表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

やべー魔法使い メイ編

本編に至るまでの各主要キャラクターの過去編から「再演する魔法世界にて」を開始させていただきます。

本編は過去編が終わり次第出します。

「そこのお前!」


表通りを歩いていると見知らぬ少年に話しかけられた。


「そこのお前だ! 面倒臭そうな顔すんな」


いけないバレたか。


「お前が最近巷を騒がせている闇魔法使いだな?」


「私ってそんな有名なのか?」


「結構な! あの出鱈目に強くて珍しい闇魔法を使ってる奴ってな!」


まあ、闇魔法を使えるやつなんてほとんどいないからな。


私が有名になるのは仕方ない。


だが、この少年はなぜ私の所へ来た?


「なぜ僕が来たのか知りたそうな顔をしているな!」


「あ、うん」


「単純なことだ。強くて目立つやつを倒せばターニア魔法学校での僕の評判が上がるからだ」


なるほど。腰にぶら下げてる少年の剣で何となく察していたが、魔剣士君か。


「お前さっきから見下してるだろ」


こいつ、私の心を読んでないか?


「僕とお前は同い年の13歳だろ!」


え! こんなちっこいのが私と同い年なの!


「何をそんな驚いているんだ!」


「あ、すまん。ちょっと眩暈がする」


しかし、ターニア魔法学校か。あそこは弱い奴等が多いんだよなぁ。

別に通わなくても独学で魔法は学べるし、通った所で何を学ぶ?

弱い奴のノウハウで弱体化してしまうのではないのか? 本で事足りるだろう。


「それで、君は私を倒したいと?」


「そうだ。決闘しろ」


「悪い事は言わないからやめとけ」


「お前、怖気ついてるのか?」


「よし決闘しよう」


「そうこなくっちゃ! 場所はターニア魔法学校のグラウンドでやろうか」


「上等だぶっ殺してやる」



ターニア魔法学校のグラウンドの上で向かい合う私達。


朝の空気、燦々と照り輝く太陽の下。


神妙な雰囲気が漂う中で、周りに集まってきた魔法学生達も観ている。


都合の良い所に来た。


こいつをボロクソに負かしてやるからきちんと観ておけ。


「決闘のルールは相手を気絶させた方の勝ちだ」


「わかった」


「今からコインを投げる。これが地面についたらスタートだ」


親指で弾かれたコインは、クルンクルンと宙を舞っている。

だんだん重力の波に飲まれて地面に向けて勢いを早めていくら、


私は杖を少年に向けて魔力をこめる。


少年は抜刀の構えを取っている様だ。


甘いな、無様に負けるがいい。


からん、コインが地面に落ちた。


「先手必勝だぁー!」


「どーん」


杖の先から豆粒ほどの黒い塊を相手のお腹に向けて放つ。


その速さは目には捉えられないだろう。


「うぐぅ!」


少年はその場でお腹を抱え込んでいる。


おいおい、その程度じゃまだ終わらせないぜ?


