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サバイブ・ウィルダネス  作者: 夏木火奈
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2

 企画が始まる日は気もそぞろで仕事を終わらせた。

 慣れ親しんだコンビニの業務なので、半分脳死状態でも体が勝手にやってくれる。

 ゲームのことだけを考えながら掃除をし、品出しをし、陳列を直し、レジ業務をした。

 そして二駅分の距離を自転車を漕いで帰宅すると、企画開始時間の十八時ぎりぎりだった。

 急いで帰りにスーパーで買ってきた惣菜と炊いておいたご飯を食べ、ダイニングテーブルの上のゲーム用ノートPCを立ち上げ、ヘッドセットを着ける。壁掛け時計を見ると、十七時五十三分だった。

 間に合ってよかった、と吐息をついてOBSを起動し、ウィルダネスにログインする。

 そして配信を付けると、ポツポツと馴染みのリスナーが来始め、コメントが入り出したので、配信を始めた。


「皆さんこんばんは。いやー、間に合った。今先仕事終わってギリでした。皆さんもお仕事終わりました? あ、残業中? お疲れ様です〜。夕食準備中の方もお疲れ様です〜。ラジオ代わりに聞いてくださいね。

 さて、今回の企画はですね、『ウィルダネス』というゲームのコラボ企画です。知らない方もいると思うので説明すると、簡単に言うと物資集めて拠点作って襲撃し合うサバイバルゲームです。自分も二年前位までめちゃめちゃハマってやってたんですけど。そう、最近また流行ってきたみたいで。企画聞いたときはめっちゃ参加したかったんですけど、でも無理だろうなーって。

 でもユータ君が誘ってくれたんですよ! ユータ君って聞いて知らない方多分いないと思うんですけど、そう、あのユータ君ですよ、超人気配信者の! こんなことってあるんですねえ。本当に感謝というか。

 だから絶対優勝したいなと思ってガッツリエイム調整もしてきました。最近やってるFPSよりだいぶ偏差少ないんで。

 もう絶対優勝しますよ。手加減ナシで。忖度なしでいいらしいんで。一応その辺聞いたんですよ、実際このゲームって経験者がめちゃめちゃ強いんで。

 そしたら、各チームひと枠が経験者枠らしいんですね。だから、拠点レイドはガチでやっていいそうです。ただまあ、前半の拠点レイド禁止期間は積極的にはPKはしないというか、略奪はあんましないでおこうかなーとは思ってますけども。

 そう、漁夫らない。前にあげた動画見てくれた方ならわかると思うけど、野良サーバーだとNPCレイドした人襲って物資略奪っていう漁夫プレイが結構普通なんだけど、配信者のサーバーで拠点レイド禁止期間にそれやっていいかは微妙なんで。まあ様子見ながらやっていこうかなあと」


