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サバイブ・ウィルダネス  作者: 夏木火奈
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 MMOサバイバルFPS『ウィルダネス』は、約四年前に日米のゲーム会社が共同開発したゲームだ。

 個人、またはチーム制のサバイバルゲームで、プレイヤーは物資を集めて拠点を築きながら戦う。

 各プレイヤーには、アルティメット・ガン、通称UGという銃が配られ、この拠点に置いて守るが、これが敵チームに破壊された時点で脱落となる。

 そして、これだけなら単純なサバイバルゲームだが、農場を作ったり、店を出したりと生活要素もあるのがこのゲームの魅力で、PvPメインのサーバーから、ロールプレイ重視のPvEサーバー、又は、それらがエリアごとに区分けされた混合サーバーなど、多様な遊び方ができるのだった。


 男性ゲーム実況者のちぐさが今回参加するのは、ゴクミという人気配信者が主催するコラボ企画だった。

 さまざまな界隈のゲーム配信者五十人ほどが一堂に会し、二週間の期間限定で遊ぶというものだ。 

 ちぐさは今年二十五になる。配信者の中では若手の方だが、動画投稿の期間も含めると配信者としてのキャリアは六年ほどと、わりと長い。

 高校を卒業して就職もせず、フリーターになった頃から趣味でゲーム動画を動画サイトに投稿し始めたのが始まりだった。

 それからは紆余曲折あり、今は生活費の約半分がこの配信業で稼げるようになっている。

 昔から親にゲーム脳を心配されるほどゲームが好きで一時期はプロゲーマーになりたいとさえ思っていたほどだから、それで多少なりとも稼げるようになった時は本当に嬉しかった。

 だが欲を言えばもっともっとゲームをしたいし、コンビニの商品陳列をしてお金を貰うより、配信で稼ぎたい。

 そう思っていたちぐさに、この大型企画はまさに渡りに船だった。


『ウィルダネス』は、かつてちぐさがどハマりしてやり込んだゲームである。

 クラフト要素もFPS要素もあるハード目のサバイバルゲームで、単純なバトルロイヤルゲームにはない奥行きがある。

 特に体力ゲージに加え、空腹ゲージ、体温ゲージがあるのが特徴的で、厚着しないで寒冷地帯に行くと凍死することさえある。

 このウィルダネス、すなわち荒野においては、他プレイヤーと同様に自然もまた脅威なのだ。

 このハードコアさに加え、一定期間たつとサーバーがワイプされるシステム、キャラクターが活動できるのが一日六時間以内という活動制限システムにより、働いている社会人でも学生や専業ゲーマーと平等に戦える仕様になっていた。

 それで当時コンビニに週五入っていたちぐさもやる気になったのだった。

 やってみたら、それはとんでもない中毒性のあるゲームだった。

 ほぼ丸腰の状態から物資を集め、武器を作り、防寒具を作り、敵を倒して物資を強奪し、拠点を固めていく。

 アルティメットガンという、取られたら負けの所持品は開始後一定期間は奪われない仕様になっているので即落ちすることもないし、かといってプレイヤー同士の馴れ合いもないから常に殺されるかもしれないというスリルも味わえる。

 それまでもサバイバルゲームはやってきたが、あれほどハマったゲームは後にも先にもなかった。

 同じようにハマった人も多かったのか、四年ほど前にサービスが始まった頃にはサーバーは常に超満員だった。

 今はサーバー数も増え、ログイン戦争もそれほどでもなくなったらしいが、当時はバイトから帰ってまずすることといえばパソコンをつけてウィルダネスを立ち上げることだった。

 それほど人気だったのである。

 サービス開始直後のその人気もある程度時間がたつと落ち着いてきたが、最近また新マップが入ったり大会が開かれたりして盛り上がっているらしい。

 そんなさなかに発表されたのがこのコラボ企画だった。


 主催のゴクミは普段主に別の非FPS系サバイバルゲームを実況配信している中堅配信者である。

 また、ならず者の隠れ家という配信者グループの村長でもあり、各界隈に顔が広い。

 ソロ配信で試しにやってみたこのゲームがあまりに面白くて企画立てをしたとのことだった。

 はじめはここまで大々的にやるつもりはなかったようだが、ちょうどウィルダネスストリーマーサーバーの企画も終わったところだったので参加希望者が続出してこの人数になったらしい。

