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夜が明けると、ちぐさは一人で廃工場に向かった。
四人で結局、駐車場レイドは銃を手に入れてからの方が良い、という結論に至ったからだ。
廃駐車場は車が入手できるため、かなり競争率の高いレイドであり、装備を整えていかないと痛い目を見るからだ。
このゲームは弓も結構強いので、経験者ならば行けなくはない。
しかし、初心者二人を連れていくのはリスクが大きすぎた。
ちぐさは悩んだ末にそれをチームメンバーに伝え、先に廃工場に向かうことにした。
ここのレイドは比較的難易度が低く、弱めだが銃もドロップするので序盤に行くには最適だ。
そこに最初は四人で行くという話だったが、ユータは知り合いの配信者に釣りに誘われ、メドゥと朝倉は食事休憩のため一旦落ちることになったので、一人で行くことにした。
廃工場は一人でも充分な装備があれば攻略できる。
この際、敵プレイヤーに接敵しないことが重要だ。
他のレイドのように攻略後に物資箱のタイマーが作動し、切れるまで中身を取れない、ということもないので、敵と接触するリスクはかなり低いが、それでも警戒するにこしたことはない。
ちぐさは回復アイテムを多めにクラフトすると、拠点を出た。
そうして工場へ向かう。
この工場ではサブマシンガンやハンドガンの他、採掘機も入手できる。
採掘機はつるはしよりはるかに効率的に鉱石採取ができる道具で、入手が早ければ早いほどいいものだ。
また、通貨がわりのアーティファクトも集められるので、行っておくにこしたことはなかった。
ちぐさはそれぞれ目的地に向かうチームメンバーに別れを告げ、ディスコをミュートにしてリスナーに話し始める。
「よし、じゃあ夜も明けてきたんで、工場いきますね。うん、一人で大丈夫だよ〜。他チームの人来たらささっと逃げる。
あとついでに街の方も見て来ようかな〜。工場三周位したらお金も貯まるから、そしたら店の土地と種と堆肥買おうかな。八百屋さんやる予定です。
お店は中央のPvEゾーンに建てるんだけど、今どうなってるかなあ? できるだけ中心がいいよね」
話しながら廃工場に向かう。
廃工場は中央寄りの北にあり、廃駐車場より近い。
そこに向かって林の中を、素材や食べ物を拾いながら向かっていった。
開けたところにある工場には、錆びた重機が大量に放置され、その間をNPCロボットが巡回していた。
その手前に人影を見つけて足を止める。
「こんにちは〜、クラウンドピエロ改め殺人ピエロのちぐさです」
物陰に隠れて声をかけると、その人物は振り返った。
プレイヤーのえるっ子いう女性配信者だった。
人気女性VTuberでチャンネル登録者数はちぐさとは比べ物にならないが、FPS界隈でたまに顔を合わせる顔見知りだ。
皆に恐れられているセンダツにも言いたいことを言う猛者で、その可愛らしいガワとは対照的に肝が据わった配信者だった。
えるっ子は、みんなちょっと来てー、とチームメンバーを呼んでこちらにやってきた。
とはいえ武器は構えて臨戦体勢である。
「ちぐささんじゃないですかー。どーも、『ぱいなっぷるすむーじー』のリーダー、えるっ子です。で、こっちの猫耳の子がにゃー助、黒髪ロングがあかりん、つるはし背負ってる青い髪の子がメロっぴです」
「はじめまして〜あかりんです」
「はじめまして、メロっぴです」
「あー、ちぐさ君久しぶり〜」
最後にそう言ったのはにゃー助だった。彼女とも顔見知りである。
この間も今ハマってやっている戦略FPS『アンダーザブリッジ』の野良マッチを一緒にやったばかりだった。
その時はセンダツとえるっ子ともう一人、あーるぴー男という知り合いの配信者もいたが、パーティ全体のレベルが高く、それについていくのでいっぱいいっぱいのにゃー助にセンダツがダメ出しをしまくった結果プチ炎上するという、喜ばしくない結果で終わった。
最後の方は半泣きだったから大丈夫だったかと心配していたが、立ち直ったようだ。
フレンドリーな雰囲気だったので大丈夫かと遮蔽から体を出して近づく。
「あ、どうもー」
「ねえねえ聞いてよー、ちぐさ君のチームのユータ君と朔夜君に物資取られたー!」
「えっ、マジすか?」
「ちょっとだけ見せてって言われて、渡したら……うわーん」
「ああ、申し訳ない」
するとえるっ子が言う。
「ていうか殺人ピエロってなに? もしかしてうちら今から襲われる?」
「いや今じゃなくて工場レイド終わったあとかな」
「はあー!? 何それ」
「冗談だよ。さすがに四人相手に喧嘩は売ら……いてっ!」
その瞬間にえるっ子に撃たれ、体力を三割ほど削られる。
「オラー、にゃー助の仇だ! 皆〜、やれー!」
「物資置いてけぇ〜!」
四人は口々に叫びながら発砲した。銃がなかったらしいメロっぴだけはつるはしで殴っていたが。
さすがに遮蔽物なしで四人に囲まれては即ダウンである。ちぐさは膝と手を地面について戦えなくなった。この状態になると、味方に起こしてもらう以外ない。しかし今、味方はいなかった。
