表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私が運命の人と出会うまで  作者: おつー
1/1

【第1話】私が家族を失った日

 あの日は娘の12歳の誕生日だった。


 雪がヒラヒラと宙を舞い、真っ暗な夜空を白く染める。


 小さな娘の手のひらは、真っ赤になって霜焼けになっていて、その手を、握ると、感覚がなくなるほど、冷たい。

 

本当は、誕生日どころじゃない。


ただ、今日は娘の誕生日。もう5年も同じお店でお祝いしているのだから今年も無理にでもお祝いしないと・・・。

お店の扉を開いて、席につき、ピザを食べながら、たった10分で、やめておけばよかったとすぐに後悔した。


 だって、もう、2週間以上も夫と口を聞いていない。


 上の息子と娘は、私たちの雰囲気を察して、場を盛り上げようと、必死で明るく振る舞う。

 私も同じように笑顔を心がけ、子供達に良い思い出として残るように努力した。

 だけど、夫だけは、顰めっ面を保ちながら、一言も話さない。


 最近、ずっとこんな感じだ。

きっと、私の誕生日に起きた『ある出来事』のせいで、私が変わったからだ。


 いや、きっかけは、私の仕事での出来事にある。

一緒に仕事をしていた仲間の一人の女性と口論になり、彼女と絶縁することにしたことで、私は1ヶ月間の不眠症になってしまった。

今まで、どれだけ、嫌なことをされても、こんなに長く眠れないことはなかった。

怒りが脳を支配するのは、せいぜい3日。

1ヶ月、不眠になるなんて。一体、私の体に何が起きているのか。

子供達にも夫にも何も言わず、ただ、長い夜を耐える日々。この暗闇が永遠に続くと不安と悲しみの渦の真っ只中に私はいた。


 夫に手を握ってもらったら、眠れるのだろうか・・・。

そう、何度も思い、今日こそは一緒に寝てくれるかどうか、聞いてみようと思うのに、私の口から、一緒に寝ようの言葉が出ない。

 それも、そっか・・・。だって、一緒に寝たからって、私の心のソワソワは解消されないことを、ずっと前から知ってる。結婚生活で、共に同じベッドで寝ていたこともあった。

その時から、私は入眠困難症に陥り、毎日、1時間以上も、眠りにつけない日々を送っていた。


夫は、ベッドに入るとすぐに地響きのようないびきをかいて、眠りにつく。そのいびきで、また眠りにつけない。手を握って寝ようとすると、無意識的に嫌がられ、振りほどかれる。

そうやって、とっくの昔に、私は彼から拒絶されていたんだと、眠れない長い夜を過ごしながら、永遠とも呼べる暗闇の中、ただ、一筋の光を待つ毎日を送っていた。


長い夜の後は、朝が来て、太陽が昇る。


暗闇から光に変わる。


そうすると、やっと少し安心して、ほんの少し、眠りにつく。2時間ほど眠ると、もう起きないといけない時間が来て、また、辛く苦しい1日がやってくるのだ。


 今思えば、この時の私は、全てを失うことを知っていたのかもしれない。

私を精神的に追い込んだ彼女は、私に精神的な苦痛を与えられたと、損害賠償請求を申し立て、本来なら、1ヶ月も眠れない状態に陥っていることで、その請求を逃れることができたものの、私は、戦うエネルギーすら起こすことができず、有無を言わず、彼女の申し立てに応じることにして事を済ませた。


 眠れない夜は、益々、深まるばかりだった。


 この時の私は、もう、精神的な病に陥っていると判断されてもおかしくなかったのかもしれない。

精神科に行って、薬をもらい、とにかく眠れるように処方してもらうように病院に行けばよかったのかもしれない。


 でも、私はいかなかった。

病院に行く気力も残っていなかったといえばそうかもしれない。

でも、夫が私の変化があまりにも異常だと感じたら、病院に連れて行くだろう・・・。

この時の私は、自分に起きていることを、夫に言う気力すら、無くしていた。そして、眠れないのに、頭はエンジン全開で、目が冴え、脳内はノルアドレナリンに支配されていた。


 私は、自分が精神疾患に陥りそうな状態であるとは、1ミリも思わず、ただ、この不眠をなんとかしないといけないとそう思い、YouTubeを見ていた。その時、出会ったのが、おつー先生の動画だった。


