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ウィルダネスは、資源が多ければ多いほど有利なゲームである。
それは、資源があれば拠点を強化し、アルティメットガンを守れるからだ。
レイドの際に一番モノをいうのがこれだった。
集めるには、地道に伐採や採掘をするか、造船所等のNPCレイドで手に入れるか、敵から強奪するかの三択になる。
正直、一番効率が良いのは強奪だが、拠点レイド解禁まではそういうことはしない方がいいだろう。
あまり暴れすぎると、被害者側のリスナーが気分を害するかもしれないからだ。
ウィルダネスというのは厳しい自然界同様、弱肉強食・優勝劣敗のゲームだが、見慣れていないと戸惑うことも多い。
それで企画が荒れるのは嫌なので、そのあたりは慎重にいくことに決めていた。
ただし、空気を読まない、が信条のセンダツなどは一切気にせず暴れ散らかしそうだが。
そうなったらどうすべきかなあ、とか考えながら伐採を続けていると、ユータと朝倉がようやく来た。
ユータは走ってきて言った。
「はあ、はあ、はあ、ここかー。めっちゃ山の中だな」
「どう? いかにもって感じしない?」
「するする! ここにガチっぽい拠点建ててくれよ。そしたら絶対騙せる」
「オッケー」
「仕返しも無事終わったしファームするわ。何採ればいい?」
「とりあえずその辺の木と石と鉄かなー。ていうか仕返しって何したの?」
そう聞くと、ユータが誇らしげに答えた。
「ぶち殺して身ぐるみ剥いできた。斧も弓もゲット〜。これぞウィルダネスだよな」
「いやー、めっちゃ楽しかった。こんなんならもっと早くやればよかったよー。食わず嫌いしてた」
朝倉もウキウキと言う。この二人はウィルダネスに向いていそうだった。
「いやホントなー。さっくん、俺いいこと思いついた。山賊になろうぜ。追い剥ぎしまくってさ」
「おぉ、いーねー。そういや企画前半はロールプレイ期間とか言ってたしな。じゃあ俺らのチームは追い剥ぎかな? めっちゃ儲かりそう。お頭、どう?」
「面白そうやんけ。賞金首になったろ!」
メドゥは意外にもノリノリだった。
「よーし、ということで俺らは今日から山賊だぁー! 名前何がいいかなぁ? 何か名乗りたいよな」
「フツーに殺人ピエロとかでいいんじゃね?」
朝倉が提案する。
「それいいな。よし、看板書くか。ほ……あっぶね、今本名言いそうになった。ちぐさぁ、木貰っていい?」
「ちょっと気をつけてくれよー。そこの箱」
ちぐさの本名は本条千種で、ユータは学生時代からずっと苗字呼びだった。だから苗字で呼びそうになったのだろう。
これがバレると身バレしそうなので気を付けて欲しかった。ユータの方も本名なので、うっかり苗字で呼ばないように気をつけている。
ちなみにユータの本名は葛城悠太である。
「おー、ごめんごめん。ありがと。よーし、背景何色がいいかな? やっぱ赤か」
そう話しながらユータは拠点の看板を完成さけた。窓ほども大きい手描きの看板で、各配信者が自分の家だとわかるように拠点に掲げるものだ。
クラウンドピエロチームの看板は、真っ赤な背景に白で縁取りした『殺人ピエロの館』という黒文字とピエロのイラストが描かれたものになった。
かかってこいといわんばかりである。
それを飾って満足したユータは、その後一時間ほど拠点周りで資材集めをした後、仕事仕事〜と言って再び出かけていった。
仕事というのは追い剥ぎのことだろう。
ちぐさは一旦ファームをやめて焚き火を起こし、肉を焼きながら考えた。
ユータと朝倉は、ゲームを面白くする術がわかっている。
色んな人にちょっかいをかけにいくのも、それがのちの戦いの伏線になるからだ。
