後始末、始めます
「失礼します」
初対面の印象は大事、失礼のないように慎重に。と心の中で唱えながらノブを回し、ゆっくりと扉を押すが、私は気づいてしまった。
ノック忘れてた;;
「君が私の孫娘かな?」
ゆっくりと押される扉が、開き切るのを待って話しかけられる。
「は、はい」
ノックの事で焦っていた所為で声が裏返ってしまった。
「私はバラド・ラトラス。君の名前はなんだい?」
私の緊張をほぐすように彼は優しい口調でそう言った。
「エリス・アルザリアです」
「よく来たね。エリス」
この言葉が、「よく私の前に顔を出せたものだ」と言う意味のものでは無いことは、その口調から容易に理解できた。良かった、お爺ちゃんはまさしく私の想像していた好々爺のようだ。
「まだ緊張しているみたいだね。とりあえず掛けなさい」
そう言って、勧められた椅子の前には私の為に用意してくれたのか、王都でしか買うことができない茶菓子が用意されている。
「コーヒーとお茶どっちがいいかな?」
前世では、好んでブラックコーヒーを飲んでいた私だけど、こっちの舌には少し合わない。
「お茶でお願いします。苦いのは苦手なので」
それから暫くは、食器の音と微かなお茶の葉の香りだけが部屋を満たしていた。
「はい、熱いから気をつけるんだよ」
「ありがとうございます」
そう言ってから、私は出されたお茶を一口で飲み干した。
緊張でのどが渇いていたのもあったけど、なによりも私はこのお茶を知っていたから。
「これ、お母さんが好きなお茶だ・・・」
驚く私をみてお爺ちゃんは、嬉しそうに微笑んだ。
やっぱり、魔法適正の話を聞いた時に感じた予感は正しかったんだ。
お爺ちゃんはお母さんを嫌ってなんかいない。
それならと私は本題を切り出す。
「あの、聞いてもいいですか?」
「なんだい?」
「なぜ母は16歳までこの街で過ごせたんですか?」
私の真面目な質問に、お爺ちゃんは少しだけ表情を硬くしたように見えたけど、それでも優しい声色で答える。
「アイリスが王都を追放させられ無かったのは私が、協会に掛け合って彼女の魔法適正を偽装したからだね」
「そんなことして大丈夫なんですか?」
「協会としては、貴族との軋轢を生んでまで守るもの程ではないと考えてるんだよ」
なるほど、確かに協会も貴族を敵には回したくは無いだろうし、そもそもお爺ちゃんが何もしなくても、当時のお母さんがそんなルールに従うわけがない。
教会としても一番無難な選択だったてことか。
「それならルールを変えてしまえばいいのに・・・」
「そんなに、簡単には変えられないさ。変えていいものだけど、変える理由もない。理由もなく変えてしまえば、教示そのものに不信感が生まれてしまうんじゃないかな」
私の何気ない言葉に、お爺ちゃんがマジレスする。
でも、確かにそうかもしれない、なら変えるべきルールにしてしまえば、宗教的な問題はクリアできるのかもしれない。
「私はあの子を甘やかしすぎた。あの子が、あんな事件を起こしたのは私の責任でもあるんだ。だから、距離を置いてあの子に干渉しないようにしてきた」
私の質問に答え終わったお爺ちゃんは続けてそう言う。
優しい顔が悲しそうな表情をしている。
「今日、君を見て私の決断は間違ってなかったんだと思えたよ。ありがとう」
私は今日まで勘違いをしていたんだ。
お爺ちゃんは、お母さんを疎ましく思って追放したんじゃない。
本当は、離れたくないくらい大切だったけど、お母さんの事を思って突き放したんだ。
親なら無条件で子供を愛せるなんてことはないと思う。
それでも、前世の両親も、こっちの両親も、そしてお爺ちゃんも愛してくれた。
だから私はやらなくちゃいけない、後始末という親孝行を。
「お爺ちゃん、お願いがあります」
ーーー
それから6年が経って、私は再び王都へ来た。
お母さんが王都へ帰ってくるには、宗教的な問題のクリアも大事だけど、他にも色々な問題があった。
私はその問題を解決しながら、いくつかの功績を持って協会に掛け合う算段をお爺ちゃんに話した。
お爺ちゃんは、自分が会いに行ったらいいと言っていたけれど、それじゃあ何の解決にもなってない気がして、私の勝手な気持ちだけど、このやり方になった。
そして、私は門戸を叩いた。
昔、お母さんが破壊した門を。
貴族学校の門を。
元・悪役令嬢の後始末のために。
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予定は未定でした。
転生令嬢の恋事情も面白いかもですよ・・・。
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