて良い名だ、この世に一つ!」なんて言って付けられた、嘘のような冗談ではない僕の本名。
まあ、だからと言ってこの名前がいやという訳ではない。
むしろ気に入っているくらいには、僕も楽観的だし。
「聞いてるのー? 遅刻するわよー?」
「もうっ、分かってるって!」
自己紹介はこれくらいにして……。
リビングで重箱にお昼のおかずを詰めてくれていた母さんが、顔を洗っている僕に声をかけてきた。
「西脇君来ちゃうわよー?」
「大丈夫だって!」
「ハッハー! 朝から良い声出し!それでこそ俺の息子!」
「あなたも! 早く食べないと会社に遅れるわよ?」
きっと僕の返事がリビングで朝ご飯を食べている父さんにも聞こえたのだろう。
「本当、うちの父さんは朝からフルパワーだよなぁ」
なんて思わずつぶやいてしまう位には、マッスル……じゃなかった。
不健康とは無縁のようなムキムキ親父。
「勝佐ー、お昼のお弁当、テーブルの上に置いておくからねー?」
「おおっ! 今日はからあげと卵焼きと、ばあちゃんの煮物が入っているのか!」
「昨日の余りものを祥子さんが一緒に詰めてくれたんだよ」
「いつも夕飯を作って頂き、本当にありがとうございます」
……なんだと?
「今日のお弁当、ばあちゃんの煮物がはいってんの!?」
父さんと母さん、そしてばあちゃんと僕。
佐津川家はなんて事ない、どこにでもいるとあるマンションの一室に住む、ごくごく普通の家族だ。
「ふふっ、いっぱい食べてな。でも汁が出るかもだから、傾けないようにするんだよ」
「うん、分かった! 大丈夫!」
「重箱、重くない? 運ぶのも大変だろうし、やっぱりもう少し別のお弁当を探そうかしら?」
「えっ、良いよ! 僕はこれが一番いい!」
ばあちゃんは本当に孫想いで、いつどんな時でも、僕を尊重してくれる。
そして母さんも僕の事を第一に考えてくれている。
……が、同時に母として心配症なところもあるのは事実。
「でも、こんな大きな三段の重箱を毎日持って登校するのも……ねぇ」
いや、すでにこの重箱担ぎ登校生活、二年繰り広げていますが?
「何を言っている! 勝佐が重箱の量でないとお昼が足りないのは母さんも知っているだろう!」
めちゃくちゃ笑顔いっぱいにして、ニカッと歯を見せてきたタンクトップの父さん。
「そうそう、それよりいつも朝忙しいのに、これだけの量を毎朝作って詰め込んでくれて、ありがとう」
父さんの言葉に便乗して、母さんに日頃の感謝を口にしたら、嬉しそうに微笑んでくれた。
底抜けに明るい父と、優しい母&祖母がそばにいる環境の中、愛情いっぱい大事に育ててもらっている自覚もある。
だから僕はおかげさまで、屈折する事もなく素直に育ったと自分でも思う。
……まあ、モテないけど。
特に頭が良い訳でも、スポーツが得意な訳でもない。
本当に平凡な高校生男子。
しいて言うなら、ひょろひょろだけどよく食べる。
昼食の弁当も重箱三段を普通にたいらげてしまう大食い。
これが僕の取柄なのだろう。
「じゃあ、行ってきまーす」
「行ってらっしゃい」
「気を付けて行ってくるんだよ」
「はーい」
母さんとばあちゃんの声掛けに返事をして、僕は今日も扉を開ける。
「大変だ! 俺も着替えなければ!」
なんて父さんの慌てている声が聞こえたような気もしたけど、それを微笑みながら扉を閉めた。
「おーい、はやく下りてこい」
すると丁度マンションの廊下を歩き出そうとしたところで、下の方から、聞き慣れた奴の声がした。