おつー先生は、アロマ心理学を独自で開発され、恋愛をテーマに多くの人が魂の片割れである運命の人に出会えるように、その相手の特徴をお伝えする動画を作成している心理学の先生で、その先生の言葉で、私は、1ヶ月続いた不眠症の原因を自分の中で導き出すことができ、やっと夜眠れるまでになった。その時の動画のタイトルを今でも鮮明に覚えている。


「一緒にビジネスをしてはいけない人の特徴」

 この動画でおつー先生は、ギブアンドテイクという本の中のテイカーってどういう人なのかを話してくれた。

その内容で、私を不眠に陥らせた彼女はテイカーで、自分の権利ばかりを押し付け、私のエネルギーを奪っていった相手であったこと理解した。釘いるように他の動画も視聴し、なぜ、こんな状態になったのかを腑に落とすことができた時、私の体にある変化が起き、それがアセンション(次元上昇)のサインであったことに後から気がつくことになるとは、この時の私は、知るよしもなかった。


 この出来事をきっかけに、変わった私に、一番に反応してくれたのが、息子だった。

14歳の息子は、小さい頃から、悪目立ちするタイプで、公園に連れて行くと、追いかけるのが大変なほど、自由に走り回るほど、活発な子だった。


 人間関係のいざこざも絶えない息子に、私はあなたの味方だよと語りかける日々を送りながら、少しずつ、変化する自分の想いを息子に語り始めていた。


 結婚生活15年、ずっと心に秘めていた想い。


心の奥底に仕舞い込み、出てこないようにしていた想い。


私たち夫婦はもう、終わりを迎えようとしている。


誰よりも努力して彼の理想の奥さんになろうとした。

でも、彼の理想の奥さんは、私とは正反対の、もっと気が利く女性で、私は仕事ばかりして、家事もままならない、ダメな妻。それを毎日、まるで小姑のように愚痴を言う彼に、私はもう、限界を迎えていたのだと思う。


 ここから、少しづつ、彼を避け始めていった・・・・。


 私は、おつー先生の動画を見てから、一気にエネルギーを取り戻していき、仕事をほったらかしにして、息子と遊んだ。

 ほんの少し早いクリスマスだと、3万円以上もするSwitchを購入して、一緒に大きな声で笑った。


顔が引き攣るくらい、笑い、楽しく遊んだ。


それを傍目で見ていた夫が、どんどん私と距離を置くようになり、部屋に籠るようになった。


すると、私の中にある変化が訪れる。

いきなり、家を断捨離し、大掃除し始めるのだ。

今振り返っても、おかしな状態だった。


頭の中にいろいろなアイデアが閃いていく。ここ数ヶ月、掃除もままならなかったせいで、カビだらけの排水溝を徹底的に掃除し、キッチンの賞味期限切れの食材をどんどん捨てていく。


息子が小さい時に壁に落書きしたままのリビングの壁に、フランフランの花の壁紙を貼り、銀色のおしゃれな時計をかけ、夫が作った飾り棚に観葉植物を飾り、ゴミ袋30袋以上のゴミを出した。家は、夫の部屋以外、別の空間へと様変わりしていた。


 だからだろう。もう、彼の居場所はこの瞬間、この家にない。


彼は、変わっていく空間と私や息子、娘の姿をただ、遠くから見ていることしかできなくなっていた。

私は、夫の部屋だけが、まるで悪霊がついているかのような空間にみえ、その空間で寝ている彼を、拒絶するようになっていた。


 結局、この出来事がきっかけで、私と夫は、娘の誕生日をきっかけに、15年間の結婚生活に終止符を打つことを決意した。


寒い雪の日だった。


手も足も寒くて寒くて凍えそうだったのに、体の感覚より、心の感覚の方が、ずっと印象に残っている。心が痛い痛いと叫び、私の意識は同じ言葉を繰り返す。


なぜ、彼は変わってくれないの?私のためにどうして、変わろうとしないの?指の末端まで血液がいかない、感覚のない指先を息で温めても、心に血液が回らない。


心が冷えて、寒くて痛くて、立ち上がれない。人生は、自分が思ってもいないようなことが起こるのだと、この時、初めて知ったのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