6
ゲーム内時間で翌日を迎える頃には、開始から二時間ほどが経っていた。
ちょうど廃工場周回三回目に入ったちぐさとユータは、このときちょっとしたトラブルに見舞われた。
真ん中ぐらいまで進んだあたりでうっかり敵何体かのタゲを引いてしまい、集中攻撃でユータが死んだのだ。
工場で敵からドロップしたショットガンは持っていたものの、近くで何体もと接敵して勝てるほどの装備ではなかった。それで一度ユータが先ほど工場近くに設置した寝袋でリスポーンしたのだ。
他チームとの接触があったのはこのときだった。ディスコからユータのひそひそ声が聞こえる。ゲーム内VCをオンにしていなければ周囲には聞こえないので、ひそひそ声で話す必要はないのだが。
「誰か来た」
「何人?」
「三人。紅嵐さんのチームぽい。あっやべっ、見つかった」
紅嵐は『嵐を呼ぶ男』チームのリーダーで、主にホラーゲームを実況している配信者だ。
チームメンバーのIZOME とみにすけっとは紅嵐の古くからの友人らしい。
そこになぜセンダツがいるのかといえば、何かの企画で一緒になったのを機に知り合ったらしい。
紅嵐達はひと回り以上年上だから大人しくしているのかもしれない。
「今行く」
ちぐさはそう返し、踵を返して工場の入り口に向かった。
すると話し声が聞こえてくる。近づくと、ユータが紅嵐、みにすけっと、センダツに囲まれていた。
そのユータが言う。
「だからぁ〜、嘘ついてないですって。拠点の場所はFの10」
「ぜってぇ嘘だろ。本当のこと言えー」
「言わないと死ぬぞー」
そのやりとりを聞き、ちぐさは工場の塀の陰から声をかけた。
「ちょっと何やってんすかー?」
「えっ、誰?」
「チームの奴じゃね?」
三人が振り返る。ちぐさは塀からチラチラピークしながら名乗った。
「クラウンドピエロ改め殺人ピエロのちぐさですー」
「ちぐさ君? ああ、ウィルダネスガチ勢だ! ちょっとねー、今そちらの拠点の場所を聞いてたのよ。でもユータ君嘘つくからさあ。教えてくれない?」
紅嵐に言われて答える。
「嘘じゃないっすよ。F10です場所」
「おいおい随分簡単に場所教えてくれるじゃねえか。嵐さん、こいつ何か企んでますよ。トラップハウスとか」
センダツが余計な口を挟んでくる。仮拠点にトラップ仕掛けまくるのもいいな、と思いながらちぐさは言った。
「いや、教えたのは勝てるからですね」
「何だとぉ?! センちゃん、俺ら舐められてるぞ!」
みにすけっとが叫ぶ。
「マジ舐められてますね。やりますか?」
「おう、やっちまえー!」
その掛け声で銃が一斉掃射され、一瞬でユータが落とされる。
ちぐさは後ろに下がって工場入り口のところに熊用の罠を何個か置くと、中に入って機械の裏に隠れた。
そして、罠にかかった紅嵐とその奥に詰まったみにすけっとをダウンさせ、更に奥に行って、間髪入れずに入ってきたセンダツの銃撃を避けた。
銃声からしてもうそこそこ強めのサブマシンガンを持っているらしい。
これは分が悪いな、と思いながら息を潜めて相手が近付いてくるのを待つ。ショットガンで一発で仕留めるしかない。
今隠れている機械の右から来るか左から来るかは賭けだが、できるだけ両方に対応できるよう交互にチェックする。
次の瞬間、相手の体が一ミリ見えた。そしてこちらに気付いたセンダツが発砲するのと同時に振り返って頭を撃った。
こちらもヘッドショットを食らっていたが、近距離でショットガンに優る武器はない。
撃った瞬間にセンダツはその場に崩れ落ちた。
「ふぅーっ、セーフ」
体力は残り二十だった。マックスは百である。
あと一発食らっていたら死んでいた。
ちぐさは救急キットを使って体力を全回復すると、少し迷ってからセンダツの死体を漁り、武器と弾と装備を取った。
「まあセンダツぐらいからは取ってもいいかな。ガチ勢だし」
そう言いながら外に出ると、罠にかかった二人がお亡くなりになっていた。
そちらの物資は取らずにユータの物資だけ回収してささっとその場から立ち去る。
戦場にグズグズ居残るとろくなことにならない。物資を取ったら即撤収、がウィルダネスの鉄則である。
ちぐさは拠点に向かいながらユータに戦況を報告した。
「今どこ?」
そう聞くと、それまで黙っていたユータが答える。
「拠点からそっち向かってる。やれた?」
「うんやった」
「全員?」
「うん。けど物資は取ってない」