「ほれほれほれ」


「痛い痛い!」


あと百回ぐらい当ててから気絶させてやるから。


「あー。今日はよく眠れますね」


「痛い!」



楽しい時間は早めに過ぎ去っていくものだ。


「あら、もう勝ったか」


気絶して地面に横たわる少年を見下しながら、勝利の余韻に浸る。


最高や。


「いいかい少年よ。これに懲りたら私に挑んで来るなよ」


その場を後にしようとした時、後ろで物音が聞こえる。


「おい待て! まだ俺は名乗ってなかったな。俺の名前はルークだ」


「はぁ。タフだなぁ」


「今日は負けたが、次は絶対に勝つからな!」


「はいはい。頑張ってねー」


「まだお前の名前を聞いていなかったな!」


面倒だなぁ。


「私はメイだ。もう二度と顔を見せるな」


「なるほど、いい名前だな!」


はいはい。



ターニア魔法学校から家に帰ると、今日の疲れがどっと出た。


気がつけば夕暮れになっていた。


「今日の研究はお休みだな」


闇魔法は心が汚れているから発現するものらしいが、本当にそうだろうか。


研究をしていくにつれて、私は世俗の偏見を確信している。


「闇は心の汚れではなくて、ただの魔法属性の素質だ」


人は不思議なもので、見た目のイメージから心の中を勝手に決めつけてしまうのだ。


「魔法はまだまだ未知の要素が多い。さて、私が生きてる間にどれだけ暴けるかな」


一つの生きがいとして、十分に楽しめる趣味だ。


魔法学校に通ってる奴らはみんな馬鹿なのか?

