表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

王冠か恋か、選べ王太子

「…まずはレオナルド、そしてエリカ嬢。

二人の婚約についてだが、解消といたそう」

周囲は大きくざわめいた。

私は婚約が無くなったことはシナリオ通りだと思いつつ、

破棄に比べて解消とはだいぶ穏便な物になったという安堵に包まれていた。

婚約破棄とは一方的な物であり、言い渡された側の意思は無関係。

対して解消は双方合意の元で行われるもの。

私の意思も解消でなくては成り立たない。

正直私は死にたくないだけなので、婚約の有無についてはあまり深く考えていなかった。

何せ王太子殿下の外見は頗るいい。

演じていた役者では表現しきれなかった美がそこにはある。

そんな男の妻になるのも、王太子妃、そして王妃なんて物になるのも悪い話ではないだろう。

だけど、彼が私を愛していない事は明白だし、私も彼に恋してない。

いつかは恋愛結婚なんて思っていた月延真帆としては、愛されない事が確定した夫なんて持ちたくなかった。

だからこのまま婚約を続行するか解消するか選べるならば解消がいい。

「二人の婚約の解消、問題あるか、レオナルド?」

「ありません!!」

声が弾んでいる。

先程まで沈んでいたとは思えないほどのテンションの高さ。

国王陛下の目がこちらを向いた。

「エリカ嬢の意思はどこにある?」

「無論、解消で構いません」

「本当に?息子を愛していたのでは?」

「そのような時もありました。

しかし、愛されていないとわかっていてそれでもと結婚を望む程私は強くありません」

「……そうか。ではこの場をもって二人の婚約の解消を正式に発表する」

厳かに言い放つ国王陛下。

周りにいる貴族達はどう反応していいのかと周囲を伺っていた。

だけど、婚約を解消したレオナルド王太子殿下とマリーナは違う。

二人は互いの顔を見つめあうと、状況も忘れて抱き合った。

「マリーナ!遂に私は自由になった!」

「はい!おめでとうございます、レオ様!」

「これも君が私を支えてくれたおかげだ」

「そんな…私は何も…」

いきなりシナリオ通りの展開についていけなくなる。

舞台では気にならなかったけど、現実になると『いいから、時と場所考えて!』と叫びたくなる。

なんとか堪えたけど。

「お前達、まだ判決の途中だ」

「はっ!?そうでした…!」

「す、すみません…」

としおらしく言うも、顔がにやけている。

「レオナルドよ、私はお前に責任を取れと言ったのだ。

この婚約解消はその布石であり、エリカ嬢へのけじめでもある。」

「わかっておりますとも…!」

「そうか。では続けよう。レオナルドよ、お前の新しい婚約者候補をここで発表しよう」

「「え!?」」

二人は揃って声をあげた。

たった今自由になったのに、また捕まると思ったのだろう。

だけど、待てよ?

婚約者…候補?

そんなもの聞いた事がない。

「そんな父上!!私はこのマリーナと添い遂げたいのです!

新しい婚約者はマリーナ以外に認めません!」

「…と、言うと思ったから、新しい婚約者候補はマリーナ・ダウ令嬢だ。」

「「………っ!!!」」

大歓喜。

そんな顔が見て取れた。

「父上!ありがとうございます…!

今回は私も多くの過ちを犯しましたが、

次はこのような事がないよう、次期国王として政務に邁進致します!!」

「その必要はない」

「……………………?…はい?」

キラキラとした目で抱負を語ったのに、

必要ないと一刀両断され王太子殿下はらしくもなくキョトンとする。

「お前に政務は期待しない。故に国政に関与させることもない」

「そ、そんな!?私は王太子で…」

「人の話をよく聞け、レオナルド。

マリーナ・ダウ令嬢は婚約者ではなく婚約者候補だ。

候補ということはその婚約が本決まりではないということ。

つまり、二人が本物の婚約者同士になるには条件があるのだ」

「じょ、条件…ですか?」

「そうだ。とはいえ、そこまで重く感じる必要はない。

生涯を共にと本気で思うのであればなんの問題もなくクリア出来るであろう。」

「一体どのような条件なのですか?」

「それはダウ家が認めたらというものだ」

「……?」

意味がわからないと言った顔をする。

ダウ家が認めたら…?

認めないわけがないのではなかろうか?