「マジかよー、ちぐさやっぱすげぇなー。あっ、今見えた。こっちこっち!」
そこで二人は合流した。ちぐさは回収したユータの物資を渡した。
「はいこれ、ユータ君の」
「サンキュ。いやー、マジビビッた! 終わったと思った。つうかよく勝てたなー」
「運良くね。でも死ぬところだった」
「いやー、すげえ。マジすげえ」
「任せろー」
こうしていると、やっぱりユータとゲームをするのは楽しいなあ、と思う。
「優勝しようぜ」
「勝ちてぇなー」
二人はそんな話をしながら拠点に帰ったのだった。
拠点に戻り、手に入れた物資で武器や道具をクラフトしていると、メドゥと朝倉が帰ってきた。
少し前に戻ってその後二人で行動していたらしい。
戻ってくると、一度別チャンネルに移動していた二人がAチャンネルに戻ってくる。
そして開口一番、朝倉が言った。
「ユータぁ〜、会いたかったよぉ! もう狼が怖くて怖くて」
「おかえりー。死んだ?」
「襲われたけど逃げた!」
「おぉ、すごい。俊足じゃん」
ユータが褒めると、メドゥが言う。
「いやー、良い逃げっぷりだった。脱兎のごとくっていうの? 録画したかったわ」
「俺、俊敏百なんで」
「ははは、確かに」
「ちぐさと工場周回してきましたよー。掘削機四人分あります。あと銃とかも色々。みんなで使おうと思って物資箱に入れました」
ユータが報告すると、メドゥと朝倉が歓声を上げた。
「おお、すげえ! 銃めっちゃある。二人ともありがとうなー」
「おぉ掘削機もある。これ使うとファームめっちゃ楽なんよなー。マジ感謝」
「いえいえ。戻ってから何してたんすか?」
するとメドゥと朝倉が意味ありげに視線を交わす。
「なにって、ねえ?」
「仕事に決まってんじゃん」
「仕事って追い剥ぎっすか?」
ちぐさが聞くと、二人は頷いた。
「もちのロン。ただねえ〜、一つだけ問題があって」
「何ですか?」
「全部失敗しました!」
メドゥの言葉にユータが声を上げる。
「えぇ〜? マジすか? 戦果ゼロ?」
「ゼロどころかマイナス! 武器も装備もなくなったよ〜、ぴえん」
「返り討ちにされちまったあ」
「やっぱりダメやね、フィジカル強い二人がいないと山賊稼業は」
しょんぼりしているメドゥを慰めるようにユータが言う。
「今度は俺らついてきますよ」
「本当〜? いやそうしてくれたら本当に百人力やなぁ」
「あと実はこっちも追い剥ぎっぽいこともしてきたんですけど」
「あ、そうなん?」
「はい。工場で紅嵐さんのチームと当たって皆殺しにしてきました。ちぐさが」
するとメドゥと朝倉が拠点内を飛び跳ねた。そしてメドゥが聞く。
「おぉー、すごい! 四人やったん?」
「三人でしたね」
「でもすごいよ! 一人ででしょ? 皆さん、私は今確信しました。このチームは勝つ!」
「マジで優勝あるよ」
「向かってくる奴全員潰しましょう!」
「うおー、やるぞー!」
「マジでやる気出てきた! よーし、失った物資集めるぞー」
盛り上がりに若干プレッシャーを感じながら聞く。
「じゃあ装備も揃ったんで駐車場行ってみます?」
「お、行くかー」
「俺初めてだ、レイド」
「初レイド?」
「そう。ちょっと緊張するー」
話しながらレイド用の装備を整える。装備が整うと、四人は廃駐車場に向かった。
このマップには、NPCレイドが計十カ所ある。
楕円形の島の中、ざっくり分けて北西エリアには廃品置き場と造船所、北西エリアと北東エリアにまたがる部分には廃工場、北東エリアには廃駐車場と軍基地、南西エリアには空港と電波塔、南東エリアにはロケット発射場、そして、海を渡って北には観測基地が、南には石油プラットフォームがある。
この中で難易度が一番高いのが観測基地、次いで軍基地、石油プラットフォーム、空港、ロケット発射場、駐車場、造船所、電波塔、廃工場、廃品置き場という感じになっている。
その中で、駐車場はNPC自体はさほど強くないが、車がドロップするため競争率が高く、主に敵プレイヤーとの接触が危険な場所だった。
向かってみると、やはり他チームが攻略途中だったので、隠れて様子を窺う。
駐車場は広いが見通しが良いため、付近にパパッと仮拠点を建てて狙撃すれば、比較的簡単に敵チームを落とせる。
だから、チームの場合、一人見張りを立てておくのがここの定石なのだが、見張りはいないようだった。