このエンタメを盛り上げる才能は自分にはないものだから羨ましい。
自分も見習わなくちゃなあ、と思いながら肉を食べていると、メドゥが笑い混じりに言った。
「これは八日目に襲われるなー」
「ははっ、そうっすね」
「そう考えるとやっぱデコイ作戦で良かったやんね」
「確かに。あ、そういえばメドゥさんて関西の方っすか?」
メドゥは言葉尻がたまに関西弁になる。それが気になり聞いてみると、相手は頷いた。
「うん、兵庫。ちぐささんは?」
「自分関東っす」
「都会っ子やー」
「いや全然田舎の方っすよ」
関東は関東でも都心までだいぶかかる田舎の方に住んでいる。普通の地方都市という感じだ。
「あ、そうなんや。ごめん偏見だった」
「関東もめっちゃ広いんで。普通に東京怖いっすよー」
「怖いよなー。俺も大学東京やったんやけど、ビビり散らかしてたわ。乗り換えわからへん! 八重洲口どこーって」
「はは、そうなんすね」
そんなふうに地元トークをしながら再びファームに戻る。しばらくすると、知り合いに会ったらしいメドゥがディスコをミュートにしたので、ちぐさもそうした。
そして久しぶりにリスナーと会話する。
「あ、今ミュートしました。いやー、やっぱ無敗神類の人たちは違うなあ〜。盛り上げ方をわかってるっていうか。
ユータ君もすごいっすよね、あんなに色んな人に絡んでいけて。俺、コミュ障なんだよな〜。今もメドゥさんと二人きりでめちゃくちゃ緊張してたし。もうユータ君行かないでくれよ〜。コミュ強の君が必要なんだよー。
そう、めっちゃ人見知りします。見えないかもしれんけど、それっぽく振る舞ってるだけなんすよー。皆さんもそういう部分ないですか? めっちゃ社交的にするけど心のガードがっちり、みたいな。あぁ、やっぱありますよねー。そうそう、社会人に必須のスキル。
えーっと、『ユータ君には心開いてる?』
ノーガードです。めちゃくちゃ開いてます。めっちゃいい奴なんですよー、本当に。何か本当に皆仲良くしようっていうタイプの王様?みたいな? スクールカースト底辺の僕にも声かけてくれるんだからそりゃあいい奴ですよ。ユータ君いなかったら高校は黒歴史だっただろうなあ。いやまあまあ黒歴史だったんですけどね? でも更に真っ黒の暗黒黒歴史にならなかったのは彼のおかげですよ。運動も勉強もできなくて、部活サボってゲームばっかやってるオタクの扱いの悲惨さといったらもう……。俺はオタクの人権宣言をしたい! いやする!」
雑談しながら、資材を集めて仮拠点を作っていく。
拠点は広めの六角形の部屋で、ドアが南北二ヶ所にある。
ちぐさはそこに収納箱をいくつかとワークベンチを置き、資材とアルティメットガンを入れ、屋根を閉じた。
そうして、ナイフを作り、それで動物の皮を加工して防具を作る。
略奪に成功するか未知数のユータと朝倉の分も作った。
そうして拠点で色々やっていると、メドゥが戻ってきて資材を置き、また出て行く。
ちぐさは二言三言言葉を交わしてから、再び拠点を出て採掘に向かった。
そして、リスナーと話しながら作業しているうちに、日が暮れてゆく。
このゲームでは、時間経過で夜になる。
夜間は野生動物が強くなるので、初期のうちに出歩いていると簡単に死ぬが、帰りが間に合わなかったらしいユータと朝倉は襲われて死に、拠点の寝袋にリスポーンした。
「何だよあの熊! 強すぎじゃん」
「だから言っただろー夜は敵強くなるって」
ユータが言うと、朝倉が首を傾げる。
「いや言ったっけ?」
「言ってないかも」
「言ってない! もー、マジふざけんなよ、何だよアイツ強すぎ。物資全ロスしたわ」
「ちぐさ、アイツって倒せねーんだっけ? いい素材ドロップしそうだけど」
ユータに聞かれ、答える。
「うーん、初期は無理かな。銃とか拾えばワンチャンあるけど」