ここまで大ごとにしておいて、娘を嫁にはやらんなんて男爵家如きが言える筈ない。

しかし、国王陛下は続ける。

「ダウ家がお前を受け入れてよいと思えば、婿入りするのを私は止めない」

「え…?婿…?男爵家に?」

何故という顔をするレオナルド王太子殿下。

…あ、そういう意味!

私は納得した。

マリーナは一人娘だ。

しかし娘は家を継げないから普通、婿をとるか養子を迎えるかのいずれかを選択する必要があった。

ダウ家は養子を迎えることに決め、現在その養子にあたる男は王太子殿下の側近としてマリーナ嬢を囲っていた。

ダウ家には既に跡取りがいる。

はっきり言ってレオナルドが婿に来ても居場所はない。

嫁入りならば拒否する理由もなく認めざるを得なかったが、

婿入りならば、それを理由にすればいかに格下貴族であるダウ家も婚約を拒否する事が出来る。

それを見越して国王陛下はダウ家の判断に二人の婚約を任せる事にしたのだ。

そして、もし彼女の家に婿入りするとなればそれは王太子位を返上するという事に繋がる。

王家を出るから、王族ですらなくなる。

当然国政に関与することもない。

つまり国王陛下の言い分はこうだ。

そんなにマリーナと添い遂げたいなら、全てを捨てて出て行けと。

それがお前に出来るのかと。

覚悟を問いかけているのだ。

覚悟を問われた王太子殿下は顔面蒼白である。

隣にいるマリーナは国王陛下の言葉の真意を掴みきれず、王太子殿下の顔色の悪さを不思議そうに見つめていた。

「…時間ならば幾らでもある。

己の進退を見極めなさい」

「……….かしこまりました」

項垂れる王太子殿下。

彼にとって王太子位を失い王族ですらなくなるというのは耐え難いことだろう。

王族として次期国王として生きてきた彼に今更地方の男爵家に婿入り、しかも爵位すら継げる目処がないなんて屈辱でしかない。

しかし、それを曲げてでも添い遂げたいと思う相手がいる。

故に即断は出来ない。

きっと彼は悩み惑うのだろう。

結果がどうなるかわからないが、どちらを選んでも失うものが多すぎて苦痛が伴うことは間違いない。

王太子殿下は充分罰を受け責任を取ったと言えるのではなかろうか。

ここまで見ていた貴族達も納得のいく結果であり、

後日王太子殿下がどのような結論を出すのか楽しみだという雰囲気であった。

「さて、エリカ嬢」

「は、はいっ!」

まさか話が振られるとは思わず、声が裏返る。

「我が息子には責任を取らせるべく婚約を解消させたし、今後どの道を選んでも苦難の連続である事は間違いない。

だが、それとは別に貴女には王家としての謝罪と、父親の悪事を暴くという勇気ある行動に報いる必要がある」

「いえ、そのお気持ちがあれば私は何もいりません」

何をするつもりなのか知らないが、シナリオに無い事は可能な限りしたくはない。

粛々と頭を下げて辞退する。

「エリカ嬢の気持ちもわからないではない。

だがな、今回の件、いかに我が息子が責任を取る形となったとしても頭の悪い一部の貴族が貴女を侮辱するのは目に見えている。」

「それは…」

考えもしなかったが、あり得る話だ。

父親を平気で死刑にする女。

長く婚約していた男に国王陛下直々に大勢の前で破棄された女。

そんな事を口にして噂をたてる者がいるのは間違いないだろう。

何せエリカは悪役令嬢。

外見も中身もその噂に相応しすぎた。

「故にその名誉を回復する為に、私は提案する」

言って国王陛下は玉座のある一段高い所からゆっくりと降りた。

まさか降りてくるなど思いもせず、私は目を見開く。

鷹の目を持つ国王陛下がゆっくりと私に近づくが一体何をするつもりなのか。

全くわからず困惑する。

困惑している間に国王陛下は私の目の前に来てしまった。

鷹の目が私を射る。

白銀の軍服をモチーフにした詰襟の衣装。

腰に下げてる宝石で彩られた剣が天井に下がるシャンデリアの光を浴びて燦然と輝く。

これらは全てかつて国王陛下が軍に所属していたからの装いだ。

どういう経緯で軍に所属したのかはエリカすら知らないし、シナリオにも書いてないので知る由もない。

しかし、軍で鍛えたその姿は高校生が卒業するぐらいの子供を持つ父親とは思えないほど若々しかった。