真面目になり過ぎでしょ。


「まあ、今日はもう寝ましょ」


ベッドで横になると、夜の闇が窓から差し込んで来る。



目が覚めると眩い朝日が窓に差し込む。その奥にある赤煉瓦の家が見える。


「実験するか」


ベッドから起き上がって、広間のテーブルに置かれているフラスコを取る。


今日のテーマはどうしようかな。


「メイちゃん聞こえる?」


ドアを叩く音が聞こえる。


「はい、メイちゃんだけど」


ドアを開けるとストーカー、いや、ワットが立っている。


「メイちゃん、今日も綺麗だね!」


「はいはい。メイちゃんはいつでも綺麗ですよー」


このストーカーは数年間私の家に通い続けている、ヤベェ奴だ。


「その白い髪、白い肌、潤いのある唇に、」


「やめろやめろ」


こいつ、毎朝来て必ずこれ言うんだよな。もう聞き飽きたわ。


「メイちゃん。いつもならここで帰ってる所だけど、今日は別の要件できたんだ」


「へえ。要件だなんて珍しい」


「メイちゃん綺麗だし、ファッションショーに出てみない?」


「却下だ」


「えぇー! メイちゃんほど綺麗な一人が出たら絶対優勝できるのに」


「メイちゃん美人だから、出なくても結果分かるの」


「はぁ、仕方ないか。また明日来るね!」


もう二度とこなくていい。


実験する気無くしてしまったな。ここは一つ、おでかけしましょ。


家の外に出ると、見慣れた煉瓦の家と石畳がある。

私はその風景が大好きだ。


一方私の家は、とんがり帽子の屋根がついた家だ。


風景に溶け込まない異質な面持ちではあるが、それはそれで美点なのでは。


「魔法のほうきは便利だねぇ」


箒を浮かせていくと、あっという間に地面から離れていく。


「今日はどこ行こうかなぁ」


魔法に使う実験器具でも買いに行こうか。


「それじゃあ出発だ」


景色がどんどん流れるのを見送っていくと、目的地についた。


「魔法道具屋サラ」


小さい佇まいだが、店の見た目の割にはいい品揃えだ。


店のドアを開けると、店奥には赤髪の女性が立っている。


「いらっしゃいませー」


「サラ、今日は実験用の器具を買いに来たのだが、これはあるか?」


「あら、メイじゃない。久しぶり」


「そうだな、ここに来たのは久しぶりだな」


「今日はその実験器具を買いに来たのね」


「そうなんだ。最近大変でねぇ、変なストーカーが家に来たり、魔法学校の生徒に喧嘩売られたり」


淑やかに口に手を添えて笑うサラは、いつ見ても上品だ。


そりゃ、見た目だけでなく中身も良いんだからモテますわな。


それに比べて私ったら、見た目はいいんだけど中身がダメだから変なやつに好かれるし、この差は何なのかねぇ。


「大変だねメイは」


ふと、サラに影が落ちた様に見えた。


「サラ、浮かない顔だね」


「あぁ、やっぱりメイは分かるんだ」


「何かあったの?」


「うーん。名を巻き込むわけにはいかないなぁ」


「別に構わないよ」


「優しいね、昔からメイは」


「可愛くもある」


「そうね」


上品に手を添えて笑う。


「今日さ、魔法ギルドの内部で内乱が起こったみたいで、どっちの派閥につくかを国中の魔法道具店が決めなきゃいけないの」


「なるほどね。そこでサラも目をつけられたのか」


「そう。魔法道具は魔法ギルドにとって貴重な生命線だからね。あなたにとっても重要でしょ?」


「そうだな。なきゃ困る」


「私はどっちにもつく気はないんだけどね、そうしたら私の店潰されるんだ」


「それは困るな」


「まあ、命までは取られないからマシなんだけど、店を潰されるのは殺されたも同義なのよね」


「そりゃ、食えないからな」


「そう。だからどうしよっか悩んでるわけ」


ずいぶん危険なことに巻き込まれたな。


私の友達がそこまで困ってるのなら、答えは一つだろう。


「私が魔法ギルドの派閥を潰してくる」


「えっ! 危ないから止めときなって!」


「ふふっ、私を誰だと思っているんだ?」


「そりゃ、強いのは知ってるけど」


「まあ、どうせ相手雑魚だし、お使い程度に済ましてくるわ」


必死に焦るサラを後にして、私は魔法ギルドにひとっ飛び。


「魔法ギルドかぁ、もう名前がザコいもんね」


大きな木造建築で、看板には魔法ギルドと書かれている。


中に入ると色々な人の姿が見える。魔法ギルドと銘打ってるだけあって、

見たところ魔剣士か魔法使いしかいない。


だが、室内の空気は非常にピリついている。


手始めに情報収集から始めようか。


「そこの童顔くん」


「なんでしょうか?」


この小童なら私の美人オーラで圧倒できそうだな。


「今ギルドは内乱で忙しいみたいだけど、私詳しいことは分からなくて困っているの」


「は、はい! 良ければ僕がお教えしますよ」


よし、適当な説明で何とかなったな。


「まず、ギルドにはいろんな派閥があるのは知っていますか?」


「ええ、ちょっとは」


