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かわいい枚瀬さんを見守りたい!  作者: まあるかん
3/7

2話 枚瀬さんと序列


枚瀬さんを見守るのだ。

たとえそれが、何気ない昼食時だとしても。





雲ひとつない青空。草木の匂いをのせた風が顔を優しく撫でる。

そんな心地よい昼休み。枚瀬さんは雑草が生い茂る校舎裏、木陰のベンチに座っていた。

ちなみに僕はベンチ横の木の幹に隠れています。


周囲には人気がなく、まるで自然公園にいるような気分。学校の喧騒が嘘のようだ。

教室ではいつも仏頂面の彼女も、今は笑顔で足をパタパタさせながら自然の空気を満喫している。

さらに二つのおにぎりを両手に「食べよー食べよー食べちゃうよー」と謎ソングを口ずさむ。

さすが枚瀬さん。音楽の評定が常に1であることを証明するような歌声だ。

でも、歌ってのは上手い下手じゃない。楽しく歌っているかどうか。それが大事。

だから僕の中では満点だ!


目を閉じ、枚瀬さんのソロオペラを傾聴する。

と、

「にゃー」

鳴き声がした。枚瀬さんの鳴き声ではない。枚瀬さんの鳴き声といったら「知らない」「うるさい」「用事あるから後にして」の3つだ。どれもクラスメイトに声をかけられたときに発する威嚇に似た鳴き声である。

警戒心は野良猫レベル。こんなだから友達が一人もいないんだろう。


じゃなくて、枚瀬さんの正面で子猫がちょこんと座っていた。白い毛は土で汚れ、所々毛束になっている。野良猫だ。

お腹を空かせているのか、物欲しそうに枚瀬さんのおにぎりを見つめている。


かわいい子猫にねだられて、さあどうする枚瀬さん?


「ん? 欲しいの?」


お、気付いたぞ。


「ほらほら、おいしいぞー」


おお! おにぎりを一つ差し出した。痩せ細った子猫を見捨てない。なんて優しい心の持ち主なんだ。


だが、子猫がおにぎりに飛び付こうとした瞬間、


「なーんてね」


シュッと手を引っ込める。


「大事なお昼ごはんをあげるわけないのよ」


勝ち誇った表情で、おにぎりにかぶりつく枚瀬さん。


「序列があるの。クラスでは最底辺の私も、生物の中では最上位の人間。子猫に与える慈悲なんてないわけ」


……僕は悲しいよ。人間界で勝てないからって、小動物相手に種族間の序列を持ち出したところが悲しいよ。そこまで落ちぶれたのか、枚瀬さん。


「あーおいしい。人間でよかった」


掃除時間、班活動、体育の準備運動の二人組。日頃のボッチ特有のストレスをぶつけるように、枚瀬さんはおにぎりにかぶりつく様を子猫に見せつける。

非力な子猫はなす術もなく、傲る人間様を見上げていた。


ここに 枚瀬さん > 子猫 の序列が確定した。


正直、僕の心境は複雑だ。小動物にいきがる姿はみっともないと思う一方で、それでも人間としての序列を維持できたのはよかったとも思う。

枚瀬さんのことだから、隙を突かれて子猫におむすびを盗まれるくらいはあり得たからね。もしそうなっていたら、不等号の向きが逆になってしまっていただろうから。


いくら枚瀬さんが学校という同世代が集まる競争社会で勉強スポーツコミュニケーション全てにおいて負け慣れているとはいえ、猫に負けたらいよいよプライドがズタズタだ。立ち直れなくなる。


(これでよかったんだ。子猫に格の違いを見せて気分が晴れるなら、それでいいじゃない)


さて、これ以上闇の一面を盗み見るのも申し訳ないし、退散しますかね。

枚瀬さんに背を向け、立ち去ろうとしたそのとき、


「うにゃあああ!」


猫ではない。女の子の悲鳴だ。


「枚瀬さん!?」


急いで振り返ると、そこにはベンチの前で倒れ込む枚瀬さんの姿。持っていたはずのおにぎりが地面に転がっている。

何が起こったのだろうかと観察すると、ベンチの上空、さっきまで座っていた枚瀬さんのちょうど頭の位置に、大きめの蜘蛛がいた。


(なるほど、目の前に急に蜘蛛が降りてきて、虫嫌いの枚瀬さんは跳び跳ねて驚いた。その勢いで自分は土の上に倒れ込み、大事なお昼ごはんを落としてしまったということか)


枚瀬さんの横でちょこんと座る子猫が「にゃー」と鳴いた。そして地面に転がるおにぎりをくわえると、奥の茂みへと消えていった。


「ああ! 私のお昼ごはんが……」


先程までの威勢はどこへやら、ガクッとうなだれる枚瀬さん。


ここに 枚瀬さん < 子猫 + 蜘蛛 の序列が確定した。


枚瀬さん、生態ピラミッドの中腹にラーンクダウン♪


(かわいそうだけど、これが自然。弱肉強食だよ。僕からかける言葉はない)


こうなったら僕にできることはひとつ。


僕は回れ右をして駆け出した。購買へ行こう。そしておにぎりを手にいれ、彼女の机の上に添えておこう。

枚瀬さんのことだから、猫の礼返しだと勘違いするだろうし。



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― 新着の感想 ―
[一言] たしかに、こんなにポンコツ可愛い娘がいたら見守りたくなりますよね。
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