無論、自分と比べればずっと年上なのはわかる。

けど、年頃なら先程牢屋に向かったエリカの父と変わらないはずなのだ。

それが信じられないほどかっこよくて若いのである。

端正な顔立ち、威厳、立ち振る舞い、全てにおいて周囲を圧倒する男が目の前にくれば

ただただ見上げる事しか出来なかった。

その男の顔が不意に低くなる。

え、と思う間もないほどあっという間に男の顔は私より低くなった。

「…なっ!?ち、父上!?」

レオナルド王太子殿下の声が響く。

私は言葉も出ない。

呼吸すらままならない。

国王陛下が、国の頂点に立つお方が、私の前に膝を折ったのだ。

左手を胸に置き、下から伺うように私を見ている。

な、何が起こった…?

いや、何が起ころうとしているの…!?

「エリカ・ドラグノ嬢」

「は、はいっ!?」

「どうか息子の代わりに私を貴女の夫にして貰えないだろうか?」

「はいぃぃ!?」

思わず叫んで後ずさり。

な、何を言い出したんだ!?

思わずレオナルド王太子殿下を見るが、

こちらもかなり驚いており、声もないようなので役には立たない。

次に頭に浮かんだのはエリカの身内であるユリウス。

ユリウスに助けを求めるように視線を向けようとしたら。

「向くな」

ピシッ

私の首が中途半端な位置で止まる。

「そちらを向くな。不快だ」

「……」

怒気を孕んだ声に私は動けない。

「私を見ろ。今、貴女に求婚している男はどこにいる?」

「……め、目の前に…」

「わかっているならば、こちらを見ろ」

「は、はい…」

私はゆっくりと国王陛下を見る。

私と目があった瞬間、満足そうな笑みを浮かべた。

その笑みに胸の高鳴りを覚える。

「あ、あの…」

「なんだ?」

「な、何故急にこんな真似を…?」

名誉の回復。

その為の求婚、これも確かに一つの手法だ。

仮にも国王陛下の妻という立場になれば、

いかに口の悪い貴族といえども表立って批判は出来ない。

それどころか、将来を考えれば今日の出来事は美談として語られるようになるだろう。

だけど実際は命惜しさに父親を生贄に捧げた悪女なのだ。

悪女が国王陛下を騙してその妻になるなんてあってはならない。

ここはお断りしなくては…

「ここで断られると国王を袖にした悪女として末代まで語られるだろうな…」

狡い!!

こちらの思惑を見越したように呟く国王陛下に内心毒づく。

だけど、王家としての償いとして結婚するなんて、やはり愛がない。

確かに王妃としての地位は魅力的だけど、私はやっぱり恋愛結婚に憧れるのだ。

「貴女に求婚を申し出たことは

王家としての償いや、同情の類いだけではないとここで明言しよう。」

「え?」

「私は今日の貴女を見て確信したのだ。

貴女のその気高さ、頭の回転の良さ、そして

運命すら捻じ曲げるなりふり構わぬその姿。

その全てが好ましい」

「……」

まさか、この人私が父親を生贄にした事に気付いている?

そうとしか思えない物言いだ。

先程とは違う意味で心臓が高鳴る。

そっと私の手を取った国王陛下。

かさついた手だなと思った。

無骨な男の手。

エリカの知識が剣を持つ男の手であると告げてくる。

そのまま、国王陛下は私の手を自らの唇に押し当てた。

「……っ!」

手の甲にされたキス。

膝をつく男。

絵に描いたような求婚に脳みそが沸騰した。

鷹の目が不意に笑いかける。

そして彼の唇が僅かに動く。

小さな声が付随した。

誰にも聞こえない、私だけに向けた声。

「……!」

まさか!

聞き間違えたか!?

ぎょっとして国王陛下を見たが、驚いた私を見て国王陛下は笑みを深くするのみ。

聞き間違いなんかじゃない。

体がガクガク震える。

「私は気の短い男だ。息子には時間を与えたが、私は貴女に時間を与える気はない。

今すぐこの場で私に返事をしてもらう」

握る手に僅かな力が篭る。

握り込まれた。

そう知るのは私だけ。

もう、答えなんて決まってる。

悪女と罵られる事が何よりも嫌いな事を彼は知っている。

だから私は逃げられないのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