錆びた車やトラックがごちゃごちゃと並ぶ駐車場の奥の方で動く四人組の姿が見える。
遠いので名前まではわからないが、男女のグループのようだった。
望遠鏡で観察していると、横の草むらにいた朝倉が言った。
「襲っちゃおうぜ。どこのチームか知らんがだいぶ楽しそうじゃねえか。こっちは男四人で暮らしてんのに! ズルいじゃねえか」
「確かに浮かれてんなー。戦場だぞここは」
ユータが返す。するとメドゥも言った。
「確かに俺ら山賊だしなあ。仕事すっか。でも即抜きはちょっとアレだから宣戦布告しよう」
「そうっすね。そんなときのために! かくせいき〜」
ユータがドラ◯もん風に言って取り出したのはメガホンだった。
これで遠くの人とも話せるようになる。
ユータは三人と駐車場に入り、ある程度敵チームに近づき、それを構えて話し始めた。
『あー、聞こえますか? こちらクラウンドピエロ改め殺人ピエロでーす。お頭はメドゥだ! えー、山賊を稼業にしてまーす。というわけで物資を頂きに参上しました!』
「ふざけんなー!」
言い返したのは、スクワッド・カルテットチームのきつねたぬ木だった。正体隠匿系ゲームの自コンテンツを持っている男性配信者だ。
名前は知っているが、話したことはなかった。
その横にいた友人のなな福人も叫ぶ。
「そうだ、卑怯だぞー! ちょうど今レイド終わったとこなのに!」
「へっへっへっ、物資全部よこしなー。かかれ!」
メドゥの掛け声で四人は一斉に発砲した。そして、スクワッド・カルテットを全員ダウンさせると、近付いていってメドゥが言った。
「遺言くらい聞いてやるよ」
すると四人は口々に言う。
「クソーっ、ふざけんな! 覚えてろよー」
「拠点落としにいくからな!」
「そうだそうだ!」
「次会ったら殺してやるー」
それを聞いてユータが言う。
「やれるもんならやってみなー。ちなみに俺らはF10に住んでいる! 殺人ピエロの館でお礼参り歓迎してやるぜ〜」
「マジで行ってやるからな!」
「了解。じゃあね」
そう言ってユータはきつねたぬ木の頭を撃ち抜いた。それに続いてメドゥと朝倉も発砲したので、ちぐさも目の前のぬるなつを撃ち殺す。
彼女もスクワッド・カルテットの一員だった。
全員倒した四人は敵の物資を奪い、その場を後にした。運良く車も出ていたのでそれに乗って帰ることにする。
帰る道中は、皆戦利品を手に入れて上機嫌だった。
「いやー、やりましたねお頭! 追い剥ぎ大成功」
「マジで物資うまー」
「マジうまい。SMGもショットガンもあるし、弾もたんまり。スコープもあるし、タダでこんなの手に入るなんてなぁ〜」
ちぐさは内心、ヘイトを買いまくったのでタダではない、と思ったが、盛り上がっている三人に水を差したくなかったので黙っていた。
車を運転しながらユータが言う。
「この調子だと俺らNPCレイドの必要ない?! つうかファームすらいらんかも。ファームしてる奴襲おうぜ」
「それ名案。なるほど、このゲームのやり方わかったわ。人から取ればいいんだ」
「いやそれ……正しいけど大悪党やん」
メドゥの言葉に思わず言う。
「何か討伐隊できそうっすね」
「ああ、確かに! 今頃指名手配ちゃう?」
「ついに賞金首かあ。まっ、ちぐさいるから大丈夫っしょ」
そう言ってくるユータに言い返す。
「いやいや何を根拠に?」
「全員殲滅してくれるだろ?」
「いやさすがに二十人とか来られたら無理だよ。十人ぐらいなら何とかなると思うけど」
「十人はいけんのか。すげえ」
「基本攻めの方が大変だからね。オンラインレイドで拠点落とそうと思ったら守りの三倍は人数いる」
「へえ。じゃあ十人までならヘイト買って大丈夫ってことか」
「まあ単純計算はね。あと同盟禁止だから、襲ってくる時間もバラバラかもしれないし。けど基本は他が襲撃してるの見て自分達も来るか」
このサーバーではチーム同士手を組むことが禁止されている。だから示し合わせて来ることはないだろう。
「まあ基本はそうやろなあ。ま、悪役は必要やから! 俺らがそれになってやろう」
メドゥの言葉に朝倉も同意する。
「そっすねー。で全員倒して悪の帝国にしましょうここを」
「ハハッ、悪の帝国て」
「ピエロの国にしましょう」
「いいなそれ。ピエロ共和国で」
「外出時はピエロのお面被らなきゃない国だな」
そうやって冗談を言い合いながら四人は拠点に戻ったのだった。