「大体3つほど派閥があって、一つは好戦派閥、一つは穏健派閥、一つは研究派閥。今争っているのは、好戦派閥と研究派閥ですね」


「なるほど」


「争っている理由なんですが、好戦派閥のリーダーであるアメリコと研究派閥のリーダーであるヴェロンドのギルドの実権争いですね」


「ギルドって政治的な仕組みで動いてたんだな」


「似てると思います。実権を握ってしまえば、魔法ギルドの権限で好き放題できますからね」


「力はそんなに大事か?」


「ええ。あった方が幸せになれますよ」


「そっか、盲目的ね、あなた達」


「お姉さんは何を言いたいんでしょうか」


「気にしないで。それで、その二人はどこにいるの?」


「アメリコの方は西の魔法ギルドにいます。ヴェロンドの方は南の魔法ギルドにいますね」


「ターニア国内の話だよね」


「そうですが、お姉さん場所知らないんですか?」


「そうだけどなんだよ」


「いきなり怖いですね。まあ、それなら僕が位置情報を魔法の地図に記しておきますので、少々お時間いただいてもよろしいですか?」


「10秒まつ」


「十分ですよ」


童顔くんが手に持つ白地図に光が灯ると、地形図が段々と浮かび上がって、最後には二つの赤い点が強調された地図が出来上がった。


「この二つの赤い所が、アメリコとヴェロンドのいる所です」


「ありがとう童顔くん」


チュッ、魔性の女っぽく額にキスをしてあげると、童顔くんが泡吹いて倒れた。


まあ、処置とか面倒だし、さっさと倒しに行こうか。


その場を後にして、私が先に向かったのはアメリコのいるギルドだ。


「ここがアメリコの本拠地か」


随分とまあ、金がかかってるな。金ピカの装飾が施された建物に、魔法ギルドの看板がかかっている。


とりあえず内部の様子を探りますか。


闇魔法の応用で、小型の監視カメラを作って操作することが出来る。

側から見れば埃としか思わないだろう偽装だ。


「行ってこーい」


高速でアメリコのギルドの中へ潜り込んだ監視カメラ。


見える景色は荒くれ者達が詠唱している所だ。


その中心に、巨大な男がいる。


雰囲気で察しがつくものだな、あれがアメリコか。


「おいお前らー! 標的はヴェロンドの首だ! きっちりと狙うんだぞ」


なるほど、遠隔魔法ね。


確かにそれなら、距離が離れてても相手を攻撃できる。


私は性格が悪い攻撃手段は嫌いだから、あまり使わない手だけど。


「あそこの真ん中にいる男を倒せばゲームクリアってわけね」


さて、どうするか。どうするか。どうするか。


「突撃するか」


ばーん。ギルドの壁を派手に打ち破って登場。


「何だお前は!」


驚きを隠せない様だな、アメリコよ。


「えっーと、そう、サラン○ップよ」


「サランラップ? 聞いたことねが、とりあえず邪魔すんなら殺すぞ!」


アメリコの部下と思しき荒くれ者が、私の周囲を取り囲む。


「最後の警告だ。出て行け」


「最後の警告だ。今すぐ降参しろ」


私を取り囲む人間を闇で包んで意識だけを刈り取る。


「強いな。警戒しろ、全員でかかるぞ。恐らくヴェロンドの刺客だろう」


アメリコ含め、荒くれ者の部下達が私を取り囲む。


さて、どう切り抜けようかな。


どうせならスタイリッシュに、アグレッシブに行こうか。


「アメリコ共々、今から剣でお相手してやろう。最近学んだんだ(一方的に)」


闇を剣の形に変えて、それっぽい構えをしてみる。


実際、剣は扱ったことないが、こいつら雑魚だし練習になるだろ。


「隙だらけだな」


アメリコが放つ鋭い風を見るに、あいつは風魔法の使い手なのか。


周りの部下達の属性がよく分からないが、知らなくても勝てるか。


「それ」


「何っ!」


アメリコご自慢の鋭い風をご丁寧に切り裂いた後に、周りの部下達目掛けて剣を構える。


「いくぞ」


目についた荒くれ者A〜Jをまとめて薙ぎ倒すと、部下を全て倒し切ってしまった。


弱い、弱すぎる。


「何者だ?! そんなに強いのに今まで何をしていたんだ!」


「アメリコよ、そんなモブっぽいこと言うんじゃない。誰かに言わされてるみたいだぞ」


「さっきから何をいってるんだ?!」


「まあ、いいか。これで終わりだ」


剣の大胆な一振り。アメリコの意識を刈り取る峰打ちにしては、深く入りすぎたか。アメリコは3日起きれないだろう。


「ミッションコンプリート」


次はヴェロンドの方だな。



ヴェロンドが属するギルドは、割と普通というが、目立った外装ではない。


ヴェロンドの名前の響きから勝手に貴族を連想していたが、そうではない様だ。


「まずは観察だね」


先ほど同様、小型の監視カメラを潜り込ませる。


中にはどうやら、特にキャラ属性に乏しい普通の一般魔法使い達が詠唱している。


その中央に鎮座するのが、まあ、ヴェロンドだろうな。


なぜコイツらは中央にいる傾向があるんだ。


それは置いといて、攻撃手段はアメリコ同様の遠隔魔法だろう。


「狙うならアメリコの股間だ」


少し違ったみたい?


