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皇家と覡家

小川のせせらぎと、春を楽しむ鳥の(さえず)りが、朱貴と私の間に流れる。

そして朱貴はゆっくりと、その形の整った唇を開いた。


「・・・話はこの京の町が、平安京として形造られた頃に(さかのぼ)る。平安京が造られる際に、この都の護り神として玄武・青龍・朱雀・白虎の四神をそれぞれ北・東・南・西に配置して造られた事は神職の家に産まれた者として、当然お前も知っているだろう。」


私は目の端でこちらを見る朱貴に静かに相槌を打った。


「同時に四神以外にも朝廷は都の鬼門の抑えとして、霊力の強い二家にその役目を与えた。その二家の一つが俺の家の一族で覡一族。『覡』とは即ち(みこ)。覡一族は神に仕える巫の一族だ。都でも有数の高い霊力を有し火の神獣を操る。そしてもう一つの一族がお前の家の一族で皇一族。『皇』とは即ち神。神をその身に降ろす事の出来る神の依代(よりしろ)となる一族。水の神獣を操る。その二家の力をもって朝廷はより強固な護りで都を固めようとした。鬼門に当たる北東の護りとしてより霊力の強い皇一族に皇神社を、そして覡一族は裏鬼門である南西の護りとして覡神社を与えられた。」


朱貴が語るその話は、私が初めて耳にする話だった。

古い神社であるとは思ってはいたが、まさかそこまでの由緒がある家だとは思っていなかった。


「覡家と皇家は全てが対をなす一族だ。巫と神であり、火と水であり、男と女。覡家には絶対に女子は産まれない。その代わり必ず双子の男子が産まれる。そして皇家は反対に女子しか産まれない。この二家は代々、覡家に産まれた男子のどちらか片方を皇家の婿養子に迎え神職の血を繋いできた。つまりお前の父親である要司さんは、俺の父である聖司の双子の弟。元々は覡家の人間ということだ。要司さんとお前の母親、璃亜子りあこさんは従兄妹だ。そして俺とお前も・・・。」

「・・・従兄妹。」

「当然そうなる。」


次々と明かされる真実に私は頭を整理しながら聞くことで精一杯だった。

余程余裕のない顔をしていたのだろう。朱貴が少し頭を休めるかと聞いてきたが私はかぶりを振り続きを話てくれるよう頼んだ。

これは私にとってとても大切な出生のルーツでもあるのだ。


「覡家に産まれた双子はいずれどちらかが皇家の者になる。その選別は霊力の質の違いによって選別されるんだ。年齢にして大体小学校に入学したかしないかぐらいの年齢になると、覡家の男子は微力ではあるが必ず霊力が覚醒する。祈願や透視、結界を張るなどの神主資質が覚醒した者を覡神社の後継に。火の神獣を操る事の出来る巫資質が覚醒した者を皇神社の婿養子に・・・。」


そう言って朱貴は立ち上がると右腕を前に突き出し掌を小川の方向に向けてめいいっぱい広げ、何やら咒を唱えた。

ドゴオォォォォ!!!っと目の前に紅蓮ぐれんの大きな火柱が上がったと思うと、炎の中に尾が沢山ある純白の狐が現れた。


「き、狐!?」


私が声を上げると朱貴は私の方を見て口角を上げた。


「・・・そうかお前、これが視えるか。ぽやんとした女にしか見えないが、やはり血統だけはさすが皇の血だな。こいつは俺の火の神獣、九尾狐きゅうびこだ。」


そして朱貴が開いていた掌で軽く拳を握ると九尾狐はフッと音もなく掌に吸い込まれるように消えた。


「俺は7つの時この九尾狐の炎狐えんこが神獣としてついた。そして兄貴には神主資質が覚醒した。つまり7つにして俺はもう既に皇家の人間になる事が決められてたって訳だ。」


朱貴は両手をスーツのポケットに入れたままゆっくりとこちらに歩を進め、私の前で立ち止まると凍りつきそうなくらい冷えた眼差しで私を見下ろした。


「・・・言ってみれば俺はお前という神の依代に覡家が捧げた生贄いけにえみたいなもんなんだよ。次の神の依代になる存在をお前の身体に降ろす為のな。」

「・・・そんな・・・。」

「聞けばお前、相当に強い霊力を持ってるらしいじゃねぇか。『皇家始まって以来の逸材。天照大御神の御魂さえも降ろせるくらいの神格』。」

「えぇっ!?!?わ、私そんな霊力なんてちっとも!!誰がそんなデタラメを・・・。」


困惑してそう答えると、朱貴は私の顎を掴みグッと上に上げた。


「デタラメじゃ困るんだよ。こっちは自分の人生捨ててお前に賭けてんだ。それくらいの神格持っててもらわなきゃ割合わねぇんだよ!!」

「そ、そんなこと言われても・・・。」

「ほら、俺はこんな水の気の強い場所でお前に炎狐見せてやったんだ。お前も水の神獣くらい呼べるんだろ?その力、許嫁の俺に見せてみろよ。」


ー・・・神様。私は一体どうしたらいいですか?平凡な私に水の神獣なんて呼ぶ力ありません。・・・ああどうか、これは悪い夢でありますように。ー


私の生まれてはじめての神頼みはそんなとんでもなく常識を逸脱した神頼みだった。




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