 ただし、公式サーバーでは一マップ百五十人が基準なので、それに比べれば五十人というのはだいぶ少ない。

 それに合わせて小さめのマップになっているようだった。

 この企画を聞いたときから、とても参加したいと思っていた。

 なぜなら昔よく遊んでいた野良サーバーでは、一般プレイヤーに迷惑がかかるため、生配信ができなかったからだ。

 その頃は個人が特定できない形で編集した動画を出すだけだった。

 しかし、配信者しかいないサーバーならば配信ができる。これは大きな魅力だった。

 だがツテもなく、数字も持っていない兼業勢だったから、立候補する勇気はなかった。

 そんなときに声をかけてくれたのがユータという昔からの知り合いの配信者だった。


 ユータは本名を葛城悠太という高校時代の同級生である。

 サッカー部という共通点しかなかったユータと話すようになったのは、高校二年の夏、ユータが怪我でしばらく部活を休んだ時だった。

 その頃、一軍で活躍していたユータと、補欠でほぼ幽霊部員だったちぐさに初めて接点ができた。

 部活がなくて暇なユータがちぐさのサボり癖を弄ってきたときに、偶然同じMMORPGをやっていることが判明したのだ。

 それを知ったユータが開口一番言ったのは、「ヒーラーできる?」だった。

 当時はまだ始めたばかりで触っていなかったのでそう答えると、レベル上げを手伝うからヒーラーを育成してくれと頼み込まれた。

 わけを聞いてみると、それまでいたギルドを抜けて以来ダンジョンで死にまくって困っているという。

 では柔らかい魔術師系でも使っているのかとジョブを聞いてみると、メインジョブはアサシン、つまり比較的固い近接物理アタッカーだった。

 なのになぜそんなに死ぬのかよくわからずに聞いてみると、ヒーラーが回復してくれないという。ギルドでもそのことで揉めて抜けたらしい。

 随分困っている様子なのを見て、ちぐさはヒーラーを一から育てることにした。

 正直やりたかったのは弓手だったのであまり乗り気ではなかったが、怪我をして試合に出られずにいるユータを前にすると断りづらかったのだ。

 そうしてちぐさはユータとパーティを組んでダンジョンを回るようになった。


 ユータが部活に出られなかったその夏一杯、二人はそのゲームで遊び倒した。

 ユータがもうギルドは嫌だというのでギルドには入らなかったが、野良パーティで出会ったプレイヤーとボイチャを繋いでエンドコンテンツを周回したり、いいドロップが出るまでひたすらモブ狩りをしたりした。

 そんなふうにやっていたら気付けばキャラはカンストし、行けないコンテンツはほぼなくなっていた。それが、高二の夏休みが終わる頃だった。

 ちょうどその頃、ユータの怪我が治ったので、以降遊ぶことは少なくなったが、時折思い出したようにゲームをする仲になった。

 やがて高校を卒業するとユータは都心の大学に進学し、会うことはなくなった。しかしたまに帰省したときには飲みに誘ってくれたりして、意外と長く付き合いは続いていた。

 ちぐさがゲーム動画を投稿してみたことを報告したのもそんな飲みの席だった。

 当時やっていたバトルロイヤル系サバイバルゲームの優勝記念を残しておきたくて動画を録ったのだ。

 それを見て、ユータはちぐさを賞賛し、ゲーム配信者になった方がいい、と強く勧めた。

 そのとき、それまで何となく持っていた夢が明確に言語化された気がした。

 もうずっとゲームが好きで、仕事になったらいいなあと思っていたのだ。

 だが、プロゲーマーを目指すほどの度胸も、ゲーム開発に携われるだけの技術も学力もなかった。

 でも、配信ならば何の資格もなく気負いもなく始められる。

 ユータの言葉に触発されて、ちぐさは自分のチャンネルでゲーム配信を始めた。

 最初は試行錯誤で不発に終わったものも多い。

 同時接続数も再生回数も底辺の時期も長くあった。

 けれど、敵を倒すたび喜んでくれるリスナーとの交流は新鮮で楽しかったし、ゲームは日常なのであまり負担にもならなかった。

 そうやって活動を続けるうち、少しずつではあるが同接もチャンネル登楼者数も増えてきて、収益が出るようになってきた。

 ユータから、脱サラして配信業を始めたと報告が入ったのはこの頃だった。


 ユータは大学卒業後、都内の会社に就職して働いていた。

 会社名を聞いたことはないが、口ぶりから待遇は悪くなさそうだった。

 しかし働いてみて、何かが違うとなったらしい。

 ユータは入社一年目の秋頃からゲーム動画の投稿を始めた。

 それを三ヶ月ほど続けたある日、投稿した動画がバズり、その後は鰻登りで登録者数が増えたらしい。

 らしい、というのは、その頃ユータが配信していることを知らなかったからだった。

 ユータのチャンネルを知ったのはもっと先、チャンネル登録者数が十万人を突破し、専業になった頃だ。

 久しぶりに飲みに誘われたのが平日の夜で、有給でもとっているのかと聞いたら、会社は辞めたとサラッと言われた。

 そして、ゲーム配信を始めたからコラボしようぜ、とも。

 その時点でユータはゲーム配信だけで食っていけるくらいの収入を手にしていた。

 ちぐさは驚き、いつの間にそんなことにと思ったが、ユータらしい感じもした。

 そののちユータとコラボしたら、瞬く間にリスナーが増えた。ユータはそれだけ知名度があったのだ。

 だから、今いるリスナーの半数くらいはユータのおかげで増えたようなものだった。

 自分より遅く配信業をはじめ、瞬く間に抜き去ったユータに嫉妬心がないわけではない。

 だがそれ以上に受けた恩恵の方が大きかったので、大きなしこりにもならずに付き合いが続いているわけだった。

 そして今回の大型コラボ企画もまた、ユータが回してくれた仕事である。

 企画の参加者の大半は数字を持っている中堅以上の配信者かゴクミと繋がりがある配信者かで、ちぐさはそのどちらでもない。

 本来ならば参加できる立場ではなかった。

 しかし、顔の広いユータがちぐさを経験者枠で引き入れてくれたのだ。

 ユータの所属する配信者グループは人数が多く、皆人気者でその上ウィルダネスガチ勢もいる。その人を誘えばグループでチームを組んで出場できたはずだ。

 だが、ユータはちぐさを推薦した。そのおかげで参加できることになったのだ。

 こういうことをするあたり、ユータは本当にいい奴だと思う。

 チャンネル登録者数が自分の十分の一以下の配信者と絡んでも同接は増えないし、何ら得することはない。

 それなのにこうして呼んでくれる。

 逆の立場だったら同じことができたか微妙だった。

 だがいずれにせよ、これは配信者として非常に幸運なことだ。

 このチャンスをものにして、大好きなゲームで食べていけるようになりたい。

 そしてチームを優勝に導き、ユータに報いたい。

 そう強く思いながらちぐさは野良サーバーで事前準備を終わらせ、企画当日を迎えたのだった。


 

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