「取り敢えず潜入しますか」


ギルドの天井を突き破って現れる私。


「何者だ?」


周囲の魔法使いやヴェロンドの注目を一身に受けながら、闇の波を構える。


「今回は早めに終わらせたい気分だから、本気で相手してやる」


特に理由はない。


「随分と舐められたものだ。貴様はアメリコの刺客だな?」


「ヴェロンドよ、お前女だったのか」


「今どうでもいいでしょうが」


「うるせぇ! さっさとくたばっちまいな!」


「何だコイツ!」


闇の波で室内を埋め尽くした後、意識を刈り取る程度に相手を攻撃。


「もう十分かな」


闇の波をしまうと、ヴェロンド御一行は深い眠りに落ちている様だ。


「ミッションコンプリート」


さて、サラに報告しに行こうか。



「サラ、片付いたぞ」


サラの店に入ると、カウンター先に青ざめた表情の店主さんがいた。


「サラ、顔大丈夫?」


「あんたが変なこと言うから焦ってるんでしょうが!」


「まあ、心配しなさんな。あいつら完封してきたから」


「えっ? 本当に勝ったの?」


「ほんと」


「あんた強いのね」


「あいつらが弱すぎるだけ」


「お茶飲む?」


「それと実験器具をまけてくれ」


「いいけど、今日は早めに帰ってね?」


「まあ、最初からそのつもりだったし、あれ? やっぱりサラ顔色悪いね」


「誰のせいだと思う?」


「サランラップじゃない?」


「お前一回ぶん殴らせろ」


しばらくして、サラが暖かいお茶を差し出してくれた。


「サラのお茶はまあまあだな!」


「そこは美味しいっていいなさいよ」


サラの顔色は先程よりは良くなっている。


「ありがとう。メイが倒してくれたおかげで、ギルドの派閥は穏健派のみになったみたい。恐らく、穏健派のトップが二つの派閥が機能しなくなった隙に実権を握ったのでしょう」


「穏健派は大丈夫そうか?」


「問題ないわ。彼らは平和主義者がおおいから」


「なら問題ない」


「メイちゃん、今日結構無理したんじゃない?」


「全然?」


みじんも無理してないが。


「メイちゃんまだ若いし、確か13歳よね? だから、大人である私がメイちゃんの面倒を見るわ」


「断る!」


「何でよ。メイちゃん家で一人で寂しくないの?」


「私はこの生活が気に入ってるんだ! 母親みたいに振る舞うな!」


「あーもう相変わらずね。分かったわ。ただし、どうしようもなく困った時は私に相談しなさい。基本なんでも断らないから」


「わかった。その時が来たらありがたく頼らせてもらうよ」



実験器具を幾つか貰って家に帰宅すると、見知らぬ人が家の前に立っていた。


いや、よく見てみると見覚えがある。あれはルーク君かな?


「遅いぞ! お前今まで何してたんだ!」


「魔法ギルドの派閥二つ潰してきた」


「ふんっ! 寝言は寝ていえ! ブス!」


「今日は何の用なの? まさか、死ににきたわけじゃないよね?」


ニコニコ。指の骨ポキポキ。


「ひぃぃ。やっぱりお前怖いな」


「別に? むしろ天使だろ?」


「ごほんごほん。今日の本題はお前とのデートだ! ありがたく思え!」


「嫌」


「馬鹿かお前は?! 僕とのデートだぞ!」


「嫌」


「お前みたいに綺麗なやつが僕にお似合いなんだ!」


「今日はどこ行こうかしら? ダーリン」


「コイツちょろいな」



そんなこんなで、今日はダーリンといろんな場所を巡ろうと思います。


「ダーリン、こんなつまらない場所は望んでないわ」


「メイ、今日はターニア魔法学校を紹介する」


「えー、つまんないな」


「お前ほど強いやつはターニアに入学するべきだ」


「強いからこそつまらないんだよ」


「まあまあ、一通り見て回ろうか」


ルークに連れられるまま、ターニア魔法学校の優秀なやつらが集まる魔法学科に来た。


「メイ、お前に見せたかったのはこの学科だ」


「その他大勢よりは強いねこの人たち」


少し面食らった。この学科に集まるやつらはまあまあ強い。


こいつら1000人ぐらい集まれば、もしかしたら私を倒せるのでは?