その状態のちぐさを見下ろしながら、メロっぴかあかりんが言う。
「ユータさんと朝倉さん、めっちゃ暴れてません? 他にも襲われた人いるみたいですよ」
「あー、そうなんすね」
「山賊で食ってるって言ってましたよ! 本当なんですか?!」
「まあそういう話もしたような……」
「じゃあ連帯責任ですよね? 殺しまーす」
「殺しまーす」
「遺言は?」
そう言って全員が武器を構えてくる。
ちぐさはちょっと考えてから言った。
「今僕を殺したら宣戦布告と受け取りますよ。いいんですね?」
「せ、宣戦布告? それはちょっと……」
「ちぐさ君だもんなあ」
「ヤバいかも。一回は見逃しとく?」
明らかに怯んだ様子のあかりん、にゃー助、メロっぴにえるっ子が喝を入れる。
「皆ビビるなー。宣戦布告? 上等じゃないのよ。受けて立つわ!」
「めっちゃ自信あるじゃん。後悔しても知らないからなー」
「後悔するのはどちらでしょうねえ? 潰すー」
「かかってこい」
そう言った瞬間、頭を撃ち抜かれて視界が暗転した。そして死亡通知が出てリスポーン地選択画面になる。
ちぐさは、えるっ子やっぱ面白いな、と思いながら仮拠点を選択した。
拠点には誰もいないようだ。ちぐさは丸裸の状態からある程度装備を整えて、周囲でファームを始めながら言った。
「工場にはぱいなっぷるさんがいなくなった頃に行きますね。それにしても敵増やしちゃったなあ。あの場だけでもヘコヘコしてりゃよかったかな。けどなんてったって殺人ピエロチームだからなぁ。あの対応でよかった気もするけど。ヤバい、日を増すごとに敵が増える!」
そんな話をしながら資源を収集していると、やがてユータが帰ってきた。海で釣りをしてきたらしい。
「はあー、大量大量♪ これなら俺、漁師としてもやってけるかもしんねえ。あ、ちぐさただいまー。見て見て、めっちゃ魚釣った」
「おかえりー。大量だね」
「ボックスに入れとくなー」
「あ、焼いてから入れて。じゃないと腐る」
「腐るの? マジリアルすぎだろこの世界」
「だからいいんだよ。あ、そういえばにゃー助さん襲った? 『ぱいなっぷるすむーじー』の」
拠点の外に出て焚き火を起こすユータに聞くと、相手は言った。
「あんま覚えてないけど多分襲った。何で? ダメだった? 彼女?」
「いやちげーよ。いやダメじゃないけど、仕返しで蜂の巣になった」
するとユータは爆笑した。
「えぇーっ、マジ? 見たかったなぁ、それ。ボコされたの?」
「四対一で無理だろ。せっかく作ったショットガン取られた」
「ははっ、ご愁傷様」
「で、宣戦布告されたからあそことは敵対です」
「オッケー。見かけた瞬間撃つわ」
ユータはそう言って魚をバリバリ食べた。
「今暇?」
「暇っちゃ暇だけど何で?」
「一人で行くの危なそうだから工場レイド付き合ってもらえない?」
「オッケー。けど俺ハンドガンしかないけど。しかも弾五発」
「まだ弾作れないから弓で行くか」
「え、弓でいけんの?」
そう聞かれ、頷く。
「強化弓ならいける。持ってる?」
「いやー……ないな」
「オッケー作るわ。……はいこれ」
「おーありがと。じゃあ行くか」
「行こう。ぱいなっぷるさん周回してなきゃいいけどなあ」
「してそう」
話しながら今度は二人で廃工場に向かう。予想に反し、そこには誰もいなかった。
「ふーっ、セーフ。いないっぽいな」
「な。つうかここ本当に弓でいけんの? 敵めっちゃいるんだけど」
「一体ずつ釣れば平気。他の奴のタゲ引かないようにねー」
「了解」
ちぐさは弓を引き絞り、一番手前にいるNPCの頭を矢で射った。すると、敵は振り返って銃を連射してくる。
あちこちにある棚や機械などの遮蔽を利用しながらユータと一緒にそれを倒す。それを繰り返して二人は工場の奥の方まで進んでいった。
最奥に到達すると、今までのNPCより強めの敵が出てくる。全身黒のサイボーグだ。
敵同士の距離が近いので少し離れた隙を狙って一体釣り、弓矢を次々に頭に撃ち込む。
バシュッ、バシュッという軽快なヘッショ音と共に敵の体力が削れていき、やがて地面に崩れ落ちた。
銃で撃たれて減った体力を包帯で回復し、次の一体を釣り、またこちらにおびき寄せて棚や木箱の陰に隠れながら撃つ。
それを繰り返して最奥の敵を全て倒すと、建物内の机から入手しておいた暗証番号を使い、奥の大きな金庫を開けた。そこには鉱石の採掘機があった。
これがあるとつるはしの三倍くらいの速さで鉱石や石材がとれる。初期に必須の道具だった。
「よーし、一台ゲット」
「いいね。何周かして皆の分も取ろうか」
ちぐさが提案すると、ユータは頷いた。
「いーよ。じゃあ一回戻る?」
「だな。その前にこの辺にリス地作っとくか」
ちぐさはそう言って廃工場から出たところの草むらに寝袋と隠し箱を置いた。
こうすることで、工場で死んだとしてもここで復活でき、最短で戦いにいける。
「お、俺もそうしよ」
ユータはそう言って近くに寝袋を置いた。
それから取れた物資を持って一旦拠点に帰り、また工場に向かう。
『嵐を呼ぶ男』チームに遭遇したのは、これを三回ほど繰り返したときだった。




