僕は知っている
僕は知っている。君は決して弱い人間じゃないことを。僕は知っている。君は思いやりのある優しい人間だということを。君の目はいつも希望に溢れ、前向きで何か力強い意思が伝わってくるような光を放っていた。
君は学生時代、陸上選手だった。才能のある方ではなかったが努力を積み重ねる事のできる人間だった。同じ年頃の学生がアルバイトで小金を稼ぎ楽しく遊んでいる姿を見ても君は誘惑に負けなかった。また、才能のある選手がたいした努力もせずに君よりも優秀な成績をだした時も君はあきらめたりひがんだりしなかった。そして君はついに学生最後の年全国大会にまで出場し決勝まで進むことができた。君を始めから見てきた人間からすれば奇跡のようことだったかもしれない。
陸上生活の途中成績がいっこうに伸びず笑われたこともあった。けなされたこともあった。それでも君の心は折れなかった。
そんな君が僕は大好きだ。だからこっちを向いてくれ。僕から離れないでくれ。僕は君を誇りに思っている。これからもずっと一緒にいてくれよ。
彼は立ち止り振り向いた。
「先生。意識が回復しました」
「なに。本当か」
病院のベッドで治療を受けているのは三十歳くらいの青年だった。仕事で疲れが溜まっていたことやミスが続いたことが原因でノイローゼになりフラフラと道を歩いている所を車にひかれたのだった。瀕死の状態が続き長い間、意識も無かった。
「先生、容体はどうでしょう」
まだ安心と言える状態では無かった。しかし医者は言った。
「もう大丈夫だ。心配はいらんよ」
青年の目は希望に溢れ、前向きで生きるという力強い意志の光を放っていた。