 ちぐさは話しながらあらかじめ作っておいたキャラクターを視聴者に見せた。

 普段使っている立ち絵の男エルフに寄せてあるが、髪色は銀髪ではなく初期値の茶髪にした。

 ほぼ白といってもいい銀髪、しかも長髪だとあまりにも狙撃されやすくなるからだ。

 それを説明しながらマップ中央辺りの平原に造られた集合場所へ向かう。


「いやあ、どうなりますかね。めちゃめちゃ楽しみです。企画の前半のロールプレイは八百屋でもやろうかと思ってます。平和主義アピールとして。違うけど」


 開始地点では布の服だけを身に纏った大勢の配信者達が行ったり来たりしている。

 皆自分のキャラクターに寄せた容姿にしているが、さすがに明るい髪色や目立つ肌の色の人は三、四人しかいなかった。

 全員が喋っていて騒がしいので、とりあえずゲーム内VCをオフにする。

 そうして軽くルール説明をしていると、ユータがやってきたので、VCをオンにした。


「よお、ちぐさ」

「お、ユータ君だ」


 大勢の声に混ざってユータの声が聞こえてくる。


「めっちゃ人いるな」

「うん。知り合いいる?」

「うん、結構いる」

「へえ、いいなあ」


 参加者の中にちぐさの知り合いは少なかった。

 だが、顔の広いユータには沢山いるようだ。


「お前もいるだろ、センダツさんとか。一緒にやってたじゃん」

「まあちょっとはなー」


 センダツはFPS界隈で活動している男性配信者だ。

 歳は一歳下で、一切女性リスナーに媚びないイカつい山賊みたいなキャラを使っている。

 そして気が強く、口が悪く、下ネタも言うので、まさかの男性リスナーが八割という珍しい配信者だった。

 そのセンダツとは、ウィルダネスの野良サーバーで組んだことがあった。

 ちぐさがソロで優勝したときの動画を見たセンダツから声をかけられたのが始まりだ。

 二人チーム用サーバーや、知り合いを誘って四人用サーバーで何度もチームを組んだ。

 うち何回かはサーバー一位をとったが、あのときの経験はいまだ忘れられない。

 あのひりつくようなスリルとソロでは味わえない連帯感は、本当に快感だった。

 それが終わってからも付き合いは続き、ちょくちょく別のサバゲーやFPSで遊んでいる。

 多少口は悪いがゲームへの理解は深いし、何より戦いやすいので、その辺は目をつぶっていた。

 だが、センダツが今回の企画に参加するとは意外だった。

 柄が悪くて今回のような大人数でのコラボには向かなそうだったからだ。

 しかし、ちぐさと同じように経験者枠で引き入れられたようだった。この暴れ馬をうまく乗りこなせる自信のある人が入れたのだろう。

 センダツが入ったのは、紅嵐というホラーゲーム実況者のチームだ。

 紅嵐はかなり大手の男性配信者で、真っ赤な目とコートが特徴的だ。

 好きでたまに動画を見るが、リアクションが面白くて一生見てしまう動画を多数投稿していた。

 時間がないのであまり見れないが、配信も面白い。無駄にいい声を裏返らせて絶叫するのが見どころだった。

 その紅嵐か、紅嵐のチームメイトがセンダツを選んだらしい。全く繋がりがなさそうなのに、知り合いだったとは意外だった。


「でもユータ君顔広いよなー。全員知り合いじゃない?」

「お前そのキモい君付けいつまでやんの? そーゆー感じじゃなくない? 俺ら」

「そうかなあ」

「そしたら俺もそう呼ばなきゃなくなるよね?」

「いや、今まで通りでいーよ」


 実は前にコラボした時に呼び捨てにしたらユータのリスナーから苦情DMがきたからなのだが、それは言わずにおく。

 ユータとは高校時代からの付き合いなので今更改まった呼び方というのも正直違和感があるが、気にする人がいるのであれば丁寧な呼び方の方がいいだろう。


「何か距離感じるなあ」

「そういや聞いときたかったんだけど、拠点レイド解禁までの期間って漁夫やらないよな?」

「漁夫ってなに?」

「漁夫プレイのこと。例えば他のチームがNPCレイド攻略したとするじゃん? その直後に襲ってその物資横取りすること。野良だと結構普通なんだけどさ、配信だと微妙かなって」


 マップ内には、造船所や空港、観測基地といった攻略場所があり、そこはNPCレイドだが、レイド終了直後にプレイヤーを襲って物資を強奪する漁夫プレイが、野良サーバーでは一般的だった。

 だが、このサーバーでそれをやっていいのかは微妙だと思っていた。


「あー、そうだな。拠点レイド解禁までは我慢しとくか。解禁後は無法地帯になるからいいと思うよ」

「オッケー」

「俺今回、基本お前におんぶに抱っこで行くから」

「ははっ、ユータ君だって普通にうまいじゃん。必要ある?」

「いやだって野良で天下とった男だよ? 比較にならんて。ちぐさマジでゲームうまいよなー。あ、知らないリスナーの為に補足しておくと、この男、ウィルダネスの野良サーバーで六回優勝してますから。そしてアンプリのランクがマスター! エメラルド、シルバー、サファイア、エボニー、プラチナ、ゴールドの上のマスターですよ? 上から三番目! もうとんでもないエグエイムしてるわけですよ。ほぼプロ」


