あーっ! 困りますお猫様! 御不浄さえも愛おしいなんて!
梅雨入りした。
お猫様の御々足が、類稀な瞬発力を発揮し、我が家を横断される。御用が済んだ後の、いつもの御興奮である。三角跳びの対空時だけが、私の動体視力に捉えられる。上弦の月のような跳躍姿勢。お猫様の目線は、着地予定の棚の上をぴたりと見据えられ、お耳は空気抵抗を減らすべく寝かせ気味。御前足は世界を掴むようにぐうっと差し出され、御後足は蹴り出した勢いのまま、すらりと伸びられる。先白の尻尾は身体のバランスの全てを司り、高さ傾き共に精密にコントロールされ、その高潔な先端は微かに上を向いていた。肉球の間に挟まった猫砂の粒が、途上で落ちて、物置棚の傍に転がった。
この季節、お猫様の御不浄の臭いが気に掛かる。猫砂に消臭機能の努力あれど、湿度気温が高いとなると、どうしようもない。せめて私めが、小まめにお掃除仕るしかないのだ。
私は早速、固まりたてほやほやの猫砂に、専用のスコップを差し込んだ。お猫様の”雨“を、周囲の猫砂ごと、掬い上げる。猫砂は、”雨”を吸収し、膨らんで、塊となる。そのとき、消臭成分を含んだゲル状のものが分泌される。ゲルは空色に澄んでいる。余分の猫砂は、乾いたまま、篩状のスコップの桟から零れ落ちた。篩えば、篩うほど、乾いた猫砂が落ちていく。
私は無心にスコップを篩う。乾いた猫砂がみんな落ちて、ゲル状に固まったものだけが、スコップの上に取り残されるまで。
こんな風にいじり回すから、余計に臭うのだ。スコップに”雨“を含んだゲルが付かないよう、ごそっと捨ててしまった方が良いと思う。
だが、こうやって猫砂の固まりを観察するのが、私の無類の楽しみなのである。
”雨“は、猫砂の表層を広く濡らしながら、注ぎ込まれる”滝壺”の箇所では砂の深くまで浸透し、ゲル化の処理許容量を超えて御不浄の底に滞留、底の猫砂に広く影響を与える。よって、ゲル化した猫砂の塊は、高坏のような断面となる。それを、上から掘り返し、御不浄の底に張り付いたゲルを、スコップの先端で剥がす。スコップを篩う。ざくざくと音がする。白い猫砂の粒が落ちていき、青いゲルだけが残る。
幸せだ。
お猫様が、物置棚の上で、私の丸めた背中をご覧になっている。他所様の御用を待ち構えては、”雨“を弄り回している私めは、さぞ不審に思われるだろう。胡乱気に目を細められ、先白の尻尾をひくひくとお震わせ、前足を油断なく揃えていらっしゃるに違いない。私には分かるのだ。
しかし。これは私の、無類の楽しみである。