「槍はどうっすか?」
メドゥの問いにちぐさがまた答える。
「接近すると死ぬんすよね。よっぽど強化した防具じゃないと」
「なるほどー」
「とりあえず、熊がヤベエのはわかった。じゃあ夜は移動できないってこと?」
「馬とか車とか乗り物あればできますよ」
そう返すと、朝倉が聞いた。
「おー、そうなんだ。どこで手に入るんすか?」
「馬は普通に湧きますね。道端とかに。車は駐車場でレイドっす」
マップ中央寄りの東には廃駐車場があり、NPCレイドで車が手に入るようになっている。
車は四人乗れる上、寝袋を置いてリスポーン地点にできるので人気だった。
「駐車場ってIの14っすか? まあまあ近いじゃん」
「車欲しいよなー」
「じゃあ装備強化したら行きます?」
ちぐさが聞くと、朝倉が言った。
「行きたいっす。何必要っすかね?」
「最低でも鉄の弓矢と革装備は必要っすね。多分両方その辺の箱にあります」
「あっ、これか。でもこれちぐささんが集めたやつですよね? 使っちゃっていいんすか?」
「いいっすよ。あ、ちなみに僕だけじゃなくてメドゥさんも集めてくれてるんで」
そう言うとメドゥが口を開く。
「そうやでー。感謝して使いな」
「お頭ありがとー!」
「ありがとー」
「ええんよええんよ。気兼ねなく使い。戦いになったらそれで俺を守ってくれ」
「わかった絶対守るよ!」
「お頭は俺たちが守る!」
「まあちぐささんさえいれば大丈夫そうな気もするけど」
「何だよそれー。俺たちじゃ頼りないってのか?」
「何か俺のこと置いて逃げそうやし」
そう言って笑い合う三人はいかにも楽しそうだ。いいなあ、と思いながら眺めていると、ユータが不意に話しかけてきた。
「ちぐさ、お前も否定しろよ!」
「いやあ、でも事実じゃない?」
ちぐさが言うと、ユータはちぐさを殴った。
同じチームなのでダメージは入らないが、どかどかと殴打音がする。
「ちょっとうまいからって調子乗るなよー。俺知ってんだからな、お前の高三の時の成績」
「すみません調子乗りました」
慌ててそう言うと、ユータが高笑いした。
「よろしい」
「えっ、ちぐささんってそんなヤバいの?」
意外そうに言った朝倉に、ユータが答える。
「いや、そこは濁しておこうか」
「もう言ったも同然じゃねえか。まあ正直、下から数えた方が早いっすね」
すると朝倉が言う。
「へー、イメージなかった。頭良さそうなのに」
「ちぐさはエイムにステ全振りしてっから。いや正確には顔とエイムだな」
「えっ、ちぐささんってイケメンなん?」
メドゥの問いにユータが答える。
「認めたくはないがイケメン。キラキラ王子様系」
「へー、そうなんや。じゃあモテてた?」
「モテてましたよー。週一くらいで告白されてなかった?」
ユータが適当言うので、ちぐさはユータを殴り返した。
「適当なこと言うなよー。俺スクールカースト底辺だっただろ?」
「いや全然? むしろみんなに尊敬されてたじゃん、ゲームバリ強って」
「ユータ君はそう言ってくれるけどさあ……」
「でも告白はされてたじゃん。週一は大袈裟だけど」
「うーん、されてなくはないけど……」
「な? モテてたよ」
ユータは性格が良いからいいふうに解釈しているが、実際には大半のクラスメイトにオタクだと思われていたし、告白だって面白半分とか罰ゲームでやってるみたいなのも多かった。
「そんなこと言ったらお前だって……あっごめん、ユータ君だってモテてたじゃん。でも一途で彼女めっちゃ大事にして……マジで理想の男だよなあ」
「結婚する?」
「ゲーム内ならいいよ」
「ははっ、いいんかい」
ユータの冗談で話は逸れていった。
その後四人は夜明けまで、クラフトしながら他愛ない話をして拠点で過ごしたのだった。




