驚愕!!許嫁は二重人格!?
朱貴はそのまま私を神社の境内の外まで連れ出した。
大きな歩幅でぐんぐん進んで行くと、やがて近くの小川にたどり着いた。
「ちょ、ちょっと待って。手、離してください!」
半分息の切れかかった声で、そう訴えると、目の前にある大きな背中越しに低い声が私の耳に届いた。
「・・・あぁーーー?もう・・・うっせぇなぁ。言われなくても離してやるよ。大体お前と手を繋ぐなんざこっちから願い下げだっつーの。」
「へ!?」
あまりの驚きに先程までの息切れも何処へやら、思わず変な声を上げてしまった。
見るとこちらに振り返った朱貴がかったるそうにさっきまで私の腕を掴んでいた右手で自分の肩を揉みながら、もう片方の空いた左手でスーツのネクタイをグイグイと緩めていた。
ー・・・すいません。いつ人が入れ替わったんでしょうか。目の前にさっきと同じ顔をした別人がいるんですが・・・。ー
放心しながら遠い目で心の中でそう一人で呟いていると、朱貴はその整った顔を私に寄せながら言う。
「だいたいなーお前、家帰ってきて急に知らない男いてこいつがお前の許嫁だーとか言われてさ、何の抵抗もなく『よろしくお願いします』とか言って簡単に受け入れてんじゃねぇよ。もっと全力で拒否れよ。」
「なっ!!簡単に受け入れてなんかないわよ!拒否しようと思ってたのにみんな全然話聞いてくれないし、第一あなたの方が先に私に『よろしく』って握手求めてきたんじゃない!」
「はっ、なぁにが拒否しようとしただよ。ぽやーっとした顔して俺に見惚れてた奴がよく言うぜ。」
「うっ・・・そ、それは・・・。見惚れてた訳じゃなくて・・・。」
言い返せなくなって俯くと、朱貴は更にその長身を折って私の顔を覗き込んでくる。
「見惚れてた訳じゃなくて何?」
「・・・。」
ーうーーーーっ!!!こんな奴、一瞬でも物凄く綺麗とか思ったなんて悔しぃぃぃぃぃ!!!ー
「・・・ま、いいや。そんな事どーでも。」
「・・・そんな事って・・・。」
自分から絡んでおいてと小さい声でブツブツ言っていると、朱貴はその場にドカッと両足を伸ばして座った。私もその隣に少し距離を置いて腰を下ろす。
取り敢えず一緒に散歩をすると三人に言って出てきてしまった手前、今家に帰る訳にはいかない。
黙って小川に向かって近くにあった小石を投げている朱貴を横目に、私は彼に話しかけてみた。
「・・・あの。あなたは、さっき全力で拒否れって言ってたけど、この許嫁の話に反対なの?」
すると朱貴は少し私を睨むように言った。
「ったり前だ。許嫁なんて冗談じゃねぇ。」
「・・・。」
「・・・だけど仕方ねぇんだよ。こればっかりはな。どうにもならない。」
朱貴は怒りを握った小石に込めて力強く川に投げ込む。
「で、でもお父さん達がどうして私たちを許嫁にしようと思ったのかはわからないけど、あなたも私も両方が絶対に嫌だって言ったらさすがにお父さん達も無理矢理一緒にさせようなんて思わないんじゃ・・・。」
私がそう発言すると、朱貴は掌の中の小石をポーンポーンと上に投げてはまた手中に収めを繰り返しながら怪訝な面持ちで言う。
「・・・お前、何も聞かされてないとは聞いてたけど本当に何も知らねぇんだな。」
「え?」
「これは俺とお前の気持ちがどうとか、親がどうとかそんな薄っぺらい簡単な問題じゃねぇんだよ。もっと深い、家と家の、神とその神に仕える者の契約。・・・決して違える事の出来ない・・・俺とお前の気持ち如きで覆すことのできる様なもんじゃねぇんだよ・・・。」