 アンブリというのは『アンダー・ザ・ブリッジ』という戦略FPSゲームのことで、半年ぐらい前からハマってやっているゲームだ。

 センダツなどのFPS界隈の知り合いとは結構やっているが、ユータとはやったことがない。

 だが、ユータが下手という印象はなかった。


「それはプロに失礼だから。つうかユータ君もアンブリやってたんだ」

「うん。正直めっちゃハマってる。FPSあんまやらんのだけど」

「面白いよなー」


 今度一緒にやろうぜ、と言いかけてやめる。

 ユータにはユータの活動があるし、数字を持っていない配信者のちぐさとコラボしても向こうには何の旨みもない。

 そういうことを考えると、気軽に誘える相手ではなかった。

 数字とかを気にせず遊べた学生時代は良かったなあと思わなくはないが、仕事でやっている以上仕方ないだろう。

 自分がもっと数字を持てていたら良かった話だ。

 そう思い、いつものように言いたいことを我慢していると、それを察したかのようにユータが言った。


「今度一緒にやろうぜ」

「おー、いいね」

「やっぱヒーラーやってんの?」

「言われてみればそうかも」


 アンブリには単純なFPSと違って役職があり、陣地を取り合う中でチーム内の役割分担がある。

 その中で、確かにちぐさはヒーラーをやりがちだった。

 そして、ユータがそれを言ったのは、高校時代に一緒にやっていたMMORPGでもよくヒーラーをやっていたからだ。

 当時、ダンジョンでアタッカーなのに敵に突っていくユータを、高確率で野良のヒーラーが回復してくれなくなるという現象が起きていた。

 それに困ったユータにヒーラーをやってくれと懇願されて始めたのがきっかけだ。

 当時ユータは怪我でサッカーの試合に出られずにいたからなんとなく頼みを断るのも気が引けて引き受けたのだった。

 正直怪我がなければ断っていたと思う。


「マジでちぐさの差し込みヒール神だからなぁ」

「ユータ君に鍛えられたからな」

「ははっ、もしかしてちぐさがゲーム上手いのって俺のおかげ?」

「かもね」


 とはいえ、嫌々やっていたわけではない。

 ちぐさ自身それまではソロゲームばかりでMMOゲームに本格的に触れたのはこのときが初めてだったから、アタッカーが前に出ちゃいけないとか、敵のヘイト取っちゃいけないとかもよくわかっていなかった。

 だから、野良は不親切な人が多いなあ、くらいに思ってヒーラーをやっていたのだった。

 色々と昔のことを思い出していると、不意に拡声器で大きくなった主催のゴクミの声が聞こえてきた。


「え〜、皆さんこんばんは! 本日はお日柄もよく〜、お集まりいただきありがとうございます。続くかわからないですけども〜、第一回『サバイブ・ウィルダネス』にお集まり頂き、ありがとうございます!

 初めての試みなんで、色々と試行錯誤ではありますがー、楽しんで貰えると嬉しいです。

 では、簡単なルール説明に移らせて頂きます! この企画は、さまざまな配信者が一堂に会し、今人気のサバイバルゲーム『ウィルダネス』で生き残りをかけて戦うというものです。四人一組のチーム戦になります。では各チームのチームリーダーの方は前に出て、簡単なチーム紹介をお願いします!」


 すると、十人前後の配信者が中央に設置されたステージ上に上がり、自己紹介を始めた。

 最初に話し出したのは、人気VTuberグループ『めんふぃす』のリーダー、Nattouだった。

 黒髪碧眼の美青年風のキャラデザは普段使っているアバターに近い。だが、着ているのが初期装備の布服なので、何となく間が抜けて見えた。

 Nattouは落ち着いた声音で話し出した。


「こんにちは。めんふぃすチームのリーダーやらせてもらってますNattouです。このゲームはガチガチの初心者なんですけど、うちにはストサバの覇者君島くんがいるので無敵だと思ってます! 君島くんにおんぶに抱っこで行きたいと思います。よろしくお願いします」


 すると、会場から笑いが起こる。Nattouはそれが途切れる前にササッと壇上から降りた。

 次に登壇したのはFPS勢が多めのアライグマの晩餐チームのリーダー、くまのましろだ。

 配信歴が長めの活動者が多い十人以上のグループだが、ましろはそのなかでもかなり若い方だ。

 FPSがうまく、このゲームもかなりやり込んでいるらしい。

 ウィルダネスでは遊んだことがないが、FPSは何回か一緒にやったことがある仲だった。

 とはいえ、そのときはちぐさ自身が誘われたのではなく、ユータに誘われて行った先にましろがいたという感じで、個人的な付き合いはないのだが。


「こんにちは。アライグマの晩餐チームのくまのましろです。アライグマなのか熊なのかって感じですけど……」


 そこで配信者たちから笑いが起こる。


「それからNattouさんの話によるとー、ウィルダネスストサバの覇者は君島くんってことなんですけどー、ストサバで天下取ったのは自分だと思ってるんで、どっちがその名にふさわしいか戦争だー! かかってこい! 以上」