そんな期待すらさせる。


「どうだ? 入学したくなったか?」


「少しは興味がわいたかな」


「次は特別科に行こう」


特別科、名前からは想像が難しい場所だ。


まあ、大したことはないだろうから、期待はしないでおこう。


「着いたぞ。ここが特別科だ」


「驚いた。奇天烈なやつらばっかりだ」


この学科の奴らは通常の魔法使いの系統に属さない。


4属性に属していない例外がたくさんいる。


瞬間的に移動をするものや、相手に催眠を駆ける魔法だったり、様々だ。


それでも私にはかなわないだろう、とは言い切れない。


例外の対処は難しい。相性が最悪な場合、下手したらまけるだろうな。


「やっぱり、メイでも倒しきれると断言できないのか」


「悔しいけれど、ここにいるやつらは不明瞭な点が多い」


「下手したら負けると?」


「嘘はつきたくないから言うけど、そうだろうね」


いきなり得意げな顔をするルーク。


「それが分かっただけでも十分だ。メイ、ターニア魔法学園に入らないか?」


「まあ、考えておく」


「お前でも勝てないやつらがいるのなら、そいつから学ぶのが手っ取り早いだろう」


「ずっと疑問だったのだが、ルーク、いったい今日は何をしたかったんだ?」


「明日、僕はターニアを去って敵国のメレンに行く」


「敵国、今の時代にそう呼ぶのはルークぐらいじゃないかな」


「僕達家族は、メレンにすべてを奪われた。だから奪い返しに行くのさ」


「随分大変だね」


「その通りだよ。この学園で学んで、力を蓄えて、準備を重ねてきた」


「その話が今日の理由とどうつながるの?」


「最近、メレンとターニアが緊張した関係にあるのは知ってるか?」


「知らない」


「仕方ないさ、この話を知ってるのは国王とその側近くらいだ」


「その口ぶりから察するに、ルークは王の側近なのか?」


「察しが良くて助かるよ」


「お坊ちゃんじゃん」


「その言い方はやめろ」


「ごめん」


「話を戻すけど、メイをここに呼んだのはターニアの守り神になってほしいんだ」


「守り神?」


「そう、武力でターニアの国民を守ってほしい」


「急に大事になったね」


「僕は確信している。メイは歴代の魔法使いをすべてしのぐほどの天才だ」


「そう言ってもらえると光栄だ」


「実は僕、この学園で一番強かったんだ。歴代のどの覇者よりも」


「あら、そうだったの」


「興味がなさそうだな」


「そうだな」


「まあ、それは置いておいてだな、この学園の特別科は凄いだろ?」


「凄いね」


「でも、攻略方を知ってしまえば大したことないんだよね」


「それはそうかもしれないが、実践で闘う場合、所見の相手もいるわけだ」


「そう。その場合どうするか、だよね」


「初見戦闘での敗北の可能性が捨てきれない限り、余裕とは言えないな」


「初見じゃなかったら、メイは必ず勝てる?」


「まあ、勝てるだろうな。一人一人の魔力総量は大したことがない。基本は小規模攻撃が普通だろうから、気を使って遠距離先頭に持ち込むまでだ」


「再来年、特別科に分析魔術に長けてる魔法使いが入学してくる。ラベンダ、という女なのだが、メイと同じくかなりの才をもった人物だ。13歳にして、特殊魔法と、4属性魔法を高練度で放つことが出来る」


