6話 悪魔の襲来
私の名前は綾垣。青春真っ只中の女子高生。
自分で言うのもなんだけど、クラスではそこそこ中心人物だ。
彼氏はいないけどクラス委員長だし、彼氏はいないけどお昼ごはんの中心は私の席だし、彼氏はいないけど体育のチーム分けでは引っ張りだこ。
彼氏はいないが人気者であることは間違いない。
……はい。彼氏がいません。
容姿には自信があるんだけどね。顔がどちらかというと活発系だから、髪を後ろでまとめて爽やかポニーテールにしてる。青春サッカーマンガによくいる「明日の大会でゴール決めたらキスしてあげる!」などとほざくクソビッチマネージャーをイメージしてね。これで男子から次々言い寄られる……はずだったけど、今のところ気配なし。
なぜなのか。なぜなのか。
なんて悩んでいたのは少し前の話。恋愛なんて、今となってはどうでもいいこと。
もっと大事な人に出会った。恋愛よりも楽しい、一緒にいたいと思える人。
お、噂をすればなんとやら。
彼女はいつも通り、ひとりで廊下を歩いている。
よし。今日こそ声をかけて仲良くなろう。
背後からコッソリ近づいて、
「まーいーせーさん!」
「うひゃあ!」
ドンと小さな肩に手を置くと、彼女は飛び上がって驚いた。
中学生のような小柄な体型に怯えた表情。
枚瀬さん。クラスでちょっと孤立気味の可愛い小動物である。
「だ、だれ?」
恐る恐る振り返る枚瀬さん。子ウサギみたいでかわいい。
「私だよー。ほら、同じクラスの」
「……だれ?」
マジマジと私の顔を見た上で、本気のクエスチョン。
さすが孤高の枚瀬さん。クラスの中心人物である私を認知していないなんて。
「綾垣だよー」
「……何の用?」
うっ! 冷たい眼差し。敵意むき出しだ。
まあ枚瀬さんと会話するのは初めてだから、警戒されるのは想定内。
ここは小粋なトークで和ませよう。クラスの中心人物にしてコミュニケーション強者・綾垣の本領発揮!
「ほらー。昼休みなのに一人で歩いてるから、友達いないのかなって」
「……バカにしてる?」
「しかもパンを片手にどこ行くの? トイレ? トイレ飯なの? まさかね。トイレ飯なんて都市伝説だよね。未確認生物って感じ」
「……チッ」
「知ってる? トイレの空気には排便物の粒子が浮遊してるんだよ。だからそこでご飯を食べるってことはうんちを食べるってことなんだよ」
「ああああああああ!」
ああ! 泣きながら走り去ってしまった。なんでだろ?
まあいいや。ファーストコンタクトとしては及第点だよね。
これからも積極的にアプローチして、もっと仲良くなるぞ!