 ましろの言葉に会場がどよめいた。そして、口々に配信者たちが二人を囃し立てる。

 君島ショウもくまのましろも配信で見たことがあるが、強かった。ウィルダネスのゲーム性も熟知していてガチ勢に入る。

 そんな二人の対決は見ものだろう。

 さすが数字を持っている人たちは魅せ方をわかっているなあ、と感心していると、次に呼ばれたのは自分のチームだった。

 リーダーはメドゥという男性配信者で、ユータともう一人のチームメイトの朝倉朔夜が所属している配信者グループ『無敗神類』のまとめ役的存在でもある。

 今回が初コラボだったが、動画を見た感じごく穏やかそうな人だった。個性が強いメンバーが多いと言われる無敗神類をまとめるにはそのくらいの寛容さが必要なのかもしれない。

 ごく普通の男のキャラデザのメドゥは、壇上に上がるなり言った。


「えー、『クラウンドピエロ』のリーダー、メドゥです。が、今回僕は名ばかりリーダーで実質的なリーダーはユータの友達のちぐさ君になりますー。彼は野良でやり込んでた猛者ですからもう優勝ばもらったも同然ですね。皆残念だったなあ? ということで、よろしくお願いしまーす」


 周りのプレイヤーが一斉にこちらを向き、コイツ誰だ、という感じで見てくる。

 なんとなく居心地の悪さを感じながら、その後のチーム紹介を見る。

 参加チームは全部で十二チームあり、プレイヤー全体の八割近くが男だった。

 だからほとんどのチームはちぐさのチームと同じく全員男だが、中には女子だけのチームや、男女混合チームもある。

 その中で多少なりとも関わりのある女性配信者は、『ぱいなっぷるすむーじー』という女性VTuberのチームのえるっ子とにゃー助だけだった。

 二人はFPS界隈にいるため、たまに顔を合わせることがある。

 彼女たち自身はチャンネル登録者数が二十万人を超える配信者だったが、コラボ相手を数字で選ばないスタイルなのか、ちぐさが参加するような企画にも時折来ることがあった。

 中でもえるっ子はツインテールの紫髪に制服っぽい衣装と、ガワは可愛らしいのに男配信者の中に混じっても臆することなく言いたいことを言う性格だった。だから、チーム戦のFPSでも姫扱いされることはない。

 男性比率が圧倒的に高いFPS、サバゲー界隈ではこういう女性配信者も多い。

 気を遣わなくていいので、個人的にこういうタイプは好ましく思っていた。

 そのえるっ子は、アバターに可能な限り寄せたキャラクターで、可愛い声で全員ぶっ潰す、と宣言したのちステージを降りた。

 それからまた数チームのリーダーが壇上に上がっては降りて、やがてチーム紹介は終わった。

 すると今度は主催がステージに上がり、ルールの説明を始めた。


「皆さんありがとうございました! それではゲームの説明に移らせていただきます。『ウィルダネス』はまあ簡単に言うと、物資集めて拠点造って襲撃し合うサバイバルゲームです。

 各チームひとつずつ与えられるアルティメットガン、UGを破壊されると脱落となります。通常サーバーでは初日から敵の拠点襲撃、つまり拠点レイドが行えますが、今回の企画では開始七日目までは禁止です。ここを間違えないようにして下さい。拠点にダメージが入らない形でちょっかいをかけにいくのはオーケーです。

 また、PvPエリアでのプレイヤー襲撃は可能です。事前にお渡しした資料にもありますが、大雑把に言うとマップ中央がPvEゾーン、その周りがPvPゾーンになります。PvEゾーンでプレイヤー同士の戦闘は禁止です。ここは、出店や交流がメインの場所になります。七日目までは治安が保たれていると思いますので自由にお使い下さい。

 なお、八日目からはこのPvEエリアはPvPエリアとなり、初期セーフゾーン以外は全面PvPエリアとなります。無法地帯になりますので、お店はその前に畳むことをおすすめします。出店に必要な自販機や露店等はセーフゾーンのNPCショップで安めに手に入るようにしてあります。

 拠点襲撃は、八日目の二十時解禁で、以後毎日最終日の十四日目まで二十〜二十四時の間だけ可能です。それ以外の時間は、拠点襲撃は禁止ですが、プレイヤー襲撃はオーケーです。

 二週間後に生き残っていたチームが勝ち。複数いた場合は、各チーム代表者を一人選抜してバトルロイヤルを行い優勝者を決めます。優勝チームには素敵な賞品が贈られますので、頑張って下さい!

 何か質問等ございますでしょうか? なければ、これより『サバイブ・ウィルダネス』開始です!」


 すると、歓声が上がった。


「うおー、やるぞー」

「勝とう!」


 ひとしきり盛り上がっていると、やがてやってきたチームメイトのメドゥと朝倉朔夜が合流した。


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