「魔力量は?」


「膨大だよ。メイほどじゃないかもしれないが」


「俄然興味が湧いてきた。守り神とかはどうでもいいけれど、純粋に技を極められるのは楽しみだ」


「とりあえず、入学するという解釈で問題ないな?」


こくりと頷く。


「結構。これで安心してこの国を後にできる」


じめじめとした空気が周りに漂っている。


デートっぽくは無い日だ。まあ、それよりも面白い情報が手に入ったから良しとしよう。


隣を歩くルークの顔は、どこか安心しきっていて、腑抜けている。


私の家は近い。もうじきルークとはお別れだ。


「メイ。明日旅立つ前に、もう一度闘ってくれないか?」


「分かった。今日の御礼だ」


「そう来なくっちゃ」


「ここまででいいよ。今日は楽しかった、ありがとう」


「素直だね。頭でも打ったの?」


「そうかもしれないね」


「じゃあね。明日の朝、ターニアのグラウンドで会おう」


「分かった」


ルークと別れた後、私は夜に沈む街の風景を家の窓から眺める。


テーブルの上には実験器具が散乱していて、家に帰ってきた実感を肌に伝えてくれる。


今日も退屈しない一日だったせいか、眠気が急激に襲ってきた。


「実験は明日の朝にしよう」


布団に入ってから眠るまでは、そう時間はかからなかった。



「メイちゃん! メイちゃん! 開けてください」


朝のアラームはストーカーだ。クソが。


「今日も時間通りご苦労様」


家のドアを開けると、見慣れたストーカーが一匹。


「昨日ファッションショーに出てくれなかったので、変化の魔法を使える人にメイちゃんの代わりに出てもらったんです。姿、形、匂い、口調、完璧に真似ていただきました」


「きっしょ!」


「結果、どうなったと思いますか? 優勝ですよ! 圧倒的なまでの!」


「メイちゃんかわいいからね。あたりまえだね」


「ということで、僕と結婚してください!」


「メイちゃんかわいいからね。お前みたいなのとは結婚しないの」


「そこをどうか!」


「メイちゃんかわいいからね。今日は用事があるの」


「そこをどうか!」


「メイちゃんかわいいからね。邪魔だどけ」


「そこを、」


うるさい蠅を置き去りにして、目的のターニア魔法学園のグラウンドに向かう。


空を飛べば一瞬で着くが、なんとなく走って行きたい気分だ。


空から町の風景を見下ろす機会は豊富にあるが、地上から見る機会はなかなかない。


赤レンガの住宅、石畳、住宅の前に立つ出店、行き交う人々。


「綺麗だね」


長く住んでいるというのに、自分の町の事は未だよく理解していないようだ。



 ターニア魔法学園のグラウンドの上、周りの野次馬がその男一点に注視している。私がくるや否や、野次馬の視線は私の方に一挙に向く。前回とは違った雰囲気を纏った中、私は目の前の敵に集中して周りの雑音をシャットアウトした。


「ルーク。もう始めていいかな?」


「まって。前回と同じ手法で始めよう」


 ルークは手からコインを取り出して、それを空中に弾いた。何回転もした後、重力の波に飲まれたコインが地面目掛けて急速に落下していく。そろそろ落ちるタイミングで、私は自身の周りに闇の波を構える。ルークの方は抜刀の構えだ。


 私のルークに対する心境は、初めて会った時とは異なっている。彼には大義があって、私もそれを若干だけど気に入ってる。だから、勝ちを確信している試合でも、全霊で挑むのだろう。


 コインがカランとなる。


「はっ!」


 一気に距離を詰めて来たルークの狙いは短期決戦だろう。だが甘いな、私の方が上手だ。


「まあ、嫌いなやつじゃないよお前は」


 ルークの頭を飲み込む様に闇の波を走らせ、波が消える時には勝敗は決していた。


「再来年か。ターニア魔法学園に入学するのは」


 グラウンドを去って、私の家に帰ってきた。相変わらず家の中は実験器具で散らかっている。おかげで家にいる実感を強く感じられるのだが。


「ルークとはお別れかぁ。なんか寂しいな」


一期一会にはいつまで経っても慣れないな。少し寂しさが残ってしまうから。


「再来年に向けて、魔法を頑張って極めますか」


守護者とかあまり興味無いけど、強くなることには興味がある。その延長線上に国を守ることがあるだけで、オマケみたいなものだ。


気が付けば実験と実技演習を繰り返す事が習慣になっていたが、それ以来私は退屈を感じていたのだろう。この気持ちの高鳴りは再来年へ向けられているのは、私だからよく分かる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